日報バインダー2














表紙:ある昼下がり、ファイルを片手に工具楽屋の事務所前に佇む國生さんと


階段の手摺りに寄りかかる我聞。




折り返し・表 藤木先生、サイン会の図。テンパったという感想




折り返し・裏 小ネタ四コマ『我聞と携帯』








第9話 裏切れない想い




『國生さんにまかせられた以上 ――この信頼は裏切れない!!』





 壁を突き破りながら我聞に一撃を加えた青いボディスーツの男は、軽く目を回した我聞に止めを刺すべく拳を振り下ろす。


 だが、虚を衝いて放たれた國生の足払いが我聞に一撃が入る直前に決まり、足元をすくわれた格好のスーツの男は横倒しに倒れる。


「大丈夫です――私が何とかしますので!」


 我聞に再び助けられたことを恥じて気負う國生。先代に教わった体術で眼前の敵を排除する――集中しすぎることで周囲が見えなくなり、そのために失敗していた過去を思い出すが、現在の状況がまさにその状態にあることを自ら認識できないまま、國生はスーツの男に対峙する。スーツの男もまた國生を目標と認識し、フルパワーを引き出す準備が整った証としてボディスーツの背部から空気を排出する。『先代がいない今――私がしっかりしないと』と決意する國生の想いとは裏腹な、一方的な殺戮が始まろうとしていた。





 回復した我聞が即座に反撃を開始したのはその刹那であった。直接的な破壊ではなく、相手を弾き飛ばすことに重きをおいた工具楽仙術――弾・双掌砲……大柄な男の懐に飛び込んだ我聞は勁を込めた二つの掌を腹部に当て、男自らが壁に開けた大穴の向こうの廊下に吹き飛ばす。





 ダメージを受けてはいないものの、体勢を崩した男の至近距離の床に向け、続けて我聞はハンマーを振るった。ハンマーによる一撃……砕・追功穿の効果によって数メートルもの広範囲の床は砕かれ、我聞もろとも階下に落下した男は、だが無傷のまま立ち上がる。





 厚い装甲によって打撃は効かず、圧倒的なパワーも健在なスーツの男の姿に我聞の不利を感じ、自らも戦いに加わろうとする國生だが、我聞はスーツの男への視線を切ることなく背中を向けたまま指示を出す。


「こういったことはオレにまかせろ!キミにはキミにしかできないことがある!そっちはまかせた!」


 頼りない、と感じたことも一度や二度ではない我聞から発せられた、尊敬する先代・我也と同じ言葉に、國生は自らの任務を思い出した。中断していたプラントの操作を再開し、プラントの臨界点を突破・暴走させることに成功する。





 暫らくすれば暴走した炉の爆発で“こわし”が完了する、という連絡を優によって告げられた國生はスーツの男を食い止めているであろう我聞にそのことを告げようと穴の縁に立つ。そこで見たものは……スーツの男をその拳で圧倒する我聞であった。





『國生さんからの信頼を裏切るわけにはいかない』その想いがあるが故に破壊力を強化された拳は、男の纏うボディアーマーを破壊し、ガードごと押し切ってついに男を痛打する。中国拳法にある纏絲勁にも似た、インパクトに捩りを加えることで衝撃を接触面の裏側にまで透す工具楽仙術――貫・螺旋撃を放ち、自らがこわしやであることを告げる我聞。その言葉にスーツの男は立ち上がり、言った。「なるほど…工具楽我也の関係者か?」行方知れずだった我也の情報をもつ者との、初の対峙であった。








 今回検証する、と予告していた國生さんが我聞を信頼していない理由……今回の話である程度は明らかにされたかも知れませんが、明らかに先代社長である我也の存在がかなりのウェイトを占めていると言えます。ま、確かにあんなバカチンを頭から信頼しろ、ってのも無理かも知れんが、何でも出来た親父とまだまだ未熟な我聞と比べると、物差しがあまりに大きすぎる。だからこそ、「信頼している」と言った割に、舌の根が乾かないうちに今回のように『この社長(我聞のことです、念のため)は頼りにならない……だからこそ自分がしっかりしないと』ってな感じになってるんだろーな。そういった意味では、今回の我聞は完全に面目躍如です。あの背中を見せたままの会話、というのは背中を預ける……つまり、頭から信頼する、そういった意思表示みたいなもんであり、我聞の器の大きさを証明しているんだと思ってます。だからこそ、あのシーンは増刊時代からこのHPの立ち上げ作業を続けている2004年冬現在までの『シリアスなシーン』の中では五本の指に入る名シーンだと俺は評価してます。まぁ、ギャグに関しては藤木先生と明らかに年代や見てきた番組が近いせいかツボが多いので、手足の指どころか関節まで含めてもまだ足りませんが。








第10話 錯綜




¢社長として社員を守る! それが今オレのすべき仕事……親父ならこうしたハズだ!」








 我聞の放った貫・螺旋撃ではあったが、装甲は破壊したもののボディスーツそのものは無傷であった。邪魔になった装甲を外し、不敵に笑む男に対して我聞は再度攻撃を加えようとしたが、男のスピードは明らかに我聞の予測を上回っていた。虚を衝かれ、先手を取られた我聞はその破滅的な威力の拳をモロに受けてしまう。吹き飛んだところにさらなる一撃を腹に受け、深刻なダメージを見舞われる我聞であったが、辛うじて反撃することで距離を取らせ、剣呑な一撃による止めだけは避けることには成功する。見かねて加勢しようと階下に降り立った國生に我聞は大丈夫だと告げ、下がるよう促す。だが、戦闘が続くことはなかった。戦いが再開されようとしたその時、プラントの暴走による爆発が起きたのだ。サングラスの男がビジネスの不成立を告げたその時を同じくして、我聞ら二人にも中之井からの退避の指示が出る。スーツの性能を活かして我聞を追い詰めた『青 壱』の字が刻印されたスーツを纏う男もまた時間切れを悟り、苦々しげに立ち去ろうとするが、先代の手がかりを掴みたい一心で國生はその後を追う。だが、無情にも爆発は後を追うための道を引き裂き、なおかつ幾度目かの誘爆はその足元をも吹き飛ばそうとしていた。





