06ワールドカップ総括






Ills 藤木俊


いえ、そんなこと言わずに楽しみましょうよ(笑)




 一ヶ月続いたワールドカップも終わり、もう次の四年を考えつつリーグ戦に戻る時期に入りましたが、この一ヶ月、皆様は楽しめましたでしょうか?


 すがたけは根っ子が単純なお陰で思う存分楽しめましたが―― ピッチの内外にある様々な問題や、応援するチームの敗退で、素直に楽しめなかった方もいらっしゃるでしょう。


 ここでは簡単にではありますが、2006年ワールドカップ・ドイツ大会についての総括をつらつらと述べさせていただきます。


 まずは一応俺も日本人だから、ということで―― 『06年の日本代表』について。


 2年前のアテネオリンピックの後頃でしょうか―― とある掲示板に書き込んだことではあるのですが……『このままアテネ世代をはじめとした、それまで選考されていない国内の有力な選手を軽視して、『固定したメンバーでの成熟』を目論んでいるのだとしたら、アクシデントに弱い代表が出来上がってしまうんじゃないのか?』という懸念を持っていました。


 もちろん、06年ワールドカップのメンバーは、中田英寿選手を中心にして各カテゴリーでベスト8以上を獲得するという、日本フットボール会の中でも粒揃い……ある意味異常なまでに人材が集中している世代で構成されており、もしもその人材が万全の状態で機能するならば、ベスト8に食い込むことは可能かもしれない、という期待を抱くだけのものはありました。


 しかし、それも全員がピークを今回のワールドカップで迎えている上、メンバーのコンディションも万全、サブメンバーのモチベーションも充実している、ということが最低限の条件でした。


 ピークは直前に行ったドイツとの親善試合(結果2−2)で振り切ってしまい、その試合の影響でレギュラーのFW二人とも故障が顔を覗かせてしまったように、コンディションも悪化、それでもレギュラーの序列が変わることがないため、どうしてもモチベーションは上がらない―― 全ての要素が悪い方向にしか向かっていませんでした。


 前監督のトルシエならば、悪い流れに入ってしまったチームに『サプライズ』という名のカンフル剤を投入することも出来たかもしれません(少なくとも、02年での鈴木の起用は立て続けにエース二人を失ったチームを、鈴木が持つ武器である『前からのチェイシング』で活性化させる意図があったはずですし、ジーコも名指しして批判するなどして戦犯扱いされた、トルコ戦での西澤の起用も、それまでの三戦で故障と疲労を抱えたFWを休ませると同時に、チーム最高のポストプレイヤーを前線に置くことでボールの収まるポイントを作り、それまで日本を支えてきた『エース』という二つの意味での“柱”をチームに与えるという意図があったのは想像に難くありません)。ですが、ジーコにはそれがありませんでした―― というよりも、頼るべき武器が『選手達の連携』というものだった以上、多少のコンディション不良には目を瞑って使うより他ありませんでした。


 結果は皆さんもご承知の通り、無駄に高かった天狗の鼻を叩き折られ、勝ち点1、得失点差−5でグループリーグ敗退、というものになりました。


 誰だったかは失念しましたが、2002年の日韓大会でこう言っていた選手がいました。


「なんだかキリンカップを戦っているみたいだ」


 恐らく、サポーターの強い後押しがあることからこう言っていたのでしょうが……正直、日本に関して言えば今回のワールドカップも、どこか真剣味の足りないキリンカップを見ているような雰囲気を感じてしまいました。


 真剣勝負の中でこんな雰囲気を感じさせるようでは、勝てるはずがありません。


 酷暑の中で苦しかったことは判ります。しかし、それは相手も同じ―― 同じ条件である以上、積極的に追い込み、走る相手を前にしてもなお追い込まない、走らないでは、どうしようもありません。


 キツい言い方ですが、この2006年大会の日本に関しては、戦うことすらせずに負けるべくして負けた―― そういうより他ありません。


 この腑抜けた敗戦を活かせるか否か―― 2010年大会に出場できるかどうかは、そこにかかっています。





 続いて、前回大会に引き続いて今回大会でも何度も問題になった『レフェリング』について。


 前回大会では、FIFAが選ぶワールドカップの十大誤審の内、五つものケース(韓国−スペインの“ホアキンのセンタリングがラインを割ったという判定”と、“モリエンテスのゴールをファールとした判定”、韓国−イタリアの“トッティのシミュレーション判定”と“イタリア側の決勝点チャンスの際のオフサイド判定”という、ネット上でもいまだに火種が燻っている『ホームの利』判定に加え、ブラジル−ベルギーでのベルギー先制点取り消し)が選ばれていたように、深刻な誤審が相次いだという反動からでしょう、今回大会でのファールの基準が総じて厳しく取られることになりました。


 そこはまぁ仕方ありません。


 しかし、選手自身はレフェリングが厳しくなろうとも普段通りのプレイをするもの―― いや、大舞台であればあるほど、チームを勝たせるために激しいプレイをせざるを得ません(しなかったチームは、日本のような体たらくを見せることになります)。そして、今大会に出場した大半の選手が所属する欧州や南米のリーグでの基準では『円滑な試合進行の妨げになる』と流されるようなレベルの(汚い)ファールが厳密に処理されてしまったことで、今大会は史上最多のカードが乱れ飛ぶ(特に、オランダ-ポルトガルは最多タイである16枚のイエローと最多の4枚のレッドが乱発されるという極端な試合となった)荒れた大会と評価されるに至りました。


