日報バインダー3








表紙:優ねーさん、PC前でコーヒーブレイク。そこに帰社した工具楽屋外回り隊。




折り返し・表:あまりの作画ミスに衝撃を受ける藤木先生……って、雑誌違う!




折り返し・裏:小ネタ四コマ『一休さん』




第19話 交渉


「じゃ、交渉を進めるぜ?」





 國生と優とに銃を突きつけ、我聞に交渉を要求するサングラスの男……我聞はその卑怯な交渉を認めず、二人の解放を要求するが、躊躇なく放たれた銃弾は國生の髪の一房を切り落とし、その頬を裂いて我聞のすぐ脇の壁に着弾する。


 天を裂き、地を踏み割り、音を抜き去る銃弾も通用しない仙術使いをまともに相手にするつもりはない、と言ってのけ、『交渉』を自分のペースで進めるサングラスの男は我聞の拳を前に倒れたジャンゴウを蹴り起こそうとするが、完全に気を失っているジャンゴウはそれでも起きる気配を見せない。


 優に指示を出し、ジャンゴウの背に取り付けられたスーツのデータ収集用バックパックを回収した男は、優のみを解放……國生を脱出用の保険としてそのまま銃を突きつけた上で、ジャンゴウの首に取り付けられたセンサーに時限式の強力な爆弾をセットしてその場を立ち去る。


 銃を突きつけての交渉や人間の命をビジネスと称する態度――そして何より、気丈に振舞うが銃を突きつけられて微かに震えていた國生を傷つけ、連れ去ったサングラスの男に対しての怒りを乗せた撃・爆砕が、男が立ち去ったあとにロックされた金属製の扉を吹き飛ばす。自身もまた吹っ飛ばされてはいたがすぐに立ち上がり、後を追おうとする我聞に、爆発の衝撃で目を覚ましたジャンゴウが早く逃げるように促す。


 恐らくは自分自身の目で見たことがあるのであろう、さながら首輪のようにつながれたセンサーに結線された爆弾の威力や、わずかな衝撃でも作動する感知装置の敏感さを述べ、自分のことを諦めつつも、『このモニタリングが終われば解放する』と言われた自分に対して行ったように、サングラスの男がまともな交渉をするつもりがないこと…早く追い付かないと國生の命が危険にさらされるであろうことを伝えるジャンゴウに、我聞は「今はあんたを助けるのが先だ!」と一喝した。


 同時に、解析を進めていた優が一分足らずで爆弾の構造を把握……國生を傷つけられたときに指揮車から応援に向かい、程なく合流を果たそうとしていた辻原へ通信を送り、一旦引き帰させて必要な機材の調達に当たる。


 優に國生の救出を任され……ジャンゴウによって、二人は屋上に向かったことを伝えられた我聞が駆け出した頃、國生は退避用に用意された敵組織のヘリを目の当たりにしていた。現時点での最新鋭偵察戦闘ヘリ・RAH−66でも達成できないほどのローター音の消音を実現した……いわば無音ヘリに、ナイフや装甲車と共通するオーバーテクノロジーを感じた國生を一応解放しながら、サングラスの男は工具楽我也の情報をちらつかせる。


 その情報に思わず食いついた國生に振り返り、「つくる者がいなければ、こわす方も成り立たない――わかるだろ?こわしやならば」そううそぶくサングラスの男の銃口が國生に狙いを定め、銃爪にかけられた指に力が込められようとしたその時、床が爆発した。


 爆発した床は局地的なコンクリート片と爆風の嵐を引き起こし、発射される直前の銃を弾き飛ばす。


 撃・爆砕……國生を救出すべく我聞の拳から放たれた、怒りの一撃であった。





 ジャンゴウのおっちゃん、暫らくして『超法規的判断』で出所して仲間になりそうな雰囲気ですにゃ?『いつかヤローをブン殴ってやりたかったんだ。オレの分、残しとけよ』……そんな言葉残す奴って、『ARMS』のカルナギのように仲間になって一発だけ殴ってやられるか、殴る前に盾になって死ぬかのどっちかが合計83%だもんな(大嘘)。


 でも、解析終わりが一休さんになってた優ねーさん……その筋肉って一体?もしや、『閃き』と『平目筋』とをかけた上、『一休さん』もプラスした複合ボケなのか?





第20話 水刃


「氣の出力が足りないよ、ぼうず。理を得てもやはりまだまだだね」





 咄嗟の判断で天井に穴を開け、ショートカットすると同時に國生の危機を救った我聞がサングラスの男に宣戦を布告した!


 ほぼ同刻、三分で爆弾の解体を終了させた優と拳を爆発させた我聞のデタラメさに目を丸くし、ジャンゴウは完全な敗北を認めた。至近距離で爆発を受けたことで全身の骨が軋みを上げているのであろう、立ち上がれない状態ではあるが、そのままの体勢で自分の知る情報を明かすことを約束する。


 辻原が優のデタラメぶりは肯定しつつも仙術のデタラメさは否定した頃、屋上に立った我聞は自分を狙う無音ヘリのバルカン砲を辛うじて躱していた。


 その援護もあり、サングラスの男はヘリの脚部に掴まりゆうゆうと脱出を図る……飛び立ったヘリによりその足は既に中空にあり、屋上からも数メートル離れている。


 その圧倒的な有利が生み出した油断から来る余裕で男が我聞をリストアップすることを宣告し、立ち去ろうとした瞬間、我聞は迷わず宙を舞った。


 バルカンの斉射を見切り、武術の達人が間合いを侵略するかの如くにその距離を一気に詰めた我聞は、その身を宙に置いたまま叫ぶ。「ウチの社員にケガさせたんだ…お前だけはブン殴る!」


 霞めただけの拳はサングラスを割り、それまでサングラスによって隠されていた男の左眼に醜く残る傷跡をさらすにとどまったが、高い自尊心を傷つけるにはその軽い一撃で十分だった。


 男は直前まで余裕を持ち、覚えておく、と言ったばかりの我聞を怒りに任せて蹴り落とし、そのまま殺そうとする。


 が、突然現れた水球が落下を開始した我聞を救った。


 施設の脇に多量の水を湛えた池―― そのほとりに立つ影一つ……元こわしやの静馬さなえによって制御された水球であった。


 制御されたのは水の球だけではない。それ……高さ50メートルの水の柱に気付いた男を戦慄させる残撃が振るわれた!


