日報バインダー4








表紙:肩に背広を引っ掛けた余裕の辻原と焦る我聞。そして、挑発的に佇む真芝第8研の三人




折り返し・表:藤木先生、ファンレターに感涙!




折り返し・裏:小ネタ4コマ『意外に常識知らず』


ものの見事に騙されてるよ。それでいいのか、國生さん?!てか、嫁も危ないぞ、GHK!





第29話 悪だくみ


「斗馬くん…君にいい言葉を教えてあげよう」





 工具楽家では裏工具楽家特別緊急会議と称される会議が物々しい雰囲気の中で行われていた。議長である果歩は先日の手鏡事件を受け、今後の指針を発表する。途中、珠からの的外れな質問を受けるものの、果歩の鉄拳がものを言い、発表された今後の行動指針は……


『――國生陽菜兄嫁化計画』であった。


 『親父が家族だというのなら、オレ達も家族だ』と國生に言った我聞……この言葉に感銘を受けたと同時に、それまでの17年間でここまで深く女性に関わったことがない我聞を案じた果歩が、兄を――工具楽家の将来を考え、是が否でも國生を嫁に仕立てる、と、ついに動き出したのだ!


 「当人達の気持ちは?」という正論を述べる斗馬だが、果歩は『愛は馴れアイ!!!』というこの世の真理を表した言葉をぶつけ、その脆弱な正論を封じる。


 兄嫁ゲットのためならば鬼になることをも辞さない覚悟を決めた果歩を始めとした工具楽姉弟に助っ人兼参謀として引き入れた工具楽屋葛Z術部長・森永優を交え、『我聞・陽菜くっつけ委員会』……略称GHKが結成されたそんな夏の日、卓球部の練習に混じって汗を流していた國生は悪寒を感じてくしゃみを一つ漏らす。


 その様を見ていた卓球部有志によって構成される國生陽菜ファンクラブは、外見にはポンコツになりながらも『國生さんの姿を目に焼き付ける』という彼らの至上の活動を邪魔する中村に対しては戦意を燃やす。


 一方、『手鏡事件』での軋轢はあったが、それを切っ掛けに心に余裕が出来た國生と、スケジュール管理のためとはいえ、部活に付き合った國生の精神的な変化を喜ぶ我聞が現場に向かう直前、卓球部員としての本来の目的を思い出した佐々木が我聞に合宿の日程を伝える。ちょうどスケジュールにも開きがあり、休みを取っても大丈夫ではないか、と言う國生の言葉に喜ぶ我聞と仲間達。


 國生の微妙な変化は彼らにも伝わっていたが、その変化の原因をあさっての方向に見出した國生FCの二大巨頭・佐々木と皇は我聞への嫉妬に燃える。だが、嫉妬に燃える二人を一気に鎮火し、希望の炎を燃え移らせたのは、卓球部の女子部員・恵と友子の言葉であった。『くぐっちが来れるのなら、るなっちも休みのはず』と気付いた二人は、國生に合宿に参加してみたら、と勧めてみたのだ。以前の國生ならば、『そのような暇はない』、と一言の下に切り捨てていただろうが、「OKが出たら是非」と答えたことで、一気に卓球部は活気に包まれる。


 「あわよくば水着姿や寝姿を激写!」と素直に燃える佐々木が恵の一撃で宙を舞う横で我聞が久々の合宿へと期待を膨らませ、ほぼ同刻に、GHKが窓が開け放たれた工具楽家の一室で具体的な策を練っていたであろうその頃、とある大会議室では次世代兵器開発用新理論『パターンG』の成果に対するリポートが行われていた。


 数々の企業に裏で開発させ、犯罪者を利用してモニタリングを果たした結果、理論の有効性は確認されたものの、制御には遠く及ばないという結論を導き出され、第1研所長山薙晃、第4研所長ルドルフ・本条、第6研所長昴真矢、第5研所長桃子・A・ラインフォード、第3研所長八雲四郎、第7研所長御剣一振……彼ら各研究所長は、ある者は自らの手で理論の研究を進めることを狙い、ある者は制御できなかった一般企業の限界を嘲笑う。


 そして、新理論のリポートも大詰めに来たその時、かつて我聞にサングラスを割られ、静馬の水刃によりヘリを失ったビジネスマン――凪原は、新商品である強化スーツ“青”が新参のこわしやによって破壊されたことを報告し、兵装部門の開発を担う第8研の面々に改良を要求する。会議室のそこかしこで起こる失笑にいらつきを見せる第8研所長は会議が終了し、自らの部署へと戻る凪原を廊下で捕まえ、失敗作をモニタリングに出された結果、恥を掻かされたことを責める。上からの指示であることを強調し、失敗作とはいえ新参のこわしやに壊されたことを皮肉る凪原ではあったが、その時の一件でサングラスを割られたことを引き合いに出し、逆に皮肉で返す第8研所長十曲才蔵は、抜け目ないはずの凪原に一撃を入れた新参のこわしや……我聞を新スーツのモニタリング対象にすることを高らかに宣言した。





 ええ、もぉ誰がなんと言っても『GHK』でしょう、今回は!!!


 いくら一番まともそうな第1研所長の胸に優ねーさんのペンダントとおんなじものがぶら下がっていようと、『なぜか』第2研所長が空席であろうと、多分刃物扱いに長けまくった(偏見)第7研所長御剣一振くんの台頭に期待したくなろうと、我聞が一人寂しく壁打ちに興じている様から『我聞、部内のムードメーカーで人気者って割に、実は孤立しているんじゃないのか』と疑いかけちまいそうになろうと、モーちゃん&フジイに続く五人目の國生FC構成員が顔すらもない悲惨な扱いうけていようとも、一年生唯一の女子部員の胸に『Gガン』の文字が光ろうとも、『よろしく負けドック』という危険なネタをぶちかましてくれてる佐々やんのTシャツに「おいおい、ホンマ大丈夫か?」と思おうと、自称『我聞の障害のライバル(←わざと)』にでもなりそうなバカ様こと十曲才蔵様がお出ましになろうと、そんなものはどうでもよろしい。


 GHKと、天使と悪魔を従えてウエディングドレスを身にまとう國生さん(妄想)こそが今回の全てです


 こんなお笑い要素で大半が構成された今回、シリアスなものは追求する必要はなし!


