日報バインダー6








表紙:謎の行動を取る我也の影を追う我聞&國生……そして、静馬姉弟




折り返し・表:藤木先生6巻からCGで色塗り開始




折り返し・裏:『花占い』


……ゆ、湧次郎(ノ∀`)




第49話 番司を追え!


「指切り、 しましょう」


 番司が行方不明になった――國生の携帯に入った辻原からの連絡は、あまりに唐突だった。


 我聞が立つ瀬をなくした番司をフォローした矢先に入ったその連絡に色めき立ち、妹弟とともに心配そうな視線を投げかける果歩。その視線を感じたのか、我聞はその視線を無力なものとする強い笑顔を妹弟達に見せ付けつつ、予定が一月早まったことを告げる。


 『急ではあるが、一週間ほどで戻れる程度のちょっとした海外出張』―― そう強調し、珠と斗馬に土産を打診するやり取りまでもが父・我也のものと一致した『その偶然』……行方不明になった父の最も近い思い出との既視感に果歩が身をすくませたことに……その傍らに立つ國生が気付いた。


 あまりにも急な行動開始に、急ごしらえであることは否めないことを承知の上で準備に当たる工具楽屋の一同――その中で、真芝を相手にすることに複雑な表情を覗かせる優ではあったが、辻原の登場にその表情は普段のものに変わる……とはいかなかった。


 奇襲に至る以前の段階で対応され、相手は万全の状態で襲撃を待ち受けていることに加えて、我聞とほぼ同等の実力を有する番司の生存も不明とあって、不安の混じった表情と言葉で辻原に問い質す優。だが、辻原にとっても退くことの出来ない、まさに正念場でもあった。


 “例の仕事”――真芝壊滅作戦に間に合わせるために、我聞には実力以上の無茶な修行と実戦を課してきたこと……八ヶ月前、真芝がらみの事件で消息を絶った我也の情報を得るためにもこの作戦に参加し、何らかの成果を得なければ、辻原が我聞に賭け、我聞が信じて行ってきた全てが無駄になる――そう言わんばかりの強い信念が、辻原の言葉に、普段とは違う鉄のような芯を与えていた。


 その硬く、重い言葉を受けたものの、我聞を案じてか、やはり不安を口にする優……その言葉を、果歩は聞いてしまった。普段の優とは打って変わった重く苦しい口調――果歩が身を固くし、踵を返すのは無理もないことであった。


 着々とこわしやサイドの救出・襲撃準備が進むその頃、番司は生きていた。抵抗を試みるものの、金庫以上の強度を誇る隔離施設の扉は、麻酔ガスを吸い込んで本調子を出し切れてはいない番司の螺旋撃をあっさりと受け止め、衝撃音を隔壁の向こうに響かせるだけに止める。本調子でも通用しないかも、と思いつつも、罵声とともに螺旋撃を叩き込みつづける番司を鬱陶しく思ったのであろう……もし死んだとしてもいくらでも代えは効く、とモニターを覗く研究者に投与した麻酔ガスを三倍の濃度で再度投与することを命ずる八雲――その言葉は、自らの研究に対する絶対の自信と、狂気に満ちていた。


 そして、悪魔の言葉に比する命令が実行されたその頃、果歩は仏壇に……母の写真に向かって手を合わせていた。迷い、悩んだ末に声を掛けた國生に、果歩は思い出を語った。


 七年前に母が死んだ時にも、父が行方不明になった時にも、果歩ら妹弟を護り、支え、背負ってきた兄・我聞……その存在は、果歩にとってとてつもなく大きなものであった。


 だが、今回直面した本業は我聞と伯仲した実力を持つ番司ですらも行方知れずとなった危険な仕事であり、父・我也が行方不明になった状況と重なる、厭な予感が絶えないものであった。「お兄ちゃんまで帰ってこなかったら…!」尽きることなく溢れ出す不安と恐怖とが、果歩の普段の気丈さを削ぎ、涙として流れ出させた。


 我聞が近くを通りがかろうとしていることにも気付かずに、「お願い陽菜さん…!! お兄ちゃん連れてかないで…!!」涙とともに國生にせがむ果歩。


 偶然聞こえてしまった、本心からの言葉……自分を案じての言葉であることは承知していても、行かなければ行けないことを説こうと我聞が障子を開けようとするよりも一瞬早く、國生は果歩を優しく抱きしめた。


 慈しみに満ちた言葉で我聞の強さを……約束を破らないその誠実と精神の強固とを優しく説く國生。それでも不安を隠さない果歩と指切りを交わし、我聞を無事に姉弟の下に帰すと誓う國生に……幼くして失った母の面影を重ね合わせたのであろう――果歩は、泣いた。


 泣きじゃくる果歩をさながら母のように、姉のように抱擁する國生……その姿に、生還を果たすという想いを強める我聞。三人はそれぞれの想いを胸に――夜を越えた。


その夜が明け、決戦に向かう朝が来る。疑いなく我聞を元気に見送る年少組と、胸のうちに隠し続けた不安を國生に吐き出したことで気分を晴らしたのであろうか、しっかりものの顔に戻って……だが、顔だけは普段通りであっても、言葉を掛けることもなく静かに見送る果歩――ふと、我聞がその果歩に声を掛けた。ポケットを探って十円玉を取り出すと、右手の指三本で折り曲げ、言う。


「番司はオレと同じくらい強いと言ったが…あれはウソだ! オレの方が数倍強いぞ!」


 昨日の“失態”を知られていたことに赤面する果歩は、照れ隠しもあって普段の顔と口調に戻り、我聞もそれにいつもどおりの力強い兄の姿で応じる。前夜、自分の代わりに果歩の心配を取り除いてくれた國生に精一杯の謝辞を述べ、「行きましょう!! 真芝ぶっこわしに!」我聞は力強く宣言した。その揺るぎないシンプルな言葉には、一切迷いはなかった


 それぞれの思いを胸に、我聞達工具楽屋の面々が真芝の拠点を破壊に向かったその頃、番司は全身を麻痺させ、昏睡状態に陥っていた。常人ならば心停止する麻痺毒の混入にも、直前まで抵抗を見せていた番司……2番隔壁が沈黙したことに、その隣の隔壁で泰然と佇む一人の男が、悠々と煙草に火をつけて、言った。「さて――動かにゃならんかな」





 斗馬よ、ごっついタイミング悪いぞ……ちょーど今、ライブドア株って高値反転してるんだ。『底値で買占め』なんて無理だぞ。にしても、なんつードンピシャのタイミングでニッポン放送株の35%を入手するんだライブドア!!そんなことしてるから、社長がフジのレギュラー番組降ろされるんだぞ。


 と、コミックス出る頃には風化するような、あまりにもタイムリーな時事ネタから入りましたが……斗馬め、その経済観念、やはり侮れんわ。珠ちゃんも三節根はまだしも青竜刀って……十円玉曲げた我聞に対抗心を剥き出しにする辺りも、相変わらずの武闘派っぷりを見せてます。経済と武闘派……893になっても通用しますな、工具楽一家(って、おひ)。


 それにしても判らないのは優ねーさん。今回のリアクションから見ても言えるし、『あのお方』の現役復帰も匂ってきたとあっては、戦力的にバランスが取れなくなるので、『真芝グループのロストナンバー・第2研所長』説の根拠は回を追うごとに増すばかりです。でも、もしかしたら『第一研所長・山薙くんの同門or兄妹』説もこのところ自分の中では出てきていることもあって、全く判りません。


 でも、國生さん……お義姉さん飛び越えて、すっかり『お母さん』になってます!我聞とのラブが発展する前にこんなことになってしまっては、GHK的には成功なのか否か……優ねーさん以上に判断に困ります。まぁ、果歩りん抱きしめてる姿なんかは『國生さん、お母さんになったらこんな風になるんやなー』ってな感じで将来像が見えた、という点では成功でしょ……(はたと気付いた)……って、國生さん!その台詞&指切り、思いっきり死にフラグ立ってるよ!!いらん死にフラグ立ててるんじゃない、工具楽家の嫁!!


