日報バインダー1









表紙:我聞、ハンマーを手に決めポーズ




折り返し:藤木先生の似顔絵。『はじめまして』の挨拶




折り返し・裏:小ネタ四コマ漫画。『モニター用カメラ』






第1話 ようこそ工具楽屋へ




「工具楽屋二十五代目社長……工具楽我聞!! 突 貫」




 解体を待つばかりの一棟のマンション。だが、解体現場は一つのトラブルに見舞われていた。


 爆破解体に必要な発破が柱一本分足りないという不測の事態に、若い秘書・國生陽菜は補充の発破が届くまで待機を指示するが、これまた若い『社長』が「発破代も馬鹿にならないから」と自らのハンマーで発破の代わりを果たすことを宣言。「危険だから止めろ!」と止める作業員に、國生は「社長の決定をくつがえせる程の権限は私にありません。秘書ですので」と、冷静にきっぱり宣言……遠隔爆破の実行キーを押す。

 発破に点火され、『社長』……工具楽我聞の待つ柱以外が基礎部を縦長の“コ”の字型に破壊され、次々に吹き飛ぶ。点火と同時に振るわれた我聞の大型ハンマーは各柱に付設された発破二本に比するだけの威力を発揮し、柱を破壊。破壊と同時に間髪入れずに脱出を計る我聞だが、現場の横に立てられた防音・防塵壁を一跳びで乗り越えた我聞の足元には……国産高級車のボンネットが待ち構えていた。



 移り変わって次の日、神奈川県立御川高校2年5組では、夏服に身を包んだ我聞が周囲の賑やかさと正反対の難しい顔を見せている。我聞の親友、中村佐々木が神妙な顔で唸る我聞に何があったのかと尋ねると、我聞の差し出したものは20万円の請求書。糸目も飛び出す佐々木と冷静に「何やらかした、お前」とため息交じりに尋ねる中村。ボンネットをへこませた経緯をかいつまんで話した上で「だが、へこたれるワケにはいかん!なぜならオレは…社長だからな」と力説する我聞に、親友二人は口を揃えて「お前が動かない方が利益が出るのでは?」と突っ込む。


 そこに隣のクラスから我聞を尋ねてきた女子生徒―― (株)工具楽屋の秘書であり、経理も兼任している御川高校2年6組の國生であった。我聞に放課後のスケジュール伝達をするが、國生陽菜ファンクラブ会員No1を自認する佐々木は國生が我聞の秘書であることを、我聞と神に怒りの涙を交えて抗議。我聞の周囲で大騒ぎが始まるが、國生はその光景に落胆とも不満ともつかない表情を覗かせていた。



 そして放課後、2階建てプレハブの工具楽屋の事務所で第一に我聞を待ち受けていたのは、現場と経営を取り仕切る社の生き字引、専務の中之井千住の説教であった。久々の大口の仕事であった前日のマンション解体の利益を吹き飛ばす20万の出費に怒り心頭の中之井の説教は延々と続くが、工具楽屋の技術部長・森永優が制服からスラックスに着替えた國生とともに登場、中之井の怒りを静めるべく我聞に助け舟を出すが、國生は一言でその助け舟を沈めにかかる。そこに依頼者を伴って帰社してきた営業部長・辻原螢司が登場、「お仕事の依頼です」と告げた。



 依頼者は新人の内閣調査室付調査官・西青海。西と名刺を交わす國生の姿に、我聞も名刺を探すが……名刺を持たないため、生徒手帳を代わりに堂々と提示する。高校生が社長という事実に対してあからさまに不安を顔に出す西に対し、日頃の無表情とは正反対の営業スマイルを見せる國生。その笑顔に引き込まれ、西は依頼内容を告げる。




 山中の小さな倉庫をアジトにする窃盗団の壊滅……それが西の依頼であった。とある研究所で軍用に試作されたナイフを使用して、爆弾でも破壊できない強化ガラスを切り裂き、大量の貴金属や宝石を強奪した窃盗団のメンバーは仕事の成果に満足し、油断しきっていた。それを遠方から監視する工具楽屋の面々と西……ここからが工具楽屋の『本業』の開始の時間である。



 一般には伏せられている工具楽屋の『本業』……それは、政府や企業が手を出せないもの、もしくは隠密裏に壊したいものを破壊することであった。だが、実行部隊はハンマー一本と優製作の手榴弾タイプのスタン弾五個を携えた我聞一人だけ。当然ながら不安を明らかにする西であったが、営業である辻原は「社長の名は伊達ではない」と言い切る。しかし、指揮車でもある2t箱トラックの中で場当たり的に作戦を決めるサポート担当の三人に、西は一層の不安を掻き立てられる。


