コラム〜『なぜなにダブルクロス』7・修羅の巷を避け…〜




黒岩賢介:今コラムの講師。


 モデルとして充分通用するだろ、という体格を誇る医師。


 しかし、その188cmの身長は主に真姫嬢の背凭れとして有効活用されているそうな(笑)。


黒岩真姫:今コラムの受講生。


 兄君曰く『甘えん坊姫将軍』。


 まぁ、兄上様を背凭れとして有効活用してる時点で、否定材料はありませんな(笑)。


ぽぷら:今コラムの受講生……の飼い猫兼端末。


 白地に薄茶のトラ縞が入った美猫さん。


 黒岩さん家の飼い猫であり、真姫嬢の《アニマルテイマー》の端末としても活用されることとなったが、リアクションの数々から類推するに、端末であろうとなかろうと多分絶対ヒアリングは完璧だと思われる利発な娘さん。


 つか、真児を差し置いてここに名を連ねるとは……ノリとは恐ろしいものである(ノリかよッ?!)。


ディック・W・アーヴ:今コラムの受講生。


 シルバーブロンドに青い瞳、という、一見すると芸能人としても通用する外見を得るに至ったアイリッシュ系アメリカ人。


 『一見すると』という言葉が何を示すのか……ご理解いただけると、ワタクシ、本当に嬉しい(笑)。


橋尾晃太:今コラムの受講生。


 前回のコラムで傍若無人さを部外者に指摘されて、限りなく凹み中な若人。


 一皮剥けるか、それとも剥ける前に殉職するか……俺もまだ決めかねております。いっそ、ダイスの神様に委ねようかなぁ?


 ……と思ったが、そう言えばブラックドッグのエフェクトにいいエフェクトがあったなぁ(にやり)。





 UGN藍空支部の情報部の一室で、手にしていた一つのメモリーチップをPCに挿し込む一人の少年の姿。


 いつもの浮ついた笑顔はそこにない。


 画面に現われる情報の数々には目もくれず、ひたすらに何かを探すその眼光は、半ば狂気にも似た妄執すら感じさせる。


 何かを見出したのだろう―― 真剣な面持ちでメインフレームにアクセスを続けていた少年―― UGN藍空支部の戦闘部隊に所属するUGチルドレン・橋尾晃太は、キーボードを操作した後、Enterキーを押した。





ディック:晃太の奴、いつもと違うな。


真姫:そうですね……ちょっと怖いくらいですね。


ディック:やっぱり、武田さんの説教が効いたのかな?


賢介:いや……ちょっと違うかも知れないな。


真姫:……?違う、というと?


賢介:いや、晃太が落ち込んでたのは間違いない。だけど、キーボード捌きといい、無駄なく落ち着き払った振る舞いといい、何というか、晃太らしくない―― ちょっとやそっとの説教で変わるような奴じゃないだけに、な。





 その違和感に腕を組んで首を傾げる賢介をよそに、晃太はメモリーチップを抜き取ったかと思うと席を立つ。





晃太:俺も説教一つぐらいで変わる心算はねーっスよ…………それはそうと、ちょっと霧谷さんのところに行って来ますわ。何かあったら、携帯に連絡入れてもらっていいっスか?


ディック:……お前なぁ!





 若さ、という一言で片付けるにはあまりに神経を逆撫でする物言いに流石にディックも口調を荒げる。


 だが、その声を聞くより早く、晃太はその姿を消していた。





賢介:……《砂隠れ(渦巻く砂に紛れる、壁や床をすり抜ける等してシーンから即座に退場するモルフェウスのエフェクト)》だと?


 やっぱり、らしくないな。


真姫:どうかしたんですか?


賢介:いや―― 晃太の性格からして、逃げを打つようなエフェクトを修得するようなこともなかったのに、ああして『退場エフェクト』に分類されるエフェクトを使うってこと自体が、あまりにらしくないんだよな。


ディック:そう言えばそうだなぁ。あいつは戦闘以外にも潜入・破壊工作・情報系のエフェクトは持ってたけど、退場エフェクトなんて持ってなかったからなぁ。


真姫:……やっぱり、ああは言ってもこの間のことで思うところがあったんじゃないんでしょうか?


