日報バインダー5





表紙:中之井さん、アサルトライフルを手にキメ!

バックにはぶつかり合う我聞と番司、そして出動態勢万全の工具楽屋一同!!


折り返し・表:藤木先生、高校時代の友人達と……プロフィールも公開。


折り返し・裏:小ネタ四コマ『趣味と実益』

國生さんの使ってる体術って、合気道ベースと思ってたんだけど……正体不明の『変な体術』だったのか。


第39話 "こわしや"我聞の問題

「少し……よろしいでしょうか?」



 三日間の合宿を終え、工具楽屋に戻ってきた我聞と國生。

 意外な一面を見せた國生の姿を社員一同に伝えるべく笑顔で事務所に入る我聞と、多少ムキになりながら赤面しつつ否定する國生の視界に飛び込んだのは、脚立に腰掛け、天井に滑車をつけたロープを吊った中之井の姿であった。

 高校生らしい夏休みを楽しんだ二人を笑顔で迎える中之井の顔面に――我聞のドロップキックが炸裂した。我聞は中之井が自殺を図った、と持ち前の直列思考で思い至ったのだ。

 優を始めとしたGHK各員が疲労で一人を残して壊滅状態にあるこの時……報復の鉄拳を我聞の左頬に刻み込み、雨漏りを直していたのだ、ということをようやく理解させることに成功した中之井は、辻原が外回りに出、優も我聞らと時を同じくして有給を使用しているためにほぼ開店休業状態であるため、表向きの業務である解体業も出来ないこの機会に工具楽屋のプレハブ社屋を点検していたのだ、と國生に明かす。

 我聞が修行を開始した時期とほぼ時を同じくして建てられ、築七年になるこのプレハブにもあちこちにガタが生じており、雨漏りも無理はない。愛着の強いこの社屋の修理の手伝いを申し出る我聞だが、我聞一人に任せては不安だ、と直感的に感じたのであろう、自らも屋根に登ろうと腰掛けていた椅子から立ち上がる中之井を、國生が呼び止めた。

 その頃、都内某所にある内閣調査室特別会合所では、警察署襲撃事件により入手した数少ない情報……『十曲才蔵』という名前を手掛かりに真芝の中枢に近づこうと、西に調査を依頼する辻原を呼び止める姿があった……二日前の深夜、江ノ島で我聞と國生と出会い、國生に暴走の危険性を訴えた静馬仙術の現当主・静馬かなえである。

 かつては我也の片腕であり、現在は我聞の介添人という立場にありながら我聞の暴走を許したにもかかわらず、報告すらしなかった辻原の姿勢を非難するかなえに、辻原は「まだ一回目だし、それほどたいしたことじゃない」と受け答える。

 その態度が逆鱗に触れたのであろう、かなえは仙術使いの暴走の危険性を七年前の事件を引き合いに出してさらに強く辻原を責める。

 ―― 瞬間、二人の間に沈黙が降り注いだ。

 辻原がその笑顔の仮面の裏に隠しているのであろう傷に触れたことを察したかなえは一応の謝罪はするが、静馬の現当主として、とある大掛かりな仕事への工具楽家の参加を再考する方針を伝え、立ち去ろうとする……が、笑顔の仮面を被りなおした辻原の混ぜ返しに逆上し、辻原に向けて放ち、そして躱された水弾で国宝級の松をへし折ってしまった。

 請求を静馬家に回すように西に指示して立ち去るかなえの後ろ姿に、自分達はもたついている場合ではないことを一人ごち、辻原は眼鏡を直した。

 その頃の我聞は一人懐かしさに駆られていた。

 工具楽屋の屋根にはプレハブを建てたとき以来登ったことはなかったが、七年前と同じ田園風景が広がるこの屋根の上からの眺めは多少目線の高さに差はあるが、我也について修行を始めた頃を思い出させるものであり、我聞にその年月を振り返らせるには充分なノスタルジィを与えていた。

 程なくして雨漏りの原因となっている錆び付いたネジを発見した我聞が早速修理に取り掛かった頃、國生はかなえによって明かされた真実を――ある仙術使いの暴走に巻き込まれて我聞の母親は亡くなったということを改めて中之井によって知らされる。

 そして、我聞も辻原もその事実を知っていることを聞き、狼狽する國生だが、個人の事情を知りたがるという、以前には見せなかった國生の変化を中之井はむしろ歓迎しながら、我聞らを信じてやってくれ、と訴える。

 我也が行方不明になった時から始めた、暴走も覚悟の上での修行……今我聞が行っている雨漏りの修繕のように、実際の修理で悪い部分を一旦壊して直すこと同様に、実戦を潜り抜けることで不具合を修正していく。

 確かに、壊し方が悪ければ再生は不可能だが、間違えさえしなければ再生は可能……だから、その方法で行くことを決めた二人を信じて任せてみないか……戸惑う國生にそう中之井が諭したその瞬間――屋根が吹き飛んだ!!

 ナット締めされた鉄骨と天井の下地として鉄骨に接着された石膏ボードを張り付けたまま、残った屋根から元屋根の鉄板が地面に向けて転がり落ちる。

 錆び付きすぎてスパナを拒否したネジを、屋根を浮かせて力技で取り外そうとした心算の我聞……事務所内で我聞を信じようと國生に諭した中之井と、その台詞を受け、信じようとした國生の三人の視線がしっかり絡み合うほどの大穴が、天井に開いた。

 疲労から回復し、土産を持って工具楽屋に顔を出した優が中之井の本気のコブラツイストを極められた我聞を見たその時、國生は信じることの難しさを一人悟るのであった



 かなえさんの態度からして、もしかして、暴走した仙術使いって……辻やんなのかな?中之井さんは、ある『仙術使い』と言ったから可能性は低いけど、静馬のばーちゃんの回想シーンでは、我也に付いてたのかも知れんが辻やんは葬儀にいなかったわけだしなぁ……もしそうだとしたら、我聞の器ってマジにデカいと思うぞ。形はどうあれ自分の母親を死なせた相手を信じて師事してるわけだし。

 あと、どちらにせよ気になるのは我聞の暴走を「一回目だし大したことはない」といった辻やんの一言。もしかすると暴走はスリーストライク・アウト制みたいなものなのだろーか?だとすると、辻やんの「一回目ですし」発言もかなえさんの暴走を危惧する発言も矛盾はしないんだが……この辺ばかりは後の展開に任せる以外ないやな。

 でも、今回はそれ以上にネタが豊富!我聞のドロップキックに始まって、ラストで猪木ばりのストロングスタイルを見せつけた中之井さんのコブラも面白かったし、一人残して壊滅したGHKもひとコマながら大笑い。

 なにより、工具楽屋を自らの手で破壊した我聞……社長自らぶっ壊してどーする。俺が前々から言ってた『信じて任せる』という点について中之井さんが言ってくれたおかげで、國生さんが我聞への真の意味での信頼をかけるきっかけになってくれるかな、と思った矢先のアレでは、全て台無しです。いや、そんなこといっても、アレが一番大笑いしましたが。

 でも、さ…… 何で合宿編が二日目の夜&最終日なしで終わるんやー(絶叫)?!