 西の不安とは関係なく、國生は倉庫の裏に立つ我聞にそこから進入するよう指示。指示に従った我聞はハンマーを振るって壁を破壊……虚を突いて一気に制圧しようとするが、三、四人という西からの情報と異なる、十人程の窃盗団の姿に一瞬目を点にする我聞。その隙に気を取り直した窃盗団からの一斉に放たれた銃弾に慌てて身を躱す我聞はスタン弾に思い至るが、一発10万という工具楽屋の予算には贅沢すぎる兵器を使うわけにはいかない、と思い直す。


 しかし、その思いも虚しく、服にピンを引っ掛けて自爆しそうになった我聞は、焦りながら倉庫内にスタン弾を投げ込んだ。


 流石に優特製の兵器、しっかりと効果を出してはいたが、有効範囲外にいたのかボスであるスキンヘッドには通用せず、スキンヘッドは件のナイフで反撃する。我聞に躱され、勢い余って打ち付けられたコンクリを豆腐のように切り裂いたそのナイフを回収することが西の目的であったが、情報の遅れに加えて依頼の目的を明かさなかったことに対して中之井の怒りは瞬間で頂点に達した。


 一方、ナイフに長けたスキンヘッドの攻撃をものともせず、ナイフを持つ右手を蹴り弾いた我聞は、弾き飛ばされたナイフを拳の一撃でへし折る。その剛腕にひるむものの、懐からさらにナイフを取り出そうとするスキンヘッドだが、その右手は手首から本来とは逆に垂れ下がっていた。


 我聞のヘルメットに内蔵されたカメラからもたらされたその光景に驚く西に対して説明する辻原。



 工具楽一族は、人を超えるべく鍛えられた術……究極の身体コントロール術・仙術より生まれた破壊の技を持つがゆえに工具楽屋の社長となるのであり、我聞もまたその素手による破壊の技を持つがゆえに工具楽屋の社長であるのだ、と。


 打撃の瞬間に相手の間接部に質量を伴った氣を送り込み、相手の関節を無理矢理外す工具楽の技、『解・穿功連撃』を打ち込み、スキンヘッドの全身の関節を外した我聞に評価を改める西。西は工具楽屋への信頼を抱いて立ち去るが、中之井や國生は新米社長である我聞に対してまだ満足いかない様子。我聞自身も社長としてはまだまだ未熟であることは自覚しているものの、その頑張り所のポイントはやっぱりどこかずれており、中之井や國生の気苦労はどうやらそうそう解消されそうにない。


 その光景に目を細め、事務所の外で一息つきながら辻原は「ともあれ今日は一日お疲れ様です。明日も一日頑張りましょう」と月夜の下、呟いた。


 そして恐らくはその『明日』、折れたナイフが突き立った宝石を手にした西が工具楽屋に―― 「弁償?」と尋ねる我聞に対し、國生は簡潔に「弁償です」と答えるのであった。




 藤木先生の盟友であり、今現在サンデーの看板の一翼を担っている松江名俊先生の『史上最強の弟子ケンイチ』と同じく、サンデー増刊からの転載を果たした『こわしや我聞』の第1話。シナリオ進行も、週刊からの新キャラである『陽気なマッドサイエンティスト』こと優ねーさんがいる以外は増刊掲載時の第1話とほぼ同じという非常に安定した内容なのだが、いかんせんシリアス4:ギャグ6くらい、という比率なため、ツッコミどころはやっぱり多い。我聞が銃撃受けてるときにも一人だけ石投げてるバカチンいるし、塵も積もれば山となる、ということわざを「チリのアンデス山脈もそれです!」とボケに変化させてくれた中之井さんもいるし。


 その中でも最大のツッコミどころは優ねーさん特製のスタン弾であろう。なにせ、手榴弾タイプでありながら広範囲に20万ボルトという強力な電粒子を放出する優れもの……



 ……って、プラズマ兵器か荷電粒子兵器かよ!?



 一発当たりたった10万という低予算でそんなものを作り上げることが出来る優ねーさん、アンタ何者ですか?一歩間違えれば“ブリューナクの槍”搭載のアドヴァンスドARMSでも作りかねんぞ、この人。恐らくこれに匹敵するのは、製作予算2千円足らずで赤外線発射装置(本人は殺人光線発射装置を作ったつもりだったが)を作った『究極超人あ〜る』の成原成行博士くらいしかいないだろう。うーむ、なんにせよマッドの信念、世界の法則にも勝つ……か?