 ……てかさ、GHK出ちゃうとさ……その、どうあがいても面白くなっちゃうんだよ、これが!!!果歩りん実の兄貴を動物扱い(あと、兄嫁も微妙に)してるし!!!どうにかなんないかな、ホント。まぁ、どうにもしなくてもいいっつーか、そのままお笑いを追及してくれい!でも、優ねーさんみたいなうっかりさん、参謀にして大丈夫か?結構穴開いてるぞ。





第30話 探し物


「社長、いつの間に南米に」「おいっ!」





 ターゲット・工具楽我聞――我聞をモニタリングの標的として認め、秘書兼ドライバーの山岡やオペレーター・高瀬千紘とともに着々と準備を進める十曲だが、入手しているターゲットに関しての情報は限りなく少なかった。相手は隠密であり、真芝グループの政治力をもってしても、その所在は容易に掴めないことを進言する山岡。だが、十曲には数少ない情報だけで確実に相手を捕捉する秘策があった。


 千紘の称賛と山岡の心配を受けつつ真芝グループ第8研所長・十曲才蔵がついに動き始めたその時、工具楽兄弟は御川市内のデパートにいた。


「せっかくの合宿だし、いつも頑張ってるお兄ちゃんへのせめてものお礼として、新品のいい服を着て行ってもらいたい」という理由で服を買いに来たことを強調する果歩ではあったが――無論、嘘であった。兄嫁ゲットという真の理由をバラしかける珠の口を塞ぎ、洗脳するデルタ2ことGHK総統・工具楽果歩……その執念は、もはやすっかり人外のものといってもよかった。


 作戦は予定通り進み、もう一人のターゲット・國生を伴って登場したデルタ1……GHK参謀・森永優と合流するGHK本隊とターゲット・我聞。スクール水着しか持っていなかった國生の水着を買いに来たと強調し、興味を持たせようとするものの、肝心の我聞は珠とおもちゃの刀で遊んでおり、話を聞いてもいなかった


 綿密な作戦を台無しにする二人に鉄拳制裁を行ったものの、作戦の頓挫に頭を抱える果歩。


 だが、いつまでも悩む暇はなかった。目標を静かに視線を送る國生に変更し、慌てて我聞をフォローする果歩。優からも慌てすぎを指摘されるその弁明ではあったが、國生からの言葉は意外なものであった。


「いつも社長は楽しそうで、ちょっと憧れてます」単に兄弟というものへの憧憬を示すこの台詞ではあったが、GHKに「いける?! この合宿でいくとこまで!!」という確信を抱かせ、暴走させるにはもってこいであった。斗馬の「婚姻届、用意しとくー?」という言葉にも行き着く程にGHKの暴走がどこまでも突き進むその脇で、我聞と國生は合宿に向けて、GHKの興奮とはまた違う意味で胸を高鳴らせていた。だが、それを邪魔するいかつい数人の男達―― 悪人面ではあるが、三日前、南米の某国で起きたテロ事件の実行犯として我聞を逮捕、拘束するために出向いた刑事であった。


 國生すらもツッコミどころを間違えるあまりの急展開ではあったが、明らかな誤認逮捕であり、慌てなくても容疑は晴れると中之井は諭す。だが、GHKの野望のためにはこの合宿は必要不可欠であり、翌日の解決を待つのはあまりに遅すぎた。斗馬が血を吐く思いで500円を投資し、本業を依頼しようとするにまで至ったその緊急事態に、「んじゃ、確認に行きましょーか」遅れて到着した辻原が促した。


 一方、楽しみにしていた合宿を諦め、大人しく留置されていた我聞ではあったが、夜半過ぎに急に騒がしくなった警察署の様子に、思わず廊下を覗き込む。留置場入り口の鉄格子越しに何者かと口論する二人の警官の姿を認める我聞……と、一辺3mはある、廊下に掛かる鉄格子ごと、二人の警官が吹き飛ばされた。一塊の突風と化して我聞の脇を駆け抜ける鉄格子と二人の警官に驚く我聞をよそに、掌の一撃で鉄格子を吹き飛ばした金髪の青年――警察にニセ情報を流して我聞を捜させる"秘策"の成功に気をよくした十曲の突然の登場にあっけに取られる我聞……秩序を守るための破壊者と破壊のための創造者の激突まで、あと僅かであった。





 國生さん、ついにボケに手を染め始めました。このままじわじわとボケへの比重が増してくるんだろうな、きっと。でも、心情的にGHKの一員となっている競馬好きの管理人としては、我聞と國生さんがどうにもやる気を持たない種馬と発情してない繁殖牝馬にしか見えません。発情は時期が来ればいいんだけど、二、三年やる気出さなけりゃ種馬は廃用になるからなぁ……GHKの攻撃ポイントとしては、國生さんをどうこうするよりも先に、むしろ我聞にやる気持たせないといけないよーな気がしてなりません。ここは一つ、斗馬に一肌脱いでもらって、毎晩枕下で「あなたは國生陽菜が好きになーる」とでも囁いてもらうのがいいかと思われますが、いかがでしょーか?……っ  と、無理か。斗馬寝付き早くて朝弱いし。


 え?バカ様?今回は別にいいや(笑)。





第31話 新スーツ


「ボクの用件は一つ!! こいつの相手をしてもらいたい!!」


 第二回裏工具楽家緊急特別会議で改めて國生陽菜の重要性を確認……その身柄の絶対の確保が最重点課題とされ、その採決が指揮車で警察署に向かう國生に悪寒をもたらしていた頃、工具楽家の長兄は留置場において鉄格子を吹き飛ばした男と対峙していた。


 鉄格子ごと吹き飛ばされた警官達の命に別状がないことに安堵しつつも、素手で鉄格子を壊し、親しげに近寄るその男に警戒心を強める我聞。


 その警戒心の源が『我聞君がボクのことを知らないからだ』とでも認識したのであろう。人として名乗りを挙げるのは当然とばかりに金髪の男……十曲は名刺を投げ渡し、名乗りを挙げる。余計な情報を流してしまう失策を指摘する山岡ではあったが、名乗られた当の我聞の対応もまた、山岡の常識を超えていた


 名乗りには名乗りで返す我聞の対応に千紘が相手の手強さを悟った時、十曲は我聞の拘置されていた一室の鉄格子を引き剥がし、我聞に対して出された逮捕令状が偽物であることを伝えた上で、我聞との『交渉』を開始する。


 辻原が相手の正体を悟り、ようやく網に掛かってくれた真芝グループの一員にほくそ笑んだその時……自らの行動が辻原の思惑の中にあることを知ることのない十曲は、我聞にとっても因縁深い新スーツのテストを一方的に宣告した。


 突然襲ってきたスーツの男に、訳が判らないままに対応する我聞。一方の十曲は、軽いジャブ程度の打撃でもコンクリート製の壁に皹を入れる程の威力を秘めた連打を捌きつつ、自らと併走出来る我聞のポテンシャルの高さに、自ら開発した“青”の性能をフルに引き出せる予感に身震いしつつ、背面のバーニアを開放する。


 轟――圧縮された空気が疾走する十曲を前方に加速させ、我聞の進路を塞いだ。


 相手の爆発的な加速に驚く我聞だが、続けて放たれた右拳の一撃を辛うじてガードすることには成功する。


 しかし、その威力は受け止められても損なわれなかった。


 壁を背にした我聞を壁ごと吹き飛ばし、刑事課のあるその一室の反対側の壁にまで我聞をめり込ませる……が、 それだけの威力を持つ一撃であっても、我聞を倒すには至らなかった。


 深いダメージを受けながらも、なお立ち上がる我聞が―― デパートで我聞を連行した刑事達の倒れ伏した姿を見たのは、その時だった。


 隠密であるこわしやの全力からデータを取るため、無関係の刑事達を傷つけ、それでいて一切罪の意識を持たない十曲のありようにキレた我聞は……一瞬で間合いを侵略した。


 順調に進むテストに得意になり、重傷を負わせた警官達を科学の未来のための尊い犠牲だ、とでも言おうとしたであろう十曲に、我聞の怒りが込められた爆砕が叩き込まれる。


 爆発する拳の一撃に、思わず目を回して十曲の身を案じる千紘……そして、それとは対照的に、冷静さを失うことなく報告の確認をモニター越しに果たす山岡。我聞が爆炎と煙とで悪くなった視界の中でスーツの破壊を確信した時、山岡の冷静さの理由が明らかになる。以前スーツを破壊した爆砕をその右手で受けてなお無傷の十曲が自信も露わに言った。「科学は常に進歩するものだよ!!」


 以前とは違う敵に――我聞は驚愕を隠せなかった。





 め、名刺手裏剣……貴様、企業戦士YAMAZAKIか(古っ!)?!