 あのばーさんに『幽霊はいなかった』と言いに行って、どこぞの世紀末救世主にでも「そんなババアがいるか!」と言われ、「あのばーさんが幽霊だったのかぁ?!」と、再び我聞が怖がるオチを期待してたのになぁ。それでなくても、我聞の『ムキになった國生さん』発言があったのに見せてもらえないというのは、マジにヘビの生殺しです。



第40話 番司、来たる

「この感覚…!」「この違和感…!?」

 御川市の中心部に位置する御川駅……ここに一人の男が降り立ち、速攻で途方に暮れていた。手にした『姉が描いた』という地図は限りなくいい加減……せいぜい方角が書いてあるだけマシといった程度――途方に暮れるな、というのが間違いといっても良かった。

 仕方なく、誰かに聞こう、と思い立ったこの男に街のヤンキーが絡む。

 時代遅れもはなはだしい……さながら三昔は前の番長マンガから出てきたのか、とでも言いたくなるような長ランを嘲笑い、コケにしてやろう。突っかかってきたところを三人がかりで小突いて、小遣いをせしめるのもいいか――その魂胆が見え見えの挑発に、男はあえて乗ってやった。

 それほど時間が過ぎてない近くの路地裏……見下ろす人影が一つと、血まみれになってうずくまる三つの人影……真の目的地を聞き出せないまま終わった『質問タイム』に溜め息を一つつき、男は去っていった。『何者だ?』という質問に、「何者でもねェよ。今のところはな」とだけ返し、唯一聞き出すことが出来た『御川高校』へと向けて……。

 一方、合宿を経て國生という新入部員を得た御川高校卓球部の一同は、合宿の時に撮った写真の品評会に入っていた。

 もう夏休みも終わり近く、心地よい気だるさのような感覚に身を任せながらの写真の品評会に、我聞はもちろん國生の顔にも笑顔が宿る。

 そこで我聞が見つけた誰も写らぬ一枚の写真……幽霊の証明のために撮った、深夜の磯の写真であった。

 ついそこで出会ったかなえの名を口に出そうとした我聞の脇腹に、企業秘密を強調する國生からの音速の膝が入る。國生の迫力十分の警告と肋の下辺りに突き刺さった膝の痛みに震えながら、我聞はおそらくはその祖母である静馬さなえのものを上回っているであろうかなえの仙術に思いを馳せた。

 その頃、工具楽屋に帰社した辻原が見たものは、GHKの第二次作戦会議であった。その会議についてはスルーし、来客があったかを訪ねる辻原。その『来客』はハチマキに長ランの高校生……応援団をイメージさせるその像に、怪訝そうに訪ねるGHK二大巨頭に訳あって暫らく預かることになったことを伝え、「もしや社長に会いに行ったのかも――」と辻原は思い至る。

「たいしたことじゃないんですが――最悪、血を見るかもしれません」内容の割に心配があまり感じられない……相変わらずの軽い口調であった。

 部活も終わり仲間達はそれぞれの家路につく。

 我聞もまた直接出社する國生と別れ、現場へと向かっていた。

 その途中の川原の道で、つい持ってきてしまった磯の写真から再びかなえの仙術を思い出す我聞……自分の目標とする父・我也を『現役最強』と評するかなえの仙術にもまだ遠く及ばない自分の力に、父との距離を感じる我聞が――その男とすれ違った。

 違和感を感じた我聞。『その感覚』を察知した長ランの男……二人は振り向きざまに、同時に拳を繰り出した!

 螺旋状の氣を纏う双拳が中間点でぶつかり合う。

 突然の『螺旋撃』に、相手が仙術使いであることを確信しながらも、相手の目的に戸惑う我聞。我聞を認識し、その上で「てめェをブチのめしに来たに決まってんだろ!!」と叫んだ男は距離を取り、右手を伸ばす。

 その手に川の水が集まり、水球を作り出した。

 その水を操る術に驚き、正体をいぶかしむ我聞に構わず、男は最大限に集めた水を練り上げ……「必殺!!撃・大水弾!!」それを放った。

 水弾は言葉通りの必殺の威力を込めて放たれていた。

 地面に一度バウンドし、さらに橋にぶつかりながらも大きさも勢いも殺されないまま襲いかかる水弾を、我聞は宙に跳ね上がっての爆砕で迎撃する。

 水弾を相殺し、四散させた我聞の爆砕に瞠目する男は、自らの正体を掴めないまま対峙する我聞に判らせるかのように言い放った。「静馬仙術二十五代目当主予定!! 静馬番司!!あんたの「こわしや」の称号!!もらい受けに来た!!」

 静馬一族の男…静馬番司からのその言葉に、我聞の心に疑問が満ちた。



 うわー、ものごっつ『どっこい』やー。かなえさんが行ってた通り戦闘スタイルも実力もどっこいなのはええねんけど、この直情型の精神構造……多分頭の中身までどっこいやー……とまぁ、思わずニセ関西人になるくらい我聞とどっこいです、新キャラ番司。

 今後としてはなんだか國生さんに一発で惚れそうな雰囲気なんで、GHKの入隊希望者としては、ウブ極まりない(てか、感覚として持ってないだろ……恋愛感情)國生さんへの当て馬&犯罪的な朴念仁・我聞の國生さんへの意識変化の呼び水程度の活躍は期待大です(ヒドっ!!)。

でも、GHKの皆さん……そんな重要会議を工具楽屋で行うなんて……うかつ過ぎます。てか、ただでさえ國生さんターゲットは疑い始めてるんだ……そのうちバレるぞ、いくらなんでも。

 とは言っても、『騙して○○』シリーズ……どの辺りで気づくかなぁ……見てみたい気もたっぷりです。子供生まれた時点でやっと気付いた、とか言ったら大笑いですがにゃ(笑)。

 それはそーと、写真の中でも中村と友子ちゃんがなんかいい雰囲気。はー、ヨカヨカ。だが、写真といえば……フジイ!?その気ぐるみは一体全体どーよ?相方のモーちゃん置いてどっか彼方に行ってるよ、こいつは。

 あと、以前とりもち弾の値段を『ボリ過ぎ』と言ってしまったが、どうやらそんな高い奴じゃないらしい。焼き増し一枚40円の写真が高いと言ってる我聞の経済力、推して知るべし。だが、給料から家に入れる額をまず第一にさっぴいているに違いない我聞の経済力を想像してみたが、大型スポーツ専門店なら一足\8,000〜のジュニア用シューズを買えずに臨時収入狙ってた我聞の小遣いが一週間消える程度とすると……だったら逆に安すぎっ!

 しかし佐々やん……インハイ行けなかったの我聞に責任転嫁してたが、お前も…部長も補習組だろ?

 あと……なんか無闇にエロっちいぞ、めぐみん(赤面)。止め役の友子ちゃんどころか、あの朴念仁我聞までもが顔を赤らめてるぞ。



第41話 ライバル出現!!

「魔性の女よのう お主も」



 橋の下で名乗りを上げた番司!

 『オレが勝ったら、オレが今日からこわしや!!』の言葉に、我聞は当惑するものの、拳で語る番司にやはり漢らしく拳で答えようとする……直前、二つの拳が捌かれた。

 辻原からの連絡を受け、間一髪で間に合った國生だった。

 突然水を差された…いや、水の中に叩き込まれたことに激怒する番司ではあったが、國生は一歩も引かず、隠密と程遠い“理”の技をぶつけ合ったことで、橋の上に人が集まっていることを指摘し、早急な撤収を番司に求める。

 その姿に、顔を赤らめて番司は頷いたが、その理由に我聞は気付いてはいなかった。

 そして夕闇から宵闇へと移り変わった頃の工具楽屋……改めて、かなえから研修と称して押し付けられた番司を我聞らに紹介する辻原。

 我聞と番司、両者の間を険悪を煮詰めたかのような空気が包む……が、辻原はそういう訳にはいかないと、切り札を『投げ渡し』た。

 切り札……通話中の携帯電話を渡され、いぶかしみつつ応じる番司。そこに、携帯のスピーカーを吹き飛ばすかのような、番司にとって最も恐るべき声が響いた。

「何ばしよっとね こんバカたれはっ!!」

 番司の姉にして、こわしやの会長である静馬かなえだった。地を出して怒り狂うかなえの迫力十分の叫び声は、番司のみならず、我聞や事務所内の空気を震撼させ、かつての上官を思い出した中之井を天に召そうとするだけの、桁違いの破壊力を持っていた。

 一通り爆発した後に落ち着いたかなえに思慮の浅さを説かれ、ようやく納得した番司に、我聞はかなえに頭が上がらなかった自分を重ね合わせ、ともに溜め息をつく。一瞬和んだ空気に番司は再び反骨心を覗かせるが、突然の来客に茶葉の替えを買いに走っていた國生がようやく帰社したことで、番司は突然借りてきた猫の風情を見せる。

 國生の存在に落ち着きを取り戻した番司ではあったが、『秘書』の響きに気付き、涙とともに再び我聞に噛み付く。だが、その國生FCの持つ空気と同一の匂いを持つ番司の敵愾心に、我聞も國生も……一切気付くことはなかった。

 そして翌日、番司は我聞とともに解体現場に立っていた。

 解体業をやりに工具楽屋に研修に来たわけではない、と我聞にこぼす番司ではあったが、最早現場のボスとして君臨していたユンボ乗り・保科の正拳中段突きを喰らい、巻き添えで肘を喰らった我聞ともども無残に這いつくばる。