 爆発に巻き込まれそうになった國生を救ったのは、やはり我聞であった。腹部に受けた深刻なダメージをはじめとした自らの傷を省みず、國生を肩に担いだ我聞はこう言う。社長として社員を守る!それが今オレのすべき仕事……親父ならこうしたハズだ!」我也のことに気を取られすぎ、その結果、自らを危険にさらした自分をも守る我聞の言葉に、國生は我也と同じ社長としての器を感じる。





 一方、こわしの成功に一応の及第点を出しつつ、辻原はそれに付随した『青いスーツ』に手ごたえを感じる。コンクリートをも易々と切り裂くだけの桁違いの切れ味を持つナイフに重装甲車並みの装甲を有する自走軽装甲車……一連の事件に通じるオーバーテクノロジーを持つ青いボディスーツに、辻原は一つの共通項を見出していた。





 そして工具楽屋……体調の不良から来るミスと我也のかすかな情報という二つの要因に取り乱していた自分と違い、父親の生死がわかる唯一のチャンスをみすみす逃してなお冷静さを持ち、笑顔を見せることすら出来る我聞に國生はかすかに疑問をもつ。その疑問を氷解させたのは中之井であった。「我聞くんは父親が生きていることを信じとる――この仕事をしていれば、いつか父親につながると疑っとらん」





 絆あるがゆえの絶対の信頼――それを持つ我聞の姿に教えられ、國生は誓うのであった。「そうですね。私もしっかりしないと――」








 シリアスなシーンばっかりだったので、余計なツッコミも入れる余地がなかったけど、勝手に名付けて『我聞の地位回復シリーズ』、ひとまずの終了です。ま、それはそれとして國生さんは社宅住まいで工具楽家に間借りしていない、ということが判ったが、もし増刊時と同じように工具楽家の間借り人だとしたら、それを知ったときの國生FCの皆さんの狼狽を見てみたかったので、ちょっと残念……うおっ、ヤな奴だ。





 それとシリアスな点で一言。『サングラスの男』こと凪原クン……まず間違いなく悪人面の研究員撃ってますな、ありゃ。情報の漏洩を防ぐため、とか言ってね。








第11話 決意




「何一つ犠牲にしない!それが強さです」





 梅雨の晴れ間の六月上旬のある朝、國生陽菜は一つの決意を持って工具楽家を訪れていた。『社長が社長らしくなるためには工具楽の技を高めるのが一番』と、トレーニングを日課にするよう進言するべく、我聞を訪ねた國生であったが、我聞はその頃不在であった。程なくして珠と腰から括りつけたタイヤ二つを引き連れて100メートル往復ダッシュを終えて戻る我聞であったが、斗馬のスタートの合図に反応して再びダッシュを開始……結局國生に気付くことはなかったが、國生が言うまでもなく既にトレーニングを日課にしていた我聞の姿に安心し、國生は果歩に一礼して登校する。





 そして昼休み、スケジュール確認のために我聞の下を訪れた國生は、体育祭が近いこともありテンションを上げる佐々木からなされた「体育祭の係は何かやっていないか?」の質問にあっさりと「私達にはそういったことをするヒマはありません」と答える。それに対して中村が何事かに気付き、口を挟もうとするが、我聞はそれを遮り、中村に呆れられつつその場を切り抜けることには成功する。





 だが、我聞が隠そうとしていたことは放課後になって簡単に見つかる。一週間後に迫り、活気付く体育祭の準備を横目に帰宅・出社しようとしていた國生が卓球部の神輿製作の現場の横を通りかかったそのとき、5時からの現場に向かっていなければならない我聞がそこにいたのだ。一年生の頃から所属している卓球部の仲間達にどうしてもと頼られてしまい、断ることは出来なかったと頭を下げる我聞に対し、わずかに余裕はあるため、時間一杯までならと許可を出す國生ではあったが、我聞の仕事は主に雑用。呆れる國生ではあったが、中村や他の部員からの「断れない性格があいつの損な性分だが、あのやる気に触発されて他の仕事もはかどる」という評価に微かに戸惑う。時間が経過したことを告げ、現場に直行しようとする國生と我聞であったが、そこに放送が入る。





 『2年5組 大道具係の工具楽くん―これより立て看板の製作を行います―至急、中庭まで来てください』


 國生からゆらり、と昇り立つ殺気に氣圧される我聞……昼の時点で白状しなかったことに対して、中村が「言わんこっちゃない」と呆れたその時であった。





 結局、立て看板製作に向かったのは國生であった。後先考えずに安請け合いし、他を犠牲にする覚悟も持たない我聞に失望し、立て看板製作に対して我聞らと同じ2年5組の卓球部員でもある天野恵住友子らをも戦慄させるほどの怒りを乗せたトンカチを振るった國生が、工具楽屋のプレハブに到着したのは、5時からの現場である家屋解体の現場から我聞が帰社した時間よりも大幅に遅かった。