 それにしても、やはりボケとボケ……噛み合わんというか会話が成り立たないというか。シリアスなシーンじゃなかったら、絶対破綻してたぞ、今回は。





第32話 新理論(テキスト)


「その一撃は完全に無慈悲!!!」


 我聞の会得した仙術最大の威力を誇る爆砕を受けてなお無傷のスーツに驚愕する我聞。


 一方、十曲は我聞とジャンゴウの一戦から得たデータを基に作り上げた『青・参式』の“エアアーマー”の想像通りの効果に有頂天となり、次世代兵器としての商品化を高らかに宣言する。


 その『痛みを感じることなく破壊をもたらす兵器』という存在は、我聞をはじめとしたこわしやにとっては最も忌むべきものであった。十曲が『モニタリングに付き合ってくれた礼』とばかりに差し出した小切手を貫いての貫・螺旋撃を放つ我聞。


 螺旋撃を指二本で受けられながらも、壊すことによって受ける痛み、壊すことの難しさ、壊してはならないものの見極め……それら全てを判らなくしてしまう十曲の言う『商品』を許すわけにはいかないと、我聞はこわしやとしての存在を賭け、十曲に宣戦を布告する。果歩と珠が突然連行された兄を自宅で案じる深夜一時……十曲はその宣戦布告を、受諾した。


 だが、『手鏡事件』の一件で我聞の受けた傷は思いのほか大きかった。開いた傷口の痛みは再度放った螺旋撃をただの気の抜けた一撃にまで貶め、動きを鈍らせることで十曲の攻撃に対しての反応を遅らせる。己の未熟さを恥じながらも、人を殺すための兵器を許すわけにはいかないと立ち上がる我聞は、一度しか成功したことのない奥の手『崩・一点破』の使用を決意する。物質の氣の流れを見切り、要の一点に氣を通すことで物質の構成力を崩す技…だが、成功したのは母の墓前でブロックを壊したときのあの一度きり……見切りが重要なこの技を、動く相手……それも、当てることすら難しいスピードを有する相手に繰り出すことは、大きな賭けであった。だが、『壊してみせる』――こわしやの意地を乗せ、我聞の竜頭拳が……疾った。


 瞬間、風よりも早い十数の打拳が我聞を襲う。


 我聞の意地を乗せた一発の拳が伸びるよりも速く、重い十数の打撃は我聞の身体を翻弄し、宙を舞わせる。リミッターを解除して発動する超反応モード『Don't Thing Feel』――天才を自称する十曲ですらも未だ解析の済んでいない新理論を使用した、無慈悲な打撃の嵐であった。


 全力を持って打ちのめし、立ち上がることが出来ないであろう我聞に余裕にまみれた敬意を払う十曲であったが、直後、その左の肩当てが吹き飛んだ。


 超反応をもってしても感知できなかった一撃が十曲の左肩を掠めていたのだ。と、我聞の魂の込められた一撃に驚愕する十曲に向け、千紘と山岡が後ろへの注意を促す。


 十曲の放った全力の攻撃を受けてなお立ち上がる我聞に、十曲が初めて恐怖を抱いた。





 我聞、浮かれてムエタイ張りの勝利の舞を披露するバカ様にムカついてますが、恐らく同族嫌悪でしょう。バカとバカは惹かれあうか、嫌いあうかのどちらかしかないのですが……我聞とバカ様は後者のようでした。


ま、スチャラカなのはその程度。あとは真面目一本で、いくしか……ないのか?!(←どこのヒーロー様だ、コラ)でも、ここまで来ると、そもそもあらすじ以外は書くことすらないんです。うんちくたれようにも、この辺のトンデモ系技術になると無駄知識も役に立たないし。


 はっきりいってお手上げです。はっはっは、脱帽脱帽。


 でも、ほぼ不発に終わった崩・一点破……あれが多分親父の持ってた『素手で金庫破壊』出来る技なんですね、きっと。伏線が一つ明かされて満足です。





第33話 ブッ壊す!


「あれ…? なんでオレ…立てるんだ…?」


 十曲の『DTF』を喰らい、倒れた我聞。そのダメージは大きく、全ての氣を込めて放った崩・一点破も不発に終わったことにより、我聞の身体から一切の氣が失われていた。我聞は諦めに包まれるが、諦めてもなお『間違ったものは壊さないと』という強固な意志は残されていた。


 その我聞のがらんどうの肉体に向けて――風が流れ込んだ


 我聞は立ち上がっていた。


 常人ならば粉砕骨折を起こすだけの一撃を十数発叩き込まれてもなお立ち上がった我聞に対し、人外の魔物を見るかのような驚きを示す十曲。が、瀕死の重傷を負った我聞が立ち上がったことに驚くのは、他でもない我聞自身であった。


 つい先刻までの空っぽの状態とは打って変わっての“氣”に満ち溢れた感覚に戸惑う我聞ではあったが、すぐに思い直し、スーツを壊すべく歩みを進める。


 我聞の無造作な歩みに呑まれ、氣押される十曲……彼を覚醒させたのは、千紘からの帰投指示であった。だが、科学の有用性を信じる十曲にとって、敗北を認めるかのようなその指示はおよそ従っていいものではなかった。


 機能する右腕で隙だらけの我聞に一撃を加えるが、我聞は自らの顔面に入った右ストレートをも意に介さず、膨大な氣の込められた右拳で返した。


 無造作に放たれた……だが、さながら見えない超巨大ハンマーで殴りつけたかのような穿功撃は、辛うじてガードした十曲を厚さ30センチ相当のコンクリートの壁すらも巻き込みつつ、警察署内から紙風船のように吹き飛ばした。


 指揮車から山岡が救出に走る頃、我聞は自分の変化に驚いていた。


 大量の氣を消費したというのに消耗せず、それどころか無限に溢れ出る氣に……自分から溢れているのではなく、周囲から外氣を取り込み、自分という器からはみ出した氣が溢れているのだということに。