 とはいっても、出撃前に軽率に約束なんかして急浮上した國生さんの生死問題も含めた諸問題の中で、何より心配なのはこの展開の馬鹿っぱやさ。謎も全部出切れてないというのに、このままじゃバカ様の最登場する余地もないというのにいきなり親父出てくるんなら、連載消滅が近いということなのか……ものごっつ心配です。つか、杞憂で終われ!





第50話 吶喊(とっかん)!!


「それではよろしいですか? “こわしや”のみなさん!」


 2番ゲージの隔壁が開く。


 麻酔ガスの効果により、さながら手負いの猛獣の如く暴れていた年若いこわしやは沈黙しており、研究員とともに彼を見下ろす八雲の口調にも余裕が覗く。


 その余裕を、仙術使い……番司は狙っていた。脳内ホルモンをコントロールしたのであろう……代謝速度を意識的に上げ、麻酔の効果を抜け出していた番司は死んだ振りを決め込んで相手が近寄る好機を確実に捉えていたのだ!


 番司の攻撃は不意を突かれた研究員を一撃で退け、続いて八雲を射程に捉える。


 が、吹き飛んでいたのは、番司の方だった。一切の気配を示さずに番司の間合いを侵略し、右拳の一振りで番司を殴り飛ばしたその男は、ゲージの奥にまで吹き飛ばされた番司の頭の脇の壁に無造作な蹴りを打ち込み、「おーっと兄ちゃん。 動かねェ方がいいぜ」余裕たっぷりの口調で壁とともに番司のプライドを踏みにじる。


 テンガロンハットにアメリカ空軍流出品のジャケット、くわえ煙草のその男は、恐らくは本気の欠片も見せていないであろう軽い一撃で当座の戦力を奪い去った番司に向け、下手な動きを見せたら命がなかったことを告げると、促すような視線を八雲に送る。


 視線とともに八雲の背後から現れたのは、以前番司と理来を打ちのめした相手とは違う――だが、あまりに似た雰囲気をもつ坊主頭の男であった。


 テンガロンハットの男の余計な手出しの所為で新兵器のデータが取れなかったことを責めながらも、八雲は高濃度の麻酔ガスに晒されながらも反撃を試みた番司の……究極の肉体コントロール術の使い手である仙術使いの底力の高さを、圧倒的有利に立つ傲慢さを見せながら称賛する。


 仙術の特徴を掴み、なおかつ我聞と同じ爆砕を使う兵士を『新兵器』と言い切る八雲は、番司の叩きつける質問に答え、空論に過ぎなかった『仙術の兵器化』を理論に変える“新理論”を提供し、その実現に一役買った男の存在を告げた。「仙術使いで、現役最強のこわしや――工具楽我也」番司の目の前に立つその男であった。


 意外な場所で出くわした我聞の父・我也――あまりの衝撃に、数瞬茫然自失となった番司がさらに質問しようとしたその時……凪原が、待ち受けていた来客の到着を告げた。


 第3研の待ち受ける孤島の上空近く……こわしやの強襲部隊を載せた輸送ヘリが目標を目の前にしていた。偵察部隊を抑えられた以上、最早隠密に動いての奇襲は成り立たず、対空砲の届かない超高度から突入を敢行……施設の破壊と番司らの救出を迅速に果たして離脱するという、機動力重視の強襲作戦に切り替えたのだ。


 副操縦席から指示を出す西がハッチを開き、真っ先に飛び降りる我聞。人生初のパラシュート降下の恐怖をかみ殺し、後に続く國生に指示を出す我聞……パラシュート操作を忘れ、逆に指示を出されてしまうが、その我聞を追い越す修験者風の服を身に纏う男がいた。その男……パラシュートなしで降下する“鉄”の仙術使い如月湧次郎に向け、対空用に準備されたバルカンファランクスが火を吹くが、如月はさながら銀弾鉄砲の弾を受ける装甲車の如き堅牢さで対空砲火を容易く弾き飛ばし、引力に導かれる隕石のように加速をつけてバルカン砲の上に『着地』した。


 自らの身体を硬質化する如月仙術“砕・金剛弾”によって対空兵器を無力化すると同時に、地下へと続く突入口を地面に穿った如月は、突入部隊のリーダー・かなえにアピールするが、かなえはアピールをあっさり流し、降下部隊全員の無事を確認すると、西と連絡を取り合う。


西から改めて通信を受けた突入部隊は、“水”の使い手・静馬かなえを筆頭に、“炎”を操る奥津太一に如月、“木”の仙術使い・西音寺進、“雷”の理を持つ安部雪見……そして、“爆発”の理を有する工具楽仙術の使い手・我聞の6人の仙術使いに辻原、優、國生の工具楽屋の3人のサポートを加えた総勢9名――研究施設の破壊という本来の任務に加え、番司らの救出を含む今回の大仕事の成功に向け、末席ながら滑り込んだ我聞は戦意を上昇させるが、我聞らに与えられた任務は、施設最深部への進入であった。『指示を無視したらその場でこわしや失格』という脅し文句に震えるが、最深部への進入――つまりは陽動を兼ねて施設を破壊するかなえらから離れ、捕らえられた番司らを救出するという任務を背負った我聞が、かなえの命令に敬礼で答えた頃、凪原はこわしや達の行動の素早さに感服して見せると、真芝に協力する我也への番司からの問いを一方的に打ち切り、真芝にとっても最重要人物である我也とともに脱出に移る。


 突入部隊は全国のこわしやの中でも選りすぐりの精鋭であり、やすやすと脱出はさせないと見得を切る番司……だが、我也の一撃のダメージで動けない番司から凪原達の背中に向けて放たれる視線の先に八雲が立ちはだかり、言った。「せっかくこわしやどもが来ているんだ。きっちりデータはとらせてもらう。 ウチの新兵器達のな」


番司ら偵察隊を苦もなく屠り去った『人造仙術使い』達が八雲の後ろに立つ……その数は十数人。番司の表情が絶望に歪んだ。





 今回の話の結果、優ねーさんの内通説は結構薄くなりました。ま、前回で2割になったのが、8%位に落ちた程度です。が、しかし……親父、アンタがラスボスかい!!どーりで、前回のラストではソファに座って煙草を吹かしてる訳だ。


 今まで謎だった“新理論”の出所も親父らしいし……『パターンG』のGは我也のGだった訳だな――でもちょっと待て?!超硬度のナイフは使用者の“氣”の伝導率を高める、と考えれば判らんでもないが、毒ガスの製法だの自走装甲車や潜水艦の自動航法のプログラムまで仙術の中にはあったのか?どんな肉体コントロール術や、それは?!とはいえ、『我也が行方不明になったから真芝が活発に動けるようになった』んじゃなくて、我也が真芝についたから、研究がはかどるようになったんだな、納得納得。


 とりあえず、展開から考えると6巻で打ち切りになる率はかなり減ったので安堵はしていますが……さんざっぱら予想し倒してきたのに、一気に予想がひっくり返ってしまった今、はっきり言ってどうなるかは判りません。おとなしく、予想なんか止めて素直に見ろ、ということなんだな、こりゃ。


 ま、それはいいとしてシリアス前のツッコミと行きましょう。


 我聞怖がっとるこわがっとる。流石に祟りとを恐れる漢、パラシュート降下にもすっかりヘタレきってます。『煙と何とかは高いところが好き』とは言うけど、我聞には通じないようです。


 また、岩のような顔してかなえさんに惚れてるっぽい如月のおっちゃん……報われない人に惚れちゃったね、アンタ。でも、顔で決めるのはなんだけど、頑丈さを売りにした肉体派のファイタータイプ……典型的な自分の頑丈さを過信して、2番目にやられそうなタイプ』の人なので、惚れる以前の問題かもしれないが(ヒドっ!!)……いや、嫌いじゃないですよ?基本的にオヤジ大好き病末期患者なんで、奥津のおいちゃんと並んで好きになりそうなんです(って、27歳……俺より年下!?)……とはいっても、どーあがいても『俺ランキング』11位のジローに負けるのは確定だけど。


 冗談は兎に角、新規参入してきたキャラ4人……大半が立ち姿だけですが、それぞれいい味出してます。期待大です。出来たらこの戦いだけで消えることなく、さらに出番があって欲しいものです。最低でも一人につきコミックス一冊くらいのエピソードを!!





第51話 この敵、何者?