 保科の圧倒的な力に屈した番司は、我聞に引きずられる形で我聞の『仕事』に付き合うが、仕事といえばガラ運びにパシリ、帰社しての『社長業』もドブさらいやワックスがけといった下っぱ仕事……数々の雑用に番司はキレ、我聞もまた仕事にかけた誇りを汚された、とばかりに怒りを露わにするものの、根が単純な二人は三日で打ち解ける。我聞の苦労を知り、父親の名前だけで『社長』になったのではない、と番司が知ったその時――辻原が、二人に本業開始の刻を告げた。

 日頃の赤字に加え、屋根の修理でさらに増した赤字の挽回に俄然盛り上がる我聞に対し、初めての『本業』のためか、それとも、その背後にあるもう一つの理由のためか、それまでのテンションとは打って変わっての緊張感に満ちた面持ちで頷く番司……その様を視界の端に収めながら、助手席の辻原に運転席の中之井は問う。「彼が来た理由…研修だけではないんじゃろう?」辻原の答えは肯定だった。

 十数名のこわしやを投入する大仕事……近々行われる予定であったその仕事に我聞と番司のどちらを使うかの見極めこそが、この研修の本当の目的であった。

 一度は我聞の参加が決まっていたその『大仕事』だが、こわしやを取りまとめる役にあるかなえに暴走を知られたために決定は覆り、番司の報告次第では我聞のこわしやの称号を取り上げることを示唆して、その『研修』を申し渡されたことを打ち明ける辻原。

 だが、見極め役であるはずの番司はデビュー戦ということもあって気を回した國生がフォローを申し出ると、緊張感を一気に消し飛ばして燃え上がる。ひたすらに黒字に向かって燃える我聞、そして、予想される番司の猛アタックに密かなGHKの危機を感じる優と併せてのその緊張感に欠けた様に、中之井と辻原は顔を見合わせて「とてもそうは見えない」と語り合うのだった。



 ほーらやっぱり一目で惚れた。というわけで、國生さんの撒き散らす燐粉か何かに当てられたのか、番司、國生さん相手にいきなり骨抜きです。

 國生さんと面識ありながら骨抜かれてない我聞と中村はある意味凄いが、『この二人、下手すりゃ二人手に手を取ってレッツゴー永遠の愛の世界か?』と思うと、笑えます(なにっ?!)。でも、ふと思ったが、我聞と國生さん……いざ付き合うとなるとどっちの方がメロメロになるんだろーか?國生さんが我聞に甘えてじゃれ付く姿……想像出来ないんですけど。やっぱり我聞がべったり?うーん…そんな我聞、見たくはないなぁ。

 でも、やっぱり九州人です、藤木先生。我聞の言ってた「福岡の下のほう」……福岡県の南部・筑後地方のことをこう言うこと自体、実は方言なんですよ。ほんのこつゆーたら、こげん風にまちっとくだけとるんバッテンがね。

……ごめん、地が出た!

とはいえ、大牟田に山奥かつ水にゆかりのあるところってないんですが。たしかに山はあるけど、『いきなり山から海!』といった感じなので、ああいったイメージの場所ってないんですよね。大牟田の川って見事なまでにドブ川ばっかりだし。うーん……もしかして星野村か矢部村(またローカルなネタかますなぁ、俺も)? 確かに山奥で水は凄く綺麗だけど、八女弁ってもう少し聞き取れないところがあるんだけどなぁ。『あーもぉとぜんなかぁ!』……これって、『あー、もうどうしようもないじゃないか』って意味なんですが……判りますか?

 まぁ、それはいいとして、以前言ってた静馬のばーちゃんが真相を知らなかった理由にもう一つ可能性が出来たな。『Fかなえさんが会長として取りまとめることになったから、先代会長に秘密として明かされた』でも、そーなると、一族の重鎮であるばーちゃんが知らない理由にはならないなぁ。うーん、こいばっかぃはほん〜なこつとぜんなか。

 あ、話は飛ぶけど、『ファイル足払い』に次ぐ國生さんの新技『ファイル小手返し』……カッコよかったです。次回は番司のフォローで『ファイル四方投げ』とか『ファイル入り身当て』でもやってくれれば(うずうず)。とはいっても、『ファイル重ね当て』はないだろうな。“掌底重ね当て”ってのは、衝撃通すにゃ手でやんないといけないし……でも、國生さんってファイルないと戦えないのか?我也に体術仕込まれてた頃、すでにファイルもってたけど……はっ!ビリー=カーン!?



第42話 暴走船

「迷っている…か………」



 番司は工具楽屋への研修に出発する前に姉・かなえと明かした会話を思い出していた。

 “例の仕事”の枠を決定するための『研修』……所詮、親の名前だけで“こわしや”になった男だ。オレがそんなヤツに負けるはずはない。『研修』なんざ受けるまでもないが、仕方ない。とっととブチのめしてやって切り上げりゃいい。帰ってきた頃には俺もこわしやだ!―― そう思っていた。

 だが、実際に工具楽我聞という男に触れた今、『研修』の査定となる本業を前にして、その思いは、今、揺らいでいた。

 石油を満載し、港に向かうタンカー…武装した外国人グループにシージャックされ、港に突っ込むそのタンカーの破壊こそが、今回の本業であった。

 海上保安庁のヘリを躊躇なく地対空ミサイルで撃墜する、武装と非情を兼ね備えた6〜7人のテロリストによって制御系の機器を破壊され、転舵することも出来なくなったタンカー……最早機関室を破壊しない限りは停止することも出来ないタンカーの前に、番司は一人で立ち塞がった。

テロリストのリーダー格・ミゲルの指示により、番司に向けてアサルトライフルが火を噴く。が、番司が氣を練り上げ、制御した水球の盾の前に、3点バーストで放たれた銃弾は力尽きたかのように一切の殺傷力を無くし、排出される。

 常識の埒外の相手に怯んだものの、『相手も人間、人質を見せしめにすればいい』と、テロリスト二人が人質に向き直ったその時、二発の銃弾がそれぞれの銃を弾き飛ばす。

 中之井の、200m程離れたモーターボートからの狙撃だった。

 番司の陽動と中之井の狙撃によって、テロリスト達が海上に気を取られたことで、上空への監視が薄まる。番司や中之井に負けじと盾を手にした我聞がヘリから身を躍らせるが、テロリスト達の真っ只中に突貫を試みた我聞は当然ながら一斉射撃にさらされる。

 盾によって銃弾そのものは受けないものの、一切身動きを取れない我聞を尻目にミゲルは先に人質を確保するように命ずるが、その命令に動こうとした時には、既に番司が甲板に取り付いていた。その右手に宿した水球を撃・大水流として解放し、番司は一気にテロリスト達を排除する。

 海上という地の利もあり、ここまでの査定は番司に軍配が上がる。

 対して我聞は、唯一にして最大の“理”の技である爆砕が使えないという不利も働き、能力を発揮できていない……中之井は、番司の『得点』と我聞の『失点』に最悪の事態を想像するが、辻原はその中之井の言葉とは裏腹に落ち着いた笑顔で「私は社長を信頼してます!」と強調するが、その手には転職情報誌が……やはりその言葉には説得力がなかった。

 中之井の怒りのアッパーが辻原に躱されたその頃、番司の大水流によりテロリストごと排除されかかった我聞と番司は並んで機関室を目指していた。意気込む番司に焦りと迷いの色を見た我聞はこわしやの先輩として助言し、自分の持ち場へと向かう。

 番司を信頼し、持ち場をまかせた我聞の背……話だけでは親父さんの名前だけでこわしやになったと思っていたのに、実際に接してみたら、多少バカな面はあるものの、裏表のないさっぱりとしたいいヤツだと判ったその背中に、迷いを乗せた呟きを発する番司。