 他を犠牲にする覚悟を持たないと――そう信じてやまない國生の前に、階段に腰掛けた優がいた。そして、その視線の先には、スーツの男を取り逃がした悔しさもあってか辻原との修行に一層の熱を入れる我聞の姿があった。激しい修行の中で辻原が我聞に問う。「仙術を――強さを手に入れるためならば他のものを犠牲に出来ますね?」図らずも國生の想いと同じ言葉を投げかける辻原に、我聞は否定して『何一つ犠牲にせずに強くなる』と言い切る。辻原は我聞の壇中に肘を叩き込みながらそれに微笑み、未熟さが多少なりとも抜けてきた我聞に本格的な修行に移ることを告げる。





 全てに一生懸命なその姿勢で、自分は想像もしていなかった高みを目指す我聞の姿に國生の顔から失望は消えていた。事務所から救急箱を取ってくることを優に告げ、足取りも軽く階段を駆け上がる國生だったが……次の日になって我聞が実行委員まで引き受けていたことを知り、再び怒りの炎に包まれるのであった。








 今回は前回までのシリアス路線からはちょっと一息入れて……的な内容だったけど、國生さんの未熟さというか、人生経験の無さが浮き彫りになった感がある。実際、我聞みたいなムードメーカーがいると集団って機能しやすくなるんだけど、それを『そんな無駄なことにこだわっていてはいけない』ってな感じで否定してる辺りが、小さい頃から少数精鋭のエキスパート集団の中で、背伸びして揉まれてきたがために陥った國生さんの弱点なんだろうな、と思う訳です。強力な仙術使いであった我也を中心に据え、強力な個の力だけで渡り合ってきた『我也の工具楽屋』ではそれで良かったんだろうけど、どうあがいても我聞が我也を上回っていない現状から考えると、個の力ではなく、もう少し有機的なチームプレイ……全体の力をそれぞれの分野で発揮させて“一体の人間を超えた存在”を作るような感じで行けば――我聞を[ファンタジスタ]として前線で機能させるために中之井さんと優ねーさんがサイドを固め、その中心で國生さんが全体のフォローに回る[レジスタ]的な役割を果たせば、『我聞の工具楽屋』はもっと機能するのになぁ、と、元フットボーラーの俺としてはちょっとした老婆心を発揮してしまうワケです。ま、國生さんといえば、放課後に我聞を発見したときのあの崩れた顔……アレは良かったです。





 それにしてもなんつー無茶なタイミングで体育祭に入るんだ、県立御川高校?!五月なら兎に角、梅雨というものがあるんだぞ、日本の六月には。





 なにはともあれ、疑問が一つ。辻やんの使ってる拳法って、一体何だろ?手持ちには寸勁や暗勁、頂肘があるみたいだけど、ブルース=リーの使ってたジークンドは外功に特化した南派系を基にしてるから、内功を重視している北派系で強い超接近戦での技は無いようなイメージはあるんだけどなぁ。まぁ、『スプリガン』の朧みたいに、仙術を極める途中でたまたま拳法に行き当たったので別に何処の流派でもないし、何処の流派でもいいや、てな答えが帰って来たらぐうの音も出ませんが。てか、そんな答え出しそう、辻やんだし。








第12話 燃える体育祭




「……あの技は 大尉殿!?」











 二、三日降り続く雨の中に佇む工具楽屋梶c…表の仕事も入らず、暇を持て余す中之井と優は「どうせなら楽しんで欲しかったのに」と、我聞と國生の体育祭を明日に控えるタイミングでの大雨に恨みがましい視線を送る。その事務所内の会話の中、ふと視線を落とす國生……その中でも我聞の修行は続いていた。


 辻原を背にガレージで人乗せ腕立てに勤しむが、一週間前に本格的な修行に移行する、と告げられて以来始めた人乗せ腕立てにどのような効果があるのかは見出せず、我聞は辻原に尋ねる。その答えは「さあ?」……単純かつ、不明瞭であった。


 明確な答えを返してくれる、と思っていた我聞は驚くが、仙術に必要なものは考え、理解することを改めて諭し、それが理解できればこの筋トレもただの筋トレではなくなるというヒントを与える。明日は体育祭という中でも訓練に手抜きはない我聞の姿に、その頑張りが無駄にならないよう、國生が明日の晴れを願っていた頃、仙術使いとしてわずかな進歩を見せた我聞に手解きを与えながら、辻原はとある人物の登場を要請する決意を固めた。





 そして体育祭。皆の願いが通じたのか見事な晴天に恵まれた本番に、必要以上にハイテンションな我聞。國生から刺された釘も中之井からの注意事項もものともせずに突っ走る。その姿に以前なら依怙地になっていた國生も、今日くらいはいいのかな、と思う中、体育祭は開催された。熱戦が進み、ヒートアップする場内。応援合戦にも力が入るが、佐々木や部長ら卓球部……赤組を中心に構成されている『國生FC』は白組である國生の活躍に声援を送り、そのみっともない姿に恵からの天誅が下る。我聞の仲間と談笑する姿に我知らず微笑む國生……弱い地震が御川市周辺で起きたのはその時であった。





 昼食を挟んで、いよいよ我聞の活躍が期待される時が来た。その名も部活対抗ケンカ神輿!……優勝した部には特別予算として20万円が贈呈されるとあって、抜群の運動神経を誇る卓球部員・工具楽我聞の双肩に名誉と富とを……主に富を求める念が乗り移る!その期待に意気揚がる我聞だが、そこに現れた國生がもたらす本業の知らせが、我聞ごと卓球部員の未来への希望を持ち去ることになった。