「我聞くん 気付かない?」


 第3研の研究施設の最下層で……我聞の爆砕が火を吹いた。鉄製の扉が吹き飛ばされ、転がる。


 辻原と優は別行動に移り、我聞とともに扉に阻まれていたそのブロックに歩を進めるのはかなえと國生……そこは、番司が閉じ込められていたゲージを真正面に見据える、いわば格納庫であった。


 空母のそれに匹敵する、ちょっとした球場並の広さを持つ格納庫――かなえがその先にあるであろう管制室を抑え、破壊すれば、このこわしが楽になることを経験の少ない工具楽屋の二人に教え、実行に移そうとしたその時……吹き飛ばされた扉の部分に隠されたシャッターが降りた。


 退路を断たれた三人を、管制室から見下ろしつつ、慇懃な歓待の礼を表する八雲。閉じ込められたことに僅かながら動じてしまった我聞と國生の二人と違ってかなえは一切の動揺を見せることなく応じ、覚悟を決めろと啖呵を切るが、間髪入れずに続いた我聞の拡声器つきの説得に啖呵を台無しにされ、冷徹な“こわしや”の顔からもっと怖い鬼の形相に変わるかなえ……だが、上層で別働隊としてこわしを続ける四人の仙術使いの存在を告げられた八雲の反応は、かなえらにとっては意外なものであった。覚悟を決めることなく、能面に似た顔を歪め、「アレのモニタリングには最高の舞台だ!」八雲は邪悪な笑みを浮かべた。


「金属類は捨てた方がいいぞ?」その言葉とともに安部の操る雷が、稲妻――安部仙術“砕・雷走”の異名である『ライトニングボルト』――の如くコンクリートの壁を駆け抜ける!


西園寺が氣を送り込むために軽く床に立てた木製の棍……その軽さとは裏腹に、西園寺仙術“触・樹根操”によって操られた樹の根は、分厚いコンクリートに穴を穿ち、守備部隊の兵士を捕らえる!


 核攻撃にも耐え得るであろう分厚い隔壁の向こうで待ち構える兵士――その裏を掻く形で、奥津仙術“溶・火炎刀”が放たれた。奥津の煙管に纏わりついた炎が、熱したナイフでバターを切るかの様に隔壁を溶かし斬る!


 如月の左拳が金槌の形に変わり、バルカン砲に向けて振るわれた!如月仙術“撃・鉄槌”によってバルカン砲を爆散させ、自分のカッコよさに酔いしれるが「この勇姿をかなえさんが見たらきっと――」ダダ漏れの『心の声』を安部によって即否定され、落ち込む如月。


 ――研究所の上層は、まさにこわしや達の独壇場といっても良かった。縦横無尽に破壊し尽くし、最下層に潜入したかなえ達の結果待ちとなる四人の仙術使い……あまりに順調すぎる、抵抗の少なさに別働隊の中でも最年長の奥津が懸念を口にしたその時、九つの人影が彼らの前に立ち塞がった。そして、その異様さに奥津が気付いた頃、かなえもまた、彼女ら三人を包囲する男達の持つ違和感の正体を感じ取っていた。


「仙術使い――!」かなえが感じ、導き出したその答えに驚きを隠すことが出来ない我聞と國生……その反応を目の当たりにした上で……八雲は否定した。


「ただの人間に仙術使いの能力をもたせる。これこそわたしが研究してきたテーマ!」


 犯罪者を実験台にし、仙術使いの能力を付加した……言うなれば、『人造仙術使い』としたことを恍惚とした口調で高らかに宣言する。


 信じられない、と否定しようとするかなえに八雲が示した『証拠』は彼女の弟……偵察任務中に八雲らによって拉致された番司であった。かなえの思考が驚きによってほんの一瞬停止し、勝ち誇る八雲の声が格納庫に響く中、真っ先に動いたのは我聞……後ろ手に拘束され、ぐったりとした番司を助けようと、番司を掴む二人の『人造仙術使い』に向けて突進する。


 だが、先手を打ったのは『人造仙術使い』だった。


 突進する我聞の両脇から八雲の合図とともに飛び出し、仙術の基本技の一つである貫・螺旋撃を放ってきたのだ。我聞は辛うじて両手を差し上げるものの、意表をつかれたことで対応が遅れていた。ガードの隙間から一撃をもらってしまい、吹き飛ばされる我聞――その姿にサディスティックな研究意欲を掻き立てられたか、八雲は我聞の怒りを煽るかのような笑いとともにモニタリングの開始を宣言する。


 その笑いに煽られた我聞の怒りの声……仙術使いとしては未熟なその感情ではあったが、気を失っていた番司の意識を呼び起こすには充分な効果を表していた。ボコボコに腫れ上がった顔の下から心配する我聞に悪態をつくと、つい数分前に得た、貴重な情報を告げた。


「お前の親父さんがいる!!」


 それまで杳として足取りの掴めなかった我聞の父親……起死回生の逆転を狙った番司を一撃で倒した工具楽我也……凪原とともに潜水艦で立ち去ろうとしている工具楽屋先代社長の存在を――真芝に与するその理由を聞きだせるのは我聞以外にいない、と感じたのであろう、それまでの経緯を話すことなく……ごく簡潔に告げ、番司は我聞に動くように指示を出した。


 その言葉に、我を忘れて駆け出そうとする國生……当然、八雲は真っ先に動き出した國生に照準を合わせていた。


 八雲の指令を受け、國生を間合いに捉える『人造仙術使い』――その動きは速く、熟達の仙術使いであるはずのかなえに対して、氣を水に通すだけの暇すらも与えなかった。右拳に練り上げられた氣が螺旋状に纏わりつき、機械のような精密さで國生を襲った。


――裏拳が、一閃した!!


 我聞の風を切って放たれた一撃に、あえなく吹き飛ばされる『人造仙術使い』……が、誇るでもなく、その危機を救った國生に向け、我聞は言う。「突貫するぞ國生さん! 親父に会うためにも!!」その顔には太い、力強い笑顔が浮かんでいた。





 り、理来さん……影薄いっつーか、きっぱり忘れられてるぞ!と、覚えている人がいるのか良く判らないボケから入りましたが、今回に関してはまぁ大半が予想通り……と行きたいけど、恥ずかしながら間違えてました!!先週、かなえさんが『私と別働隊』って言ってたのって『私とは別働隊』てなニュアンスだと思ってました……でも、これ書いてる最中にもう一回読み返してみたが、句読点ないから間違うと思うぞ、この言い回しは。


 別働隊の仙術使いの皆さんの能力はほぼ想像通り……唯一、奥津のおいちゃんの『ヒートソード』が想像外だったというトコです。とはいえ、如月のおいちゃんを早々と「二番目にやられる」と断定してしまったのはミスでした。かなえさんがいるんなら兎に角、いないんだもんな。辻やん&優ねーさんと合流しない限り、あの四人の仙術使いの皆さんでどーにかしちゃいそうです。


 なんにせよ、幸も薄けりゃ影も薄い理来さん……登場するにはもう『VS第3研編』の最初に言った通りに、暴走仙術使いになるしかなさそうです。理来さんの明日に……乾杯!!


 PS……なにぃ!!コミックス5巻……3月18日発売だとぉ?!嬉しいけど、スパンが短かすぎゃせんか?何はともあれ、次の表紙は中之井さんに期待しとこう。多分、本命は我聞×國生さん&番司だろーが(構図的には違うぞ、それは)。で、裏表紙は『静馬の皆さん』で、中心に少し引き気味のばーちゃんを据えて、右にかなえさんで左に番司……かな?