賢介:そうは言っても、ここでどうこう言ってても仕方ないことだし―― 第一、霧谷さんのところに行く、と言ってたしな。


 ぽぷら、頼まれてくれるか?


真姫:あ、《ハンドリング》ですね?


 じゃあ、私からもお願いね、ぽぷら。


ぽぷら:にゃあ・w・ミノシ(前足をリズミカルに振った後、忽然と姿を消す)。


賢介:という訳で、今回も変則的な形になるけど、戦闘で使わないようなエフェクト……所謂一般エフェクトについての実践的な使い方を踏まえつつの講義を行うことにしよう。


 まず第一に、今真姫が使った《ハンドリング》や晃太の使った《砂隠れ》のような、『登場・退場』系のエフェクトがあるな。


 本来、シーンに対する登場や退場のタイミングはGMが管理し、時にはシーンプレイヤー以外のPCがタイミングよくその場に現れることが出来るかを判断するために、場の状況に応じては<情報:○○>による登場判定を行わせたりすることもあるんだが、登場エフェクトを持つことでプレイヤー自身がそのタイミングを管理することによって、単独で敵に遭遇した仲間のピンチを打開したり、シーンを離脱することで、単独で戦わざるを得ない状況を回避したりすることが出来るというのはメリットとしては充分だな。


ディック:確かにそうだよね。逃げを打つ、といえば言葉は悪いけど、情報を収拾する、という方法論から言えば、直接潜入して情報が収拾出来たり、危険が迫るとともに離脱が出来るというのは大きいメリットだからね。


賢介:ぶらざーの言う通りだね。流石にUGNアメリカ時代の『帰還者(リターニングマン)』の異名は伊達じゃない(笑)。


真姫:そういえば、ディックさんとあにさまはあにさまが留学中の頃に知り合ったんですよね。


 うーん、わたしの知らないあにさまを知っているっていうのが羨ましいような……複雑な気分です。


賢介:ま、まぁその辺は講義とは関係ないんだけどな;■x■)


 それはいいとして、戦闘で使わないエフェクトというものには、登場や退場するためのエフェクトの他にも登場した時に使うものもあるな。それは何だと思う、真姫?


真姫:情報収集の時に使うエフェクトがありますよね?わたしで言うと《地獄耳(自らの領域を拡大することで、広範囲に渡っての情報を引き出す(<情報:○○>の判定においてLv×2個のダイスボーナスを得る)、オルクスのエフェクト)》のような。


賢介:そうだな。とは言っても、情報収集エフェクトには<情報:○○>を介さないエフェクト……ブラックドッグの《タッピング(電波を傍受したり、通信回線に直接アクセスすることで情報を得るエフェクト)》やエグザイルの《異能の指先(対象に直接触れて神経を接続することにより、その記憶を読み取るエフェクト)》―― あっ!?


ディック:ど、どうかしたのか、ぶらざー?!


賢介:《サイコメトリー(物品の記憶を巻き戻し、読み取るモルフェウスのエフェクト)だよ!晃太の奴の雰囲気がいつもと違ってた理由!!


 今からあいつが調べてたデータの履歴を当たってみるけど……俺の予想が正しかったら、最悪な事態になりかねないぞ!


真姫:急にどうしたんですか、あにさま?


賢介:面識がなかったぶらざーと真姫が知らなくても当然だけど―― 黒崎だよ。あいつの立ち居振舞いが、妙に黒崎に似てたんだ。


 最悪の場合、《サイコメトリー》を使うことで晃太辺りにメモリーチップの中に偽装していた洗脳プログラムを読み込ませて、自分自身の記憶をダウンロードさせるなんてことも、ない話じゃない。


 差し当たってはぽぷらに任せるしかないけど、念のためにぶらざーも現地に向かえるように準備をしておいてくれ!


ディック:わ、判った!