 今回の本業は大岩の破壊……傷病者の搬送中、雨によって緩んだところで地震の一押しを受けて起きた土砂崩れに巻き込まれた救急車を挟み込んだ大岩を破壊し、救急車に取り残された被害者を救出することである。折角の体育祭の最中の呼び出しに気の毒がる中之井だが、人命を第一に考える我聞は学生としての楽しみよりも、人命の救助に専念することを宣言……その自覚に溢れた言葉に工具楽屋の一同は満足そうな笑みを湛える。





 現場は微妙なバランスで保たれていた。三つの大岩がそれぞれを支えあう形で救急車を囲み、その上に山肌を滑り降りた大量の土砂がのしかかっている。あまりに危険な状態に、まず第一にバランスを見極めようとする工具楽屋の一同であったが、土砂災害の復旧のセオリーを知らない我聞は何よりも先に大岩を破壊に掛かる。土砂による二次被害という危険を省みないそのハンマーを止めたのは、傍らに立った老婆からの杖の一振りだった。「やれやれ――大バカな“こわしや”もいたもんだ」言い放ち、引っ掛けたハンマーごと我聞を軽く振り払う老婆の杖に、崩れた崖から染み出した水がまとわりつき、大岩に点状の穴を穿つ。





 さながら強い圧力をかけた状態でごく細い穴を通すことでダイヤモンドをも切り裂くことの出来る水流の刃――ウォーターカッターを思わせる切れ味で穴から切断面に変化させてゆく様に、中之井は若かりし頃の元上官の技を見る。





 人命に直接関わる危険な“こわし”を失敗に追い込まれる寸前に偶然居合わせた幸運に喜びながら、彼女を呼び出した辻原が我聞に紹介した。工具楽でない仙術使い――元“こわしや”静馬さなえ……あなたの特別コーチです」





 日常シーン(=ネタシーン?)が豊富な今回、暴走ハイテンション男・我聞は当然ながら、いつものように國生さんを見ただけでパブロフ入った佐々やんを始めとした國生FCの暴走っぷり、体操服で登校といつにも増してノリノリのめぐみん(でも、田舎にゃこんな娘さんまだいるんだよ)といつものように手綱を引く友子ちゃんのアイキャッチガールズ、そのバックでアップするフジイとモーちゃんという謎のキャラ……國生さんの笑顔も目に見えて増えてきたこともまぁヨカヨカ。ブルース=リーが暗示的に標されてる立て看板もあるし、チェックするポイントが異様に多かった回でありました。





 あと、真面目な話も少々。





 今回も出てきた『考え、理解すること』……前回、辻やんが「武術と違って」とは言いましたが、『考え、理解すること』ってのは、実は武術にも当てはまります。無論、武術の基礎は徹底的な反復練習のみで鍛えられ、無意識レベルで実行に移せるようになるまで刻み込まれますが、『現在行っている練習がどのような効果をもたらすものなのか。発した力がどのように伝達し、どのように作用して相手にどのようなダメージを生じるのか』これを意識しながらの反復とそうでない反復は、それだけでも大きく差が出てきます。このままじゃ『ケンイチ』になりそうなので、今回はこれ以上語りませんが、達人とそれ以外の差は、実はその認識力の差こそが大きなウェイトを占めているらしいです。そこまで達してない奴が偉そうに言うのもおこがましいんですが。





 でも、『いただきまんもすー』って――絶対25歳じゃないだろ、優ねーさん?!俺が二桁入った頃かどうかって年のネタだぞ、それは。いまだに使ってるの、ウチのおかんぐらいだし。








第13話 静馬仙術




「覚悟は いいね?」





 元“こわしや”であり、我聞の特別コーチとして臨時に招聘された静馬さなえ……女性ながら大戦時に中之井の所属した特殊工作部隊の隊長であり、『鬼の静馬』として恐れられた元大尉……彼女が翌日からの修行に入る我聞に覚悟を促す。





 翌日、我聞が修行のために学校から直帰したために、代わって大道具係の手伝いとして体育祭の後片付けに参加し、出社が遅れた國生が見たものは、我聞を襲う水の弾丸であった。我聞に数メートルの距離を駆け抜け、そこに置かれた空き缶を蹴ることを課題とし、静馬は練り上げた氣で自然物……水を操り、その障害とする――言葉にすれば単純な修行ではあるが、静馬の練り上げた容赦のない水弾の前に痛打を受け、我聞は倒れる。


 倒れた我聞の頭を「その程度で倒れるとは、基本がなっちゃいないね」の言葉とともに静馬の練り上げた水の球が包み込み、起き上がりかけた我聞の呼吸を封じた上で横隔膜への水弾……我聞の肺が押し上げられ、その中に残っていた全ての空気が吐き出される。


 恐らくは声そのものは我聞の耳にも届いているのであろう、その加減を一切放棄したかのような指導の最中にも続けられる静馬の数々の教え―― 曰く、氣は身体の統制を司る。――曰く、すべきことは何か、それを考えろ……だが、苦しさに我聞は混乱し、その耳に届いているはずの声をノイズとしか受け取っていないかのようにのた打ち回っていた。





 体内の酸素の大半を失ったことでのた打ち回ることも出来ず、気を失いかけた我聞にさらに水弾が振りかかるが、それまで氣圧されていた國生がたまらずに「これ以上は危険です!」と声を張り上げた瞬間、我聞の頭部を包んでいた水球が爆ぜた