 あと、増刊連載時にはまだもうちょっと柔らかかった筈の國生さんがむちゃくちゃ冷たく固くなっとる。まぁ、このアイスドール國生陽菜さんが鍋物のような工具楽家の面々や工具楽屋の仲間たちにじっくりコトコト煮込まれて柔らかくなる過程を楽しむのが読者の醍醐味であり、その過程をどのように描くのかが藤木先生の腕の見せ所なんで、その辺は別段気にすることはないだろう。



 それと、個人的には舞台が増刊では『鹿児島県三川市』だったのが、週刊から『神奈川県御川市』になってるのがちょっと悲しい。ファンタジスタといい、俺フィーといい、俺も九州人であるため、九州の香りがする作品はやっぱり特別なのだ。




第2話 大切なモノ




「ブッ壊そうこの金庫!工具楽屋の名にかけても!!」




 今日も賑わう朝の校門前、工具楽屋の社員でもあると同時に県立御川高校の2年生でもある我聞と國生はともに登校する。


 國生にスケジュール確認がてら目立たないようにと釘を刺される我聞であったが、隣同士のクラスであるため合同で行われていた体育の授業で、國生の注意とは裏腹に、クラスメートにおだてられ、昼飯を賭けた跳び箱勝負に駆り出された我聞は気合を入れすぎてしまい……仙術を暴発させてしまう。結果、そのことでやっぱり今日も中之井に説教を受ける我聞だが、異能のエキスパート集団・工具楽屋の社長……仙術使いとなってからまだ三ヶ月と未熟であることが最大の要因であるため、我聞は早く一人前にならねば、と、自分の前に社長に就いていた父親へと思いを馳せつつ決意を新たにする。そこに辻原が現れ、本業の依頼が入ったことを告げるが、その対象が破壊においては最も厄介な対象物である『金庫』であることを示唆する。



 そしてやってきた不破信用金庫。ここの大金庫に金庫破りに入った機密専門の情報盗賊 『ヒゲブラザーズ』は、肝心のカードキーの管理が杜撰だったこともあり、いともたやすく金庫破りには成功したものの、弟がカードキーを持ったまま金庫に入り、うっかり扉を閉じてしまう―― その金庫を壊し、閉じ込められてしまった弟の身柄を警察より先に確保することでその情報の無駄な拡散を防ぐのが今回の西の依頼なのだが、國生は「この依頼、お受けできません」と突っぱねる。先代なら素手で破壊できたであろうが、我聞は未熟であるためそれは不可能だ、というのがその理由であり、高額の追加料金を払って破壊工具を使用するしかない、と西に交渉を持ちかける國生。その金額に西は二の足を踏み、それならば仕方ない、と立ち去ろうとする工具楽屋の一同に、西はこのままでは中の酸素がなくなる、と訴える。



 西の言葉に工具楽屋の五人は顔色を変えるが、國生は仮面を被り直したかのように表情を元に戻し、それでも確実な約束が出来ない以上は受けることは出来ない、と再度の交渉に移ろうとする。そこに騒ぎを聞きつけた支店長が外出先から帰社…「犯罪者などは助ける義理はない!そこの娘の方が話が判る!!」と、國生の交渉を曲解して居合わせた面々を追い返そうと躍起になる。だが、言葉を曲解され、國生が氷の表情を曇らせたその時、國生の脇をすり抜け、金庫室に続く扉の前に立ちふさがった支店長の横に飛び込んだ我聞が扉をハンマーの一撃で吹き飛ばし、言い放つ。



「命より大事なものはない!だろ?國生さん!」この言葉で各々動き出す工具楽屋の面々。國生も「……仕方ありませんね、社長の決定ですし」と言い訳じみた一言を安心したかのような表情とともに吐露する。時間と金庫……二つの厄介なものに挑む工具楽屋の戦いが、始まろうとしていた。





 あらすじの方ではなるべくギャグは抑え目に書くつもりでいるんだけど……この情報屋兄弟の場合、捕まり方も捕まり方な上、名前からしていきなり『ヒゲブラザーズ』だもんな。抑えるのは無理に決まっとる。でも、今回は存在そのものがギャグなヒゲブラザーズがいたせいか、全体的にストーリーと一切関係のない、所謂ネタは少なく、せいぜい我聞と優ねーさんが裏口から銀行に入る際につけてたほっかむりくらいしかネタらしいネタがないのがちょっぴり残念。



 國生さんの最後の一コマの照れ隠しっぽい表情が見れたのが、最大の収穫といえるかもしれないな、今回は。





第3話 あきらめるな!