「斬・水刃・最大出力 刃渡り50M(目測)!!」……静馬の本気の斬撃は、恐らくは装甲車と同等の装甲を持つであろうヘリを苦もなくなます斬りに斬り捨てた。


 結局サングラスの男には逃げられたものの、殴りに行ったことを評価し、我聞に一応の合格点を出した静馬……その評価に、我聞はさらに精進することを誓い、修行は幕を閉じた。國生の得た一言を手掛かりに、辻原に確信を抱かせるという副産物も付け加えて……。


 そして翌日、ジャンゴウの知る我也の姿で父の偉大さを改めて知った我聞は、工具楽屋を後にする静馬に我也や静馬に一刻も早く追い付くためにも別の機会にでも修行を施して欲しいと訴える。その前向きさに薄い笑みを浮かべ、静馬は我聞だけではなく、國生にもその修行のために静馬を訪ねることを勧め、『鬼の静馬』は去っていった。


 静馬が去ったあとの工具楽屋に、修行の成功と黒字と、そして中之井の安堵とで一気に明るさが宿る。と同時に、國生の下に果歩を介して届けられた一枚の請求書……金額は50万円。最初に爆砕の被害を受けた、霊園からの埋め戻し費用であった。





 やっぱり國生さんには先天的な何かがありそうだな。その辺はこれから以降に任せるが……何はともあれ、斗馬のTシャツ『石破ラァブラブぅ(ホントはハートマーク二つ)天驚拳』だよ、おい。このマンガ、やっぱりどっかしらにギャグ入ってるのな、やっぱり。いえ、嬉しいんですけど。


 でも、親父よ……内戦国に風のように現れて、全ての武器と兵器を素手で破壊して回るなんて、あんたは一文字隼人か(『仮面ライダーSPRITS』ネタで行くかよ、俺)?





第21話 我聞VS國生さん


「平和ねェ、日本って」 「まったくだ」





 今日もトレーニングに励む我聞とそれに付き合ってトレーニングに励む珠。ついこの間の静馬との修行に加え、夏休みも近いとあって、我聞のテンションが上がっていると分析する優のテンションもまたなぜか跳ね上がる。その優の分析に、國生は社長秘書としてある決意を静かに固めた。


 そして翌日の御川高校……昼休みに行われる予定の文化祭の委員会を前にトイレから戻った我聞が國生の後ろ姿を見つける。別段呼び止めることなく教室に戻り、我聞は中村から何の用で國生が我聞を訪ねたのかを訪ねるが、真っ先に応対し、國生から何事かを伝えられたはずの佐々木はいつものようにトリップしており、聞き出そうにもポンコツで話にならない。放課後にでも聞けばいい…仕方なくそう思い直し、そのまま実行委員会の行われている会議室に向かった我聞の目に飛び込んだものは、理路整然とした議事進行で会議を取りまとめた國生の姿であった。


 弁舌はもちろん、日頃から工具楽屋の経理を担う本職だけあってその予算案も管理能力も完璧な國生に、委員からの声望は一気に高まりを見せるが、静馬との修行があったためにそれまで参加できなかった各種委員会や修学旅行の幹事会といった会合に参加できる喜びと、夏休みが近いこととあいまって、テンションを上げてきていた我聞は急激に何かに取り残された感覚を覚える。


 とはいえ、多忙で参加できなかった自分に代わって会合に出席してくれた國生への感謝の念の方がはるかに高いことも確かであり、我聞は今までの労をねぎらうが、あとはもう任せろ、と言う我聞の言葉に対して返ってきた國生の言葉は意外にも、今後も各委員としての仕事を積極的にこなすことを伝えるものであった。


 翌日も我聞を差し置いて委員の仕事を続ける國生。そのお陰で部活にも参加できるとあって多少の感謝はすれど、ポジションを取られた、という虚しさもまた感じていた。


 虚しさに背中を丸める我聞に新技・『佐々木☆スペシウム ギャラクティカ』を引っさげて登場した佐々木の喝が入る。「秘書にばかり仕事を任せて!それのどこが頼れる社長かー!!」という佐々木の一喝に衝撃を受ける『頼れる男レベル49』を自認する我聞……うろたえ、悩む我聞に佐々木は一つの策を授ける。


 名付けて、『我聞再認識計画』!!國生に我聞を頼れる社長である、と見せ付ければ、國生も我聞に仕事を戻すはず……その名案に心から打ち震える我聞。卓球部部長・皇翔馬を交え、作戦は実行に移される……それを蚊帳の外でごく普通に部活に励む中村ら一般の部員達が生温かい目で眺める……平和な光景であった。


 体育委員会を翌日に控えた深夜の体育用具室に侵入する三人。面倒な備品チェックを済ませておけば國生からの信頼度もアップする、と見越しての夜を徹してのチェックを敢行するためである。時間はない……それぞれの持ち場に散る佐々木と皇に、かすかに引っ掛かりを残していた我聞は『なぜここまで』と疑問をぶつける。


「仲間じゃねーか。他に理由が必要か?」佐々木の明快な答えであった。感涙に咽ぶ我聞に最早わだかまりはなかった。ついでに「あとで國生さんの仕事着姿写メールな」という佐々木の本音への聞く耳もなかった。三人の力を一つに合わせて行われた作業は完璧で、我聞は勝利を確信する。が、「あ…備品チェックなら前回やっておきましたが……」という國生の一言が、三人を粉砕した。


 時間の無駄、という國生の台詞に憤りの言葉を発する我聞ではあるが、國生FCの二大巨頭である佐々木と皇の本音に、ようやく我聞は自分の行ってきたことが本当に無駄であったことを知る。揃いのナイファンチの構えで立ち向かう二人の裏切りに衝撃を受けながらも、かつて仲間と呼んだ男たちを相手に拳を交える我聞に、國生は真相を語る。


「ところで社長…テスト勉強は進んでらっしゃいますか?」


 赤点を取ると補習が入り、その分仕事が入れられなくなるため、テスト前までは國生が代理を引き受けるつもりだったのだ。それを知った我聞は安堵し、伝えてくれればというが、怪訝そうに返ってきた國生の答えは、我聞にとってさらに意外であった。言伝は頼んでいたはずですが…佐々木さんに」その國生の言葉から十数秒経ってようやく思い出す佐々木の姿に、我聞は完全に抜け殻になっていた。


 そして試験後……三人のバカ仲間は補習仲間として生まれ変わることを決定付けられるのであった。





 まさか18ページ全部にネタが散りばめられてるとは……シリアス一切なし、というこんな悪ふざけ、大好きですよ。ええ、あらすじ書くのもノリノリですとも!正味の話、お気に入りは『ケミス鳥』と『モン次郎』ですよ。でも……苦労してんな、中村(肩ポン)。


 あと、非常に気になったのが國生さんの溜め息のトコにいる女子生徒……確か、國生さんに『國生先輩――』となついてた、犬っぽい娘さん(偏見)と同一人物だとお見受けいたしますが、残念そうな顔してるってことは、この娘さんも補習か?あと、備品リストに『ファンタジスタ』とある上に、チェック欄『○』ついてますが……確かに、机運んでる坂本轍平らしき人影は体育祭の準備のときに見かけたけど……備品か?てっぺい備品なのか?!ま、補習者リストの2−7の方の名前もびっくりだけどさ。





第22話 働く夏休み


「やんのか オラァアア!!」「突然何をするかー」





 時は7月21日、一学期最後のHR……自然と殺気立つクラス内に、担任教師の「また登校日にな――」の声が響き渡る。瞬間、2−5は歓喜の渦と化した。ついに夏休みの到来だ!