 急激に慌しさを増す藍空支部情報部―― その中心で、つい先ほどまで晃太が前に座っていたPCを起動させ、目まぐるしいキーボード捌きでデータを掘り起こす賢介。


 その発想の大元にあるものがノイマンのエフェクト《暗号解読(暗号を解読するとともに、物事に対して何らかの隠れた情報がある場合、『何かがある』と直感的に感づくことが出来る)》であることを説明する時間すらも惜しみつつ、メインフレームにある膨大な情報からアクセス履歴のあるものを抽出するその姿に、事態の緊急性を見出したディックと真姫は、今意識を向けるべき場所を知る。





 それは―― UGN日本支部、支部長室。





 UGN日本支部


登場ゲスト:『リヴァイアサン』霧谷雄吾


 緊張感、そして静謐―― そう呼ぶに相応しい気配を漂わせるUGN日本支部の廊下に、ドアをノックする音が響く。


 静寂を破る高い音から4秒。柔らかな応えの声が響く。


 それに応じ、ノックの主は、緊迫感を漂わせた声音を上げた。





晃太:―― 橋尾晃太、入ります。


霧谷:珍しいですね、晃太くん。


晃太:霧谷さんに直接訊いておきたいことが、一つ出来ましたからね。


霧谷:いや、珍しい、というのは、あなたがらしくないぐらいに妙に落ち着いている、というところにあるんですけどね―― そう、むしろかつての黒崎さんのように、ね。





 黒崎―― 唐突と呼ぶにはあまりに出来すぎたタイミングで霧谷が告げたその名に、狭くはない支部長室の空気が急激に張り詰めたものに塗り替えられる。





物陰に隠れているディック:(びくっ!!←驚いた)


ぽぷら(の眼を通して物陰からそれを見る真姫):き、霧谷さんっ!それはあまりにストレートすぎますっ(ぼそぼそ)!!


晃太:やっぱり、判りましたか。


霧谷:ええ。なんだかんだ言っても、あなたが黒崎さんを尊敬していたことは充分承知していますよ。だからこそ、黒崎さんが裏切った時にはあれだけ怒りを露わにしたのだし、居なくなり、彼が遺した何かに触れた今だからこそ、彼の意志を受け継いで背伸びをしようとしている―― そう言ったところですか?


晃太:ぶほっ(←咳き込んだ)!せ、背伸びまで言いますか(苦笑)。


霧谷:当然です。いくら尊敬してるからとはいえ、あなたに彼の真似は似合いませんよ(笑顔できっぱり)。


 というわけで、片意地を張るのは止めてあなたらしくどうぞ?


晃太:や、やっぱり霧谷さんには敵わねぇなぁ(汗)。


霧谷:ははは、当然ですよ。私も伊達に日本支部を統べているわけではありませんし、洗脳されているか、単に無理にキャラクターを変えようとしているかの判断もつきます。当然、それを心配して物陰で確認をしているかどうかも判るというものです。


 ―― という訳で、あなたたちもどうぞ?


ぽぷら:に、にゃー ;・w・ミ(こそこそ)


ディック:い、いつ頃からッ?!<隠密>には自信があったのにっ!!(こそこそ)


霧谷:はっはっは、それは聞かない約束ですよ(笑顔)。


晃太:聞くだけ無駄っスよ。霧谷さんって、どうでもいい話題で煙に巻くことに関してはDXでもトップクラスの能力持ってるっスから(ぼそぼそ)。


ディック:理解したッ!それは今、力いっぱい理解したッ(ぼそぼそ)!!


ぽぷら(を経由しながら真姫):で、でも心配したんですよっ!!あにさまも『晃太くんが黒崎さんに洗脳されたかもっ!』って慌てて晃太くんが調べてたデータを洗い直しているんですからっ!!