ウム、それでは……突貫じゃ!」




 ハンマーを手に金庫に対峙する我聞。やらせまいとする支店長を尻目に、我聞はコンクリの壁を難なく壊す穿功撃によるハンマーの一撃を見舞うが、傷一つ入れることも出来ず……手を痺れさせただけで終わった。『素手で金庫を壊す男』の噂を伝え聞いていたために金庫を壊されるのではないのか、と心配していた支店長はその様に意気を取り戻す。



 諦めずに再度挑戦しようとする我聞だが、辻原は「社長の氣の練りでは頑丈な人工物には通用しませんよ」とその再挑戦をきっぱり無駄と切り捨てる。西らの計算ではもう金庫内の酸素は残っておらず、西は絶望に顔を青ざめさせるが、指揮車に戻り、スパイ衛星をハッキングした國生はまだ反応は残っており、恐らくは20分はもつであろうという試算をもたらす。同じく指揮車で検索に当たっていた優も構造上の弱点を割り出し、中之井と我聞は『破壊工具』の準備に取り掛かる。準備に走り回る我聞や機械の組立作業に当たる優や中之井を前にしながら、辻原は西に四ヶ月前に海外に出張に出たきり行方不明の先代社長・工具楽我也がいたなら楽な仕事だった、と、未だ未熟な我聞が社長である事情を明かす。


 そして組立作業が終わり、現れたものはなんと一五五ミリ自走砲……完成した『兵器』の姿に、常識人の西はもちろん『プラスチック爆弾100キロでもびくともしない』と、自慢の金庫に絶対の自信を持っていた支店長も流石に顔色を変える。扉の脇に円形にマーキングされた、優が見立てた八つの破壊点は中之井のピンポイント砲撃に撃ち抜かれ、流石の金庫も八つの穴を穿たれる。しかし、やはり金庫の強度もさるもので、砲弾の貫通を許さずにその厚みの三分の一の位置で侵入者を食い止めていた。金庫の強度に再び自信を取り戻す支店長だが、優の手にしたリモコンが砲弾に内蔵された爆弾を破裂させ、支店長と西の顔を再び驚愕に染める。



 モンロー効果により貫通性を付加したのであろう優特製の爆雷砲弾によってついに大穴を穿たれた金庫だが、そこに現れたのは情報屋の姿ではなく、衝撃を感知して内部に展開した厚み70センチの高密度の特殊コンクリートであった。コンクリートならば、とハンマーを手に突貫する我聞だが、高密度コンクリートの前には微細な傷を入れるにとどまり、タイムリミットの20分は残すところ僅かとなる。



 涙を浮かべつつ諦める情報屋・兄の言葉と指揮車でモニターしていた國生からの「反応…無くなりました……」の通信――それが我聞の怒りを生み、更なる力を呼んだ。


 コンクリートに皹が入り、それの後を追うかのように流し込まれる大量の氣が皹を押し広げる。


 大小の皹が無数に…縦横に拡散し、吹き飛ぶコンクリート……気合が入ると氣が暴走する癖が功を奏し、偶発した工具楽仙術『砕・追功穿』が、失われようとした命を救った瞬間であった。



 氣の使いすぎによる疲労で一時的にとはいえ身動きを取れない我聞に、まだ未熟、と溜め息混じりに諭す辻原。頑張りを称えられたり冷水を浴びせられたりと我聞を中心にした喧騒を眺めながら、辻原は先代・我也に厄介なところも似た我聞に親しみを込めた眼差しを向けた。

 ……そして工具楽屋に敗北を喫した支店長は間違った方向に情熱を燃やすのであった。





 前回がネタ少なめだった反動からか、今回はネタが多い。スタートからお約束通りハンマー落っことす我聞に、ガダルカナルを思い出し、獲物を狙う鷹の目になる中之井さん、優ねーさんのヘルメットネタ「パイルダーオーン」に『安全+地帯』……って、前々から疑問に思ってたが、ホントに25歳なのか、チミは?てか、ぜってー齢ごまかしてるよ、この人!!



 それは兎に角忘れちゃいけない支店長の台詞の数々「ただのコンクリとは違うのだよ、ただのコンクリとは!!」「壊させはせん、壊させはせんぞー!!」……もう認定しよう、この人のカミさんか愛人、多分絶対不釣合いなくらいに美人だ(断定)!!もしかすると、名前も『ドズル』か『ランバ』かも知れんな。



 あと、更なるツッコミどころとしては、多数ネタかもしれないので心苦しいが、……働けや、辻!




第4話 男と男(?)の約束




「あいわかった!男と男の約束だ!」「うん!」「あんたは女の子でしょーが…」




 夏も近づく八十八夜……も過ぎたある日曜日の昼下がり、撤去予定の橋ゲタの解体現場にたたずむ三つの人影。目測でも三階建てのビルに匹敵する大きさの橋ゲタの解体業務を請け負った解体業・工具楽屋の作業員兼社長の工具楽我聞と秘書の國生陽菜、同社営業の辻原螢司である。我が耳を疑う國生に対し、我聞は力強く言い放つ。「発破とかは置いてきた!!あるのはハンマーのみ!」我聞のハンマーは通常人の振るうハンマーの数倍の破壊力を見せ、直径2メートル弱のクレーター状の破砕痕を残すが、辻原曰く「成功すればこの程度の柱、一撃で壊せるハズですよ」と、全く話にならない、といった雰囲気。それもそのはず、この大物の解体を利用し、先日偶発した仙術、砕・追功穿を完全にものにするための修行をしているのだ。とはいえ、未だ未熟な我聞の氣の練りはなかなか巧くいかず、作業は遅れる。違約で報酬が減るのを避けたい國生は発破か重機を使用することを求めるが、修行に夢中の我聞にはやっぱり耳に入らない。