 バイトに部活にザリガニ獲りに……それぞれの予定に胸膨らませる2−5の面々。その中でも我聞は黒字に向けて一際燃えていた。國生とともに直接現場に向かう我聞を待っていたのは、工具楽屋にほぼ専属で解体現場に入っている解体職人、三十代近い顔立ちのカンジと二十代前半といったところのヤスヒロ……愛称ヤスのいつもの二人と、見慣れない中学生位の女の子――バイトの中学生?と尋ねる我聞の言葉をヤスが青ざめて止める間もなく、『中学生』の鋭い蹴りが、我聞の延髄を斬り裂いた。


 「ほっちゃんはああ見えてハタチなんだよ!」というヤスの言葉に、果歩ぐらいかと思ったと驚く我聞。自尊心を傷つけられたほっちゃん…保科ますみが、元族という持ち前の凶暴さとそこでも一目置かれていたであろう空手を駆使して、驚く我聞をタコ殴りにするまで…それから数秒も掛からなかった。


 ユンボ乗りとして我也時代にもちょくちょく手伝いに来ていた保科を知る國生が我聞に紹介するが、二度も逆鱗に触れた我聞を『デリカシーのないセクハラ野郎』と決め付けた保科と、仕事にプライドを持っているにもかかわらず『親の七光りのセクハラ社長』と決め付けられた我聞は衝突。決着を解体業でつけることになる。


 ガラ運び……モルタル片やコンクリ片を約三分かけて一袋30kg前後の分量を詰めることの出来る土のう袋に詰め、4tダンプに運ぶ我聞の横を、軽い一すくいでも200kgは運ぶユンボが追い抜き、一度に荷台に流し込む。


 土壁崩し……ハンマーの一振り一振りで土壁を徐々に崩していく我聞の隣の壁にユンボが着けた。支柱に当てたアームを操作し、柱全体に振動を与えることで土壁を一気に崩した。


 ――我聞の圧倒的なまでの惨敗であった。どう見ても中学生にしか見えない保科からの嘲笑にさらに腹を立てる我聞だが、カンジとヤスにもからかわれ、我聞の新たな称号『セクハラ社長』は、完全に定着を果たした。


 そして夕方……家屋解体の一日の仕上げとして水撒きを始めた『セクハラ社長』こと我聞……拳とユンボの直接対決ならば爆砕を持つ自分に分があるが、それでは意味がない、とこぼす我聞の耳に、すでに出番は終わったはずのユンボの駆動音が届いた。ふとその方向に目をやると、アームの先端をショベルからグラップル仕様の爪に付け替えたユンボで空き缶を積み上げる保品の姿がそこにあった。


 緑茶や紅茶のスチール缶だけではなく、炭酸飲料のアルミ缶も混じった空き缶を潰すことなくアームの繊細な操作で綺麗に積み上げつつも、まだその時間のかけ方に納得がいかないといった様子で再度挑戦する保科の腕前に呆然と見とれる我聞に、ヤスが後ろから声を掛けた。


 今は亡き父親の形見の品であるユンボを使いこなすために努力を積み重ね、あそこまでの腕になったからか、多少カリカリしたところはあるが、真面目さの現われなので気にするな、と笑って我聞を慰めるヤスの言葉に、我聞は自分と同じく父親の背中に追い付こうとしている保科の姿を見、敵愾心を捨て去ることを心に決める。


 だが翌日、補習を終えて社に戻った我聞は、この時間には既に現場に入っているはずの応援の三人の姿を見てしまう。昨晩のうちに現場からユンボが盗まれていたのである。


 今後の対応を協議し、警察に被害届を提出することでまとまったそこに、TVニュースが流れる。


 そこに写るものは、見慣れたマークを施されたアームでATMを破壊する映像……保科が父から受け継いだ愛機がATM強盗に使われる姿であった。


 探しに行こうとした保科を、それこそ警察に任せたほうがいいと止める我聞ではあったが、「あれはあたしの魂なんだよ!!」という保科の涙を浮かべながらの叫びに我聞は止めるべき言葉を失う。


 誇りを…父親を…魂を踏みにじられた怒りから飛び出す保科をヤスとカンジも追い、それを追うことが出来ない工具楽屋の一同は事務所に取り残された。


 追うことが出来ない理由……近県で多発しているATM強盗の使うユンボの破壊という本業の依頼があることを明かされ、我聞は表情を曇らせた。





 新キャラ・ユンボマスター(『サンボマスター』みたいな呼び方だな、コレ)ほっちゃん、登場である。だが、ほっちゃんって……いつ見てもエビちゃんに似てるなぁ―― 愛称は『ほっちゃん』なのに。髪型ポニーだし、超好戦的だし……どーせなら、実は柔道もやってたって設定が後からついて、『ありくいVSあり』戦でダイナマイトキッドばりの超高速裏投げカマシて「キューティって呼んで!」とでも言ってくれれば(トリップ中)……硬い地面でやったらセクハラ社長死んじゃうけど。


 あ、そうそう…セクハラ社長で思い出したが、我聞も「セクハラなんかするか!」って言ってたけど……連載中にも既に二回もやったじゃん。優ねーさんに証言してもらえばいいぞ。きっと、尾ひれつけた上に『いつ、どこで』という肝心なところは本業中&本業直前だったんでボカしてくれるだろーから、さらに被害拡大させてくれるぞ。


 本編とは一切関係ないが、モーちゃん&フジイよ……おまえらって一体(汗)。





第23話 こわしや見参


「わかっちゃいるけどよ…! 先輩にゃさからえないだろ…」





 自らの足を使い……また、ヤンキーの情報網を駆使し、犯人探しに走る保科……既に日は落ち、夜の帳が舞い降りた街をヤスとともに駆けるが、これといった情報はつかめない。だが、諦めるわけにはいかなかった。盗まれ、ATM強盗に使われたユンボは亡き父の形見であり、真面目一本な父に反抗して入った女族“紅夜叉”の特攻隊長として数々の悪さも働いた自分にとっては、最早数少ない父とのつながりと呼べる品であった。絶対に見つけ出さないといけない。見つけ出して、元“紅夜叉”斬り込み隊長の恐ろしさをたっぷりと味あわせてやらないといけない――その衝動に肩を震わせる保科を見つけ、声をかける男がいた。『セクハラ社長』……工具楽我聞であった。


「保科さんとは別に自分達もユンボを探していた」といい、保科達と合流した我聞と國生だが、警察はもう犯人の目星はつけたらしい…あとは任せたほうがいい、と國生は保科に捜索の終了を『提案』する。朝から探し回った自分を思いやってのその言葉に、しかし保科は断りを入れ、逆に我聞達を帰そうとする。それを聞き、我聞は「帰ったほうがいいって…補導されるし!」と発言…伸び上がり気味のモーションから繰り出されたアッパーを綺麗にもらった上、國生と出てきた方角がホテル街だったこともあり、再び『セクハラ社長』の烙印を押される。