霧谷:大丈夫ですよ、如何に黒崎さんとはいえ、余程の仕掛けがない限り、晃太くんほどのオーヴァードを洗脳するような真似は出来ませんからね。


 薬物による催眠や精神支配を行うエフェクト……所謂洗脳エフェクトを持っているオルクスやソラリスが協力しているのならば話は別ですが、日にちも経ちすぎていますからね、こればかりは賢介さんの取り越し苦労ですよ(笑顔)。


晃太:あー、まーそこについてはスンマセンした。この前武田さんにやり込められたから、黒崎さんについて徹底的に調べ上げて、そのやり方を一切合財コピーしようかなって思っちまったんスよ。やっぱり、俺にとって一番身近な『大人』って言ったら、黒崎さんだった訳っスからね。


 で、《サイコメトリー》使って、黒崎さんの遺したデータを調べてたら気になることが判ったもんで、このメモリーチップに残ってた“黒崎さんの記憶”とちょっと深めに同調して、その記憶を巻き戻してみたんスよ。





 そう言って晃太が胸ポケットから取り出したメモリーチップ―― それは、かつて黒崎が自らの裏切りを明かした際、その執務室に仕掛けていた時限爆弾内に組み込んでいたメモリーチップであった。





晃太:まさか単独では意味をなさない―― 必要な情報をメインフレームから引き出して、結合させることでようやく意味をなすプログラムを混入させるだなんて、思いもしなかったスよ。ましてや、俺が《サイコメトリー》を使うことを―― あの人が裏切ったことを知った直後の俺だったら真っ先に飛び出して行くだろうから、あの場では誰も真相にまで届かないだろうことまで見越してそんなフェイクを仕掛けるだなんて面倒なこと、考えつく方がおかしいっスよ。


霧谷:なるほど……黒崎さんらしい、先を読んだ仕掛けですね。


ディック:で、そうまでして黒崎はなにを遺してたんだ?


晃太:資料っスよ。


 ジャーム化しないオーヴァードを生み出すための研究だった『プロジェクト・アダムカドモン』と、レネゲイドの結晶である<賢者の石>の究極のものを生み出す―― 今現在真琴の奴が巻き込まれている『プロジェクト・ジュエルボックス』。そして、その二つの研究の大元になってた旧軍時代の『ち9号』計画……ナチスドイツからの技術供与で始められた『超人兵士計画』―― この三つの研究を、黒崎さんが推論込みで纏めてた資料っス。


ディック:……その資料っていうのは、一体どんな内容だったんだ?


晃太:プロジェクト・アダムカドモンってのは大まかに言えばロイスを持たず、その代わりに複数のDロイスを持つことで、一度に得ることの出来るロイスを全てDロイスで埋める―― そんな研究になっていったんスよ。


 そんで、最終的には能力を制御し活用することに適した特殊な<戦闘用人格>を封入し、固定した<賢者の石>を<秘密兵器>として調整して埋め込む―― 10年前に計画がポシャった時点ではそういった段階にまで行ってたらしいんスよ。


 もう片方の、プロジェクト・ジュエルボックスはというと、賢者の石の持ち主同士で殺し合い、淘汰することで究極の域にまで純度を増した賢者の石を作り上げる計画―― どっちの計画にも『賢者の石』って共通点がある。


 で、『超人兵士計画』っていうのは恐らく、アダムカドモンの到達点である“ジャーム化することのない兵士”に、ジュエルボックスで生み出した“究極の賢者の石”を埋め込むこと―― これが黒崎さんが導き出して、真琴のヤツに知らせないように隠してた推論っス。


 という訳で、プロジェクト・アダムカドモンのUGN側の責任者だった霧谷さんに聞かせて欲しいんスよ―― プロジェクト・アダムカドモンの被検体……元“クラウ・ソラス”としてね。


 ―― 何故俺と真琴を……アダムカドモンの生き残りとジュエルボックスの生き残りとを近づけたのか……それが『聞きたいこと』の一つっス。





 晃太の語り口が、視線に纏わりつく殺気が、押さえ込むかのような静けさを維持したまま僅かに重みを増す。


 無手でありながら、得物を携えているかのようなその視線を受け止め―― 霧谷は溜息を一つ吐いて、応じた。





霧谷:出来ることなら、知って欲しくはありませんでした。しかし、あなたがプロジェクト・アダムカドモンについて知り、あなたの中に微かに息づく“クラウ・ソラス”という存在を知ったからには、教えないわけにはいきませんね。


 10年前、プロジェクト・アダムカドモンが実験体“ダインスレイフ”―― 高崎隼人くんの暴走によって研究所ごと崩壊したのとほぼ同時期、藍空市に程近いFHの研究所に対してUGNの戦闘部隊が攻撃を仕掛け、一人の少年を保護するに至りました。