 そして日が暮れて暫らく経った工具楽家。帰宅した暫定家長・我聞をしっかりものの中二の長女・果歩、ボーイッシュな小五の次女・、小二という年の割に落ち着いた次男・斗馬……三人の妹弟が温かく迎える。七年前に母が他界し、父も四ヶ月前に海外出張に出たまま行方不明になった工具楽家を支えることになった我聞は、『家長たるもの』と、気合を入れるもののその気合はやはり空回りし、果歩から「選挙権は二十歳から」「食事中に新聞を見ない」と、立て続けに注意を受ける。そして、食卓の話題は珠と斗馬の通う小学校のマラソン大会へと移り、珠は学年総合一位を目指して秘密特訓中であることを宣言する。


 家長である我聞は珠の頑張りに免じ、「総合一位を取った暁にはボーナスで好きなものを何でも買ってやる」と、妹である珠と男と男の約束を交わすが、後先考えずに約束したため、後悔する羽目になった。


 運動靴というシロモンは……ジュニア用でも非常に高いのだ。


 どうにかしてその資金を捻出しようともくろむ我聞は営業活動を開始するが、その営業は友人である佐々木に対して「お前の家、解体しないか?」「どうしても解体したいものとかないか?格安で引き受けるぞ!」といった具合で、佐々木や中村に逆に哀れまれる始末。


 『営業』が不調に終わり、途方に暮れる我聞の耳に飛び込む、体育教師・下村に遅刻を咎められたとある生徒の悪態「下村の車をぶっ壊してくれる奴いたら、10万は出す!」……我聞にはそれが救いの声に聞こえたらしく、勢い込んで駐車場へと飛び出す。車を前に流石に躊躇するが、男と男の約束のためなら、と我聞は突貫しようとハンマーを振りかぶった……所に國生が現れ、すんでのところで我聞は報酬をはるかに上回る弁償をせずにすむ。


 当然の道理すらも頭になかった我聞の姿に溜め息を吐き、國生は我聞に告げた。「それはともかく仕事が入りました。本業です」




 なんちゆーたちゃ、『むしゃんよか』やら『大蛇山』んごつ、九州ローカルっちゆーか、大牟田ローカルなののあるとが俺ンごたる九州モンにゃほんなこつたまらんとやけんが、そいばってんが他ンにきにゃあ、ちぃとンわからんごたるけん……標準語で言い直そう(がらり)。なんといっても、『むしゃんよか』(漢字で書くと『武者んよか』。かっこいい・男らしいという意味の、熊本や福岡県最南部の方言)だの『大蛇山(だいじゃやま、という大牟田の夏祭り)』のように、九州ローカルというか大牟田ローカルなネタが転がっているのは俺みたいな九州人には嬉しいんだが、だがしかし、他の地域の方にははっきりいって判るまい。てか、担当地域が変わるまではよく仕事で行っていたとはいえ、大牟田人でもない俺にもあんな難しい方言、打つのはメンド臭いが。



 それは兎に角、俺としては首を長くして待っていた工具楽家兄弟が、今回から登場である。唯一のツッコミ役にして、まだ常識人のふりをしているが実はかなりの武闘派であることが後に明らかになる果歩りんや、兄に憧れすぎたためか、無闇に漢らしい珠ちゃん、天然ボケ二人に対し、食事中に我聞の真似して読むものが辞書だし、おねだりするものがヤフー株なため、お前……実は判りボケだろ?という核心を抱かせてくれた謎の小学二年生・斗馬と、魅力的なキャラクターが豊富である。家族のバックアップを受け、我聞の暴走癖も顔を覗かせてきたし(って、駄目だろ、それは)、やっぱり工具楽家あっての我聞だな、と認識してしまった今回でありました。

 あと、学生生活の冒頭でいつもアイキャッチのようにこっそりと出ている女子二人組よ……Gガンで泣けるなんてキミ達、熱すぎ!!