 結局、國生らの説得は失敗に終わった。


 一般にはその素性を知られてはいけない『本業』のために、どうしても保科より先に犯人と接触…ユンボを破壊しなければならない上、他県でも同様の犯罪を繰り返していた犯人グループは警官隊を相手にしても複数の警官に重傷を負わせて逃走するほどの危険なグループでもあったのだ。


 面が割れるリスクを……そして、犠牲を避けるためにも、工具楽屋の面々は保科に捜索を諦めて貰いたかったのだが、保科のユンボへの想いは強く、我聞らは保科に手を引かせることは出来なかった。


 その思いやりを一切無視し、依頼人である警視庁特別公安部の藤原兼人は一刻も早い重機の破壊を求める。自分達の失敗を棚に上げての居丈高な態度に無言の殺意すらも感じさせる不満さを顔に出す中之井と優、そして國生……それを横目にしながら、辻原は藤原への皮肉を巧妙に隠した口調で我聞に対応の仕方を求めた。我聞は……決断を下した。


 そして夜のオフィス街では…『金有銀行』のATMをユンボの爪が掴み、引き抜こうとしていた。ユンボの運転席の二人の男――ごくありふれた田舎のチーマーとチンピラとの中間とでも位置付けられる年恰好の若い男達は、自分達の行動にいい加減嫌気が差していた。だが、止めることは出来なかった。彼らの真上に位置する…ユンボの屋根の上に、さながら自らの縄張りに獲物が飛び込んでくることを待つ獣のように寝転がる『先輩』と呼ばれるリーダー格の男の恐ろしさ、いや、イカレ方を知っているからこそ、逃げることは出来ないということを知っていたからだ。


 ただでさえ派手な犯行の上、ユンボを運転するヒロと呼ばれた下っ端の一人の良心と恐怖とがせめぎあっていることもあってか、警報が鳴ってもなお操作にもたつき、逃走はおろか現金の回収も行っていないというあまりにお粗末な行動のため、警官隊が現場に到着する。


 警官隊に残念そうな視線をぶつけ、『先輩』はヒロに命じる。「ヒロちゃーん。今日こそホームランみてェなー」……青ざめるが、逆らえば自分が『飛ばされる』ことを知っているヒロは、もう一人の下っ端の制止も聞かず、恐怖に任せてアームを操作した。


 急旋回してきたアームを警官達が辛うじて避け、パトカーを転がすにとどまったことにヒロは安堵の溜め息をつくが、『先輩』は爬虫類じみた薄ら寒い笑いを見せながら、「人だったらもっと飛ぶだろー…ホームランぐらいさ―?」という言葉をその口から吐き出し、強引に操作を交代する。


 保科が整備を重ね、新品同様の……いや、部品の余分な角が長年の操作で取れたことで、もしかすると新品以上の滑らかな操作性を持つであろうユンボの操作性に満足そうな笑いを浮かべ、爬虫類に似た顔を歪ませる『先輩』の操るアームがATMを掴み…警官隊に向けて放り投げた。応援を要請しようとして、パトカーの無線に手を伸ばしていた警官二人の反応が遅れた。頭上に降り注ぐ、200kgを超える凶器に驚きから足をすくませる警官二人……彼らを予想だにしない突然の爆発が救った。


 投げつけられたATMを拳の一撃で爆発させ、その反動のまま無事なパトカーの屋根の上に飛び乗る人影……間一髪で間に合った我聞に、『先輩』が長く待ちわびた獲物をその牙にかける悦びに打ち震える獣の顔で…笑った。





 セクハラ社長、今回もセクハラ全開です。でも、國生さんはそのセクハラに気付いてないので意味がない。ええい、この朴念仁カップルが!!見ていてやきもきするったらないわ!で、國生さんといえば表紙での「またコスプレ…」発言だが、いつコスプレしたっけ……あ、『某泥棒三姉妹漫画』のコスプレだ。あの未来の旦那のピチピチレオタード秘書兼嫁が顔を赤らめてたあの時だ(微妙に違う?)……やっぱり我聞セクハラ社長だな。


 でも、ホントに頑丈だわ、このユンボ。パトカーフッ飛ばしたのにアーム無傷だよ。多少はひしゃげるぞ、普通なら。あと、余計な重箱の隅としては、輸送用のダンプもないのによく街中にあんな大型ユンボ乗り付けられたなぁ……チンタラ移動してる最中に職質の一つや二つはされて足つくと思うんだが。はっ…もしや、ほっちゃんが整備&違法改造したせいで、戦車並のスピード出せるのか?


 冗談はいいとして、ATM投げつけられた警官って……モーちゃん&フジイじゃねーか!彼らにはこのマンガの『キング・オブ・モブ』の称号を与えよう……目一杯爆熱してくれ、モーちゃん&フジイ。





第24話 名物にうまいものなし


「わかった……… やってくれ……」





 窃盗団とこわしやがついに対峙した。


 一刻も早く重機を破壊し、犯人を確保したい……その一心で工具楽屋を雇った藤原の振りかざす強権によって人払いをされ、辛うじて顔を明かすことは避けられた我聞だが、被害者でしかない保科のユンボを壊すことにためらいを持つ我聞はなるべく壊す個所を小さくするつもりでいた。


 そのために二つの策を用意していた我聞ではあったが……作戦その1である拡声器を使っての『昔ながらの刑事ドラマ風説得』作戦は当然ながら失敗…どころか、逆に『先輩』は歪んだ戦意を剥き出しにする。作戦その2と銘打たれた、ドアだけを壊して直接運転者を引っ張り出すという方法も、保科が心血を注いだユンボの高い操作性が我聞にとっての仇となって巧く間合いに入ることも出来ない。


 焦りを覗かせる我聞の脳裏に、國生によって示された『最悪の場合』を想定した作戦がちらついた。


 『最後の手段』をためらう我聞ではあるが、膠着が続くうちに大規模な女族である紅夜叉の後輩達を動員し、ユンボ探しに血道を上げる保科は警察無線を傍受…ついにATM強盗の情報を掴んだ。保科の接近をGPSで感知した國生は我聞に時間がないことを告げる。残された時間はたった10分……ためらっている暇はない……我聞は苦渋の決断を下す。『最後の手段』に出ることを決めた。


 その言葉を受け、國生が実行キーを押した。指揮車の屋根が開き、長大な何かがせり出す。数秒で無骨な全貌をあらわしたそれは……工具楽屋名物一五五ミリ砲――以前、金庫破壊で使用されたものであった。車両への反動を抑えるべく車輪の脇からせり出す油圧シリンダーが足場を確保した。角度を補正され……砲撃が行われた。