 その少年が羽鳥真琴くんです。


 “ダインスレイフ”だった隼人くんによって右腕を斬り落とされ、瀕死の重傷を負ったあなたと真琴くんが収容された医療施設で出会ったのが偶然なのか、それとも因果なのかは判りません。ですが、源流を同じくし、互いに共鳴する危険性の強い研究の落とし子であるあなた達を敢えて引き離さず、同じ育成機関で育てるように指示したのは私です。


ディック:……万一の際にはどちらかがもう片方をカウンターとして処理―― いや、もっと言えば、両者が暴走した場合、二人纏めて処理出来るように……そういうことかな?


真姫:そんなっ!?


霧谷:(重く頷き)有り体に言えばそうです。しかし、今ここに至って私の判断は別の意味で間違いであった―― そう確信しています。


 真琴くんも晃太くんも、互いに過酷な経験を背負った末に記憶を喪ったにも関わらず、それを受け止め、補い、そして支えあい……この10年で強固な絆(ロイス)として結びつけあうに至りました―― 私達が危惧していたような、どちらか片方の暴走に引き摺られての共倒れという危険も、片方が暴走した際に殺しあわせなければならないという不安――この二つを埋めるにはあまりに充分なものを、ね?


晃太:組織の長って割に……思ってたよりも甘いんスね。


霧谷:そうとは限りませんよ?もしあなた達が衝動に飲み込まれ、ジャームとなってしまうようならば、全力を以って当たる覚悟は持っていますし、あなたか真琴くんのどちらかが暴走した場合、生き残っている側に命令を下すことも躊躇いません。


 いざという時にはともに血を流す覚悟を持っているからこそ、出来るだけ血を流したくないし、流して欲しくない―― つまりはそういうことです(笑顔)。


ディック:よ、よくよく聞いたら情けない台詞だけど、それをここまで堂々と言い切れるのもまた凄いな(汗)。


霧谷:はっはっはっ。やっぱり私もオーヴァードとは言え、痛いのは嫌いですから(満面の笑み)。


晃太:(同じだッ!この二人、根っ子は殆んど同じだッ!!)


ディック:気持ちは判らなくはないが、そういった部分は見せない方がいいと思うぞ、組織の長として?


霧谷:いやぁ、耳が痛いです(笑顔)。


晃太:(つか、前に同じ事言ってたのにディックさん気付いてねぇッ?!)


霧谷:では橋尾晃太くん……こちらからも一つ聞かせてもらっていいですか?


 黒崎さんに対しての敬称をつけ直した理由はなんですか?


真姫:あ……そういえば。


晃太:別に大した理由でもないっスよ。ただ単に、俺らを裏切ったくせにいいカッコして支援情報なんか残してやがったのがあまりにもあの人らしいモンだから、いちいち裏切り者らしい呼び方をするのも馬鹿馬鹿しく思えてきたんスよ。


 信じられますか?手間掛けて隠してた複合データのファイル名がよりによって『支援情報』スよ、『支援情報』!!自分が裏切り者だって自覚していながら、真琴の情報を『マスターレイス』に流れないように細工するわ、俺が生き残って複合データを再構築するのを見越して、真っ先に『落ち着いてよく読め』なんてソース残すわ……裏切っているってのに未だに俺らを指揮しようとしてるよーな人を、裏切り者らしく読んでやる義理はない……それだけの理由っスよ。


ディック:(ニヤニヤ)


晃太:……何スか?


ディック:いーや、別に(ニヤニヤ)?


霧谷:そうですよ。別に何の問題もありません。ただ、あなたのその態度で、あなたの黒崎さんに対しての感情が、極端に拒絶するでなく、かといって傾倒しすぎることもない、以前のものに戻ったことが確認出来た、それだけです(にこにこ)。


真姫:(笑顔)


晃太:なーんか釈然としないけど……いいや。これ以上引っ張ってもろくなことなさそうだし。





 言葉とともに少年はがっくりと肩を落とす。


 張り詰めた空気は、既に跡形もなく消え去っていた。





 再び、UGN藍空支部


晃太:どーも、ご心配お掛けしてスンマセンしたッ!!