 自分がこわしやになるということは我聞を蹴落とすことになる。しかも、その査定は自分に任されている。

『何も知らないあいつからこわしやの称号を剥奪して、オレがこわしやになっていいのか?』………それこそが番司の迷いであった。

 だが、番司にも引けない理由があった。

 真芝の主要施設の破壊という『大仕事』に参加するには、ここでこわしやにならないといけない。

 『親父達の命を奪った真芝グループに復讐するため……オレはあいつを蹴落とす』その覚悟を決め、防火用水槽から水を集める番司を、銃弾が襲った。

 水球で受け止めようとしたものの、迷いからか氣の練りが足りず、銃弾は水球を貫通して番司の頬を掠める。

「船を止めさせはせん…これは我々の鉄槌なのだから…!」通路を歩む人影……大水流で流されかけたところを舷側部に開いた通風孔からタンカーに再度入り込んだミゲルだった。海保のヘリをスティンガーで撃墜したリーダー格の男、ミゲルは銃を片手に番司に言い放つ。「命などいらん! 我らが仇敵…“真芝”の兵器工場を潰せるならな!!」同じ標的を持つ敵に……迷いを持つこわしや候補・番司は戸惑いを隠すことは出来なかった。



 國生さん、フォローについてないやん!……と、のっけからツッコミですが、もう一つの重大なツッコミどころとしては……転職したトコで……行く先あるのか、辻?『営業部長』といってる割に、あんまり仕事してるの見たことないんですけど。

 あと、中之井さん……その腕前は認めるが……アサルトライフル、しかも立射で狙撃してるよ、この人。前、『ASEドライバー』と言ってしまったけど、どーやらゴルのヤツも越えちゃったよーだな……先週、天に召されてなくってホンット良かった

 ツッコミ(?)はここまでにして、ストーリーと今後の展開をちょっと真面目に考えてみますが……予想通りとはいえ、番司…やっぱり迷ってます。「こわしやになりたい」って焦りの理由が、恐らくは両親を真芝にやられたという所にあるのがわかったのはいいけど、『敵の敵は味方』とか考えることも、「こわしやになるためにはこいつらをぶちのめさないといけない」とか考えることも予想出来る……番司はかなり揺らぎそうだな、来週。あと、フォローするとか言ってた國生さんがまったく見せ場なしだった反動から、来週は國生さんの出番があるもののタンカーはミゲルの仕掛けたC4で自爆間近、爆弾だけ壊さなきゃいけないというところで我聞の見せ場になって引き……そう予想しておこうかな、今回は。



第43話 止めろ

「何してんだ!静馬番司!!」



 タンカーの阻止限界点まであと五分。それまでに機関部を破壊すればこわしは終了……だが、タンカーに潜入し、犯人のリーダー・ミゲルと対峙していた番司はミゲルの一言に戸惑っていた。

 兵器を売り込むために暗殺者を雇い、指導者を暗殺することで戦争を引き起こした真芝への恨み、その真芝から買い付けた武器で争い、手を血に染める矛盾……全ての原因となった真芝への怒りを込めた言葉に、番司はその使命への責任感を揺るがすだけの共感を持ってしまう。

 だが、揺らぎを見せた番司の耳に、我聞の声が響いた!

 ミゲルを牽制するべく投げ放ったハンマーを壁に突き立たせた我聞は、ミゲルの銃を持つ右手にめがけて解・穿功撃を放ちながら「迷っている時間は無い」と番司を叱咤する。

 ミゲルに共感を持ってしまった番司は「できねェ……」と躊躇するが、我聞はその言葉を聞いた上で、番司に壁に突き刺さったハンマーを投げ渡し……言った。

「間違えるなよ 番司!!」自分も真芝を放ってはおけないし、少なからぬ因縁を持ってもいる。しかし、関係のないところまで巻き込み、大惨事になるであろうこのタンカーでの特攻を許してはいけないと説き、『今壊すべきものは何だ?』と番司自身に判断させる我聞。

 実力では変わらない我聞と自分との決定的な差を……壊すべきものを明確に判断したこわしや・工具楽我聞と、復讐のためにこわしやになろうとしていた自分との差を知った番司は、我聞の言葉によって目覚め、我聞から投げられたハンマーを手にとった。

 番司が渾身の力を込めて機関部に向けてハンマーを振り抜いた時と、我聞が間違った復讐心に燃えるミゲルを制したのは、同時だった。



 わーい、カラーだカラーだ!久しぶりのカラーだ!と、勝利の舞を踊るくらいに浮かれてしまいました。

 ストーリーとしてはほぼ思った通り。國生さんの出番がなかったのと爆破云々が出なかったのが違うくらいだが、まぁいいだろう。

 でも、國生さん、やっぱ番司のフォローについてないやん!?もしかして、GHK参謀として、番司からアタックかけられかねない危機を感じて國生さんと番司を遠ざけたのか、優ねーさん?!だとしたら……ぐっじょぶ(びしっと親指立てて)!

 あと、ツッコミどころとしてはマニアックだが、どう見てもラテン系の名前と顔なのに、ミゲルのイメージ描写は明らかに中東系だ……宗教上の対立も中東ならではだし……ドコ人だ、お前は?



第44話 SUKIYAKI

「そろそろお肉いいですよー」



 シージャッカー達の得た情報は、真芝からの情報操作を加えられたニセ情報だった。

 ニセ情報による無為の破壊から難を逃れた倉庫の一角で西と言葉を交わしながら、辻原が番司の結論を待っていたその頃……無関係の工場を破壊する手前で阻止し、しっかりと報酬を受けた工具楽屋は、静馬番司の送別会を兼ねたスキヤキパーティを決行していた。

 鍋の肉に火が通り、果歩が声をかける……それが、修羅達の開戦の合図だった。

 いかに番司がこわしや手前の仙術使いとはいえ、肉を前にした修羅達の乱舞する坩堝に放り込まれて無事で済むはずはなかった。

 突如巻き起こった乱撃の嵐によって番司は弾き飛ばされる。

 負けてられるか、と本気になろうとしたところにエプロン装備の國生陽菜を発見した番司は思わず殺気を緩めるが、その呆けた姿はGHK総帥・果歩の視界にも捉えられていた

「シッ!」國生FCに次ぐ新たな敵の登場に、躊躇なく先制攻撃を繰り出す果歩!

 予告なしの先制攻撃――ジュネーブ条約にも南極条約にも違反する非人道的な攻撃に当然ながら番司は噛み付くが「アレはウチの!!じろじろ見んなハチマキ男!!」果歩の蛇じみたオーラは番司の蛙程度の殺気をあっさり呑み込んだ。

 家長として、社長として、番司に噛み付いて険悪な空気を生み出している果歩をたしなめる我聞……しかし、兄嫁ゲットのために暗躍する裏家長にはその道理は通じなかった!「だったら!私の!苦労も!わかれっ!!」一節一節ごとに中身の存在を確かめるかのように我聞の頭に裏拳を打ち込む果歩。だが、エプロン國生よりも山盛りの肉に目が行く我聞には再三再四の果歩の誘導も通用せず、将来の義妹にアレ呼ばわりされた國生から補充された追加の肉に、再び修羅の道へと舞い戻る。

 ある者は二刀流、ある者は明鏡止水ハイパーモード、ある者はバーサク、またある者はリミッターの解除と、肉が煮えるまでの短い時間で修羅達が牙を研ぎ、果歩が兄のあまりの鈍さに嘆息する中、工具楽家にコールされた電話が……静馬かなえからの電話が、肉を一切れも口にしていない番司を呼び出した。

 あらましは辻原によって受けているかなえは単刀直入に聞く。「我聞君のこと、あんたはどう思った?」

 全てを決めるその言葉を……番司は発した。

 電話を終えた番司は、ちょうどトイレに立ってそこに現れた我聞に全てを―― この研修が『例の仕事』――唯一情報を入手した真芝グループの第三研究所の破壊という大仕事に参加する自分と我聞との見極め……いわばふるいのために設けられたこと、結果次第では我聞をこわしやの任から解くために設けられたことを明かす。

『この男を騙したままでいい訳はない!』そう思って明かした秘密だが、明かす場所がまずかった。スキヤキパーティ会場のすぐ脇の廊下で告白した秘密は、当然ながら明かすと同時に工具楽屋関係者全てに知られてしまい、哀れ漢・番司は捕虜兼情報源として活用される羽目に陥ってしまうのであった。

 翌日、タクシーで工具楽屋のプレハブ社屋に到着したかなえの目に飛び込んできたものは、堂々と旗と看板を掲げた、隠密らしからぬたたずまいを見せる工具楽屋と、そんな工具楽屋の旗の脇にパンツ一丁で磔にされた番司の哀れな姿であった。