 仙術を否定する十曲ですらも視認することの出来る圧倒的な集氣に、我聞は以前辻原から伝え聞いた『理』の一つ―― 森羅万象に氣は備わっており、それを操ることが仙術の『理』の基礎であることを思い出す。


 既に必要な氣は集まっている。穿功撃を防いだ時の衝撃でほぼ全ての機能を破壊され、『D・T・F』の発動が不可能となった十曲に向け、我聞は本来の間合いから数メートル離れた場所から螺旋撃を放った。


 千紘が遠隔操作で展開した緊急回避用ブーストによって、十曲は辛うじて回避には成功したものの、大気を裂き、十曲からさらに2メートルほど離れた位置に駐車してあったパトカー二台を破壊してもなおその貫通力を維持し続けていた螺旋撃を放った我聞は、スーツの破壊がなされなかったことを確認するとただ一言「壊す…」とだけ呟き、再度の集氣を開始する。


 既に全ての機能を停止され、ただの頑丈な装甲に成り下がった『青・参式』を纏う十曲が、恐らくは人生で初であろう諦めに身を任せようとしたその時――我聞の身体が吹き飛ばされた。


辻原だった。十曲のスーツ以外、一切目に映っていないであろう我聞の前に立ち、極微の動作から繰り出された背中越しに肘から打ち込む寸勁……寸勁・爆腑を我聞の水月に当てたのだ。


「何やってんですか…社長。 大事なお客さんですよ?ブッ壊してもらっては困りますね


 その言葉とともに暴走した我聞を止めた工具楽屋営業部長・辻原螢司は真芝グループ第八研所長・十曲才蔵に商談を持ちかける。


 前門の虎を倒した後門の狼が、営業口調の下に剣呑な牙を隠して十曲に近寄った。





 ち、千紘ちゃん……コナミコマンドっすか。でも、コナミコマンドって、下手に入力するとゲームによっては一撃死することもあるんだよなぁ。全機能停止したってことは、この緊急回避用ブーストもその類みたいだな。


 ま、集氣の理論に関しては気功の概念と似たようなものです。気功や太極拳の場合、自分の正中線を通る一本の柱をイメージし、深呼吸をすることによってひとかたまりの空気の球を、その柱を経路にして丹田まで飲み込むことをイメージ……それを丹田から全身へと拡散させる、というイメージで集氣&練氣を行います(ホントいうと人それぞれでしょうが、少なくとも俺はそんなイメージをしながら行ってます)。流石にあのような桁外れなことは出来ませんが、外から氣を取り込み、それを内部に充実させる…という点では大雑把な印象は一致してます。こんなところからも、藤木先生はやっぱり勉強してるな、と思う訳です。


 あと、ちょっと概念的なものから、このバカ社長VSバカ様の……『バカ対決』をふと別の視点から見てみると、『自然VS科学』みたいなものだったのかな、と感じてしまいます。最初のうちは科学が自然をねじ伏せてましたが、ねじ伏せられた自然が猛威を振るってしまい、科学がズタボロに負けた、という印象です。という訳で我聞には、漫画史上二番目の『人間災害』を認定しましょう!


 一切関係ないけど、暴走と聞いたときの國生さんの怖い考えになる直前の顔(違う!)は、なんか可愛かったです。





第34話 暴走


「ま、そう言わずに。 2,3の質問くらいさせてくださいよ」





 県警の某警察署は、仙術使いとオーバーテクノロジーとのぶつかり合いによって、無残な姿を晒していた。炎と瓦礫の生産者の片割れである仙術使い……暴走した我聞を止めた辻原は、もう一人の生産者である十曲を捕捉し、『商談』を持ちかける。


 十曲の出した回答は、“拒否”であった。暴走という言葉にただならないものを感じた優からの通信機ごしの質問に答え、ことさらに隙を強調する辻原を強引に突破し、十曲は脱出を図る。だが、辻原にとってその試みは誘いにものの見事に乗った、哀れな被害者の悪足掻きに他ならなかった。十曲の突破をいなし、そのアーマーの脇腹の部分に軽く拳を添える。


 十曲の体内が振動した


 振動とともに流し込まれた力の波……勁が接触面とは逆になる脇腹で炸裂する。炸裂と同時に、ぐぼんという重く、鈍い音が直接内耳に響くのを、十曲は聴いた。


 純度100%の衝撃を一切の隙間のない状態から叩き込む、中国拳法で言うところの冷勁――浸透勁とも呼ばれる、当てるところを選べば心臓も機能を停止する剣呑な一撃の前に、銃弾をも苦にしない装甲は役に立たなかった。


 辻原の、鎧を無視する圧倒的な功夫―― そして、かつて人間専門のこわしやだったことを明かす余裕溢れる口調から、絶体絶命の危機を悟る十曲……その危機を救ったのは、未だ目覚めていない我聞だった。何も映さない瞳で十曲の纏う『青・参式』の破壊がなされていないことを認識、捕捉した目標に向けて拳を放つ。


 その拳に宿るのは撃・爆砕――いかに辻原といえど、直撃を喰らうわけにはいかず、動けない十曲から距離を取らざるを得なかった。


 その寸毫のタイムラグが、十曲にとって幸運に作用した。


 援護に出た山岡にピックアップされ、退却を計る十曲……我聞と辻原によって身動き一つ取れないほどのダメージを受けながらも精一杯の見得を切るが、その最中に千紘の運転する指揮車に轢かれ、更なるダメージを追ってしまった。


 辻原にも退却を試みる第8研の一同をみすみす見逃すつもりはなかった。が、それ以上に、暴走し、被害を拡大するだけの我聞を覚醒させる方が先決であった。無意識でありながら、動く標的に螺旋撃を放とうとする我聞に、辻原はカウンター気味に合わせた浸透勁を我聞の頭に打ち込む。


 無意識であっても正確に動くほど磨かれた我聞の体術ではあったが、我聞にその体術を刻み込んだ辻原にとって、正確すぎる我聞の打撃にカウンターを入れることはさして難しいことでもなかった。


 恐らくは多少の氣を込めたであろう辻原の打撃によって“喝”の入った我聞は容易く意識を取り戻したものの、代償もまた小さくはなかった。この場合は仕方なかったとはいえ、せっかく網に掛けた十曲ら真芝グループに属する者達に退却のチャンスを与えてしまったことに落胆する辻原。


 その逃走を阻止すべく、中之井の運転する指揮車が後を追う。その矢先、大戦中、ロシアの猟犬と呼ばれた腕前を発揮するより先に、山岡の投げたカラーボールがフロントガラスに当たった。


 優が相手指揮車にハッキングし、そのデータから相手を割り出す。巧妙にウイルスが添付されたデータによって、指揮車のPCはOSを破壊された。


 ……追跡は不可能になった。


 半ば廃墟と化した警察署の駐車場で合流を果たした工具楽屋の一同は、辻原の口から相手が世界有数の財閥の流れを組む軍産複合体……真芝グループの一翼を担う者であることを聞く。犯罪者や傭兵を使ってモニタリングした“商品”を世界各国に売り込む裏の顔を持つ……何より、先代・我也が行方不明になった仕事にも絡んでいた真芝という巨大な組織―― 内閣調査室であっても情報を得ることの出来ないその暗闇の情報を入手するためにあえて派手に立ち回ることで、釣られて勇み足を踏む中核に近い存在をおびき出そうとしていたことを明かす辻原ではあったが、暴走した我聞によって、その機会を逸してしまったことを告げる。