賢介:よう、ツンデレ少年(笑顔)。


晃太:やかましいッ(両手剣練成後、斬り掛かる)!!


賢介:何すんだいきなりッ!いきなり斬り掛かるとは穏やかじゃないな(はっし、ぎりぎり←受け止め、鍔迫り合い)!!


晃太:戻ってくるなりンな応対するよーな奴に遠慮も慈悲も無用ッ(ぎりぎり)!!


賢介:ツンデレ少年をツンデレ少年と呼んで何が悪いツンデレ少年ッ(ぎりぎり)!!


真姫:あにさま(にゅっふり)?


賢介:ごめんなさいゆるしてくださいもうしませんはんせいしてますほらわんってなきますからにゃーにゃーにゃー(恐慌)。


ディック:ぶらざー(ジト目&汗)。


賢介:冗談はいいとして…だ。霧谷さんのところに行った時、話す心算じゃなかったことまで話してしまっただろ?


晃太:あー、そう言えばそーっスね。最初のうちは問い質すだけの心算だったのに、余計なことまで喋っちまったよーな気がするっス。


賢介:やっぱり……明らかに《錯覚の香り(<交渉>の判定に対してダイスボーナスを得ることが出来るソラリスのエフェクト)》だよ。しかも、狙ってやってるんじゃなく、素でGM力使ってやってる節があるからタチ悪いんだよなぁ、あの人は。


真姫&ディック&晃太:……あ゛


賢介:しかし……行かなくてよかったよ、俺も。下手に行って水を向けられてたら、余計なことまで話しかねないからなぁ。


ディック:……余計なことって言ったら、やっぱり女性遍歴?


賢介:ぶらざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?


真姫:あにさまの場合は天然でやっていますからねぇ(既に諦めの境地)。


賢介:_| ̄|○ い、妹よ……この冤罪に苛まれる哀れな兄を弁護してくれないのかい(滂沱)。


 ま、まぁ気を取り直して―― かなりバタつきはしたけど今回の講義の締めに行こう。


 戦闘で使うことがないエフェクトを大まかに分けた場合、『登場・退場』と『情報収集』の二つに分類することが出来る。


 特に、情報収集に関しては<情報:○○>や各種<情報>の代用エフェクト、そして、<交渉>を有利に働かせるエフェクトや、入手した情報をプレイヤー自身が精査し、推論立てることでその効果を最大限発揮することが出来る《インスピレーション(1シナリオにつき[LV]回、『Yes/No』形式でGMに対して質問が行えるノイマンのエフェクト)》や、古代種専用エフェクトの《デジャ・ヴュ(1シナリオにつき3回、GMに対して疑問点についての質問が行える古代種のエフェクト)》等を駆使することで数多く、そして正確な情報を得ることが可能になってくる。


 ミドルフェイズで情報を出来るだけ多く収集し、それに応じた対処をすることで、クライマックスフェイズでの状況を少なからず有利に持っていくことも出来るから、情報収集のためにも、戦闘に特化するばかりでなく、出来るだけ幅広いエフェクトを修得する事をお勧めするぞ。


真姫:でも、情報収集に使い易いエフェクトが少ないシンドロームもありますよね?


賢介:確かにそれはあるな。特に、戦闘に特化したシンドローム……キュマイラ、サラマンダー、バロールの三つなんかは殆んど情報収集パートでの活躍を諦めた方がいいぐらいだ。


 まぁ、それでもどうにかする方法もないではない。


 『演出効果』という普通のRPGでは使うことがないであろうテクニックがその方法にあたるんだが、これに関しての説明はあまりに難しいので、次回の講義のテーマにしよう。


 王子が言うには次回は通常講義に戻すとの事だ……通常講義も久しぶりだな。


晃太:……単にこれ以上シナリオのネタバレ展開続けたくないだけだろ?





 ――でっけーお世話様だ、罰当てるぞコラ。





真姫:お、落ち着いてくださいすがたけさんっ(わたわたおろおろ)!













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