 その意識の外から飛び込んできた光景にリアクションに窮したのだろう、思わず「番司?」と目を点にするかなえの前に、工具楽屋労働組合が立ちふさがる。スパイを送り込んで内情を探ろうとしたこわしや会長の横暴にノリノリのシュプレヒコールを挙げる組合長・優をはじめとした組合員一同!だが、番司の評価と辻原の報告からかなえの出した結論は、両者ともに合格であった。

 こわしやの称号を取り上げることを免れ、胸を撫で下ろす工具楽屋の一同……一方、組合員一同によって張り付けパンツマンにされ、精神的に深い傷を負った番司ではあったが、我聞からの「お前もこわしやだ!」のねぎらいの一言によってようやく致命的なトラウマから多少は癒される――が、その直後にかなえから明かされた言葉によって、別のトラウマに塩を擦り込まれた。全然だめだ、工具楽に完敗だった!いや〜〜あんたが素直に負けを認めるなんてね!」番司が発したというその言葉に漢らしさを認める我聞によって無自覚に……果歩からも意識的に追い討ちを喰らい、涙の反撃を試みる番司ではあったが……所詮パンツマン、ヒエラルキーはやはり一番下っ端に組み込まれているのであった。



 番司編、ひとまずの終了です。だが、最後がこれかよ(笑)。結局、当て馬役も満足にこなせないんでやんの……ま、いいか、所詮はパンツマンだし(爆笑)。

 でも、やって欲しいことをここで言う前にやられてしまって、なんか悔しい、というか嬉しい、というか……複雑です。個人的には『慰労会名目で焼肉か鍋パーティ。GHKが暗躍して買出しから席順まで我聞と國生さんをぴったりマンマークさせる。予算は割り勘にすれば大して痛くない……というか、ターゲット二人にも出資させることになるからGHKの予算はある意味得している訳だし、将来の兄嫁の料理の腕前も判って一石二鳥!!』というのを期待してたのになぁ……でも、あんな修羅道まっしぐらな状態じゃ一緒だな、はーこりゃこりゃ。

 でも、気付いてないよ、アレでも……てか、ああまで間近でアレ呼ばわりされても気付かないのか、國生さん?!我聞のニブチンっぷりばっかり強調してたけど、國生さんの鈍さも結構ものすごいモノありますにゃ。これは大マジに『騙して○○』シリーズ、曾孫が出来ても気付かないぞ(笑)。

 真面目な話もちょっとしとくと、次の『大仕事』のターゲットはどうやら第3研――ということは、あのおっちゃんの風体からすると(超ド級偏見)相手の得意分野は化学兵器……C兵器対抗措置としてエアマスター……いやいや、空気使いのこわしやが登場する、ということだな、きっと。

 あと、ギャグで流してたけど、もしかすると伏線かも?……なのが、優ねーさんの『リミッター解除』発言。以前この単語を吐いたのが、他でもない真芝のバカ様。真芝のリーマン凪やんとの会話などから考えると杞憂なのだろーが、第1研の山薙くんが同じペンダントしてた点と併せて、まだ一割……にも満たない、せいぜい四、五分程度の疑念を捨てきれてないのもまた事実。この辺も気になります。

 最後に今回の番司の一言「てめェらの血は何色だっ!!」に、こっちから適切な答えを出しておこう。「多分みどりだ……斗馬に至ってはピンクかも」



第45話 ジーク・ピンポン

「メイド喫茶。」



 静馬番司がこわしやとなって帰った三日後――夏休みが終わり、新学期が始まる。

 ただの新学期ではない。これまで学生生活をただの通過点として捌いてきただけの國生にとって、初めて『部に所属して』迎える新学期……それまで鞄に詰めていた数々の必需品に加え、夏休み中に思い切って買ったシェイクハンドのラケットを鞄に納め、國生は新たな一歩を踏み出す。

 二枚の写真――我也らとの絆を示す写真と、江ノ島での合宿で写した……卓球部の一同との新たな絆を顕す真新しい写真が、その決意を見つめるかのようにたたずんでいた。

 我聞と國生の間で交わされるいつもの朝の風景……に加え、卓球に対して興味を持ってきた國生はスケジュール確認を終えるとともに合宿で見せた負けず嫌いの顔を覗かせ、我聞に挑戦する。一歩先を行く経験者の余裕だろう、笑顔で応じる我聞……と、2−5のいつもの面々が二人に合流。話題は自然と部活や夏休みのそれぞれの生活へと向かう。我聞が捨てずにこだわった日常の味を噛み締め、國生がその心境を納得し、理解した時、話題は文化祭へと移ろうとしていた。文化祭は仕事でパスしていたのであろう、盛り上がる一同を怪訝そうに眺める國生に我聞が説明しようとしたが、校門前に出来た人だかりが我聞の言葉を遮る。

 覗き込む我聞の眼に、人が吹き飛ぶ姿が映る。白目をむいて気絶した正晴という名のヤンキーの仲間が、数分前に時代遅れなファッションをコケにしたために何人ものツレを叩きのめされたそのハチマキ男に謝りつつ仲間を助け起こす脇で――我聞は三日前に別れた番司との、特に感動的でもない再会を、あっさり果たした

 “例の仕事”を二ヵ月後に控え、『それまでにも腕を上げておきたいから』と、本業のシェアをこわしや会長でもある姉・かなえが圧倒的に占める九州を離れ、遠く離れた神奈川まで引っ越してきた、と語る番司。

 ここには國生がいるから、という本音を胸に秘め、お近づきになろうともじもじと一礼を交わそうとする番司ではあったが、國生にとって、御川中学で果歩を震えさせた番司の登場は、すなわち自らのシェアを脅かす『同地区の同業他社』の誕生に他ならなかった。『宣戦布告』とみなされた上、「それ相応の対応をとらせてもらいます」と、國生がその『宣戦布告』を受諾したことにショックを受ける番司に、無自覚に塩を塗り込む我聞――静馬番司……あくまで幸の薄い男だった

 そして放課後の卓球部――『卓球部に富を!!』のスローガンを合言葉に、鬼軍曹と化した恵がそこにいた。

 ただでさえイベントには力が入る性分な上、各部活による文化祭の出し物が、かつての國生の活躍のお陰で大幅に増額された臨時部費30万を賭けた戦場となるとあっては、燃えない恵ではなかった。

 熱狂的なパワーに圧倒される國生とまだ引退しない部長・皇を差し置き、卓球部を完全に仕切る恵に、我聞がアイディアを出す。解体業ならではの発想からか、マグロの解体ショーという斬新なアイディアはあっさりと恵のスマッシュで打ち砕かれる。Gガンダムの上映会には多少心を惹かれはしたものの具体性やインパクトに欠ける他の案に業を煮やした我聞が再度提案するが、カジキマグロの解体ショー……魚が具体的になっただけの案がやはり粉砕されたその時、沈黙を守っていた佐々木が満を持して切り札を切った。

「メイド喫茶。」

 数瞬の沈黙を経て、遠慮なくスマッシュが襲おうとするその土壇場で、佐々木の細い眼光はあくまで落ち着いていた。そして、「我々の最大の武器は女子部員の美しさだ」と力説し、恵を説き伏せる佐々木。

 だが、皇があっさりと『國生さんのメイド姿を見るために、他の女子からその気にさせる』という裏の理由をバラし、佐々木は説き伏せかけた恵によってねじ伏せられる。が、恵が佐々木に制裁を加えてはいたものの、他の女子部員は結構乗り気になっていた。意外な肯定の意見に、天野が残る女子部員・國生に意見を求めようとしたその時、國生の危機を救うべく、もはやただのストーカーと化した番司が乱入した。

 突然現れた“朝のハチマキ男”に多少面食らう部員を尻目に、番司は『漢のやることじゃ――』と、佐々木の案を否決しようとする。だがしかし、國生は漢ではなかった。そしてなにより、別にメイドのコスプレを嫌がってもいなかった……どころか、敵の識別信号を発している番司に國生は、世界の平均気温を2度は下げるであろう冷たい視線を浴びせる。恐らくは初めて浴びるであろう容赦の無い冷たい視線を浴び、番司は佐々木の羨望の眼差しを受けつつ撤退を余儀なくされた。

 そんな喧騒をさておき、「仕方ないわね」目が銭色に変わった軍曹殿が、呟く。

 それが始動の合図となった。一人だけクールな中村を差し置いて盛り上がる卓球部に衝き動かされ、國生もやる気になる。一位の30万を目指し、國生陽菜という強力な戦力を得た卓球部のメイド喫茶が……ついに動き出した。

そして、その熱気と遠く離れた場所で一人寂しく佇む番司――どこまでも幸の薄い漢であった



 國生さん、ケース入れんとラバーすぐに効き悪くなるよ。特に、シェイクハンドの基本はカットなんやからラバーの効きは何より大事!そんなことで我聞に勝とうなんざ、4、5年早いわ(短っ!)!