 だが、ユンボは破壊されてはいなかった。中之井の精密な砲撃によってユンボに命中した弾は、我聞が自腹を切って用意した優特製のトリモチ弾であった。「“こわしや”でも壊してはいけないものがある!」そう言い切り、自腹を切る決断を下した我聞に、『警察の威信を見せつける』という一心しかない藤原は、裏の稼業とはいえ、立場上は民間人であるこわしやすらも自分の部下のように扱い、命令を出す。しかし、藤原のその命令を「民間人の所有物を壊すのは犯罪です」と切り捨てる國生…彼女もまた表には出さなかったが、藤原に強い怒りを持っていたのだ。


 命令を無視され、業を煮やした藤原は自ら犯人確保に向かう。だが、その藤原を『先輩』の拳が襲った。運転席のガラスを突き破り、肩に当たったその打撃に尋常ではない苦しみ方を見せる藤原。駆け寄る我聞はその肩が外れていることを……仙術の技である解・穿功撃が藤原を襲ったことを知る。


「しゃーねー 直接見せてもらうぜ、お前の仙術……!」粘着性の強いトリモチ弾によって動きを封じられたユンボを捨て、運転席からのそりと降りる『先輩』が、不敵に笑いながら言った





 あんなところに隠れてたのか、一五五ミリ砲!今回はこれにつきます。


 あまりにあんまりなんで突っ込むのは控えてたけど……やっぱりステレオタイプの『キャリア系キャラ』だけあって、案の定反抗された上に功を焦ってやられたな、藤原のおっさん。でも、怒れる國生さんの久々のアイスドールっぷりを引き出してくれたんでその点だけは評価しとこう。


 しかし…「今ならDVDもつけよう」って、我聞よ……真面目に考えてたみたいだけど、工具楽屋にそんな予算あるのか?トリモチ弾で悩んでた奴に払えるとは思えんのですが……。





第25話 怒拳爆発


「ナメてんじゃねーぞ?」





 功を焦って前に出た藤原の肩を外し、保科の大切なユンボのガラスを割った『先輩』……七見イサムの目的は、“理”を得たこわしやの仙術使いであった。自分達をおびき出すためだけに保科のユンボを盗んで悪事を働き、無駄に壊した七見の身勝手な行動に怒る我聞は、保科らの到着が近いことを伝える國生の制止を振り切り、七見に穿功撃で殴りかかる。


 だが、“理”を得ていないとはいえ、基本技の技術だけならば七見の方が熟達していた。


 我聞の穿功撃は片手で受け止められた上で氣を後ろに逸らされ、本来の力を発揮することない……文字通りただの『氣の抜けた』打撃と化す。


 氣の抜けた一撃を撃たされた右手を掴み、内懐に入り込んだ七見の肘が我聞の水月に入る!


 仙術使いだけあって当然のように“氣”の込められていたその肘技……貫・螺旋撃を受け、体を崩した我聞を更なる連撃が襲う。“理”を得た仙術使いである我聞をも圧倒する氣の練りの速さから繰り出す貫・螺旋連撃を何発も着弾させ、我聞を追い詰めながら「オレが用があるのは“理”の技」と、挑発する七見に、辻原はその正体を見抜く。


 仙術使いの血統に生まれながら、恐らくはその性質であろうが“理”を得る資格なしと断ぜられ、“理”を得た仙術使いとの接触を禁じられた存在――“はぐれ”の仙術使いがその正体であることを知らされ、指揮車の國生は我聞に挑発に乗らないように指示する。


 一方の七見はあと一歩でその歪んだ目的を達成できると有頂天になる。“理”を奪えるものと思い込み、恐怖で縛った舎弟達の逃げるための足すらも穿功撃で外し「めんどーだからつかまっとけや」と嘲笑う七見……仲間すらも裏切り、自らの快感のために“理”を得ようという身勝手な欲を振りかざすその姿に、我聞の怒りはついに沸点を突破した!


 右拳での大振りの一打が、七見の顔面を捉えた!


 顔面を殴り飛ばされたものの、氣すらも込められていないその単純な打撃に余裕を見せて向き直ろうとした七見の腹に今度は左の横蹴りが突き刺さる。


 同じく単純な一撃に、余裕を怒りに変え、我聞に殴りかかろうと突進した七見を、再びの右拳が捕らえた。


 七見の穿功撃によって外され、遠心力で振り回されるたびに痛みを振りまいているであろう左肩にも構わずに繰り出された大振りの一撃によって吹き飛ばされる七見は、挑発に乗らずに仙術を使わない我聞に怒りを込めた声をぶつけるが、我聞の怒りはそれを大幅に上回っていた。外れた左肩を戻し、何事もなかったかのように淡々と歩み寄る我聞は、静かではあるが灼熱に揺らぐ怒りを七見に叩きつけた。


「お前なんざぶん殴るのに、仙術なんか必要なし!!」


 保科の怒りを代弁するかのような、激しさのこもった怒りであった。


 その怒りを嘲笑い、続けて振るわれた拳を振り払う七見ではあったが、繰り出される七見の穿功撃を痛めていた左手で受け止める我聞。その氣が……後ろに逸らされた。“理”を奪おうとしていた相手に自分の使っていた技を逆に吸収され、驚愕する七見に我聞の渾身の一撃が入る。


 歪んだ自信と意識を根本からへし折る、強烈な一撃だった。


 助けられたにもかかわらず、傲慢さを捨てない藤原を置いて現場から撤収する工具楽屋の一同……現場に到着した新旧紅夜叉のメンバーによって、犯人とともにボコられ、次第に小さくなっていく藤原の悲鳴を聞きながら、指揮車は夜の街を走る。


 その荷台の中で依頼の達成と黒字を喜ぶ我聞であったが、浮かれる我聞に國生が水を差した。


「あ、忘れないでくださいね社長。 とりもち弾社長の自腹ということですので」


 そして翌日の解体現場――結果、トリモチ弾の代金として一週間のタダ働きを強いられることになった我聞は、戻ってきた愛車を操る保科によって新たな称号『エロ社長』を与えられ、涙で抗議する。が、昨日の今日でユンボを駆り、現場に戻ってきた保科の笑顔に「ま、タダ働きも仕方なし」と、すぐに納得の笑みを浮かべるのであった。





 疲れたなぁ、明らかな雑魚戦を盛り上げるつもりで書くのって。もう少し持つかと思ってたのに、直接対決一週間で終わるんだもんなぁ。まぁ、五分間の限定戦だから仕方ない面もあるんだけどさ。


 はっきり言って書くことないけど、無理に書くとしたら……優ねーさん……とりもち弾の制作費、絶対ぼってるよ、あれは。一週間のタダ働きと同額って、そもそも基本としてはゲル状接着剤とコーキング剤、それともしかすると速乾性のセメントが入ってるくらいだぜ?分量はかなりの量だったけど、それでも一万円はしないだろ、普通なら。もしかして、砲弾本体が高かっただけなのか?