 驚きを覗かせたかのような表情で静馬は振り返り、はじめて國生の存在を認識する。あまりに無茶な特訓に、静かに、だが、激しく抗議をする國生だが、静馬の答えは「かまわんさ。仙術ってのはそんなもんさね」……人知を超えた力を操る存在――静馬仙術元二十一代当主であるが故の、強い覚悟のこもった言葉であった。その「本気」に気殺されるかのようなプレッシャーを感じる國生。だが、その後ろで我聞は立ち上がった。その身体の内外ともに本来ならば動けない程のダメージを受けながらも、根性だけで立ち上がった我聞は、しかしすぐに気を失うが、その様に静馬は『ガキの頃から変わらない』と言い残し、その一日の修行を切り上げる。





 立ち去る静馬の後ろ姿を見つつ、営業から帰社した辻原が「噂には聞いてはいましたが――予想以上です」と、笑顔で言った。











 今回の主役はある意味國生さん……「フフフ…かわいいわよ?(by佐々やん)」まぁつかみはいいとして、國生さんにも何か謎があるようだ。本人にも自覚はないだろうが、静馬のばーさまの「小娘、明日は邪魔するでないよ」って台詞から思うに、恐らくは『任意の氣の流れを止める』か『任意の氣の練りをバラす』……所謂『スペルキャンセラー』能力みたいなもんを隠し持ってるんだろーが、そんな能力を持ってるからって理由で我也の親父が國生さんを引き取ったなんてことはないだろうな。どう見ても豪快系だし、なによりあの我聞の親父だ、深くは考えてないはずだ(ド失礼)





 でも、ばーちゃん……「野球の投手が投げたボールと同じぐらいの衝撃」といっても、その投手の球が『雄根小太郎の超本気ストレート・球速164km/h(増刊版我聞とほぼ入れ違いに終わった、かつてのサンデー増刊の看板マンガ『キャットルーキー』の初代主人公……『名門!!埼玉れぐるす』みたいなトンデモ系超人野球は覚えてないが、“比較的まっとうな”野球マンガの中では多分最速)だったりしたら、アッパーなんぞ喰らった時点で死ねます。てか、首もげます。でも、それが『元オリックス、星野の伝説の超本気カーブ・球速84km/h』なら大したダメージじゃないけどな……素手で取れるし(マジにキャッチャーに素手で取られたという『伝説』がある)。





第14話 補習さね




「? どうした 國生さん?」





 特訓も三日目……缶にはだいぶ近づけるようにはなったものの、未だに課題の『缶蹴り』そのものは出来ていない我聞。優、中之井に混じって我聞の代わりに文化祭に向けての話し合いに出たためにこの日も出社が遅れた國生が事務所から見守る中、我聞に向けて水弾が複数の方向から襲い掛かる。持ち前の敏捷性を特訓によってさらに伸ばした我聞はそれらを全て躱し、あと一歩で缶を間合いに入れるというところまで辿り着くが、最後の難関である水球が再び我聞の身体を包み込む。動きを止めたところに撃ち込まれる二発の水弾……我聞は被弾し、崩れ落ちかけるが、すんでの所で踏ん張り、ついに缶蹴りを達成する。我聞に工具楽屋の面々から賞賛の声が挙がるが、そこに掛けられた静馬からの言葉……「具体的に どこがどう強くなったんだい?」答えられない我聞に、静馬は補習を宣告した。





 そして、工具楽家…國生を伴って帰宅した我聞に沸き立つ果歩と斗馬……朴念仁の兄が國生を彼女として同伴したのだと早合点したのだが、喜ぶ理由をつかめていない珠はもちろん、我聞ら当人達にもその理由がつかめず、“?”マークを脳裏に浮かべる。と、そこに静馬が遅れて入り、今度は果歩と斗馬、そして珠の意識に疑問符が張り付けられた。





 國生によって、我聞の修行のために静馬が工具楽家に暫らく泊り込むという仔細を説明され、納得する果歩。その横で我聞が何かを狙う目を見せている中、静馬は工具楽家の年少組に仙術を披露していた。静馬仙術――斬・水刃によってコップの水を刃に変え、早生の西瓜を瞬斬……半分を手頃な大きさに、もう半分には一切手をつけない状態で綺麗に切り分ける。子供には優しい一面を見せる静馬の意外な顔を國生が見た時、我聞が叫びながら静馬の傍らに転がっていた杖に拳を振り下ろした。が、水弾によって迎撃され、我聞は障子を巻き込んで盛大に吹き飛ばされる。突然のことに目を輝かせる年少組二人に対して混乱する果歩。静馬が肌身離さず持っている杖の破壊が補習であること、24時間いつ何時攻撃を仕掛けても構わない、という事情を國生に告げられ、仕方ないと渋々頷く果歩ではあったが、家に被害を及ぼしながら吹き飛ばされ続ける我聞に果歩は顔を引きつらせる。





 一方、打ちのめされ、立ち上がれない我聞を尻目に、静馬は工具楽屋経理担当の國生に一枚の請求書を渡す。その請求額は90万円。青ざめながら恐怖とも怒りともつかない震えに肩を振るわせる國生に、静馬はさも当然というように告げた。「あたしのコーチ料は一日30万――補習からは一日40万だ」





 その夜……國生陽菜・工具楽果歩を中心とした奇襲部隊が編成されたことは、当然の帰結であるといえた。








 今回はなんと言っても果歩りんの『暴走』が始まった記念すべき回である。ま、鉄拳制裁程度なら前にもあったけど、まさか我聞並に人の話を聞かないキャラに育つとは……このときにはまだ想像できませんでした。でも、我聞に「落ち着け」なんて言われるくらいだから、相当なものであるという片鱗はあったんだけどな。で、果歩りんといえばオチに使われてるカットのTシャツ……あの有名な某三姉妹泥棒マンガじゃねーか(そんなの一つしかないが)!?あと、Tシャツといえば、優ねーさんのチョメジTシャツ………コレ、単純に欲しいです。表もいいけど裏の『勝ちに行こうぜ!』が特に気に入りました。てか、なぜか『ユニクロで買った』という夢まで見たくらいです、このTシャツ。『いでじゅう』の人気投票のプレゼントか何かだったかな、確か。