 『審判のレベルが低すぎた』『カードでしかコントロールできなかった』と批判するのは簡単です。しかし、『疑惑の判定』でダークホースが急浮上するようなことはなく、むしろ『厳格且つ公正なレフェリング』が為されたことで順当に強豪が実力通りに勝ち上がり、大会そのもののレベルが保たれたこともまた確かです。


 無論、クロアチア-オーストラリアのような『カードを出しすぎて、一人の選手に3枚のカードを出してしまった』という珍事は論外です。しかし、そういう特殊な例は除いて、全般に今回大会のレフェリーは前回大会の反省を活かし、高い規範でゲームをコントロールした、とすがたけは評価します(モラリスト気取りなので)。


 しかし、その『高い規範』こそが……次に挙げる重大事態を招くことになってしまったことも、否定できませんが……。





 そして、前の話題から続きますが、今回大会における最大の事件というべき―― 『決勝戦でのジダンの行為』について。


 延長後半5分でイタリアDF・マテラッツィからの度重なる挑発行為に切れたジダンが、頭突きで応じた、今大会最大のこの“事件”ですが、『ジダンの現役最後の試合なんだから、温情でイエローが妥当なんじゃないのか?』『そもそもマテラッツィの挑発行為を裁かないのか?』という意見をあちこちで耳にしました。


 確かに、あれだけの選手ですからそう言った意見が出るのも当然ですし、結果として、後半から押し込まれ続けていたイタリアが延長を凌ぎきり、苦手のPK戦を制した上で(!)優勝したこともあり、『ジダンの退場さえなければ』という意識がその意見を信じる人間にあるのではないのか、と思いますし、そう信じたい気持ちも判ります。


 しかし、それもまたフットボールなのです。挑発行為が人として正しい行為かどうかはここで論じられるべきではありませんし、明確な暴力という行為が一発でレッドカードになる以上、そうやって相手の神経をすり減らし、実力行使に追い込むよう仕向ける、というのもまたフットボールというスポーツが内包した戦いです。


 そして、その『戦い』にジダンは負けました。『人としてマテラッツィの発言に我慢できなかった』と後にジダンが語ったように、マテラッツィが相当のことを言ったのは想像できます。しかし、勘違いして欲しくないのは、あまりに許せない言葉を叩きつけられたとしても、暴力で返すことが容認されることでもないということです。某ラジオのパーソナリティ(フランス好き)は、『ジダンの行為を当然支持する。マテラッツィの行為は絶対に許すことは出来ない。再試合を行ってもいいくらいだ』と熱弁を振るっていましたが、暴力で返してしまったら、結局のところ選手としては負けてしまうことにも違いはありません。


 とはいえ、ジダンを激昂させたマテラッツィの『言葉の暴力』にもまたFIFAによる厳しい追求、並びに、(内容によっては、という但し書きがつきますが)厳しい処分を求めることについては同意します。もしそれが忌むべき人種差別問題に関する話題ならば、公式戦(国際Aマッチのみならず、クラブも含む)への1年間出場停止でも甘すぎる、とは思うのですが……。





 さて、暗い話はここまでにして……今度は大会全体の総括です。


 1試合あたりの平均得点が2.29とこれまでの大会の中でも最も低く、全体的に守備の際立った大会だったと言えます(まぁ、中には競り負け率が群を抜いて高かったNo1FW枠にシュートを撃てない、実際はMFの資質の方が強いFWという、不甲斐ないことこの上ないツートップを軸にしていた、アジアの片隅で王様気取りだったチームもありますが……これはまぁ特殊な例と言うことで(笑))。


 これは、ひとえに戦術面の成熟が行き着くところまで行ってしまったからだろう、と言えます。


 フットサルチームの選手兼コーチなんかやってると実感しますが、組織・戦術練習に重点を置いていると、守備力はゴリゴリと向上します。しかし、攻撃力はある程度は上昇するものの、その成熟度合いはどうしても守備力のそれに比べると低調になってしまいます。


 素人の遊びといっしょにするな、と言うお叱りの声が聞こえてきそうですが……素人でも戦術面での約束事を決めたらある程度以上の効果を上げることが出来る、ということもまた事実です。ましてや、プロの中でも特に高水準な選手達にしてみたら、生半可な攻撃なんぞ通用するはずはありません。


 だからこそ、今回大会においてはミドルシュートでのゴールが特に目立ったと言えます。『プレッシャーがさほどでもない位置から、コースが見えたことで臆することなく放ったミドルシュート』で堅いDFの城塞をこじ開ける―― 開幕前には『ロナウジーニョの大会』になるであろう、と言われた今回大会が、終わってみれば『ファビオ=カンナバーロの大会』となり、個人による局面打開が綻びない組織の守備によって封じられ尽くしたと言ってもいい以上、しばらくの間は『ミドルによる一発』が攻撃の軸になり、それに+αが出来たチームが『勝てるチーム』チームとして各国リーグを席捲するだろう、と推察します。


 日本にそれが出来るかどうか―― 貪欲にミドルを放ち、足を止めることなく『その次』を狙えるか―― それが、次回南アフリカ大会での日本の浮沈に関わってくる、とは思っているのですが(笑)。










Ills 藤木俊




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