 優ねーさんと言えば、実は脱いだらすごい人だったことが今回の扉で判明したので、一気に野郎のファンが増えたかもしれないな。





第26話 それをいっちゃあおしめーよ


「どうだ陽菜? ウチで働かねェか?」





 それは5年前の風景だった……雨が降る日、暗い部屋に一人残された少女に『放っておけない』と声を掛ける男がいた。自らの息子と同い年の少女にかけた声はあくまでも優しく、だが、天涯孤独の身の上となり、生きる気力を失った彼女への張りとしてであろうか……生きるための責任も背負わせる厳しさも兼ねそろえたものであった。


 そして、差し伸べられた手を握ったその少女は、男の庇護を受けながらも、その仲間の一人として成長を果たすことになる。


 その少女の名は、國生陽菜といった――。


 そして5年後…半期締めの締め日を二日後に控えたある夏の日、秘書のみならず工具楽屋の経理もこなす國生は工具楽屋の中でも最も忙しい日々を送っていた。


 残念ながら自分達では役には立てない、せいぜいお茶を入れてやるくらいしか出来ないと、國生の頑張りを認めてはいるものの、手伝いたくとも自分ではどうしようも出来ないその申し訳なさにただただ頭を下げるばかりの中之井と優……と、そこに現場帰りの我聞が現われ、狭い事務所内を駆け回っていた國生にぶつかってしまう。


 そのあまりの忙しさと、それとは裏腹に國生一人に負担が掛かる現状……以前自分の委員としての仕事を代わってもらった経緯もあり、自分も手伝おうか、と声を掛ける我聞ではあったが、國生は『自分の仕事ですから』と、それを柔らかく拒否。それを受けての「手伝っても逆に足引っ張るだけだよ」と言う優の言葉に少し傷つけられる我聞……そこに、我聞を訪ねて果歩が階段を駆け上がってきた。


 母の七回忌が近いため、形見の品である手鏡を探していたが見当たらず、父の机にでもないのか?と我聞に尋ねに来たのである。


 その言葉に國生があることを思い出し、口を開こうとした矢先に珠と斗馬が現われ、事務所内は大騒ぎになる。一気に賑やかさを増したことで出鼻をくじかれた格好になった國生は、つい言い出せなかった言葉をそのまま呑み込んでしまった。


 その夜の工具楽屋社員寮……根を詰めすぎを隣人の優にたしなめられるが、國生は大丈夫とだけ言い残して自室に戻る。


 その枕元には、先代・我也から高校の入学祝いとして貰ったあの手鏡があった。


 妻の形見を自分が受け継ぐことに戸惑い、返そうとする國生に、我也から自分にとっては國生も大事な家族だから渡すのだ、という言葉をかけられ、受け取ることになった我也との絆の証――だが、もともとこの鏡はあの工具楽兄弟達にとっては数少ない母親の思い出の品であり、自分が持っていていいものではない。先代との絆は、自分には仕事だけで十分だ……そう自分に言い聞かせつつ、國生はまどろみに包まれていった。


 前夜、仕事着のまま眠ってしまっていたためか夏風邪を引いたものの、手鏡を返すために、部活に出た我聞を訪ねる國生……卓球部に入部するために来たのだ、と思った部員……いや、増殖する一方の國生FCをつかの間だけぬか喜びさせたものの、手鏡を返そうと話を切り出す直前に今度は『本業』の呼び出しが入り、再び國生は機を逸することになる。その帰路、改めて手鏡を返そうと思い直した刹那、我聞が先に口を開いた。我聞もまた、煮詰まる一方の國生を心配してはいた。だが、國生の葛藤を……工具楽兄弟の思い出を奪うわけにはいかないと思う理性と、両親との絆を失った自分を『家族』と呼んだ我也との数少ない絆を失いたくないという感情とのせめぎあいで脆弱さを増す國生の胸のうちを知らなかった我聞は、國生の心を無遠慮に抉る一言を……吐いた。


「経理の仕事ぐらいならオレにもやれるからさ。たまには休んでも……」


 手鏡を返そうと心に決めた矢先の…残された我也との最後の絆となった『仕事』を奪うかのようなその無自覚な鈍い刃は、國生の誇りと折れそうな心にぎざついた傷を作った。その痛む傷口を塞ぎ、自分の拠りどころを精一杯護るかのように、國生の口から言葉が発せられた。「私は…社長とは違いますから……私にはもう…仕事しか…ないんです…!」


 かすかに涙ぐみ、我聞を置いて走り去る國生…我聞は、ただ訳も判らず立ち尽くすのみだった。





 せっかく國生さんも少しずつ打ち解けてきたのに、それを不用意な発言で台無しにしてしまった上に、傷つけたことにも気付かない我聞……真性のバカです。ドアホです。オタンコナスです。というより、朴念仁もここまで来ると立派な犯罪です


 と言うわけで(どんなわけだよ)、今回のシリーズ、主人公は國生さんです。國生さんが深く掘り下げられているシリーズのため、自然とお笑いは少なくなってますが、そんな中から数少ないお笑い要素を引っ張り出すと、まず我聞の『計算は得意だし』発言……いつも赤点取ってる(中村の発言から推察)ような奴が言っていい台詞じゃないよな、それ。あと、フジイのTシャツのロゴ、一人だけ『桃里』……裏切り者がそこにいる!


さて、お笑いへのツッコミも終わったことだし、本題といきましょう。今回のシリーズでは、一昔前に流行った謎本っぽい雰囲気ではありますが、ちょっと真面目に『アイスドール國生陽菜』(命名勝手)こと國生さんについて検証していきます。


 まず國生さんのここまでのパーソナルデータから……『神奈川県立御川高校2年生・16歳』『入社5年目の工具楽屋秘書兼経理部長』『(県立高校では珍しいが)特待生』『才色兼備で学校のアイドル的存在』『かといって同性にも嫌われているような節はない』『性格はクール……というより、冷たい印象を与えることもあるが、“そこがいい”と一部生徒の間ではファンクラブまで出来ている』『仕事には厳しいが、その分仕事以外のことを“不要なこと”と見ている節もある』『12歳のときに両親(もしかするとそれまでの何年間かは片親だったかも?)と死別』『一人残され、天涯孤独の身となった自分に仕事と居場所を与えてくれた先代社長・我也を父と慕っている』『我也仕込みの体術(合気道ベース?)も身に付けているため、“一見トロそうに見える”が実は運動能力は高い』『ボケ揃いの工具楽屋の中にあって、切れ味鋭い純粋なツッコミ』……一部余計なのも混じってますが、これらのキーワードを軸に國生さん自身や周囲の言動から類推すると、『なんでも出来るスーパーガール』という一面と、『コミュニケーション能力は意外に低い』『早くに両親を亡くしているためか、問題に命が関わると判断に多少の揺らぎが生じる』という一面を見ることが出来ます。