第52話 新兵器の謎


「当然だ。 そいつは死ぬまで戦いを止めることはない」


 我聞らの最重要ターゲットである八雲は、我也を追うべく全力を出そうとする我聞らこわしや達をモニタリング対象と見るだけの余裕があった。余裕の一環として、我聞の裏拳で吹き飛ばされ、倒れた男に合図を出すかのように指を鳴らす。何事もなかったの様に立ち上がり、我聞に向けて拳を繰り出す男に我聞は驚き、空を切り、鉄製のコンテナを陥没させた拳の様に……絶句した。


 その拳は砕け、腕の骨も飛び出る程の打撃を放ちながら、痛みにも無表情に手近な標的である我聞を攻撃する男。壊れた腕で無造作に攻撃する姿に驚愕した我聞は、その攻撃をガードしたものの、躱すことは出来ずに吹き飛ばされる。


 戸惑いつつも、自らの身体を壊しながら攻撃を続ける相手に攻撃を止めるように諭す我聞……だが、男は右腕から鮮血を撒き散らしながら連打を繰り出し、我聞を圧倒する。防戦一方になりながら、無駄に身体を傷つけながら戦う男を止めるよう八雲に訴える我聞――が、八雲の返した答えは愉悦に満ちた『否』であった。


「究極の兵士――それこそが我が第三研の商品」意識を消し、痛みや感情を廃した人間兵器――それが、我聞らを包囲する男達の正体であった。人を人とも思わないやり口……真芝のやり方に怒りを露わにし、八雲の陣取る管制室目掛けて突進する我聞。間髪入れずに八雲の手駒達は我聞に殺到する……その数は三人。突進を止められ、歯噛みする我聞だが、我聞の壁として立ちはだかる三人を弾き飛ばしたのは、かなえの仙術だった。水糸を螺旋状に回転させ、さながら極小の竜巻をぶつけるかのような静馬仙術“撃・水楼陣”によって、我聞の突撃を可能にするだけの隙を生んだかなえ――その声に答え、我聞はハンマーを壁に投げつける。壁に突き立ち、足場になったハンマーを踏み台にし、十メートル近い高さにある管制室を一気に間合いに捉える我聞。


「人間を商品だと!? それが人のやることか…!?」


「そうだ、よりよい兵器をつくること!我々の興味があるのはそれだけだ!」


 ガラス越しに交わされた、決して交わることのない主張――最早、交渉の必要はなかった。歪んだ考えを「こわす」べく、我聞の爆砕が炸裂した。


 が、強化ガラスは爆砕の威力に耐えていた。かなえの漏らした一瞬の快哉が、失望混じりの驚きに変わる。


「それについては研究済みだ」爆砕に耐えるだけの強度を誇る強化ガラスを開発していたことでそれを証明した八雲の般若に似た顔に、研究成果を披露する悦びに満ちた、サディスティックな笑みが浮かぶ。


 爆煙が晴れた我聞の周囲を、三人の強化兵士達が囲んでいた。中空にあり、躱すことが不可能であることを悟った我聞は精一杯ガードを固めに入るが、男達の右手に勁と化して宿る氣を見、驚きと絶望とが入り混じった顔を見せた。


「なんでこいつらが…工具楽の技を……」自らの最大威力の技――撃・爆砕を三方向から同時に受け、薄れる意識の中で我聞は疑問に捕らわれる。だが、その理由を知ることも、國生の叫びを聞くこともないまま意識を失い、落下した我聞は瀕死の重体で地面に転がる。


 我聞を失ったこわしや潜入部隊……しかも、残る仙術使いはかなえ一人であるという圧倒的な優位を誇るかのような笑いを漏らしながら、八雲はこの『人造仙術使い』を作り出すことに成功した背景に我也の協力があったことを明かす。


 あまりに意外な名前を協力者として挙げた八雲。我也を現役最強のこわしやとして尊敬していたかなえに……父と慕っていた國生に、言葉では言い表せないほどの驚きが、満ちた。





 うーむ、こうして書いてると「驚愕」「驚き」って……驚いてばっかり(笑)。でも、『D−LIVE』が連載100回記念センターカラーになったお陰で『我聞』が最後方……八雲のおっちゃんがこうも早く秘密を明かしたこともあり、一度消えたと思ってた連載終了の影が妙に色濃くなっちゃいました。つか、むしろこっちの方が驚きです。確かにコミックスが優先的に入荷される『コナン』や『犬夜叉』みたいな看板級程ではないにせよ、近所の本屋3軒ではどこも平積みだし、人気がないことはないんだけどなぁ……頼む、終わるな!





第53話 もう悲しませない


「ああ……親父と同じ動きだ…」


 三方向から同時に受けた爆砕に、我聞は瀕死の重傷を負った―― 多大なダメージに薄れゆく意識……だが、その中で見た、脳裏にこびりつく映像が―― 我也が行方不明になったと聞いた『あの日』の妹弟達の顔が、そして、長兄として妹弟達の顔に笑顔を作ることが出来なかった己への無力感が、我聞の薄れゆく意識を、繋ぎ止めていた。


 一方、敵である真芝に協力したという我也の裏切りに驚き、戦慄するかなえと國生。最強の仙術使い、我也の力を有する『人造仙術使い』を実質かなえ一人で突破し、管制室を破壊することはほぼ不可能……それを理解した上でかなえは國生に向けて応援の要請を指示……倒れた我聞の盾となり、救援の到着までの時間稼ぎに絶望的な戦いに身を投じようとする。が、その無謀な決意を……我聞の声が止めた。


「下がるわけには行かない……」我聞の声に安堵する二人……だが、立ち上がったとはいえ満身創痍の我聞は戦力には程遠い――はずだった。


 一撃!!


 ただ一撃だった。「行かないと…」と呟き、立ち塞がる6人の敵が目に入っていないかのように歩を進めた我聞の渾身の一撃が、人造仙術使いの一人を戦闘不能に追い込んだ。


 死を待つばかりと思っていた我聞の見せた力に唖然としたものの、その力が『死にぞこないの最後の悪足掻き』と決め付けた八雲はいらだたしげに残る実験体に処理の指示を送るが、“死にかけのガキ”の動きは5人を相手にしてもなお圧倒的であった。


 動きが読めているかの様――そのかなえの見立ては当たっていた。基礎データとなっている我也に体術と仙術の基礎を七年がかりで叩き込まれた我聞にとって、癖までも我也の動きを完全にトレースしていた人造仙術使い達の動きは、我也の弱々しいコピーに過ぎなかった。我也のものならば察知していても止めることが出来なかった右の一撃を片手で受け止め、続く左拳を体を沈めて躱す……それと同時に腰に溜めた両手を解放――双掌砲として放ち、さらに一人を屠る我聞。爆砕や落下のダメージに身体の内も外もボロボロの傷だらけであっても、我聞を衝き動かす『痛み』は、肉体の痛みを大きく凌駕していた。


 父が帰って来たらすぐわかるように、しばらくの間家の前ばかりで遊んでいた斗馬……人一倍元気なのに、外にも出ようとしなかった珠……我聞の前では決して弱音を吐かず、無理して気丈に笑っていた果歩――兄として三人の妹弟を護らなければならないはずなのに、何も出来なかった……その悔いが、無力感が、無念さが、血だらけの我聞に立ち上がり、戦う力を与えていた。


 躱しきれず、螺旋撃の一撃を受け、血を吐くほどのダメージにもなお身じろぎせずに!「オレは…」我聞の身を案じる國生に身を固くさせながら!「もうこれ以上…」怒りと悔しさ――そして、悲しみの織り交ざった顔で、我聞は渾身の一撃を繰り出す!!「あいつらにあんな顔させたくないんだ……!」


 時間にして二分足らず……そのごく短い時間で6人の人造仙術使いを殲滅した我聞は、苦しい息の下で瞼の裏に映る三人の姉弟達に向けて呟く。「待ってろ… 必ず親父連れて帰るからな…!」不利を瞬時に覆した我聞の圧倒的な力……三人の“こわしや”達はその源が強い“想い”の力であることを知ってはいたものの、これほどまでの強い想いだったのか、と半ば呆然としながら、佇む我聞を見守る。


 一方、有利を覆された八雲は管制室を離れ、我聞らの前に立つ。満身創痍の状態でありながら自慢の商品を……そこに乗せた自らのプライドすらも完膚なきまでに破壊したこわしや、工具楽我聞に怒りを露わにする八雲は取り押さえられた番司を前に頬の削げ落ちた皮膚の薄い顔を笑みの形に歪める。


「よかろう!だったら中身を仙術使いにするまでだ!」


 その手には、甲高い音を発する――太極図を模したペンダントが握られていた。





 弾・双掌砲、再登場!!……つか――すいません、二度と出ないと思ってました。まさかあんなかっちょいい再登場があるとは思わなかったです。初登場の時には判んなかったけど、「形意拳か意拳かな、アレのバックボーンにあるのは?」と、拳法マニアのバカチンの知識欲を満たしてくれました、感謝!!