 うかつにも暴走してしまったことを責められ、挽回すべく名刺を手に入れたことを思い出す我聞……だが、十曲の残した名刺は我聞の放った爆砕によって既に灰になっていた。失策をさらに塗り重ね、ますます立場が悪くなる我聞をよそに、國生は辻原に疑問をぶつける。


 暴走について尋ねられた辻原は、暴走とはいうなれば、内氣を放出することで外氣を操る理の逆転現象であること、疲労や怪我で氣が減っている場合に起きる現象であり、頻繁に起こることではないと答える。だが、『別に心配する必要はない』という意図で告げる辻原の言葉とは裏腹に國生は、暴走の原因が以前の本業において、自分自身の軽率な行動から我聞に負わせてしまった右腕の刺し傷が原因だ、と思い至ってしまう。


 その強い後悔を知る由もなく、辻原は一旦は撃退した十曲らの再来を予測していた。そう何度も暴走するわけにはいかない……その決意とともに、我聞は辻原に次戦での勝利を誓う。


いつしか、騒動の夜は明け、大騒ぎの朝が待ち構えていた。





 辻やんが働いてる?なんかものごっつ珍しい物を見せられた感じです。でも、本業以外じゃ働かないぞ、この営業部長。それでいて工具楽屋の中では一番の高給取りなんだろうな、きっと。どーやら工具楽屋って、労働時間と賃金が反比例する会社のようだな。起て、万国の労働者!……あ、でもこの会社、一番安い給料で騙されながら働いてるのは組合員じゃなくて社長だ。社長じゃ労働争議も賃上げ要求も出来ないな(苦笑)。


 増刊ではあっさりしてたのに、第8研の皆さん、粘ります(……っと、比べたらいかんか。あっちは最終回だったし)。我聞VSバカ様のリターンマッチもいいけど、手玉に取られた中之井さんと優ねーさんの反撃も見ものです。








第35話 明日のためのその@


「だ――いじょうぶ。お姉さんに任せなさい。 追って指示を待つがいい――」





 とある高層ビル……真芝グループ第8研が籍を置くこのビルの一室で、第8研所長・十曲才蔵は覚悟を決めていた。促す十曲に、同じく緊張の面持ちで頷く第8研所属の研究員・高瀬千紘は、ピンセットに挟んだ脱脂綿を十曲の脇腹に残る傷に向け、おそるおそる進めていく。


 そして、傷口にピンセットを――刺した


 生々しい傷跡にさらにダメージを加えられて悶絶するが、必死に強がる十曲。我聞との一戦も引き分けであると強調し、強がるものの、第8研の総力を挙げて製作した『青・参式』を破壊された工具楽我聞や、紙一重の差で追跡を振り切ることの出来た工具楽屋の想像以上の力を認め、現時点での上積みは難しいことを漏らす。


 それを認めた上で克服することを宣言した自称『天才』に、勝手に部屋に入った凪原が絡みつく。営業を無視し、スタンドプレイを見せた上での失敗に、蛇のような冷たさの視線で言葉の毒を打ち込む凪原。“能力さえあれば駆け上がれる。だが、使えなければ切り捨てられる”その真芝のシステムに……多少の恐怖を感じつつも、天才を自認する十曲は『引き分けた』我聞を越えること……そして、そのシステムの中で頂点にまで登りつめることを宣言した。


 十曲にライバルとして認められた我聞はその頃……卓球部の一同、そして、半ば部員と化している國生とともに、合宿の目的地・江ノ島へと向かう電車に乗っていた。我聞と國生にとっては、真芝の一員・十曲との一戦や我聞の暴走という事件を乗り越えてのリフレッシュを兼ねての合宿である。さながら、初めて教わった遊びを楽しむ子供の表情でババ抜きを楽しみ、いとも簡単に敗北する國生や、海辺での合宿に心を躍らせる恵や友子らの部員と違い、部員の中でも恵や佐々木と並ぶ祭り好きの我聞からは、いつものハイテンション振りは見ることが出来なかった。「寝不足だから」と言葉を濁してその場を流したものの、寝不足が原因ではなかった。寝不足の原因である十曲との一戦……辛うじて撃退したものの自らは暴走してしまい、父・我也への微かな手がかりも失ってしまった痛恨の『ミス』を悔やむ気持ちが、我聞からテンションを奪っていたのである。


 それを『自分が負わせてしまった怪我が原因。だから社長は自分に怒っているんだ』と結論付けていた國生は、携帯に一通のメールを受け取る。相談した結果、“頼れるお姉さん”として、仲を取り持ってやろうと『買って出てくれた』優からのアドバイスのメールであった。落ち込んでしまった矢先の、さながらその場を見ているかのようなタイミングでのメールを天からの啓示とばかりに、メールの指令に従う國生。『社長の包帯をこまめに取り替えてあげよう!――やるときは上目使いで』賢者からのその指令を忠実にこなす國生ではあったが、“憧れ”や“従属”を示す上目使いという視線を、『不甲斐ない自分に対しての怒り』と認識してしまった我聞は思わず拳を握り締め、國生もまた、我聞の拳を自分への無言の怒りの現れであると認識する。


 両者の思惑がすれ違うその時、床を蹴る漢達が……いた。


 あからさまなダイビングで床に倒れ込む佐々木を筆頭に、突然転んで床を這う國生FC……サッカーならば一発でレッドカードを提示されそうな程に見事な手並みの“シミュレーション”に思わずツッコミを忘れて引いてしまった恵をよそに、『誰かの手当て』を要求する。我聞の「オレはいいから」という言葉もあり、その『誰か』の手当てを受けることに成功した國生FC……その姿を、苦々しく見つめる人影があった。電車に併走する車のサンルーフから双眼鏡越しに覗く人影が、叫ぶ。


「何してくれんのよ、あの連中はっ!! せっかくいい雰囲気(?)だったのに――!!」……我らがGHK総統、工具楽果歩その人であった。


 優からのメールという悪魔の囁きに従い、見事なまでに術中にはまった國生の手当てを邪魔し、作戦名『合宿ドキドキ大作戦』を台無しにした國生FCに強い敵対心を剥き出しにする果歩。だが、突然現れた敵に興奮する果歩に対して、運転中の参謀長・森永優は作戦の『フェイズ1』を台無しにされたその不測の事態にも落ち着きを崩さず……「恋は障害があるほど燃えるって言うし!」言った。その説得力のあるのかないのか判らない言葉に説得され、落ち着きを取り戻す果歩は……後部座席に座る年少組のその姿に気付く。水着に水中眼鏡、ビーチボールに浮き輪と、装備がすっかり遊び支度の二人に『海は後まわし』と釘を刺す果歩。ショックを受ける二人をよそに、GHKは我聞と國生をくっつけるべく、その動きを新たにした。それに対して、敵の存在を知らずに『ナース國生』の手当てに満面に喜色を浮かべる國生FC……殲滅戦の幕開けであった。





 國生さん、騙されてるよ!アンタ、ものごっつ騙されてるよ!


