コラム〜『秩序を護る者、世界を変える者』〜UGNとFH


 DXの世界が基本的に『我々の世界にごく近い―― しかし、変貌してしまった世界』を舞台にしているということは、以前にも述べました。


 そして、世界を変えたもの―― 『レネゲイド・ウィルス』はオーヴァード(『衝動』に飲み込まれた“ジャーム”を含む)という変化・変質した人間を生み出すと同時に、世界の裏舞台に二つの巨大な組織も生み出しました。


 UGN、そして、ファルスハーツ(以下FH)という世界規模のネットワークを有する、この二つのオーヴァードの組織は、互いの目的のためにレネゲイド研究を進め、その技術をフィードバックすることで互いの組織に属する人員に支援を続けている、という点において両者は共通しています。


 しかし、UGNは変わらぬ人間性を保ち、、普通人との共存を実現するためにオーヴァードとしての力を出来るだけ発現しない方法を模索しているのに対し、FHはオーヴァードとしての力を存分に発揮し、それまでの秩序からかけ離れたオーヴァードによる新たな秩序を求めている、という具合に、目指す方向性が大きく違っています。


 まずUGNについてです。


 (DX2の世界での)13年前、アリゾナ州立大学の研究者だったアルフレッド・J・コードウェル博士が中心となって設立したUGN―― Universal Guardians Networkという組織は、レネゲイドウィルスに感染していない(感染していても、そのウィルスが非活性状態にある者も含む)普通人の世界に溶け込み、出来るだけその力を発現しない方法を模索しています。


 そして、その一点こそが、『オーヴァードとしての力を存分に発揮することで、それまでの秩序からかけ離れた新たな秩序を生み出すこと』を究極的な目的としているもう一つの『レネゲイドの鬼子』たるFHとの相違点なのです。


 そう書くと、『UGNは正義、FHは悪』という図式になりそうですが、UGNもまた単純に善悪で計れない部分を持っています。


 10年程前、レネゲイド・ウィルス、そしてジャーム化抑制の研究のために秘密裏にUGNとFHとが手を組み、その研究のUGN側の責任者に現UGN日本支部長・霧谷雄吾が就いていたという話は今となっては有名(詳しくは、富士見書房から発売されているDX2のリプレイ『ダブルクロス・オリジン3〜破滅の剣〜(富士見書房・矢野俊策/F.E.A.R.)』を御覧下さい)な話ですし、原則として中枢評議会(アクシズ)という強力な意思決定機関の命令によって動くことが前提としているため、ジャームの被害を食い止めるために、必要最小限ではあるものの、一般人への被害を見越した上での周辺の広域殲滅作戦を行わざるを得ないという、非情な部分も持っています。


 その非情さは時に暴走することもあり、その行き過ぎた非情さのために幾つもの悲劇が生み出され……そして、その悲劇もまた、他のオーヴァード絡みの事件のように世界から隠蔽されてきました。


 UGNを離反する者が後を絶たないことも、UGNに加入することで平穏な生活を実現できるものだという理想を抱いたものの、実際は裏の世界でFHとの抗争を繰り返し、なおかつ、巻き込まれてしまった一般人を『なかったこと』にまでしてしまうUGNの徹底した隠蔽体質と無縁であるとは言い切ることは出来ません。


 しかし、世界の裏側で日常を支えるUGNがあったからこそ、そして、その情報を徹底的に隠し通してきたからこそ、普通人達の日常は崩壊せずに来ているともいえます。


 UGNという組織は―― レネゲイドという荒波から人々を守る、暗い海の防波堤のようなものであり、レネゲイドを運悪く発症してしまったにも関わらず、なお『人でありたい』と足掻く者達にとって、か細い灯りを照らして道行きを示す、灯台のようなものなのであるといえるのです。





 続いてFHについてです。


 大々的なプロパガンダを行わないため、政治的、宗教的理念すらも定かではないこともあり、世界の裏面でのみ認知されるに止まっているこの組織は、その方針同様、組織形態も同じくオーヴァードの組織であるUGNと大きな隔たりを持っています。


 UGNという組織が中央評議会の命令を最優先に動くことを前提としている(だからこそ、『命令と感情との狭間で揺れ動き、その末に命令違反を行うエージェント』や、『命令を黙殺し「通信機器が壊れてしまったなぁ―― 復旧には暫く時間がかかりそうだ」と呟く支部長』といったシチュエーションにお目にかかることが出来るのですが)のに対し、基本的にFHという組織のエージェントは独自の判断によって動くことを旨としています。


 無論、UGNにおける中央評議会のような意思決定機関というべき存在はあります。しかし、UGNがピラミッド状の組織を形成し、命令通りに動くことによってスムーズな連携を行うのに対し、FHの場合は、基本的に意思決定機関であるセントラルドグマの命令を直接に受けたエージェントを中心としたセル(細胞、という意味)単位で行動し、最終的に目的を達成出来ればいいというスタンスを取っています。


 故に、彼らはその目的を達成するためにレネゲイドの力を思う存分振るい、理性を失うことをも厭わなければ、UGNと協力し、その力を利用することも何ら抵抗なく行えるのです。


 オーヴァードであることに絶望し、その力を忌み嫌うあまりに孤独になっていく『元・人間』に対して“その力を振るえばいい。欲望に逆らうな”と囁きかけるFHという組織―― オーヴァードが現世に呼び込んだ、悪魔の具象した姿なのかもしれません。





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