 でも、再登場といえば……結局再登場はないのか、理来さん!?どこをどー見ても、番司使う気マンマンだもんなぁ。実は理来さんはこわしやだけど仙術使いじゃなかった、とか言ったら笑うぞ、へらっと。


 でも、今回の話で気になるのはなんと言ってもかなえさんの「この際、辻原さんでも」発言です。この発言のお陰で、7年前の暴走仙術使いがやっぱり辻やんであるという率はかなり高くなりました?『真芝と戦って跡形もなく消滅した』かなえさんと番司の両親もまた、我聞達兄弟が母親を失うことになったものと同じ事件で不帰の人となったと考えれば、かなえさんの辻やんに対しての過剰といってもいい態度も判らなくはありません。それにしても、辻やんの『まだ一回目ですし』発言が、暴走を最低二度以上経験したことのある人間の、そのことで深い傷を負った経験から来る発言だと考えると……うーむ、業の深い話だ。





第54話 やめてくれ!!


「“タリズマン”の最大の特徴は精神支配! 安心しろ!すぐに意識もなくなる」


 機械仕掛けの太極図……開発コードGCP03-058、兵士強化用ペンダント“タリズマン”――『護符』の名を持つ、悪魔の作り出した装身具が……番司の首にかけられた。


 精神を支配される代償にただの人間にも最強の仙術使い・工具楽我也の能力を付加することが出来る、“タリズマン”に氣を奪われるものの、氣の総量の違いであろうか、それとも鍛えられた精神力のお陰であろうか、意識を保っていた番司……彼らにとって、これが悲劇の幕開けとなった。


 その意思と反対に、八雲の命令に従い、我聞達三人を排除するべく動き出す番司の身体……番司の意思に従い、力づくで止めようとする我聞だが、番司の反射速度は、仙術使いとしての修行を積んでいない人間を素体とした――例えるならば『粗製濫造型我也』とでもいおうか――我聞によって叩きのめされた6人の倍に達していた。我聞のストレートを躱し、カウンターに大振りの一打を打ち込まされる。


 『実験体』の成果に狂喜する八雲と、操られながらも八雲に怒りの視線を射掛ける番司……その隙を逃さないかなえではなかった。右腕に幾重もの水糸を纏わせ、『ペンダント』を破壊するべく弟を間合いに捕らえる。


 本来なら中長距離で戦うかなえだが、最前線で戦い続けた上、三発もの爆砕を受けていた我聞のダメージは既に限界……しくじることは許されないかなえは千載一遇の機会を確実にものにすべく、接近して番司の首にかかるタリズマンを破壊に掛かる。


 その水糸が――砕かれた。


 番司の拳に込められた氣が、水糸に宿るかなえの練り上げた氣の密度を上回っていた。番司目掛けて飛び込むかなえの目に、砕かれた水糸が水滴となり、飛び散る様がコマ落としになって映る。


 幾万、幾億の水滴を伴い、番司の拳が伸びきってしまう。そこには、姉の無防備な身体があった。


 爆炎が……かなえを襲う。


 番司の放った爆砕に上空高く吹き飛ばされ、意識を失うかなえ……重力は等しく働き、番司に向けて落下を開始するかなえに――持ち主の意思を無視した左拳が突き刺さった。


コンテナにめり込み、磔にされたかなえの鳩尾に、五発、六発と連撃が叩き込まれる。


 かなえの血に身を染める行為に……止めようとする意思に反して止まらない己の拳に涙を浮かべつつ、番司は悲痛な絶叫を上げる。


 正気を残しながらも連打の一撃一撃によって姉の命を削り取ろうとする番司。通常の精神を持つ人間ならば正視出来ないであろう光景を目にした八雲の狂喜の哄笑が番司の絶叫を掻き消すかのように響く。


 人の命を笑い、死を振りまく行為に喜びすらも覚える八雲に――我聞の怒りが、弾けた


 全身は朱に染まり、限界は既に大きく越えていた。だが、全身の痛みもこれまでに受けた傷も、我聞を止めることは出来なかった。強い怒りが我聞の周囲の力を強引に掻き集める。力は氣となり……激流となって我聞に流れ込んだ!


 大地が震えた。突然の振動に地下施設に皹が入る。氣を伴って地面を皹割れさせたそれは……仙術の基本技の一つ、砕・追功穿。ただ、その出力の桁が大きく違いすぎていた。管制室に続くエレベーターを貫く巨大な穴を穿ち、離れた位置にいる番司の首に下げられた“タリズマン”を氣の奔流で破壊する程の膨大な威力の追功穿――以前辻原に、そして、かなえによって聞かされていた國生はその破壊力の正体に思い至る。


これはまさか――暴走!!』


 八雲の狂気じみた喜悦の笑みに歪んだ顔が、恐怖と絶望に塗り潰されてさらに歪む。


「お前だけは ブッ壊す……!!」


 我聞の精神のタガは、外れていた。


 知らずに逆鱗に触れていた八雲に、最大の悲劇が訪れようとしていた。





 ホントに忘れ去られてるよ、理来さん!!ということで、やっぱり番司が暴走させられました。暴走というよりはむしろ『廉価版我也』とでもいうべきですが……つか、暴走したのは我聞ですが


 忘れ去られてるといえば、今回は忘れられてた追功穿が登場です。前回は双掌砲が日の目を見たし……実はこの『VS第三研編』って、忘れられた技や設定の総蔵ざらえなのでは?つーことは、次回は國生さんのスペルキャンセラー能力(勝手命名)か崩・一点破の登場かも。


 にしても、次はどうなるんだ?暴走我聞VS『廉価版我也』の番司になるのかも、と思ってたら、タリズマン壊れてるし……。こうなったら、町娘が大魔神の怒りを鎮めるかのよーに、嫁が止めるしか!!何しろ、お代官に手篭めにされかけた町娘だしね(違っ)。


 とはいえ、どーも今回の我聞、自分の意志で暴走モードに突入してる上、前回の暴走に比べて正気を保ってるよーな気がするぞ。もしかすると、『暴走状態すらも自由自在にコントロール』するというのが我聞の最終形態なのではなかろーか?もしくは、これが『暴走・ツーストライク』の状態なのかも……何はともあれ、目を離すのはNGなようです。





第55話 誰か止めろ!


「膨らみすぎた風船は… はじけとぶ…」


 大地を揺るがす一撃は、地下施設に致命的なダメージを与えていた。全ての壁に皹割れの筋が縦横に入り、館内に退避勧告のアナウンスが響く。


ガ……ガッデェエエエイムァアリャアアア!!」それを掻き消すかのような叫びが、地下施設の一室から響いた。


 厳重なプロテクトを突破し、施設内に残されたデータのコピーを終えようとしていた矢先に地震に等しい振動によってそのデータをクラッシュされた、優の怒りの叫びであった。


 真芝の他研究所に関する情報があるかもしれないデータ回収に費やした、血を吐くような労苦を一瞬で無にされた叫びを「それはともかく」とあっさり切り捨てた辻原は、急いで我聞らと合流するように促す。


 この『地震』の原因が暴走した我聞の繰り出した砕・追功穿であることを、辻原は察していたからだ。


 膨大な外氣の流入によって引き起こされた桁違いの破壊力と周囲を圧迫するかのようなプレッシャーを発する我聞……初めて目にする我聞の『暴走』に圧倒される國生は、我聞によってタリズマンをすれ違いざまに破壊されたことで身体のコントロールを取り戻した番司とともにかなえの下に駆け寄るが、かなえは受けたダメージを省みることなく以前我聞の暴走を止めた辻原に連絡を取るように國生に促す。暴走状態にある我聞に、ある危機が迫っていることを……知っていたからだ。


 破壊の衝動に駆られ、腰を抜かした八雲に向けて爆砕を放とうとする我聞。「人殺しになることはない」と間に割って入る番司を巻き込み、ためらいなく放たれた爆砕は隔壁数枚を吹き飛ばして地下ドックに続く道を作り上げた。


 爆炎とともにその身で鉄の扉を吹き飛ばした番司と八雲……辛うじて番司の水球によるガードがあったからか、その一撃のみで命を落とすことはなかったが、八雲にはそれが僥倖とはならなかった。