 でも、メイド喫茶かぁ……実物見たことないので良く判らんのですが、いいものですか?『北宋の壺』並にいいものですか?てか、実を言うと『萌え』自体が良く判らない(笑)。本質的にチャッカマンなので、『萌え』よりかは『燃え』なんです、俺(笑)。

 ところで、番司が転校してくるまでは予想の範囲内だったけど、別にこわしやを開業するとは思わなかったなぁ。むしろ、バイトとして工具楽屋に来る方を予想してたのになぁ。でも、日頃は何して食いつなぐのやら……今更工具楽屋に世話になりにきたところで、経理取り仕切ってる國生さんがすっかり敵色だから、もう『GS美神』の横島忠夫クラスのマゾじゃないとやってけないぞ。

 今後の予想。番司の妨害工作(本人にはそのつもりなし)で、結局30万は取れずじまい……さらに國生さんの冷たい視線を浴び、佐々木に続いて番司も本格的にMの道に『目覚めて』しまう。で、番司までもが卓球部に入り、國生FCがついに男子部員の過半数に達するかと(笑)。



第46話 ピンチ卓球部

「い、いらっしゃいませ! 一名様だすね?」



 文化祭まで残るは三週間。部の出し物である『メイド喫茶』の開店に向け、前進を始める卓球部……だが、即戦力として期待された國生の意外なまでの硬さによって、その前進はいきなり蹴躓いた。接客向きの笑顔を振りまくことに慣れていなかった國生は、接客バイト歴の長い鬼軍曹・恵の指導の甲斐もなく、また、このタイミングを見計らったかのように工具楽屋の仕事の量も増え、あまりにぎこちない表情と言葉しか出すことが出来ないまま、多忙な、だが、仕事だけを見据えていた頃からは想像もつかない充実した日々を送ることになる。

 時間一杯まで部に残っていた我聞と國生が仕事のために中途で離脱したその日も……そして、その翌日も、そのような、いつもと変わりない刻を過ごすことが出来る筈だった。

 だが翌朝、スケジュール確認を終え、教室に到着した我聞らを待ち受けていたものは、恵や佐々木、中村らの、活気とはほど遠い、暗い表情だった。

 メイド喫茶に対しての生徒会からの中止命令――当然といえば当然といえるその措置に、部員の中には早々に諦める者が現れる。だが、あまりに横暴でもあるその措置に対しての反感……そして、絶対に一位を取るという――國生のメイド姿という当初の動機を消し去る程の信念から、恵と佐々木は絶対にメイド喫茶を押し通すことを主張し、恭順派と強硬路線で部は真っ二つに割れる。

 熱くなりすぎる仲間たちを抑え、冷静に解決策を探ることを主張する中村と友子……そして、國生もまたその二人に同調した時、國生の携帯が――時間切れを告げた

『仲間の危機を救いたい。だけど、仕事もないがしろには出来ない』――引き裂かれそうな歯痒い想いを噛み殺し、退席しようとする國生の横に座る我聞が立ち上がり「よし! オレの出番だな!?」決意を込めた口調で呟いた。

 あっけに取られる一同、そして國生。だが、我聞は既に動いていた。國生に詫びつつ生徒会長の説得に向け、駆け出した我聞に圧倒され、数秒の沈黙が流れる。

 その空気を、我聞と最も長い付き合いの中村が変えた。

「あいつが説得なんてできると思うか?」あまりといえばあんまりではあるが、親友・中村の適切すぎるその言葉に割れた卓球部は再び結束した。仲間想いの一念から取った行動ではあるものの、最悪、部活停止処分に自ら追い込みかねない我聞の暴走を止めるべく、部員は我聞の後を追い、走る。部室に一人残された國生は「し……仕事の時間…ですが…」と呟いてはみたものの、それが虚しいと悟ったのであろう……とある決断を下した

 一方、生徒会室前に辿り着いた部員達が目にしたものは、生徒会長・鬼怒間リンによって廊下に蹴り転がされた我聞の姿であった。

 『なぜメイドか』納得いく説明を求める鬼怒間だが、無策で突っ走ってここに来てしまっていた我聞には、そもそもの理由そのものが曖昧だった。

 何も考えずに交渉に来た我聞に明らかな怒りを見せ、部活停止処分という最悪の切り札をちらつかせる鬼怒間。

 佐々木と中村が両者の間に立ち、一旦我聞を引かせようとする。が、我聞にとっては引くことの出来ない瀬戸際だった。自分を仲間として受け入れている部の仲間達の窮地。こういうときこそ仕事で部を抜けがちな自分が力にならないといけない!

 我聞にとってその覚悟は、大事な仕事よりも重かった。國生には悪いと思いつつも、我聞は一度は蹴りを喰らって門前払いを喰らった土下座を再度試みる。

 だが、論理的な理由のない説得は通じなかった。我聞の土下座に加えて行われる周囲の部員達からの説得も虚しく「不謹慎な出し物は許可できん」と鬼怒間は突っぱね、交渉は平行線をたどる。だが、そこに変化を加えるものがあった――それは、帰ったはずの國生だった

 帰社を促したはずの國生の声に驚き、その姿にさらにもう一度驚きを見せる我聞。無理もなかった。我聞が驚き、佐々木も思わず息を飲んだ國生の出で立ちは、『メイド喫茶である理由』を強調し、交渉をスムーズに行うべく纏った、エプロンドレスだったからである。

 生徒会最後の大仕事である文化祭の成功には、出し物の成功……つまりは、真剣に取り組む人達こそが必要であることを説き、判断を当日の開店前にまで保留させる。

 代償として初の遅刻という大きなペナルティを負ったものの、かけがえのない絆をもたらしてくれる仲間を救った喜びは何よりも大きかった。タダ働きを受け入れ、急ぎ帰社することを促す國生の顔に、自然な笑顔が漏れた。

 とはいえ、エプロンドレスのまま帰社しようとする國生……やはり慌てていたようであった



「ではこの席に座るがよいです!」……新たな名言が生まれました。でも、國生さん……あんたはもう工具楽家の嫁なんだから(確定)、御主人は我聞以外いないでしょーが!いかに仕事とはいえ、『御主人様』を安売りしちゃいかーん!……と、GHKとしての義務感はいいとして、ここに来てはたと気付いたが、「キミ達、普段はなんて呼びおうとるん?(by桂三枝)」やっぱり、ゴールインしたとしても『社長』『國生さん』で押し通すのか?

 國生さんといえば、交渉で理屈に加えて感情論まで交えて説得してます。今までの國生さんならロジックだけで押し通す(そして、相手にしこりを残してでもきっかり成果を勝ち取る)んでしょうが……硬軟織り交ぜて交渉するとは、確実に成長しましたね。

 あと、新キャラのチビっ子生徒会長・鬼怒間リンちゃんが登場です。とはいえ、因縁としてはコミックス4巻のおまけマンガでフライング気味に登場(九州ではコミックスは2日遅れ、サンデー本誌は1日遅れの木曜日で……4巻と今回のサンデー8号、発売日は偶然にも同日でした)。中央は兎に角、地方的にはコミックス見てないと卓球部との因縁が判らないのは、ストーリー的にはちょっと痛いかも。

 あ、今気付いたけど、國生さんの呼び名、サンデーの柱では『國生陽菜(るなっち)』になってる。『はるるん』も捨てがたいのに……編集さんは『るなっち』の方がツボらしいな。



第47話 文化祭本番

「つづいて、文化祭での一位を発表します。 見事得票数が一位だったのは――」

 緊張感の舞い降りた卓球部の部室……査定を下す生徒会長・鬼怒間の言葉に、自然と部員の注目が集まる。その結果は、合格――遊びや不純な気持ちでは到底出せない相当なハイクオリティを実現した卓球部の出し物『冥土喫茶』に下りた営業許可に、部員の歓声が……揚がった。