 あと特筆すべきというか、言っていいかどうかは判らんが、國生さん……壊れてきたなぁ











第15話 奇襲作戦




「あの杖をどう壊すか?問題はそこだと思うんだが…」





 工具楽家の家屋への被害と工具楽屋の余計な赤字を抑えるべく編成された奇襲部隊が、静馬への夜襲を敢行した。だが、天井を壊してまで行われた夜襲は百戦錬磨の静馬の読みと挑発によって余裕でいなされ、目に見えた成果を挙げることなく終わるが、搦め手から攻めることに抵抗を感じさせることによって、我聞の意識に手がかりとなる楔を打ち込むことには成功していたことを、翌日、辻原に伴われて都内の某所に向かう静馬は感じていた。あと一歩……それは近いことを確信しながら、車は早朝の街中を走って都内へと向かっていった。





 一方、國生が果歩と策を講じるために先に帰ったために出来た空白時間に、我聞は気分転換として部活に顔を出していた。卓球部No2の実力者である佐々木の得意とするカットボールを持ち前のパワーを活かしたドライブで返し、互角以上の勝負を見せる我聞。相変わらずに何も考えていない風の我聞だが、その力を伝達する一連の流れは素晴らしく、理に叶っていることは、卓球部のNo1である中村の言にも明らかであった。





 その頃、果歩よりも先に工具楽家に到着した國生は、神妙な面持ちで工具楽家の仏壇に手を合わせる静馬を見る。國生に気付いた静馬はそこに飾られた一枚の写真――気風のよさそうな笑顔を湛えた女性の写る写真に手を合わせるよう促し、一つの昔語りを始めた。「もう七年も前になるんだねェ…あれから……」











 あのTシャツは、この扉絵への複線だったのか?!そう確信するに至る扉でした……“猫目”カードも笑ったし。で、どの順番?





 それはいいけど、我聞よ……全身レオタードで決めポーズは止めてくれなさい。未来の嫁(國生さん)も恥ずかしがってるぞ。本編の方で言うと、工具楽家の嫁小姑問題はなさそうな雰囲気……てか、仲いいのな、キミら。あと、ばーちゃんひどいや。なついてた斗馬を躊躇なく身代わりに使用してるし。





 でも、今回といえばなんと言っても『我聞ママ』の写真での登場でしょう。左右2.0の視力で言いますが、どっからどー見ても、明るい國生さんにしか見えません。ま、流石に親子、趣味嗜好が似てしまうのも無理ないでしょうが……もしかすると、親父も若い頃は奥さんに頭が上がらなかったのではないのだろーか?存命だった頃のエピソード、見てみたいです。








第16話 誓い




「例の仕事――今夜あたり決行でよさそうです」





 我聞が佐々木の得意とする切れ味鋭いカットに自慢のドライブを封じられたその時、國生は工具楽家の仏壇に手を合わせていた。静馬からの『國生が悪巧みをするよりも確実に、母親に見守ってもらっていたほうがまだ確実に我聞は強くなれる』との言葉に「指導法が間違っているのでは?」と反論する國生だが、静馬は精神で身体機能の全てを操る仙術の“理”を説き、共有できない精神というものの使い方を理解させるため、自分で考え、理解できるように我聞を追い込んで考えさせるように指導していることを明かす。それでは、いつになれば我聞はそれを理解するのか……その疑問を抱き、呟く國生に、静馬は七年前に見たことを語った。





 不慮の事故で不帰の人となった我聞らの母の葬儀が終わり、いよいよ出棺というその時、『本業』のために中国に渡った父が戻ってきていないことを理由に棺にすがりつき、出棺を拒む果歩とそれを止める我聞。死と言うものを理解はしていないのだろうが、姉の悲しむ姿につられて悲しみを感じる珠と、中之井に抱かれて葬儀に参列しているが、その幼さから悲しみそのものも理解していない斗馬……七年の月日が訪れる以前の幼い工具楽兄弟の姿を……一刻も早く偉大な父親に近づき、幼い兄弟達を守ることを母の墓前で誓う我聞の姿を語る静馬。我聞にはそのときから始めた仙術の修行が……七年間の積み重ねがある。静間の施す特訓は付け足しであり、その背を一押しするだけの切っ掛けであることを、静かに語った。





 同刻、我聞は佐々木必殺のカットを前に、全身のバネを使い、佐々木の与えた回転をねじ伏せるだけの回転を与えた最高のドライブボールで対する。イメージ通りに身体は動き、ドライブを返そうとしたその時





 ――我聞の周囲の世界が拡散した。





 それから程ない夕暮れ、我聞は母の墓前に立ち、あの日のようにブロックを積み重ねていた。力を込めない、軽い拳をブロックに当てる我聞。その背後に國生を伴って近づく静馬は、我聞が一つの壁を越えた、という確信を持って尋ねる。