第5話 家族の笑顔のために




「家族の笑顔のために働くのが家長の務め!!」「よくぞ言いました−!」





 月曜日の午後一時、御川小学校では学年別マラソン大会が行われようとしていた。昨年四年生の部で女子の一位に輝いた珠は、兄との約束を果たすため、総合一位を目指して気合も十分。屈伸にも力が入る。

 一方同刻、珠と『男と男の約束』を交わした兄・我聞はというと、御川市郊外を走る指揮車の屋根に待機していた。程なく今回の破壊対象が指揮車を追い抜く。銃弾も通用しない暴走装甲車の破壊……それが今回の依頼であった。珠との約束に燃え、中之井にも伝染するほどの気合に満ちた我聞の一撃はフロントガラスを撃つが、強化されたフロントガラスはコンクリートをも砕く我聞のハンマーにも耐え、一切傷を残していなかった。そこに投げつけられる二本のナイフ……運転席に居座っていた男……前日、逮捕・拘束されたはずのHKマフィア構成員、ジャック・ベータ−の投げつけたナイフを辛うじてハンマーの柄で受ける我聞だが、さらに投げつけられるナイフに我聞は容易に近づくことも出来ない。とはいえ、我聞も並外れた反射で全てのナイフを躱し、焦りを見せる相手の隙を付いての反撃に出ようとするが、道路に飛び出した犬を追い掛けた一人の少女が、運転者もないまま暴走を続ける装甲車の進路に飛び出していた。

 子供に気付き、装甲車を止めるように叫ぶ我聞だが、ジャックは勝ち誇りながら『この車は自動操縦。御川山まで止まらない』と明かす。無論、我聞は犠牲者を出すことを望まなかった。飛び降りながらの全力の攻撃をジャックにではなく装甲車に敢行!子供を巻き込む寸前で5tはある装甲車自体を横にずらし、少女と犬の命を救う。少女の感謝を受ける我聞だが、代償は大きかった。装甲車は変わらず暴走を続け、我聞らとの距離を離し、我聞自身も左腕に怪我を負う。

 その状態で続行させるわけにはいかない、と我聞に告げる中之井だが、それを遮り、國生が慌てながら報告する。このままのコースなら、珠達のマラソンコースに装甲車が突っ込むことを……。



 なんと言っても犬がいいっ(力説!)!!犬好きの俺としては、あのぞんざいな眉毛といい、後ろから抱き上げられたときの前足の伸び具合が堪らなくいいっ!


ああ、ジローまいらぶ(笑)!



 あと、ツッコミどころとしては限りなく無粋だが、こんな時こそ優ねーさん特製のスタン弾の出番でしょ?隙見て投げ込まなくても、接着剤でも張り付けてピン外してりゃ一発で電装系アウトだって。でも、なんでもないように見えてきっかり絶縁してるかもな。基本的にこのマンガのオーバーテクって、『スプリガン』に匹敵するトンデモ技術が多いし。



第6話 時間がない!




「ディス・イズ・ビジネス! どうだい?」





 御川小学校のマラソン大会・五年生の部はトップ争いは佳境に移っていた。トップを争う一人は女子選手の工具楽珠。珠は我聞との約束を胸に、絶対一番になると誓いながら男子相手にデッドヒートを繰り広げる。

 同刻、警察のバリケードをものともせずに暴走を続ける装甲車を追い掛ける工具楽屋の一同だが、我聞は負傷し、スピードもほぼ互角。だが、珠や斗馬の参加しているマラソン大会に突っ込ませるわけにはいかない。「追い付きさえすれば今度こそ壊して見せる」と意気込む我聞の言葉を信じ、いちかばちかのショートカットに乗り出す。優のセッティングによりバランス重視でチューニングを施されたトラックは中之井のドライビングテクニックと國生のナビという二つの超絶技術を受け、幅一杯の小道をすり抜け、小学校の手前での先回りに成功する。

 『御川山まで装甲車を守れば、政府に圧力をかけて自由にしてやろう』と投げかけた謎の人物の手引きで脱走、そのまま自走装甲車に護衛として乗り込んだジャックは目的の達成直前で再び前に立ちふさがった我聞に激昂、そのままひき殺そうとするが、珠の頑張りを感じ、それを守るべく左腕に走る激痛を押さえ込む我聞は、目の前の道路めがけて氣を込めた一撃を叩き込んだ!

 工具楽仙術、砕・追功穿……前日の修行でものにした我聞の新たな術は、アスファルトに我聞の小学生時代に作られていた下水道にまで達する大穴を開け、突然走る道路そのものを失った装甲車をその勢いのまま前方に反転させるに至った。

 怪我を押して妹弟をはじめとした子供達を守ったことに満足げな表情を浮かべる我聞であったが、あまりに大きすぎるアスファルトの陥没により、どうしても黒字を計上しなければならない我聞にとってはあまりにも痛すぎる赤字を出してしまうのであった。


 帰宅した我聞を出迎えたのはむくれた珠の顔。『ラストスペード』をかけようとした矢先の轟音――我聞の砕・追功穿による破壊音に気を取られ、結局、総合一位をよそ見で逃してしまっていたのだ。果歩に一番にこだわる理由を問われて「兄ちゃんが一番だったから!あたしは将来兄ちゃんの仕事を手伝うんだから。一番くらい取れてなきゃ駄目なの!」と雄々しく宣言する。その言葉に感動した我聞は運動靴を買ってやることを約束……結局、資金捻出のために、今度は中村に対して「お前の家解体しないか?」と尋ね、再び呆れられるのであった。



 前回は『スプリガン』と書いたが、今度は『D-LIVE!』である。しかも、斑鳩悟だろーと不可能に違いない“水道管の上で片輪走行”まで披露した中之井千住専務……あなたこそ真のASEドライバーです(笑)。

 でも、やっぱり働け、辻!!一応営業なら、交渉事を秘書兼経理に任せるなよ。




第7話 頼れる男!!