 というわけで合宿編です。冒頭にも書いたけど、國生さん……騙されやすっ!悪魔の飼い主・優ねーさんにも、時間稼ぎに出た中東のチーム並みの演技力の國生FCにも騙されてます。意外に勝負弱いし――どうも、ボケキャラへの道を一直線なようです。このままじゃ、工具楽屋にツッコミがいなくなりそうで怖いです。


 でも、ババ抜き弱い國生さん……明らかに同年代の友達と遊ぶことなんてなかったのが見て取れるので、逆になんだか不憫――親父よ、アンタ教育方針間違ってたぞ、絶対。生きて帰ったら、國生さん立ち直らせた我聞に感謝した上で、反省文を原稿用紙10枚で提出するように!!





第36話 幽霊騒動


「我らGHK!ここで勝負をかけます!」 「デルタ了解っ!!」


 ある夜の海辺……ここで、地元の高校生が清い交際を初めようとしていた。人気のない波止場に呼び出し、告白しようとする「よしお」と、その意図をある程度見越してはいるものの、胸の高鳴りを抑えられない「ゆき」……見詰め合う二人の視界に、和装の女性の姿が映る。出鼻をくじかれたことに加え、顔見知りに見られたかも、という照れ隠しによしおは告白を飲み込み、改めてそちらに目をやる。


 二人の見た方向は、海の上だった。水の上に立ち……そして、消える人影。それが、江ノ島のごく一部を恐怖に包む、幽霊騒動の始まりだった。


 一方、そんな事情を知らない卓球部は、合宿の舞台である江ノ島に降り立つ。青い空と白い雲、夏の海が中村以外のテンションを無限大にまで高める!そして、夏の海に欠かすことの出来ないもう一つの風物詩『肌も露わな水着ギャル』と変じた女子部員達……「卓球の合宿とは思えんがな」と、クールにツッコミを入れた中村すらも多少頬を赤らめる彼女達のその姿は、一般の男子部員達がテンションを極大にまで持っていくのも無理はないものであった。


 佐々木の視線を感じ「あんまりじろじろ見るなー?」と釘を刺す恵……だが、釘を刺された佐々木の視界は恵を素通りしていた。優の陰謀によって、真新しいビキニを着ることになった國生にピントを絞る佐々木ら國生FC!熱い思い出を写メールに残そうと携帯を取り出し――恵のカミソリの切れ味を誇る蹴りが、一気に四台の携帯を破壊した。


 夏のメモリアルを瞬間で破壊され、本気で号泣する國生FCを放置し、恵は無自覚なセクハラ被害者・國生を泳ぎに誘う。その誘いに頷きつつも、その騒ぎに加わっていない我聞を探す國生ではあったが、我聞は既に沖に向かっていた。それまでのローテンションからは考えられない変わり身で沖のブイへと向かう我聞の姿に触発され、部員は浜辺での漫才を終え、本格的に泳ぎに移行する。優からのメールで受けた『我聞の怪我を気遣え』という指示を実行出来ずに、取り残された國生は『社長に避けられている』と落ち込みつつも、前日の十曲との戦いで開いた傷を案じ、改めて我聞の行方を視線で追う。


 その視線を感じた我聞――その表情が、『國生さんが怒ってらっしゃる』という、至極判りやすい恐怖に青ざめた。心配する國生との意思がかみ合わず、視線から逃れるために、ちょっとしたモーターボート並の加速でさらに沖へと避難する我聞……それに匹敵する加速力を示す存在があった。ビーチバレーに誘われて肩に羽織ったパーカーを外した國生を視認した、國生FCの面々だった。


 その魚雷並の推進力を止めるものは存在しない……かと思われたが、その行く手に突然現れた海神の僕(しもべ)達が毒の触手で魚雷を誤爆させる。クラゲの群れと多少離れた位置にいたことで難を逃れた佐々木ではあったが、浜に達したその足が何者かに突然捕まれた。西瓜の近くに倒れた佐々木――の頭をかすめ、バットが振り下ろされる。


 西瓜割りを楽しんでいた海水浴客の殺気に満ち溢れたバットに、佐々木はその糸目を見開くほどの恐怖とともに悲鳴を上げて後ずさった。『偶然』とはいえ國生に近寄れないその事態に、何者かの陰謀すらも考える國生FC……その呟きに答えたのは、海の家の店主を名乗る老婆の「祟りに違いないの」という言葉であった。


 まるで本人が幽霊であるかのような風貌で佐々木をビビらせつつも、最近、この近辺で幽霊騒動が持ち上がっており、それが原因で海水浴客が減っていることを明かす老婆。その情報をネットで見かけたことのある中村が、その岩場を指差す。手持ち無沙汰な我聞が海栗を密猟していた現場が、その問題の場所だった。


 ビビリ入った佐々木に対し、幽霊の存在を頭から否定する恵と友子……その挑発に乗りながらも、『怖がる國生さんがしがみついて来る』という一点の冷静さを残しつつ、佐々木は肝試しを提案した。


 その提案に受けて立つ恵……それは、『老婆』の思惑に乗ったものでもあった。『幽霊』の言葉に疑問を感じつつも、昼食のためにその場を立ち去る國生らの後ろ姿にほくそえむ老婆の頭部が―― 二つに割れる。そこから現れたのは、優の笑顔であった。「まんまと引っかかりおったわい」というデルタ1・優の言葉とともに続々と集まるGHK。合宿ラブラブ大作戦・フェイズ2の中でも最も肝心なファクターである『國生の水着』を我聞にスルーされるという誤算はあったものの、目下の敵である國生FCを撃退したその戦果に酔いしれる暇もなく、フェイズ3へと移行するべく――周囲の目を気にすることなく、動き出した。


 我聞と國生、國生FC、そして……GHK――様々な思惑が錯綜する中、肝試しの夜が……始まった。





 “てめーら、どっから出したよ、その携帯!?”と言うわけで、どーやら四次元ポケット標準装備のようです、國生FC。


 にしても、失格失格言ってる暇あったら少しは会話しなさい、社長と秘書!!ホンットに見ていてやきもきするったらないわ!こんなんだからGHKも苦労するんだよ、ホント。


 で、その苦労してるGHKの皆さんですが、今回一番リスクでかかったのって、斗馬じゃなかろーか?もし外してしまったら、「ちっ」と舌打ちするくらい殺る気満々だった果歩りんのバットの矛先が自分に向くわけだし――斗馬よ、また今日も……生き残っちまったな(乾杯)。


 斗馬といえば斗馬に似てる一年の女子さん……アンタ何者?斗馬も謎だが、アンタも充分謎です。


 でもって気になるのが一つ。國生さん、『幽霊?』とか考えてましたが、もしかして、國生さんって"見える人"なのか?で、そこで見えないからこそ否定してたのかも。静馬のばーちゃんの水球を壊したのと併せて、國生さんにもまた新たな謎が出てきました。ばーちゃんらしい人影も出てきたし、今回の合宿編では、その辺が描かれると期待してます。


 最後に一言……漁協のみなさーん、ここに密漁者がいまーす!!フクロにして、スマキにして沈めてまえー!!