 打撲や擦過傷の痛みにやや恐慌をきたした八雲の左足に向け、我聞の右足が無造作に振り下ろされる。


 枯れ枝を踏み折るような容易さで、八雲の左膝の下に、もう一つ関節が作られる。


 麻酔もメスも使用しない……破壊のみを目的とした外科手術によって、混乱した八雲の意識は『痛み』というたった一つの意識に統合されるが、我聞の作り出した痛みによって生まれた八雲の悲鳴も、我聞を人殺しにすまいとする番司の訴えも我聞には届かない。


「ブッ壊す…」


 ただそれだけを呟き、我聞はその右手に氣を集める。


 たん――。


 ……軽い破裂音。そして、振り下ろされようとしていた我聞の右の二の腕に9mmの穴が穿たれた。


 数瞬……奇妙な沈黙が舞い降りる。


 我聞や番司、八雲……そして、傷ついたかなえに肩を貸して現れた國生の立つ位置よりさらに十数m下の層にある潜水艦の接岸していたドックに立つ凪原の銃……その銃口から放たれた一発の凶弾だった。


 手にした拳銃から白煙をたなびかせつつ、八雲を解放するよう我聞に要求する凪原の言葉は届いているか……いや、痛みすらも感じているかどうか定かではないが、我聞はうつろな瞳に僅かに光を宿しながら不思議そうに動きを止める。その姿に、國生は我聞が正気を取り戻したか、と安堵するが、その光景を見たかなえの導き出した答えは無情な否定だった。


 あまりにも大きな傷を負った状態で暴走状態に入った我聞は、膨らみ続ける風船のようなもの―― かなえの言葉の通り、傷を癒そうと周囲から自らの許容量を超える氣を無理矢理収束し続けるあまり、膨れ上がった氣は我聞の身体をも蝕んでいく……その中で受けた銃撃の傷は、それを癒すために更に膨大な氣を我聞に掻き集めさせる。


 許容量を大幅に超えた氣によって我聞の腕の血管が破裂し、血がしぶく。それはさながら、膨らみすぎた風船が限界を迎える様に似ていた。


「膨らみすぎた風船は… はじけ飛ぶ…!!」その絶望を宣告するに等しいかなえの言葉に、國生の視界は暗転した。


 このフロアごと消し飛びかねないほどの氣を集積し、半ば竜巻の如き氣の奔流のただ中に立つ我聞……番司やかなえがどうにも出来ない絶望に囚われ、歯噛みしたその時……國生が走った!!


 暴走する我聞に対する危険を考慮し、退くように叫ぶかなえ……だが、その声は届かない。


 果歩と交わした指切りの約束が……家族を悲しませないという誓いを胸に抱き、ボロボロになりつつも戦い続けた我聞の姿が……國生を衝き動かしていた。その約束を果たすため―― 自分もかつて味わった『家族を失う』という悲しみを果歩らに二度と味あわせないため……そして、我聞を死地から救うべく、危険を省みずに――「目を覚ましてください。社長!!」國生は渦巻く氣の中心点に立つ我聞の頬を張り飛ばした!


 あまりに小さい一撃……銃撃には及ぶはずもないそのちっぽけな衝撃によって、充満していた氣が嘘のように霧散する。


 國生が見つめる我聞の瞳に……光が戻った。限界を大幅に越える氣によって、引き裂かれかけた身体に生まれた無数の傷に驚きつつも、我聞は國生に能天気に挨拶をする。


 我聞を暴走から立ち戻らせたもの……それは國生の故の技なのか?と疑問を抱いたかなえだが、無我夢中で我聞の暴走を止めたことで安心したのだろう……気が抜けて、すとん、とその場にへたり込む國生に対して、的外れな心配をしつつ駆け寄る馬鹿二人の姿に、かなえの疑問は呆れによって塗り潰される。


 危機を脱し、張り詰めた空気が弛緩した。その一瞬に、番司らは同じく呆けていた八雲を確保することを思い出すが、凪原はその隙を見計らって我也を伴っての退却を目論む。


 その瞬間、凪原を巨大な十字を象った何かが風を切って襲い掛かった。


 僅かな差で標的を外したそれ……熊殺しの異名を持つ特殊ゴム弾は、鉄骨で出来た手摺りをひしゃげさせると同時に、凪原に対してこわしやの増援が到着したことを声高に告げていた。


 舌打ちしながらその方向を向き直る凪原……我聞らと同じフロアのそこには、「真打ち登場、辻・森タッグ!!」我聞らとは別のルートでこの場所に辿り付いた優と「遅くなってすいません。 それじゃー最後のツメといきましょーか」辻原が立っていた。





 ホントに嫁が止めたっ!!というわけで、予想が当たって小躍りしてます(笑)。


 でも、小躍りしてるばかりじゃいけません。暴走の危険性、という奴のもう一つの側面がかなえさんの口から明かされたことで、ものの見事に暴走に関しての考察は外れてるわけだし(笑)。


 それに何より、結局理来さんいないし(まだ言うか)!!


 でも、今回に関してはこれ以上言うことはありません。凄く熱い展開でした!!





第56話 親父の居場所は?




「あそこに…親父が…!」





 辻原と優が我聞らと合流を果たした!


 ボロボロの我聞らにも活気が宿るが、こわしや達の活性化は凪原にとってはすなわち自らの危険に直結する。そのため、既に出港を待つ潜水艦に乗り込む我也を伴って一刻も早い退却を試みる凪原であったが、我也に通じるチャンスを易々と逃がす辻原ではなかった。


 優の放った特殊バズーカ弾……アンカー弾によって2層分の高低差を繋ぎ合わせた一本のワイヤーを利用して一気に凪原の懐へとショートカットする辻原―― 目標を外した弾丸をあざ笑った凪原の表情が、驚愕に引き締まった。


 ワイヤー上を滑り降りた辻原が凪原に回し蹴りを放つ。


 僅かな差で躱しきった凪原は、着地し、態勢を崩している辻原に対して二度拳銃の銃爪を引くが、凪原が向き直るという僅かな時間だけで既に辻原の態勢は万全になっていた。弾丸の軌道を見切っていたのであろう辻原は瞬時に間合いを侵略すると、我也への道を阻む凪原に対して、「強引に通るまで!!」静かに言い放ちながら、辻原は必倒の打突を放つ。


 だが、我聞や番司が賞賛し、快哉を上げた辻原の打拳は凪原の左手によって止められていた。その打拳から忌々しくも懐かしい名を思い出し、この打突…メガネなどかけているから気付かなかったぜ…辻…!凪原はサングラスの隙間から歪んだ喜悦の笑みを浮かべる。


 凪原の潰れた左眼に「その目…凪か…!」過去を思い出す辻原―― 思わぬところで出会った因縁を含む相手に出会ったその微かな動揺は、凪原に隠し武器を袖から引き出し、辻原と間合いを取らせることを可能にしていた。


 分の悪さを感じ取り、諦めを口にする凪原―― それを投降の意思ととり、その弱気な決断をなじる八雲であったが、凪原の決断し、諦めたことは投降ではなく……八雲の救出であった。


 死を宣告するに等しい非情さで告げると同時に、潜水艦に飛び込む凪原……それと同時に破壊的な振動が空気を振るわせ、頭蓋を直接揺るがす。


 第4研開発の“新理論”搭載型強襲用潜水艦“音断”の音響兵器の発する、暴力的かつ不可避の超高音であった。


 見捨てられ、崩壊が始まる施設内に置き去りにされたことを怨み、怒りの叫びを発する八雲―― だが、既に艦内にあり、届かないはずでありながらも、その声は凪原にとってはあまりに聞きなれたものだったのだろう……「どうせ処分は同じ 使えない者は切り捨てる―― それが真芝のやり方だからな」一人うそぶく形で八雲の怨みの言葉に平然と返す。


 その返答が聞こえたはずはない。だが、凪原の『返答』を合図にしたかのように崩落してきた1トンを軽く越す天井は八雲の意識を絶望の奈落に叩き落すには充分なものであった。


 救出する者は既にその場にいない。生命の危険を感知した脳がエンドルフィンを大量に放出して死の土壇場から逃れるように促すが、逃げようにもその足は我聞によって踏み砕かれている。また、気絶して精神を停止させようにも、我聞に踏み砕かれた足の痛みが意識が途絶えることを許さずに繋ぎ止める。


 本来ならば死から逃れるべく増加した視覚情報によって、スローモーションの如くに映る光景は、逃れる術を持たない八雲にとっては、死の恐怖を増幅する効果しかもたらさなかった―― 。


 八雲の狂気じみた叫びが途絶えるとほぼ同時に、“音断”から発せられた狂音が止まる。潜航の準備が整ったのだ。


 真芝側は最早施設を放棄して、離脱を急いでおり、最早こわしや達の動きを阻害するものはない―― だが、潜水艦を補足するのに最も向いている仙術を使えるかなえのダメージは甚大で、水糸を練ることは出来ず……優の携行している装備にも適切なものはない。


「我也社長!!」届きそうで届かなかったその背中を……遠ざかる『父』の姿を引き止めることを望むかのように、声を限りに叫ぶ國生―― だが、無情にも潜水艦は水中の回廊へと沈み行く。


 その叫びを背に、我聞が身を躍らせた!