 アイドル並みのクオリティを誇る店員や個人の能力をフルに活かした適材適所の配置……なにより、並大抵ではない情熱を傾けてきたこともあり、メイド喫茶は大成功。ライバルとなる一店はあるが、この二店に引っ張られる形で文化祭も大いに盛り上がっている現状もあって、一度は取り潰しを決めた鬼怒間も自らの決定を覆した卓球部に、満足そうなエールを送る。意気揚がる部員達……無論我聞もだが、その担当する係はゴミ捨て係――力仕事しか能のない男は、いとも簡単にチームに影響する力を否定され、寂しくゴミ捨てに従事した。

 無理矢理納得し、程なくして寂しさから立ち直る我聞……一位候補であるメイド喫茶の成功を苦々しく思う他部の男子生徒二人の姿を見たのは、立ち直って焼却炉にゴミを捨てているその時だった。その密談を立ち聞きしてしまった我聞は、それを自分なりに握りつぶすことを誓う。『冥土喫茶』に来店した二人は、國生が疑いなく運んできたコーヒー目掛けて、コオロギの足を投げ込むが――落下速度を上回るごく疾い風が、数分前にもぎ取られたのであろう哀れなコオロギの足を奪い取っていた。

 モップを手にした掃除係……我聞であった。

 動かぬ証拠を握られ、男子生徒は焦るが、目的はあくまで異物の混入ではなく営業妨害。方針を中傷に変更し、大声で騒ごうとするが……相手が悪かった。

 大口を開けた瞬間に繰り出された最弱威力の解・穿功撃が、それ以上の言葉を奪っていた

 ごく優しく、最後通告を発する我聞。その正体不明の迫力に圧され、訳も判らないままに退散する男子生徒達の姿に、國生は我聞が気付かれないように問題を解決したことを悟って駆け寄るが、我聞はあくまで文化祭を楽しむことが第一であり、皆に少しでも厭な思いを残さないことこそが重要であることを告げ、自らの持ち場に戻る。そのさりげない、だが、強い思いに、國生は頷いた。

 大盛況の末、営業を終了した『冥土喫茶』……完全なその営業成績もあり、前祝いを兼ねた打ち上げに向けてテンションを挙げていく部員……『チーム・メイド喫茶』の役に立たなかった我聞に寒々とした視線を投げつけることで、息もぴったりにイジメる佐々木と恵に涙とともに食って掛かる我聞――その姿に、そして、恐らくは初めて同年代の仲間と一つのことを為したその達成感に酔いしれ、満足そうな表情を浮かべる國生。友子の誘いに頷き、我聞ともども打ち上げに参加することを喜びとともに受け入れたその時、酩酊した感情を一気に醒ますべく、携帯のコールが、鳴った。

 宵の口の呼び出し―― 恐らくは本業の呼び出しであろう辻原からの電話に躊躇する國生。

『行かなければいけない。だけど、この大切な時を失いたくない』我也の後を継いで以来……我聞が味わって来たであろうその想いが、國生を締め付けていた。

 コールが三度目に達するほどの逡巡を見かね、言うなればその想いの先輩に当たる我聞が、携帯を受け取った。

 電話に出た我聞に驚く辻原だが、驚きも程々に手短に用件を伝える。辻原からのその用件は、"例の仕事"の打ち合わせのため、帰社出来ない旨を伝えての……2、3日の有休申請であった。

 肩透かしを食らった二人が、顔を見合わせ、笑う。日頃仕事に追われていた二人が、この至福の刻を楽しみ尽くすことが決まった。

 しかし、翌日の開票の結果、一位になったのはメイド喫茶――ならぬ『マーメイド喫茶』……人魚に扮した部員がプールの中から接客する……押し寄せる寒さに体温を奪われながらの命がけの接客を票につなげた、水泳部捨て身の出し物であった。



 先週ラストの柱に載ってた『意外な強敵』って……うう、不憫や、不憫すぎるわ!そら、投票しぃひんヤツは鬼というより他あれへんわ!でも、他雑誌ネタで申し訳ないが『深道喫茶店ランキング』で星五つ出るかもしれない卓球部のメイド喫茶の、真の『強敵』はむしろ、放送部のアナウンス嬢では……はっきり言って、美人度は個人的見解では國生さん追い抜いてます。ぜひ再登場を!

 不憫といえば我聞。本番ではモーちゃんもフジイもそれといった仕事してないのに、設営ではバカ力発揮しただろーに、アレだけイジメられる我聞って……うう(貰い泣き)。

 でもまー、今回は重要度は高いのにちょっとインパクトが薄い二人の裏設定公開の一面の方がデカいかな。中村は定食屋の息子で、恐らくは普段も厨房を多少手伝えるくらいの腕前。友子ちゃんは本格的なお茶マスター……ますます中村×友子ちゃんの構図が出来上がって来てます。佐々やん×めぐみんも、ちょっと道が出来てきたようだし、我聞×國生さんも関係性が一歩進んだ?という感じ……春は近いか、卓球部?でも、國生FCにしてみれば今回の一件って、眼福の代償として、敵に塩どころか兵糧と兵と馬まで送ってやったみたいなものなのでは?いや、折角の好意だし、有難く頂いとくけど(GHK)

 唯一の残念といえば、番司の出番が全くなかったことか。でも、番司の営業妨害でなく、水泳部の皆さんの命削った頑張りでメイド喫茶を競り落としたのは素直に評価しておこう……てか、その30万でストーブか何か買って早く暖まれ!マジに命が危ないぞ!

 それはそうと、一位の30万以外には何もない――オール・オア・ナッシング、か。マグロ解体ショーも承認されてたし……非常に漢らしいぞ、御川高校生徒会。



第48話 真芝偵察

「今回の仕事は偵察のみ! それを忘れんじゃねぇぞ?」

 アクティブソナーの甲高い音を響かせ、海中を行く艦影が一つ……真芝グループの高性能潜水艦が、海中からその島の地下ドックへと通じる水路に辿り着いていた。

 裏で兵器を作成、売買している真芝グループ・第3研の研究施設である絶海の孤島……法を侵して兵器密売を行うため、隠密性を重視して海底に進入経路を作った上、主要施設を地下に収めることで徹底的に隠蔽を行い、国家レベルでの監視――例えば衛星からの監視等からも逃れ切れたのであろうその島を海中から監視する、巨大な気泡があった。

 新人のこわしや・静馬番司と番司をサポートとして偵察任務に当たる先輩こわしや・理来の二人であった。

 『海を歩いてアジトに向かい、偵察する』という、仙術使いではない相手には予測の範疇を越えるその作戦は順調に進み、理来は海中からの進入経路を確認し、続いて地上のルートの確認を開始すべく番司に指示を出す。

 逆に展開することで気泡とした水球を制御し、海面に上昇させた番司の拳に力が入る。例の仕事……真芝グループ壊滅作戦の第一段階に指名されたことで、何より、両親の敵である真芝の施設を前にしたことで力が入る番司に気負いを感じ、釘を刺す理来。

 こわしやになる前ならば必要以上に噛み付いていたかもしれない番司を抑えたのは、自分とさほど年の変わらない先輩こわしやと出会った時に気付かされた、壊すべき時や壊してはいけないものを『見極める心』であった。今やるべきことを見極めた番司はその先輩こわしや・工具楽我聞に現在負った任務……偵察の成功を誓い、上陸を開始した。

 番司が心に住まう我聞に任務の完遂を誓ったその頃、休日を過ごしていた我聞は……工具楽屋の軒先で珠と斗馬をトレーニングにつき合わせていた。

 仰向けに寝そべった我聞を見下ろす二人の手には、それぞれ一本ずつの杵……我聞の言葉に応じてまず珠が、珠の持つ杵が持ち上げられるとほぼ同時に、合いの手を打つかのように斗馬が、息をつかせずに我聞の腹筋を打つ。

 その回数は別に決まってはおらず、強いて言うならば二人が満足するまで――自ら望んだ特訓とはいえ、あまりに無茶な鍛え方に思わず悶絶してしまう我聞を、呆れ顔の果歩と……國生が見下ろしていた。

 突然の國生の訪問に、苦悶の表情ながら上体を起こしつつ「仕事?」と尋ねる我聞。

 國生の言葉は否定だった。果歩に呼ばれて勉強を教えにきたことを伝える國生だが、我聞のオーバーペースともとれる無茶な特訓に不安を感じたのであろう、決行まであと一ヶ月の“例の仕事”を前に体を壊しては元も子もないとたしなめる。