「少しは…わかったようだね」それを、力強い…どこか突き抜けたかのような口調で肯定する我聞…と、一切力を込められていなかったはずの拳で、ブロックが崩れ落ちる。





 母の目の前で成長を証明するかのように、我聞の特訓の仕上げが始まった。








 どうやら特訓編では『イメージの重要性』がメインテーマであるよーだ。我聞がレベルアップした瞬間の感覚について、ばーちゃんは「自転車の乗り方が判るようなもので、突然判るようになるものだ」と、巧いこと表現したワケだけど、とある拳法の達人も、『達人と普通の人との意識の差はそんなになく、実際は隣にあるようなものだけど、その壁はとてつもなく厚い。その乗り越える方法は一度探しまくって、その上で諦めの境地に陥ったときに、意外なところで見つかるものだ』てなことを言ってたものだ。今回のエピソードでも気分転換として卓球部に顔を出してたのが結果として“理”を得るのに大きなきっかけになったが、一旦諦めたのが逆に良かった、という点ではその達人の方が言っていたことと通じる。多分、辻原とばーちゃんの狙いは、我聞の持つ容量を達人レベルにまで持っていくのが第一目標といったところだったんだろうな、きっと。その結果については、まぁ、次回に回そう。





 ネタ方面ではなんと言っても『佐々木☆スペシウム』だろう。普通のカットに技名付けるなんて、お前は子供か?でも、それで血を吐く我聞も我聞だが。でも、めぐみんや中村の冷たい視線にもめげず、必殺カットの名前考えてた辺り、佐々やんのアホっぷりもここまで来ると逆に感涙すらも誘うくらいに立派である。





 あと、斗馬寝付き早っ!








第17話 伝導




「その先の技までものにするとはね」





 墓地で続く静馬との特訓……我聞は杖を壊せないまま、何発もの水弾を被弾する。「あと少し」という焦りをこぼしつつ被弾する我聞と「見立て違いだったかね」と言いながらも水弾を撃ち込む静馬とを傍らで眺める國生の携帯電話に辻原からの連絡が……本業の知らせが入った。依頼の内容は以前敗北に近い引き分けに終わった『青いスーツの男』のスーツの破壊と男の確保……辻原には中之井と優が、國生には静馬とがそれぞれの場所で反対を口にする。が、辻原はその依頼を受けることに前向きであった。内閣調査室ですらも掴めなかった先代の生死…それを知る唯一の手がかりになり得る情報をもっているかもしれないスーツの男……その確保は工具楽屋の面々にとっても至上命題であり、そのチャンスを逃すわけにはいかない――我聞の成長を確信した上でのその態度に、反論を述べていた中之井らは押し黙る。





 一方、墓地での訓練中が続く中で連絡を受けた國生が、この本業を受けることが出来るかどうかを見極めきれずに苦い表情を浮かべた時、静馬はキャンセルを宣告する。この特訓でものにならない限り返り討ちにあうのがオチだと断じ、更なる一弾をぶつける。その瞬間であった。何かを見極めたかのように目を見開いた我聞の拳が水弾を迎撃する。それまで苦戦していた水弾を飛散させることに成功したにも関わらず、「イメージと違ったか」と、やや不満げに呟く我聞は、國生に依頼を受けるよう指示をする。その我聞を襲う水球。だが、我聞は迷わない。襲い掛かる水弾にもひるまない。父から受けた手解きを思い出し、今すべきことを……杖を壊すことのみをイメージし、そのイメージ通りに氣を込めた拳を撃ち出した。





 遅れて墓地に現れた果歩を始めとした妹弟だが、我聞らに出会うことはなかった。その場に残されたものは何かが爆発したかのような大穴のみ……果歩が特訓の成果を直感的に悟った頃、我聞達は本業に向けて既に墓地を離れ、とある研究所へと向かっていた。夜更けの工業団地に止まる工具楽屋のトラックの中、不安を隠せない中之井に対し、特訓が終わっていることを告げ、痺れる腕で折れた杖を示して言う。「元来の技の威力を挙げる目的だったんだが……その先の技までものにするとはね。おかげで杖どころか、腕まで壊されるところだったよ」





 月下のトラックの屋根の上に立つ我聞が、『スーツの男を捕捉した』という情報に決意を新たにする。「待ってろよ、ヒゲスーツ!」苦い“引き分け”の、雪辱を期しての言葉であった。








 主人公周りでギャグの要素が全くない。おちゃらけられないのが辛いところではあるが、斗馬よ……「じっちゃんの名にかけて」って、キミのじっちゃんは一体どちらの誰さんだ?あと、辛うじて見つけた重箱の隅としてはモーちゃん&フジイ、ラケットの持ち方が変……てか、明らかに逆手で持ってるぞ。中学時代に卓球部だったからあえて言わせてもらうが、君らはホントに卓球部なのか?





 で、スポーツおたくのマニアックな話ですが、『イメージ』って、マジに重要です。アスリート……特に個人競技のアスリートってのは、自分の身体をある意味機械的に制御することで支配しているので、超一流のアスリートになればなるほど、イメージ通りに身体が動くかどうかでその日が上手くいくかどうかが決まってくるらしいし、逆にイメージ通りに動けない、ちょっとした違和感が原因で、それから暫らく調子を崩してしまうってこともよくある話です……ちょっと話はそれたが、トンデモ系のように見えて実は結構理に叶っている部分も多いこの『こわしや我聞』という作品、主人公の能力自体はとんでもないものの、『イメージ通りに動けば』って所をしっかり押さえてる辺り、藤木先生の造詣は結構深いなと思う訳です。








第18話 激突




「壊してやるさ」





 辻原が得、解析した情報の通り、『青いスーツの男』による破壊工作を受ける研究所を臨み、以前の対決では苦い敗戦を喫した『青いスーツの男』との再戦に気合の入る我聞と、久々の出撃に燃える優……だが、その向かう先は、あさっての方向だった。