 パラシュート降下の際に見せた、高さに対する恐怖は微塵も感じさせない。ただ、長兄として、自分の……そして、父の帰りを待ちわびる妹弟達の笑顔を取り戻すため、「と…ど…けェェエエ!!」我聞は渾身の爆砕を放った!!


 だが、爆砕は高い水柱を上げるだけだった。水に阻まれ、無傷のまま悠々と去り行く潜水艦の姿を我也の姿と重ねたのだろう……「くっそオオオオオオオオ!!! なんで…なんで届かねェんだ…!!!」我聞は叫びを上げる。


 掴まなければならない我也の背中が、掌中からすり抜けたことに悔しさを滲ませる我聞……その想いを痛いほど感じ、かけるべき言葉に詰まる辻原……そして、國生。だが、「まだよ!!」憔悴する我聞を叱咤し、顔を上げさせる声が響いた。「まだ届くわ!!アンタは仮にもこわしやでしょ?!だったら最後まで!きっちり壊しなさい!!」


 こわしや会長、静馬かなえの声が、力不足を嘆き、沈んでいた我聞の心を再び引き上げる。


 だが、機会は一度きり―― 今この時も離れゆく潜水艦を追うべく水路に身を置くは、我聞と番司!


「工具楽と静馬の合体仙術!見事決めて見せなさい!」


「おう!!!」





 展開が果てしなく熱い。実は、当初の読みでは凪やんの目は我也に潰されたんだろうと思ってたんだけど、今回で辻やんが潰したというのが判明……営業としての能力が疑問視されている営業職同士、辻&凪の因縁が浮上してきました。バラ撒かれた設定の数々と、恐らくは次の標的になるであろう第4研の潜水艦“音断”の登場、そして、コミックスにするとあと2話で一冊終了というところから逆算すると(ヤな奴)、打ち切られるという局面は完全に避けられたようで一安心―― やっぱり理来さんが出て来てないし(しつこい)。


 ですが、それ以上に注目すべきは今回明確な死人がでた件でしょう。まぁ、生きてる頃から死んでておかしくないぐらい血色薄い上に、やってることも外道な奴はありましたが……この『殺し屋じゃない、こわしや』を描いた漫画で明確に死んでしまった八雲四郎というキャラクターはある意味貴重です。惜しむらくは、その死を認識したこわしやが誰もいない、というところでしょうか。この死をトラウマに―― というシチュエーションもありえただけに、作品世界の広がりという点ではちょっと惜しいなぁ、と思ってしまう次第です。





第57話 合仙術




「残りの氣、全部かけるっ……!!」


 凪原、そして、我也を乗せた真芝の強襲潜水艦“音断”……艦影は刻一刻と遠ざかり、その退却を妨げることはいかなる者にも……水路に身を置いた我聞と番司の二人の仙術使いであっても不可能―― 退却が八部以上巧くいき、安堵する凪原はもちろん、地下ドックで心配そうに二人を待つ優もまたそう思っていた。だが、未熟とはいえ我聞も番司も仙術使いであり、工具楽と静馬、両者の術の特性を組み合わせ、複合させた合仙術……その構成による無限の可能性にかなえは賭けていた。


 あざ笑う凪原に抗するかのように右手に氣を集中させ、振りかぶる我聞―― 残った氣を全て叩き込む、覚悟のこもったそのモーション……そして、番司の制御する気泡……氣で練り上げられた水の渦から伸び、潜水艦のスクリュー部分に取り付いた一本の空気の道に、仙術使いである我也は兎に角として、凪原すらもただならぬ雰囲気を感じ取ったものの、凪原にはその二人の意図は掴むことは出来なかった。


 凪原に意図を悟らせぬまま、第一段階は終わった。


「いくぞ番司!!」我聞は掛け声とともに「おお!!」番司が練り上げる気泡に向けて爆砕を放つ。


 両者の実力はほぼ互角。いかに我聞の技の中でも最大威力を誇る理の技……撃・爆砕であっても番司の全霊を持って固められ、押さえ込まれている気泡は易々とは壊せない。


 全方向に向かうべき爆砕は開放点を求めて荒れ狂い、たった一つの出口を見出して、スクリューへと繋がった空気の道へと収束され、うねりとなって駆け抜けた!


 工具楽・静馬 合仙術 水龍爆吼!!!


 爆砕の威力を一点に収束された合仙術のその威力は、高い水圧に耐えられる潜水艦の中でも最も耐久性に優れたスクリューをも軽く破壊出来るだけの力を有する、と試算され、つい先ほどまで余裕ぶっていた凪原の表情が瞬時に驚愕に塗り潰される。


 だが、爆炎の塊がスクリューに到達する間際……我也が一瞥した


 それに呼応するかのように、音断の新理論……八極図を模した基盤が勝手に起動する。


 乗組員が驚きを見せる中、凪原が我也の眼光を察したその時、機械的な音声が音断に搭載された振動システムの緊急モード……全方向に向かう衝撃を後方に収束して行われる対雷撃防御・衝撃波の発動を告げた。


 残り数メートルにまで差し掛かっていた爆発のうねりが、音によって吹き散らされた。


 爆砕と衝撃波とがぶつかり合い、鉄砲水が起こる。


 容赦ない流れは歯噛みする番司と氣を使い果たして意識を失った我聞とを押し流し、水路を崩壊させた。


 ドックの壁を砕いた波の間に二人の影が見える。だが、安堵も心配もする暇はなかった。散々打撃を受けつづけ、崩壊寸前だった施設に致命傷を与えるには、音断の発した衝撃波はあまりにも大きすぎるものだったのだ。


「今の衝撃、かなりヤバめだよ! これは早く逃げないと―― !」優がそう口走った矢先に巻き起こった崩落……突然の危機に優が頭を抱え、辻原が「あーこりゃまずい」とのほほんと構えたその時……島が崩れた。


 半壊した島から離れる潜水艦の中、新理論との関係をいぶかしむ凪原の視線を受けながら、「悪いな我聞… もう少し留守を頼むわ」我也はほくそ笑む。その笑みには、未熟ながらも確実な成長を果たした息子への思いが混じっているのだろうか―― しかし、潜水艦の中にある我也からそれを確かめる術は、誰一人として持つことは出来なかった。


 施設の崩落に伴い、生み出された瓦礫の山に、小さな双葉が芽吹く。


 双葉は早回しよりもなお早い速度で成長をはじめ、瞬く間に一本の……ドーム状の巨大な根の空間を持つ樹へと成長を遂げた。


 根の間から地下に潜入していたこわしや達が顔を出す……西音寺進の使う、西音寺仙術“防・樹障壁”による、樹の脱出ポッドだった。


 その傍らに、遅れて、もう一本の大樹が出現する。器用に、そして奇妙に、逃げ遅れた真芝の研究員達を絡めとることで人面樹の様相を呈したその大樹――彼らがあくまで『こわしや』であり、人の心を捨て去った『殺し屋』でないことを証明するかのような超自然のオブジェの出現を持って、真芝第三研壊滅作戦は成功を収めた。