 これらの特徴を掘り下げるのは……次回に回しますが、増刊連載時から週刊の途中までの國生さんを見ての個人的な印象としては『國生さんって、無理してここまで来たんだろうな』というイメージを持ってます。この辺りは以前にも書いたので省きますが、その無理する過程で被ることになった“氷の仮面”を、我聞の影響を受けてたまに外してしまったことも一度や二度ではない辺り、正直ほっとするわけです。「ああ、完全に仮面と素顔との区別がつかなくなったわけじゃないんだな」と……。


 今回は大ポカカマしてしまった我聞ですが、このシリーズではどういう形で國生さんを袋小路から救い出すのか……お楽しみに(う、結論増刊の時点で見てて既に知ってるだけに…すげぇ薄っぺらい)。





第27話 すれ違い


『何やってんだろう…』





 不用意な言葉で國生を傷つけてしまった我聞……だが、その理由に気付くことはなく、せめて本業では國生に余計な負担をかけないように誓うことが精一杯であった。


 その本業は、電子制御された最新鋭の新幹線を占拠したテロリストの拘束・排除と、自動航行システムを暴走させられた新幹線の停止…プログラムを正常に戻すことを優先し、最悪の場合の破壊を含んでの停止依頼であった。


 プラスチック爆弾とナイフとで武装した上、覚醒剤を使用しているのであろうか、異常に精神を高揚させたテロリストではあったが、その最高速で終着駅まで走りつづける新幹線の外から、新幹線に併走する指揮車から飛び移った我聞がガラスを突き破って進入……そのままテロリストの横面に蹴りを見舞って爆弾を奪い取る。逆上し、ナイフを手に突進するテロリストに穿功撃で対しようとする我聞の足元を、我聞から一歩遅れて新幹線に進入を果たした國生の手にしたバインダーが払った。


 手を煩わせたことを詫びようとする我聞に一瞥も与えず、公衆の面前で仙術を使おうとした我聞の愚を責める國生は、我聞ごと足を払って気絶させたテロリストを縛り上げながら冷たく言い放つ。「軽率な行動をされるような方に、仕事は任せられませんので」


 テロリストを縛り上げ、乗客の避難とその後の客室の切り離しの指示を出した後、我聞を一顧だにせずにそのまま淡々と運転室に向かう國生。すでに限界に近い高熱に意識を朦朧とさせながら……ただならない國生の態度に不安を感じた優の言葉を振り払いながら……我聞への素っ気ない態度に自分でも戸惑いながら―― 先代との唯一の絆である仕事を護るべく、狂わされた自動航行プログラムを正常に戻すことには成功する。


 そして、國生が客車を切り離し終えた我聞と合流し、返すつもりのままつい持ってきてしまっていた手鏡を取り出したその時、ブレーキが作動した。


 最高速から急激にスピードが減殺され、車両が揺れる。


 力を失った手から手鏡が零れ落ち、車外に向けて転がった。


 減速したとはいえ、まだ時速100km/hは切っていないであろう車両から落ちてしまえば、手鏡は砕け散ってしまうことは間違いない。


 先代から『預かった』工具楽家の思い出の品を自分の軽率さで失ってしまう――それを恐れ、思わず叫びながら國生は駆け出した。


 だが、そのふらつく一歩よりも早く我聞は動いていた。


 右手で手摺りを掴み、ほぼ車外に身体を乗り出しながらも國生の手から転げ落ちた『それ』を拾い上げる我聞…辛うじてではあるが手鏡が車外に落ちることを免れたことに安堵する國生に、「大事なもの?」と訪ねたその時、我聞の右腕に凶刃が突き立つ


 國生の叫びが響く中、縛り上げられたはずのテロリストのナイフによって身体を支えていた右腕を刺された我聞が……落下した。





 真面目に國生さんを掘り下げる今シリーズですが、今回は國生さんの弱点について書いてみましょう。


 前回行った解析で挙げたように、國生さんにははっきり言ってコミュニケーション能力が圧倒的に不足しています。特に連載初期の頃の発言を見ていると判ることですが、一般論や立場上の言葉は兎に角、自分の意見をいうことは殆どありませんでした。そもそも、学校でも『工具楽屋の秘書』であることを優先して自分自身の言葉でしゃべることは殆どなかったと記憶しています。


 原因としては、社会人デビューがあまりに早すぎたことと、我也の『ウチで働かねェか?』発言を真面目に取りすぎて、遊ぶこと自体を放棄した(のではないか、という推察ですが)という点とも無関係ではありません。背伸びして工具楽屋の一員になるための努力を惜しまなかったため、その分価値観が狭い点――『全てを捨てない』覚悟を持っていた我聞の考えを当初否定していた、という点からも多少うかがえるその近視眼的なものの見方は、価値基準を固定するにはもってこいですが、あまりに幅がありませんし、人間性を捨ててまでカチカチしすぎるのは人としてどうか、という面でははっきり言ってぐうの音も出ないほど問題ありです。


 この点については、我也の言い方や教育方針にも多少問題があると言えます。


 心理学には『ペルソナ理論』というものがあります。


『さながら仮面を着け続けることで、仮面こそが自分自身の表情そのものであると思うようになるかのように、ある役割を果たさなければならないと思い込むことで、いつしかその“役割”が自分自身の全てに思えてしまう』というものと記憶していますが、この國生さんの心理状態は明らかにそれであり、我也以下、周囲の先輩連中が教育、指導せずにここまで来たのは明らかにミスです。


 我也にしても、せめて『たまにはこいつらと遊んでやってくれ』とでも言って工具楽兄弟に引き合わせるくらいしておけば、あの工具楽兄弟のことです…とてつもない浸透力で國生さんの人間性を豊かにしてくれたであろうことは間違いありません。まぁ、そうなると國生さんがポンコツになる可能性はかなり大なので、一概に良い悪いといえることでもありませんが、少なくとも『ペルソナ』の帰結点としては、『失ってしまった時の喪失感や無力感により、精神的に立ち直れなくなる』というというものがある以上、ガチガチに硬すぎるそんな生き方では、折れる時には今回のようにポッキリいくのは目に見えてます。


 また、同年代の遊び友達がいないという点から、人間関係を出来るだけ作らないようにしてきた、と推察することができます。人間関係を余計なものと断じる生活を送っていたため、この時点で國生さんには彼女自身が『絆』と呼べるだけのものが『先代からもらった仕事』『先代からもらった手鏡』の二つしかありません。そこまで極端に人間関係を拒んできた理由としては、あまりに早い時期に両親を失ったこと無関係といえないと思います。完全に推測ですが、恐らくは失うことを恐れ過ぎているため、國生さんは関係を得ることを拒絶しているんだろうと言えます。だからこそ、逆に自分とは無関係な人間であっても“完全な喪失”である『死』を恐れている節があるんでしょう。


 そんな生き方をしてきた國生さんですが、ここまで我聞と接してきたことでかなり影響は受けているようです。國生さんとは対照的な、周囲を巻き込む生活を送り続ける我聞のことです。きっと、國生さんすらも呑み込むんでしょうね。





第28話 新しい絆


「何してんだ…お前……」





 我聞が新幹線から転落した!