第37話 恐怖?!肝試し!


「祟りがすごい!」





 中村とのペアを組んで、肝試しに向かう我聞。が、我聞と國生の間に漂う雰囲気の変化を明らかに感じていた中村は一計を案じていた。「ま、そんなわけで先発のペアと話つけといた」中村の言葉に前を向く我聞……その視線の先には、中村にペンライトで合図を送る友子と、怪訝そうな視線を送る國生の姿があった。


 中学時代からの友人である我聞を案じていた中村の配慮により、改めてペアを組む事になった我聞と國生だが、互いに謝罪しようというタイミングを計りかねる二人の間を、ただ静寂が支配していた。沈黙に耐えかね、口を開く我聞――の横合いから、突然『耳なし芳一』の爪弾く琵琶の音が!明らかに動じる我聞と「どこかで見たような――」と、不思議そうにそちらに目をやる國生……そこで我聞を追い撃つかのように降り注ぐ目玉!一切動じずに目玉を作り物と見抜く國生に対し、我聞はその攻撃に大きく動揺する。海の家のばーさんのためにも、國生の視線を凍らせないためにも、動揺を押し殺しつつ先に進むが、ヘタレきった我聞の根性は自ら踏み折った小枝にも「ギャース!!」とビビリまくる始末。


 その醜態を暗がりから監視していた我らがGHK総統・工具楽果歩は、せっかく中村が國生とペアにしてくれたこの好機を潰しまくる兄の醜態にブチ切れ、思わず飛び出しそうになる。


 だが、ベストショットを狙うGHK参謀・森永優の「つーかはるるんが動じないよ」という言葉に冷静さを取り戻し、果歩は目玉部隊・珠と耳なし芳一独立小隊・斗馬を合流…“磯の幽霊”隊として再編成することを宣言した。


 一方、我聞らの行く手には優の仕掛けたトラップによって排除された國生FCの面々の無残な姿があった。無事な我聞と國生を認めた佐々木は『祟り』にやられた自らの醜態を自嘲気味に笑い飛ばし、我聞にデジカメを託す。佐々木の漢気に熱い涙を流し、怯懦に震えていた己を恥じ、魂を真っ赤に燃やす我聞!『怖がって泣いちゃってる國生さんの写真を……』という佐々木の遺した言葉はやはり耳に入ってなかったが……。


 心に火がついたことでついに動いた我聞とそれにつられて動く國生…それはまた、GHKにとっても攻勢を強めるチャンスでもあった。『陽菜さんの足を引っ掛けて転ばして―― 腕の中へ――!!』果歩とそのヴィジョンを共有した優は絶好の機会を活かし、トラップを作動させる――が、うっかり作動させたのは、殺人トラップであった。


 『デス・フロア』とでも言おうか……國生の両脇から挟み込むかのようにせりあがる鉄製の地面。突然の國生の危機に、我聞は反射的に動いた。國生を腰から抱きかかえ、必殺の威力のこもったデス・フロアの顎から國生を救い出す。未来の兄嫁を救った兄の雄姿に快哉を送る果歩であったが、優の緊張は続いていた。『トラップは常に二重』という至極当然の論理から、連動して作動したスパイクボールが、空中にある我聞らを狙っていたからだ。だが、友の魂を背負った我聞には、スパイクボール程度はなんの障害にもならなかった。螺旋撃によってスパイクボールを迎撃した我聞は、祟りを振りまく幽霊と対決する決意を固め、走り出そうとした……が、祟りの前に國生を一人にしておくにはいかない、と國生の手を引く。果歩の思惑と違って、我聞にメロメロにならなかった國生ではあったが、『社長は怒っているのでは?』という懸念が杞憂であることを悟り……その手を取った。


 磯に到着した二人と、磯の真上に位置する森から二人を監視する果歩と優……どちらも目的を順調に達している現状に満足したその時、磯の脇に忽然と現れた和装の女の姿を……四人は同時に見た。「空気読みなさいよ珠!斗馬!」と、傍らに座る斗馬をごく自然に責め……果歩はそれに気付いた。「なんであんたここにいんの?」問われて「珠ねーちゃんも疲れて寝てるし」と答える斗馬。


「本物?」結論に思い至り、ぱったり倒れる果歩と優――GHKは、斗馬を残して壊滅した。


 GHKが壊滅したとき、我聞も思い切り動揺していた。だが、友の魂を背負う自分が負けるわけにはいかない、と、動揺しつつも幽霊を退治するために我聞は“幽霊”めがけて飛び込んだ。


 “幽霊”が水を纏った右手を我聞に向けて差し出し…振る。微細な水の粒が弾幕となり、我聞を迎撃した。空中で撃ち込まれた水弾によって、浅瀬に墜落した我聞は、「これも祟りかー!?」と混乱を隠さずに叫ぶが、國生は見覚えのあるその“仙術”に、相手が人間であることを理解する。


「あら?よくわかりましたね。ひょっとしてお仲間かしら?」狩衣を纏う黒髪の女が、水上で笑みとともに言った。





 ばーちゃんと思ったのに違いました。でも、静馬の仙術使いはみんな女性なのか?性別と関係あるのか――気になるところです。


 でも、國生さん……すっかり調子戻ってます。合宿編の数々のエピソードから、てっきり『スイッチがOFFの時にはボケに変身する、“ドジッ娘属性8レベル”』ぐらいの実力者だと思ってたのに。もしかすると、我聞と一緒にいるお陰でツッコミ気質が戻ってきたのか?どうやら國生さんは戦闘でもギャグでもマルチタレントとして活躍しそうです。でも、RPGでは“歌って踊れるマルチタレント”って、基本的に役に立たないんだよなぁ。そうなると……非常に心配です。


 調子戻ったといえば我聞ですね。前回の『人間モーターボート』や密漁程度では読者は……てか、俺は納得しません。やっぱり暴走機関車工具楽兄弟の長兄――コスモ燃やして…ドモン=カッシュばりの叫び張り上げて…暴走してナンボです。また、久々に「ギャース」の声を聞きました。これだけ「ギャース」がいい味だしてるマンガは、『キャットルーキー』以来です……スパン短かっ!!