 一方、『青いスーツの男』ことジャンゴウは、明らかな苛立ちを持って拳を振るっていた。以前着けていたスーツを改良・発展させたものである『青・弐』のテストとして、研究施設の破壊に投入され続けてはいるものの、以前戦った『こわしや』とは程遠い、手ごたえのない相手ばかりをぶつけられ、ジャンゴウのイライラは頂点に達していた。通信回線は常にオープンであることを承知の上で不満を漏らすジャンゴウだが、通信相手であるサングラスの男はその苛立ちを意に介することなく、研究所の横に乗りつけた車の車中で半ば倒したシートにもたれかかったまま、かつてその命を買い取ったジャンゴウに『新理論』の有効性を確認するために製作された繊維素材のサンプル回収と『新理論』の痕跡の破壊を命令する。不満に苦虫を噛み潰した表情を見せるジャンゴウだが、命令に逆らうことは出来ずに研究所の責任者にサンプルの引き渡しを要求しながら一歩を踏み出した。





 我聞がそのやり取りを発見したのはまさにその時であった。先手必勝とばかりに駆け寄りながら特訓で身に付けた技を繰り出そうとする我聞だが、一瞬遅れてその場に到着した優が躊躇なく発射したゴム弾バズーカが我聞を追い抜き、ジャンゴウを襲う。我聞を巻き込みかねない射撃にもむしろ悦びに身を振るわせつつテンションをアップさせる優のやりすぎを、最後に到着した國生がたしなめるものの、『ブキはトモダチ』という優には通じず、その剣呑さに我聞は青ざめる。だが、銃弾が通じない装甲性を誇るスーツを前に、熊をも一撃で倒すゴム弾の一撃もまた、望むだけの威力を発揮してはいなかった。その衝撃だけで吹き飛ばされ、壁に大穴を開けたとはいえダメージそのものは一切受けてはいないジャンゴウは一発には一発で返そうとするが、その突進を我聞が止めた。





 動きが止まったところを今度は実弾を込めたバズーカで狙う優だが、自分すらも巻き込まれかねないその申し出を我聞は当然ながら拒否、以前の対戦と同じく砕・追功穿で床を崩し、階下に落下することで強引に一対一の状況を作り出す。サングラスの男からの「そんなヤツを相手にしている暇はない」という指令を『スーツのテスト』を理由に拒否し、イヤホン型通信機を握りつぶすジャンゴウ。途切れた通信に、サングラスの男は使えないコマを切り捨てる決意をして、重い腰を上げた。





 “こわし”の対象であるジャンゴウを我聞に任せ、自分達本来の目的――背後に潜む組織の情報を入手すべく施設の残されたデータを検索する國生だが、あらかたのデータは既にハードごと破壊されており、手掛かりらしい手掛かりといえば研究所の責任者が持っていた新素材と今我聞の前に立つ男のみ……我聞に合流しようとする優を止め、残された情報を調べられるだけ調べようとする國生――静馬との特訓の成果を実際に目の当たりにし、我聞が身に付けた技の威力を間近で見たことからくる信頼であった。





 その頃もまだ我聞とジャンゴウとの戦いは続いていた。簡単にハンマーを破壊する程の圧倒的なパワーを併せ持つ連打で我聞を攻め立てるジャンゴウ。その一撃で簡単に“壊れる”相手ばかりを相手にしてきたジャンゴウの、スーツのスペックをフルに引き出した全力を発揮できることに対する捻じ曲がった悦びが乗り移った連打の一弾を我聞はその拳で迎撃し、弾き飛ばす。「壊すことはそんなに簡単なことじゃない!」


 裂帛の気合とともに言い放ち、一歩を踏み出す我聞。


 その氣の充実した一歩は接地した足指を起点として“力”を発する。発せられた“力”は“勁”へと変化し、踵が接地することで増幅し、膝…腰…丹田を通るごとに整えられ、強い指向性を持つ。





 拳を迎撃されたことで一旦連打を止めたものの、我聞の台詞をスーツを壊せない言い訳ととるジャンゴウは構わずに拳を振るう。だが、その時点で既に、力として発せられ、勁へと変わった流れは壇中を経由して正中線を通り、右の肩から肘を通過し……腰に溜めた右拳に達していた。「壊してやるさ」静かに言い切り、我聞は拳を振るう。





 ――拳が、爆発した。


 特訓の結果修得され、静馬の水のガードごと杖を破壊した我聞の爆発する拳……工具楽仙術、撃・爆砕――銃弾も通用しないボディスーツを破壊したその技により、自分もまた吹き飛ばされてはいたが、任務を達成したことに力強い笑みを浮かべる我聞。


 だが、その充足感を吹き飛ばすべく我聞の前に現れたのは、國生と優に銃を突きつける……あのサングラスの男であった。





 あらすじの時点で、拙いなりのありったけの中国拳法の体感……纏絲勁のイメージを突っ込んで撃・爆砕のメカニズム解説したので、マジな点はもういいや(満足)。ここまでイメージして解説したからには、あとは多少なりともマシな発勁を撃てるようにならないとな、俺も。まぁ、爆発はしなくてもいいけど。





 ネタの面としては、某日本一有名なサッカーマンガを思い出させる発言もあったし、我聞のサポートという目的を忘れて武器を使いたいだけだろ、キミ……という性格がうかがえる行動もあるし……優ねーさん、いろいろな意味で危ないです。國生さんいなかったら大変なことになってたよ、ホント。ツッコミいないと、ボケとボケだけでは漫才が成り立たないもんな(そっちかよ!)。








おまけマンガ:『サイン会ってこんな感じ』




札幌に降り立った九州男児、藤木先生……草場先生のアシ時代と同様、またもやトトに負けてます。




裏表紙:工具楽姉弟、大地に立つ!(……って、ガンダムじゃねーか!)




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