 動きを多少緩めているとはいえ、まだそのスピードは乗用車が一般道で出すものよりも早いことは間違いなく、線路上に叩きつけられ、ヘルメットを砕かれるほどのダメージを受けて倒れた我聞は、車両のスピードと等速で國生の視界から遠ざかってゆく。


 我聞を刺し、走る列車から転落させた者……突然の事態に混乱しつつも優に我聞が転落した旨を連絡する國生を蹴り倒した男は、國生自身が縛り上げたはずのテロリストであった。その結び目が緩んでいたため、失神から目覚めて間もなく拘束から抜け出していたのだ。我聞の軽率さをなじった自分の軽率な行動で、逆に我聞に重傷を負わせてしまったことを悔い、目の前の敵を倒して我聞の救助に向かおうとする國生ではあったが―― 高熱が國生の動きを大きく削いでいた。体調が普段通りならば苦もなく躱して制圧できるであろうテロリストの大振りの蹴りを受け、國生は倒れる。


 自分のつまらない意地で我聞を失ってしまったことへの後悔、熱で動けない悔しさ、そして―― 残された姉弟達への申し訳なさ……様々な感情が綯い交ぜになり、國生から溢れ出た。


「お願いです…そこを通して……通してくださいっ…!このままじゃ社長が……社長が!」


 新幹線を止められたことで逆上しており、最早理性的な説得も感情論も通じないテロリストに、涙を流して訴える。感情を露わにすることのなかった氷の仮面を砕いて現れた……本心からの言葉ではあったが、薬物による精神の高揚も見て取れるテロリストには、崇高な目的をもって立ち上がった自分の邪魔をした憎い女が観念して座り込んでいるとしか見えていなかった。テロリストのせめてもの憂さを晴らすべく、逆手に持ち替えられたナイフが高々と振り上げられ……その手が不意に掴まれた


 我聞であった。右腕の刺し傷だけでなく、転落したときに受けた擦過傷や打撲で満身創痍でありながら列車に舞い戻った我聞に目を丸くする國生と、自分が落としたはずの男に万力のような力で右手を掴み上げられ、ナイフを取り落としながら驚愕するテロリスト……その光景に我聞は――キレた。


「ウチの…社員を…泣かせてんじゃねぇ!!!」


 身体を四方八方に急激に開くことで、さながら内側の一点から爆発が拡がるかのような力の伝わり方を示す…中国拳法で言うところの十字勁――“打開”とも呼ばれる技を、文字通り怒りを爆発させながら撃ち込む我聞……全身の痛みをはるかに凌駕する怒りを乗せた拳は、テロリストの身体を数メートル吹き飛ばし、座席を数度バウンドしたところでようやく止めるだけのエネルギーを秘めていた。


 我聞の無事に安心したことと、連絡によって数キロは離れた位置にいた優らと合流したことで、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れたのであろう、ぱたりと倒れた國生を、我聞は自分の傷も顧みずに抱え上げた。


 國生が目を覚ましたのは、工具楽家の客間であった。工具楽兄弟と中之井、優とに囲まれている自分の姿に朦朧としながらも戸惑い、起き上がろうとする國生を我聞はその身体を心配し、押し止めると、拾い上げた手鏡を示す。それを受け取ったいきさつを語り、他人である自分ではなく、本来あるべき場所に返さなければいけないと続ける國生の言葉を遮り、我聞は言った。「これ、國生さん持っててよ。親父を家族と思ってくれるなら、オレ達だって家族だ!」


 長兄のその言葉とともに、暖かな笑顔で新たな“家族”を迎え入れる工具楽兄弟……その“家族”の暖かさは、國生のかたくなな氷の仮面を……あっけなく溶かした。


 溶けた氷の一部が涙となって溢れ出る。


 泣かせたことで戸惑い、さらに妹弟達によってからかわれ、はやし立てられる我聞ではあったが、中之井の言葉とともに立ち上がった。


 『役立たず返上のため』と称して、病気を押してここまで頑張った“家族”のために一肌脱ごうと立ち上がった我聞と中之井、優の三人に……國生は笑顔で後を託した。


 そして翌日…「ほとんど計算間違ってます」「スンマセンしたっ!!」三人の“家族”は結局、復帰したばかりの國生の手を煩わせるのであった。





 國生さんの検証シリーズ、最後は『國生さんの人間性の回復』について書こうかな、と思っていたんですが、その指針がきっちり描かれていたのでその辺りについては省きます。


なんにせよ、我聞の影響を受けて少しだけ笑顔を見せていた國生さんが、この一件を切っ掛けに目に見えて明るくなっていくのが、ある意味寂しいような感じもありますが……やっぱり少年漫画たるもの、ヒロインは明るく笑ってもらいたいですね……ああ、すみません…言ってることが訳判りません。自分でも性格破綻してるのは判ってるんです


 それは兎に角、偉大すぎる親父に実力そのものではまだまだ遠く及ばない我聞ですが、あんな風に育ってしまった國生さんを変えてしまう辺り……人間力という面では、もしかすると親父以上なのかもしれませんね。


 と、真面目な話もここまで……ツッコミどころが満載だったのにツッコまないのは人として間違ってるので、ツッコミ入れさせてもらいます。


 我聞……お前、最高時速何キロ?大方イカレテロリストに國生さんが蹴り喰らった時点で起き上がったと考えても、停止するまでの想定タイムが30秒でスピードが「半分に落ちてた」ということは少なく見積もっても100キロ……完全停止まで平均的にスピードが落ちていくとしたら平均50キロ、それにせいぜい30秒で追い付いたということは…時速50キロですか?そうですか……100m7秒2じゃねーか!ま、本当のところ、停止までのスピードはもう少し平均よりは低くなるにしても……絶対100m8秒は切ってるぞ、この男。あと、やっぱり計算得意というのは錯覚だったな。


 優ねーさん……計算間違いは別にいいや。かのトーマス=アルバ=エジソンも簡単な計算は出来なかったらしいしな。それはいいとして、何で「よがー」やねん?今時SFUネタですか?


 あと、個人的にちょっと残念なことが……我聞がイカレテロリストブン殴ったあとの台詞、増刊連載時の「女の子を泣かすヤツが〜」の方が好きだったんだけどな。我聞もニブチンなりに國生さんが隠してた本質を捉えたんだな……てな感じで。







ミニ外伝:『斗馬とアリ』


斗馬の愛読してる漫画雑誌って、やっぱ『漫画サンデー』?……どんな小2や、キミは!!


おまけ4コマ:『工具楽家の朝@・A』『優さんの朝』『國生の朝』


おまけカット:『超初期設定』


うおっ!國生さん感じ大違い。見慣れてないせいか、眼鏡が違和感まみれです!


あと、後の我聞である『達馬』の憧れの人……『保科さん』……って、ほっちゃんかよ?!


裏表紙:威嚇するほっちゃん&ほっちゃんを見守るヤス&カンジ




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