 だが、我聞には無茶をしてでも鍛えたいと思うだけの意志があった。

 その原因が番司にあると聞き、将来の義姉妹はほぼ同時に冷淡な反応を示す。番司を息もぴったりに斬り捨てた二人の反応に戸惑いながら、我聞は一足先に“例の仕事”に絡んで動き出した番司を半ばうらやましく思いつつも、やはり漢であるためであろう、頑張っているライバルに「負けられん」と思ったことこそが、この無茶な特訓をこなし、更なるレベルアップを図っている理由なのだと明かす。

 その実力を知らない上、工具楽家の未来にとっても敵になりかねない“パンツマン”に懐疑的な評価しか持っていない果歩は、それだけの高い評価を持つ我聞に疑問を投げかけるが、我聞は「仙術ならば自分よりも上かもしれない」という、実際に手合わせしたからこそ下せる評価に加え、ベテランの仙術使いと組んでいる番司の成功を信じて疑わなかった。

 だが、我聞が空を見上げながらライバルであり戦友でもある静馬仙術の若き使い手の活躍を脳裏に描いていた時、同じ空の下で任務に当たっていた番司の前には、血だるまにされた理来と、理来の頭を無造作に掴む男の姿があった。丸坊主に刈り込まれた頭と何も映さない瞳……もしかすると番司よりも年下に映る、表情のない顔のその男は、その生死には興味なさげに理来をその場に放り捨て、次の標的に向けて対峙する。邪魔な荷物を捨て、モスグリーンのランニングシャツに軍パンというシンプルな服装と胸に下げたペンダント以外に何も持たない……丸腰でありながら理を得た仙術使いであるはずの理来を苦もなく屠った男に戦慄する番司に、理来は作戦の失敗を悟り、苦しい息の下で撤退を指示する。

「あんた置いて逃げれっかよ!!」番司は、その指示に逆らった。出し惜しみなしの全力で当たり、一気に突破して理来と一緒に逃げることを選択した番司は、同時に四つの水球を制御……『撃・水弾 跳弾乱舞』として放った。水弾が乱反射しながら周囲の木々をへし折り、なぎ倒す。水弾そのものは相手を直接狙ったものではなく、かつて我聞に向けて放ったものよりも単純な威力では弱いものではあったが、不規則な動きとそこから派生する無数の木々の弾幕を攻撃と撹乱に利用し、その隙に突破を図ったのだ。その時点での番司の判断は正しいといっても良かった。

 甲高い駆動音を響かせ、太極図を模したペンダントが……鈍い光を放った。自らに目掛けて降り注ぐ木の幹に拳を振るう男――その拳が爆発した

 我聞と同じ『爆砕』に驚愕し、番司の反応が遅れた。爆煙の中から一気に間合いを侵略した男は、螺旋撃にも似た大振りの一撃を番司に振るい、十数メートルを吹き飛ばす。

 相手の『仙術使い』に動揺を見せながらも立ち上がろうとする番司は、相手のその姿に絶句した。人体の限界を大幅に越えた破壊力を叩き出し、折れた骨が皮膚を突き破り、鮮血を迸らせる右腕……それすらも意に介さない無表情な顔に、さしもの番司も『フツーじゃねェぞ』という、恐怖や絶望にも似た感情に塗り潰される。その瞬間、ペンダントから光が消え……それと入れ違いに、男の顔に表情が生まれた。

 突然の痛みに苦鳴を迸らせて叫ぶ男。だが、安堵する暇もなく、「いかがかな、我が第三研の新商品は?」小銃を手にした六人の兵士を従えた、やせぎすの男が番司の視界に入る。「これでもまだ試作段階なのだよ!」能面でいう『般若』にも似た顔立ちのその男――真芝グループ第3研所長・八雲四郎は、バインダーにペン先を叩きつける仕草を繰り返しながら番司達に言う。

「よくぞ来てくれた“こわしや”ども! ちょうどいい、兵器開発の実験台になってもらおうか」能面顔に、粘ついた……サディスティックな表情を張り付かせ……八雲は笑みを浮かべた。



 新展開のためか、新キャラ登場です。どこぞのネオ・ホンコンの大統領っぽい黒メガネが素敵な理来さん……出てくるなりやられてるやん!?美形と言っても良いくらいの折角の新キャラなのに、能力も発揮せんとやられてるよ、この人。とはいっても、再登場するかもな――洗脳されたか何かで『暴走仙術使い』として。だとすると、むしろ第3研よりもタチ悪い敵が出来ちゃいそうです。でも、暴走するのはむしろ番司というのが本線だけど。

 でも、果歩りん……流石にGHK総帥です。自分の勉強口実に國生さんを工具楽家に呼んで外堀埋めにきたし(考え過ぎ?)、「勉強教えてもらったら?」発言のあとに、書き台詞だけど「2人っきりで」って強調してたし……二人をくっつけるきっかけ作り、まだまだ忘れてません。年少組二人も見習いなさい!

 とはいえ、ボケはここまで。ストーリーもシリアスになってきたことだし、ちょっと真面目に解析してみます。

 どうやら人為的に『仙術使い』……しかも『暴走仙術使い』を作ってた雰囲気……以前、『八雲のあの風体からして、第3研はC兵器が専門』と言い切ってしまったけど、大外れでした。推察してみると、あのネックレスが周囲の外氣を集約……装着者に流し込むことで仙術に似た効果を引っ張り出せるようにする、といったところなのでしょう。修行や“理”の理解という厄介な手順を踏むことなく、経験を積んだ仙術使いを倒せるほどの能力を引っ張り出せるという点では、かなり強力な兵器になりえます。試作段階であり、持続時間が短いという点や、本家本元の仙術使いのように集氣したところで回復まで行えないという難点はありますが、『兵士は使い捨て』と考えれば、それほど大きな難点ともいえません。八雲四郎……どうやら、想像以上に厭な奴だったらしいです。

 問題は、どこからそのデータを持ってきたか、という点。直近でも、我聞との戦闘データというモデルとすべきサンプルはあるとはいえ、基本的に各研究所の横の繋がりが薄そうなあの雰囲気――特に、第35話での凪原との会話から察するに、第8研の十曲クンもどうやらもとから真芝にいたわけではなく、その立場は外様的な様子であるため、データのフィードバックはなされているのか、という点ははなはだ疑問です。また、バカ様は我聞をライバルと認めており、自分のライバルを渡したがらない筈……そんな所から情報を得ることは考えにくい……とすれば、どこからでしょうか?

 まず一つ目に考えられるのは『七年前の暴走仙術使いの事件でデータを取った』……一番可能性としては大きいです。しかし、工場一つ消し飛ばした程のデータが完全に残っているのか?逆に、残っていたとしたらなぜ今まで出なかったのか?そんな疑問は残ります。

 二つ目は『凪原が、第8研からデータを強制的に徴収した』つまらない結論かもしれませんが、ありそうです。

そして三つ目は――確率は低いし、何よりあって欲しくないことではあるんですが、『優ねーさんの内通』……TRPGでこんなマスタリングばっかりやってる所為でしょうか?発想が裏切りありきになってます。とはいえ、これまでの行動からしても矛盾点が少ないのも確かです。出来れば三つ目は起こって欲しくないことですが、もしも起こってしまったら――我聞はどうするのでしょうか?

 とはいえ、心配はここまで!来週は連載一周年カラーです!謎の数々とあわせ、期待して待っておきましょう。


おまけ四コマ:『征け、会長さん』VS卓球部編

リンちゃん、親父殿って……(笑)。あと、國生さん演歌好きとは……意外っつーか、偉大っつーか。

おまけまんが『モリタイシをやっつけろ』

帯ギュのコミックスだの "絵筆を持ってね" ネタで来るとは……やっぱり藤木先生もコアなサンデーファンな訳やね。

『いでじゅう』……コミックス買ってなかったけど一見の価値ありのよーだな(何様!?)。

なんにせよ、富士鷹ジュビロ先生は偉大だった訳で。あと、O栗くんの横にいちゃ、溶かされやしないかと不安に思われ(純風)。


裏表紙:『静馬一族、戦闘準備完了!』






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