 それは兎に角『祟りがすごい!』発言……俺的には会心のヒットです。福岡の――FM福岡リスナーの中でもローカルな話で申し訳ありませんが、『お豆がすごい!!』発言を思い出させてくれました……これに関しては、判る人だけ笑って下さい。それだけで満足です。


 しかし中村……我聞と中学以来の付き合いだってのによくそこまでクールに育ってるなぁ……あの國生さんでさえも、きっちり影響受けてるのに……もしかすると、國生さん以上の動じないキャラクターなのかもしれないぞ、この漢。





第38話 新たな“こわしや”


「鯨!?」 「いえ……潜水艦です!!」





「お仲間かしら?」の言葉に疑問を感じ、我聞らは『狩衣の女』に尋ねようとするが、彼女は、我聞達の質問を制する。その左手からは月光を反射する銀の糸が垂れ下がっており、その糸の先に引っかかった何かを、軽い指運で引き上げる。何かを感知し、ぴくり、と動いたその指先の動きに「釣り?」と尋ねる我聞の言葉に、笑顔で答える女は、一切の力をかけることなく獲物を水上に引きずり出す。


 現れたのは潜水艦だった。彼女の操る“水糸”の感知をかいくぐり、近海を航行していた潜水艦をようやく捕らえた達成感に、年若い仙術使いは満足そうな笑みを浮かべ、潜水艦に絡みつかせた水糸の数を三本、四本と増やしていく。そして、「おしおきです」の言葉とともに……絡みつかせた糸を、一度に締めた。「静馬仙術 斬水糸(×4)」静かな、だが、全ては当然といった口調の通り……潜水艦は輪切りにされた。深海の水圧にも耐えるだけの装甲板を苦にすることのない、圧倒的な切断力であった。


 一仕事を終え、『狩衣の女』こと静馬仙術二十四代当主・静馬さなえは改めて名乗る……我聞と國生が初めて出会う、我也以外の現役の仙術使いであった。


 翌朝、前夜の成果を見届けるべくGHKは偵察に出る。『幽霊』によって肝心な部分を見逃したため、「ラブラブ!?ちゅーした!?」という期待は自然と高まるが、偵察先のスポーツセンターでGHKが見た我聞は、ボコボコに顔を腫らした我聞であった


 その我聞の顔から、國生はゴシップ記者と化した恵と一年の女子部員・長部君子によって前夜の出来事を白状するよう迫られるが、「一応守秘義務に関わることでしたので……」と答え、逆に質問の勢いを白熱させる。


 それを聞き、デルタ2……果歩は――全てを悟った。かつて自らも動物呼ばわりした兄が、本当にケダモノと化して國生を襲ったということを!そして、國生の反撃を喰らい、我聞はあのような体たらくをさらけ出しているということを!!作戦行動の失敗を悟ったGHKは撤収した。年少組のさわやかな「おーぼえてろー」の声とともに……トラップにかけた佐々木達……仇敵・國生FCを放置したままで――


 守秘義務―― 無論、恵や長部、果歩の想像するものとは違うが―― かなえとの出会いは國生の心に影を落としていた。成り行き上かなえの請け負った本業……真芝グループの兵器密売の運び屋の殲滅という仕事を手伝うことになった我聞に、かなえは徹底的な体育会的な指導で当たっていた。我聞の未熟さに「あれじゃウチの弟とどっこい」と半ば呆れるかなえに、國生は我聞の未熟さは認めるものの、殴りかかってきたのを理由に仕事を手伝わせる不条理には噛み付いてみせる。かなえは現役最強だった我也の息子ということで興味を惹かれ、その実力を見てみたかったのだ、と強引さを認めるが、実際に見た我聞の実力の低さは想像以下だったと、かなえは言外に述べる。


 そのパフォーマンスの低さ……以前の『手鏡事件』で、自らが原因となって負わせてしまった怪我のために起こった暴走により、氣力が減少している、と我聞を弁護する國生ではあったが、その『暴走』という言葉に、先程までの友好的な態度を一変させ、かなえは過剰なまでに反応を示した。


 暴走した仙術使い…それは、外氣を無限に取り込み、いかなる傷も瞬時に回復させる上、ただ防衛本能に衝き動かされ、過剰に内包した破壊力をコントロール不全に陥ったまま戦う、制御不能の破壊兵器と同等の存在であったのだ。


 何より、その暴走した仙術使いによって我聞の母は亡くなったという事実を知らされ、國生は愕然とする。


『辻原さんは―― そして、社長はこの話を知らなかったのでしょうか……』心に落ちた影を感じつつ、國生は我聞を見つめた。





 ヘルニアは厭だよぉ。下手すりゃ一生後遺症残るよぉ……と、いうわけで、我聞とんでもないことやってます。穿功撃で椎間板ヘルニア起こしてます。バカ様に「壊してはいけないものも判る」って見得切ってたけど……そこは壊しちゃいかんだろ、そこは。


 言ってることと矛盾してる、といえば、果歩りんの『お代官プレイ』発言!……もしもし、確か果歩りん、我聞を動物扱いしてませんでしたか?しかし、お代官プレイを簡単に連想出来る辺り、斗馬め……あなどれんわ!


 でも……國生さんには突撃レポーター二人組が向かってたけど、そもそもネタ元は友子ちゃん……よくよく考えてみたら、中村と二人っきりだったのをまず第一に突っ込まれないか、普通?実はこの娘さん、自分への追撃を躱すために國生さん利用したのか!?だとしたら、すげぇ策士だよ、この娘……とここまでいったトコで思い当たったんだが、もしかしたら、『中村×住』って、実は部内では公然の付き合いだったりしてな。だとしたら、ただのアホだ、俺。


 真面目な話もしておこう。静馬のばーちゃんが知らなかった話をなんで知ってるんだろうな、かなえさん。考えられる奴で言うと@『何度か協力してもらった』時、我也に直接聞いたA実はばーちゃんも知ってたが、仙術使いではない國生さんにはあえて黙ってたB暴走仙術使いの鎮圧部隊に自分もいたC『交通事故』という言葉自体が、昔からのこわしやの中での暴走の符丁だったD当代だけに伝えられる秘密だからE少年漫画特有の後付け設定だから……こんなところでしょうか?最後のは別にしても、どれも有力ですし、どれも決定力はありません。これに関しては、後に語られるのを待つしかありません。あと、今回の話で判明したのが二つ。どうやら静馬仙術は女性にのみ会得が可能というわけではなさそうなことと、仙術は基本的に血族間での伝承が行われるけど、別に一子相伝でもない、ということの二つです。工具楽仙術が江戸時代から続いている稼業なのに我聞で二十五代というのも、代替わりに20年掛からないって点でおかしい、と思ってたんですが、『弟とどっこい』発言で一気に氷解しました。


 かなえさんの言ってた『我聞とどっこいの弟』……どう登場するのか。多分國生さんに惚れる、ということだけは予想してますが、ちょっと気になるところです。





おまけマンガ:こわしや我聞外伝?『征け!会長さん』VS女子卓球部編


めぐみん、すっかり猛獣使いの様相を呈しております。でも……女子部って独立してたのな。


あと、フジイ……優ねーさんのトラップに掛かった時といい、よく脱ぐな、お前(汗)。


おまけマンガ:『オレ日誌』


あれ?藤木先生って、子供に股間殴られたのに本気で反撃したのが原因で辞めたんじゃ?(一部受け)


裏表紙:『御川高校卓球部、ここにあり!!』






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