「やはり信用されてないのか!?」




 都内某所…高層ビルを遠景に望む日本庭園に佇む建物の一室で、工具楽屋営業部長・辻原螢司は、内閣調査室付・西青海に伴われて内閣調査室室長・西音寺時宗と会談を持っていた。通常の技術水準を大きく上回るテクノロジーから作り出された武器や兵装を犯罪者に持たせ、拘束されていたはずの犯罪者をも人知れず解放した、連続した犯罪の背後におぼろげに映る組織に対しての情報と、その『組織』と、先代社長・工具楽我也が行方不明になった事件との関連性を探るべく、独特の威圧感を持つ西園寺に一歩も気後れすることなく相対する辻原ではあったが、調査室すらも尻尾を掴むことは出来ない、との回答に終わり、辻原はこの一連の事件が一筋縄ではいかない雰囲気を感じ取る。

 一方、工具楽家では、我聞と珠、斗馬の三人をとてつもない緊張感が支配していた。タイミングを取り、一気に静寂から瞬動に変ずる三人。一流の武人達の果し合いにも似たその空気を作ったもの。それは……饅頭の取り合いであった。そのドタバタを怒りの鉄拳を振るって止める果歩だが、その怒りの根拠を読み違え、我聞はさらに逆鱗に触れる。

 翌日の教室、妹に説教を喰らってへこむ我聞をさらに中村が率直な物言いで追い討ちをかける。頼れる男を目指して日々修行していると自認している我聞はその辛辣な物言いに納得いかないが、中村と佐々木との会話の途中、スケジュール確認にやってきた國生を交え、二年後の特待生を目指して今から勉強に勤しむ果歩についての話題に至るのだが、「先代でしたらこういった負担を御家族にかけてはいませんでしたよ?」という言葉に、我聞はさらに止めを刺される。


 その光景から導き出された、中村と佐々木の『我聞と國生との間に信頼関係は築けていないのでは?』という疑問に我聞は焦り、信頼の有無を直接確かめるべく慌てて出社する。だが、そこには先に出社したはずの國生は不在であり、代わりに中之井と風邪を引いて状態が最悪な優とが待っていた。自宅に忘れたスーツを取りに帰宅した國生の忘れ物に驚く我聞と、久々の失敗を不思議がる中之井。続けて帰社した辻原が本業の開始を告げたその頃、國生は自宅で一つの写真に視線を落とし、口元にごく薄い笑みをこぼす。

 そこに映るものは、先代社長である我也時代の工具楽屋の面々であり、その中心に映る自らのややぎこちない、が、心からの笑顔であった。






 正直に言います。『空・愛・台風』……コミックスでやっと元ネタが判りました(大恥)。なお、元ネタのアレって、実際にやったら人を踏み台にしたとみなされ、『非紳士的行為』で一発イエローになるんで注意しよう。また、ついでに言うが、ゴールポストを蹴っても非紳士的行為(スポーツマンシップに反する振る舞いとみなされる)でイエローだし、味方相手に後ろからスライディングで足からかっさばいてボール奪っても危険行為で良くてもイエローになるのである。こうして考えてみると、某日本一有名なサッカーマンガって、ルール無視した無茶苦茶とんでもねーサッカーマンガだったんだな。


 まぁ、それは兎に角(笑)、ストーリー絡みで言うとアイスドール國生さん、面目躍如です。はっきり言って怖いっす。口さがない中村ですらも引くし……でも、いくら國生FC会員No1とはいえ、佐々木、えらいこと口走ってます。「もっと叱って!」……って、うわ、Mだこいつ!