 だが、問題も深く刻まれていた。


「てめェの息子が追っかけてきてんだぞ…!姿見せるくれェあってもだろうが…! それを…!」


 力尽き、気を失っている我聞に肩を貸したまま、その問題の中心である工具楽我也に向けた憤りから、番司は吼える。それが、幼くして両親を失ったが故の想いによるものかどうか……確かめることは出来ない。だが、同じく両親を失ない、もう一人の父でもある我也の背中にかかりそうだった手もすんでのところで届くことのなかった國生の心はその言葉に―― そして、測りかねる我也の真意によって沈む。


「そうか…届かなかったのか……」その番司の叫びが届いたのだろう……目覚めた我聞は朦朧とした意識のまま、我也を乗せた潜水艦のあとを追うかのように一歩……また一歩と歩を進め――「行っちまったんだな…… 親父…」名残惜しそうに呟く。


 それが限界だったのだろう。何よりも先に、妹弟達に誓った誓いを果たすことが出来なかった己の未熟を恥じ、倒れ臥す我聞。


 心配し、駆け寄るこわしや達だが、それからやや離れた位置で辻原は一人思う。『我也社長…何を考えているんです…』その瞳に、いつもの光はない。


「次に会ったら、真意を聞かせてもらいますよ。 是が非でも、ね」


 朝日を浴びながら呟く辻原……その言葉には、流血をも辞さない強い覚悟が宿っていた。





 えっと……何はともあれ、助けようよ、辻!!本当に働かない野郎です(笑)。


 茶化すところはそれ以外にないですな……展開は熱いし、打ち切りも回避されたようだし―― あ……マジに理来さん忘れてた(ガーン!)!!今まで理来さんを忘れないようにフィーチャーしてきたというのに……ここに来て忘れてるというのはちょっと恥ずかしいなぁ(笑)。


 しかし、真芝の研究員として回収されてる、とかだったら理来さん大マジに立場なしです(笑)。





第58話 衝撃の病棟


「一体何者なんです、あなたは?」




〜ぴんぽんぱんぽ――ん♪(音程上がる)〜


大変申し訳ありません。


突然ではありますが、諸般の事情に伴い、今回より日報の様式を変更いたします。


ホントは8巻掲載分の第69話『辻原の行方』まで書いてたのに、先代PCがぶっ壊れた際に文書データも一緒にすっ飛んでしまったのです。


FDで保存してた5巻分まではプラスアルファを交えて復旧させたのですが、


6巻の文章をダラダラ書いているうちに、ついに藤木先生の再始動も開始!


 これ以上作業に時間がかかっては藤木先生の読みきりどころか、新連載まで始まりかねませんので、


断腸の思いではあるのですが、今回より感想を中心に据え、あらすじ部分は抜き出し、という形でアップさせていただきます。


〜ぴんぽんぱんぽ――ん♪(音程下がる)〜




 というわけで、58話の感想ですが……果歩が……珠が……斗馬が……我聞を心配して都立第一病院へと駆けつけた工具楽姉弟が見たものは―― 我聞を差し置いて盛り上がる仙術使いどもであった……って、病室で宴会かよ、お前ら(笑)!!いくら内調の手配で特別室を用意して貰ってるとはいっても、正直迷惑だろ!


 病院関係者の般若顔が目に浮かぶようです(笑)。


 酒を見て目を輝かせている(糸目なのに)斗馬の姿もアレですが……それ以上に闘志を漲らせ、「あの人たちつおい?」と國生さんに尋ねている珠ちゃんも素敵です(笑)。流石に強さこそが全ての価値基準に立つ娘さん……かなり女性として、というか、むしろ人として問題ありの反応です(笑)。


 でも、人として問題ありな次妹の反応もなんのその、元気にメシ食ってやがる我らが主人公、我聞―― 果歩りんが心配していた『昏睡状態』もただ単に氣を使い果たし、ガス欠状態になったことで起きた、未熟な仙術使い特有の現象であることを明かされ、果歩りんも一安心。『ゆびきりの約束』もあったでしょう、と微笑む國生さんに頷く果歩りん……ですが、『工具楽家の嫁』に色目を使ったパンツマンを補足したため、果歩りんは瞬時に鬼と化し、ディバックを投げつけます。


 嫁を守るための、ごく当然の反応です


 しかし、収まらないのは『あの笑顔がオレに』などと、叶わぬ願いを夢見つつ國生さんを鑑賞していたというのに邪魔されてしまった番司。怒りに任せて果歩りんとの犬も食わない夫婦喧嘩を開始します。


 夫婦喧嘩なんぞ見ていておもしろくないのか、止めに入る我聞ですが、色恋沙汰がおもしろくて仕方ない黒メガネさんは、おニャン子メドレーを『およしになってねTEACHER』で中断してまでも痴話喧嘩の見物に回ります。


 しかし、その『黒メガネ』さんとの面識を持っていなかった我聞は迷わずズバッと「あんた誰?」―― 遠慮も容赦もありゃしません。


 もちろん、黒メガネさんはこの日報でも散々ネタに……いやいや、心配してきた帖佐理来さん……第三研編の最初でとっ捕まって、結局それ以降出番がなかった光の仙術使いがやっと登場です(笑)。


 番司による理来さんの紹介が「ま、あんな人だ」と、なにやら見切ってやがるのが気になるんですが、それはそれ……光の仙術使いらしい持ち前の明るさで場を一気に盛り上げてくれますが、テンション上がりすぎて、國生さんをはべらす我聞に対して『手ェ出したのか』発言や『オヤジのケツばっかじゃなくて、女のケツも追っかけろ』などと、一歩間違えば『我聞って、実はそっちの道に走っていたのか』と誤解されそうな発言をかましてしまいます。


 GHKの存在意義を根幹から揺るがす事実を理来さんによって暴露され(そのボケはもういい)、驚く果歩りん―― いや、本当は第三研のこわしでの我也とのニアミスを明かされ、驚いたのですが……『アイスドール』時代ならいざ知らず、人間性を取り戻した現在の國生さんがちゃんと話せるかどうか判らない辛い事実を、我聞は家長として妹弟にきちんと説明する、という英断を下します。その辺はやはり主人公……いや、工具楽家の長男です。





 「家族の話に立ち入るべきではない」と、席を外した他の仙術使いと一緒に我聞の部屋を離れた國生を、真芝の人工仙術使いが首にかけていた『太極図を模したペンダント』こと“タリズマン”の解析を優に依頼する段取りのために、かなえが呼び止める……その大方の正体について辻原が口を挟んだ。


 科学で仙術を再現するため、第二研が研究していた<新理論>に基づく仙術兵器……未完成だったそれを、我也を研究することによって完成させたのだろう、という辻原の手にある缶コーヒーが缶の中で波打ち、一本の水糸となってかなえの周囲を舞い、辻原の首に巻きついていた。


 我聞の暴走、我也の裏切り疑惑に加えて、工具楽屋が抱えているもう一つの疑問―― 真芝のエージェントとも接点を持つ素振りを見せ、このように<新理論>についても詳しいという顔を持つ、あまりに謎の多い辻原の正体を、こわしや会長として問いただすかなえ。


 殺気すらも漂わせるかなえの問いに、辻原は笑顔で応じる。「ただちょいと前に―― 真芝の実験部隊―― そこにいたってだけの話ですから」その上で、今は紛れもない工具楽屋の営業部長であることを述べ、自分を信じる必要はなくとも、我聞については信用して欲しい、と言う。


 自分の過去に話が向かったことをいい機会であるとみなし……辻原はその過去を語りだした。





 ついに次回で辻やんの過去が明らかになる、というところで引きとなりましたが、むしろ気になるのは優ねーさんの表情です。49話の『真芝かぁ』という描写といい、優ねーさんと真芝の間にも何らかの関係があると思うんですが……描かれる日は来るのでしょうか?そちらも気になります。







おまけ4コマ:『病院にて』


いいなぁ、理来さん……凄くおいしいキャラだ(笑)。


辻やん×かなちんは規定路線だろうが、我聞に落書きした仲として、理来さん×優ねーさんというのも面白そうだ(笑)。


あと、果歩りん……そこまで(もらい泣き)




裏表紙:『国内トップクラスの仙術使い達、推参!!』








トップへ
トップへ

戻る
戻る