 重箱の隅で言うと、コミックスの175ページの放課後のシーン……一歩歩くごとに震脚踏みつつ崩拳を練習しながら帰ってるとしか見えない修行者な学生さんがいるけど、彼って一体……?もしかすると、頼れる男レベル49の我聞に匹敵する強者かも知れないな(苦笑)。また、放課後シーンといえば、下駄箱の上に……何でボーリングの球?ボーリング部があるとでも言うのか!?でも、アイキャッチガールズ(勝手に命名)こと恵&友子のインパクトには勝てないな。「かば夫くーん。お父さんの入れ歯めっかったー?」「今の子にはわかんないよ、それ」……てかキミらこそ幾つだよ?元ネタ映画版パーマンみたいだし。今の子じゃない俺も知らなかったよ。お願いしますよ、ホントに。



第8話 社長なら…




「ほう?いい耳してるな 小僧……」




 日の出製薬鰍フ第三研究所……ここで『慈悲の霧(マーシィ・ミスト)』と名付けられた神経ガスが完成を間近に控えていた。数分で神経系を麻痺させ、死に至らしめる上、一日で空気分解される――侵略戦争を行うにはもってこいの効果を持つ化学兵器を開発した研究者は、そのオーバーテクノロジーの根幹に立つ『新理論』……テキストをもたらした依頼者に対して効果の程を実証する。依頼者は理論通りの効果を生み出した手腕を認める一方、完成の途上で起きたデータ流出について触れるが、「どうせ流出したデータを見たところで、新理論を解析出来る者はいない」と思い直し、ボディスーツを纏った大男をボディガードに伴った男……他でもない、脱走犯に自走装甲車をもたらしたサングラスの男は、冷笑を浮かべた。

 工具楽屋の今回の本業は、日の出製薬鰍フ第三研究所で開発されている化学兵器とそれを作り出すプラントの破壊であった。いつも通りにハンマーで力任せに破壊しようとしていた我聞だが、ガス兵器について全く知識を持たない我聞に國生は呆れる。流出したデータをもとに二週間がかりで優が開発していた反応剤を使用すれば無害化できる、と知って我聞は力を取り戻すが、『化学兵器の破壊』というデリケートな破壊を行うに当たっての情報の漏洩を恐れていたため、國生の判断で我聞に情報を下ろさなかったことに対し、我聞はやはり信頼されていない、と焦る。

 そして、いよいよ潜入開始……となる直前、本来なら我聞が単独で当たる実行部隊に加わる國生。我聞は危険を理由に止めようとするが、PCの操作が必要なため、と我聞の意見を却下。それだからこそ、社員を危険に曝さないためにも警備に見つからないように制御室を目指すように諭す中之井に頷く我聞。だが、我聞の力任せの潜入により、やはり潜入と同時に警備に見つかっていた。

 ヘルメットに内蔵されたスピーカー越しに響く中之井の説教に耳を傾ける暇もなく、我聞は國生との信頼関係がさらに遠のくことと社員を危険に曝したことに焦りを抱く。制御室直前で追い掛ける警備員に隔壁を下ろされ、追い詰められそうになる二人だが、隔壁を完全に下ろされる直前に我聞が國生を腰抱きに抱き上げて加速!それまで國生の足に合わせていた我聞の一気の加速もあって、辛うじて隔壁が閉じ切る直前に制御室に潜入を果たす。無理をさせたことに謝罪する我聞に、國生はPCを操作しながら「社長の能力を信じて計算していたから」という言葉で返す。信頼されている、と感じた我聞は國生に「自分も國生さんを信頼している」と返すが、壁の向こうに気配を感じ、國生を突き飛ばす。

 壁を拳で砕いて現れた青いスーツの男……サングラスの男のボディガードとして傍らに立っていた、あの男であった。




 國生さん、この時点では、という条件つけるけど、やっぱり我聞を信用してません。國生さんの台詞をよく見てみると判るけど、あくまで信用してるのは我聞ではなく我聞の『能力』なんだよね、実は。でも、我聞は世界遺産級のニブチンのため、一切気付いてません。その理由は……改めて次回で検証するけど、その辺が今の『アイスドール國生陽菜』の理由につながってる、と思うんだよな。兎に角、コケにされてることくらいは気付こうよ、我聞。

 あ、断っておくけど、俺、國生さんが嫌いって訳じゃないんです。ただ単に、基本路線シリアスで行こうと目論んでるあらすじ部分で敬称つけてると、文章としておかしくなるんで呼び捨てにしてるんです。つか……むしろクール系大好きです(力説)。俺ランキングでは辻やんや中村とタメ張ってて、ベスト11では同率三位ですから!……ま、微差とはいえ、上にいるのが我聞と中之井さんてのが笑えるが。それに、ジローがバカ様抑えて11位って時点で大間違いですけど(笑)!……どうよ、コレ?



おまけマンガ:『こわしや我聞よもやま話』




草場先生、『ファンタジスタ』23巻のおまけで描いてた通りに、藤木先生がマンガ描いてる後ろでゲームしたのか?それが知りたい。




すぺしゃるさんくす:『彼らの名前の由来』




フォロー四コマ:『空・愛・台風の正しい使用法』『斗馬のTシャツ』




裏表紙:工具楽屋の面々







次のページへ





トップへ
トップへ

戻る
戻る