コラム〜『なぜなにダブルクロス』14・ピュアブリードを活かすコツ〜







羽鳥真琴:今コラムの特別受講生。


 『藍空』キャンペーンの主人公。今回のテーマが『ピュアブリード』であるため、シリアスなリプレイ本編から引っ張ってこられた、数少ないピュアブリードなUGチルドレン。


 純粋そうに見えるが、実は結構ケダモノ……キュマイラなだけに。


橋尾晃太:今コラムの受講生。


 一年以上も本編を進めることが出来なかったせいか、流石にいい加減書くネタに困ってきたUGチルドレン。


 いや、捏造すれば書けますよ?でも、それはちょっと許せませんので。


宍戸椎奈:今コラムの講師。


 すっごく強い人。ノイマン×キュマイラの変異種(ノイマン準拠)という二回のリアクション不可攻撃に加え、回数に制限はあるものの、装甲無視攻撃まで持っているので、下手なボスキャラは音速で屠られてしまう。


 というか、この方こそがある意味ちょっとしたボスキャラ。


端木葵:今コラムのおやびん。


 おやびんはおやびんです。他に呼びようがありません。


 つまり、圧倒的なカリスマに満ちたお方。その類稀なカリスマと独特のリーダーシップで着任早々藍空支部を纏め上げる、生まれながらの支配者にして、おやびん。





 UGN藍空支部・地下三階……戦技訓練室。


 一切の明りがないこの部屋の闇を払うかのように、時折火花が上がる。


 金属質の擦過音を響かせながら、闇を打ち消す明りの中に浮かび上がるのは、いまだ幼さをその容貌に残した少年二人。


 硬質化した爪を振るう短躯の少年の黒瞳が、もう一人の少年の右腕を彩る白銀と火花の緋色を克明に映したかと思うと、再び闇に溶け込む。


 しかし、闇というものが全てを閉ざし、呑み込む特性を持つとはいえ、音を遮断することは出来ない。


 微かな音を追い、空気を裂く音が響き、それに併せてさらに大気を震わせる音がこだまする。


 衝撃音が―――― 二つ響いた。





床に転がった晃太:(無線で照明のスイッチを入れながら)……どーよ。動けるか?


大の字に転がる真琴:……流石に、もう駄目だよ。


晃太:ちっ!まーたお前の相打ち狙いにハマっちまったってことかよ。


真琴:そういう晃太だって、似たようなものだろ……っていうか、痛覚遮断したり、装甲板で補強したりしてるんだから、耐久力で言ったら僕よりもタチが悪いじゃないか。


晃太:お前みてーな一点突破型のレアな才能の持ち主と違って、凡人は何かと小細工しねーといけねーんだよ。


真琴:レアな才能って……そんなに大したものじゃないだろ?


葵:そう思っているのは真琴くんぐらいのものですよぅ。『賢者の石』の適合者、という部分を差し引いても、ピュアブリード(純血種)のオーヴァードは実は少ないんですからねぇ。


真琴:あ……はじめまして、端木……支部長。


葵:はい、はじめまして、真琴くん♪


 それはそうと、今回真琴くんに来てもらったのも、真琴くんの『純血種』に絡んでのことなんですよぅ。


晃太:あー、そういえばGMも言ってたっスね。『ハートレスメモリー(以下HLM)で、やろうとしてきたことを引っくり返された』って。


椎奈:そうだよねー。HLMでピュアブリード専用のエフェクトが追加されたのは、ピュアブリードという、デメリットの方が多いキャラクターを扱う上での大きなメリットだといえるよねっ!


 今回の講義はその辺りについて語ることにするんだけど……その前に―― 早く起きようよ、二人ともっ!


侵食率100%超えてた真琴:宍戸教官…………すいません、無理です_| ̄|○(生まれたての仔鹿チックに震えながら)。


侵蝕率が100%に達していた晃太:…………スンマセン……応急処置でいいんで、手当てしてください。このままシーン変えられたら、オレら死にます。


 『訓練だというのに《復讐の刃》使って相打ち』なんてバカみてーな死に方は、流石に死んでも死にきれないっス。


椎奈:まったく……世話が焼けるったらないなぁ、二人ともっ!


 はずさん、ちょっと手伝ってっ!


葵:はい、もちろんですよぅ。





 * * *





椎奈:という訳で、改めて今回の講義に入るわけだけど―― 二人とも、もう傷の方は治ってるよねっ?!


真琴:……は、はい。


晃太:……ま、まー、応急手当と端木さんの《癒しの水》があったっスからね。


 けど、この状況でオレらの傷の心配をするって時点で―― なんかすっげー厭な予感がするんスけど。


椎奈:あ、心配しなくても大丈夫っ!装甲無視やリアクション不可エフェクトは使わないからっ!


晃太:攻撃するのは変わりないんスねッ?!


葵:仕方ありませんよぅ。今回の講義の前に、fil(ふぃる)さんから『セカンドアクションを使った戦闘の処理方法について教えてください』ってリクエストを頂いたんですから。


晃太:じゃあ俺ら使わずに春日恭二を有効活用すればッ(懇願)!!


椎奈:一度使ったネタは使わない、という芸人根性が働いたんじゃないかなぁ、すがたけさんにっ!


真琴&晃太:そんな物騒な芸人根性なんて、永久にお蔵入りにしてくれッ!!





 ―― や、そうは言っても春日恭二じゃとてもじゃないけどししぃ姐さんの二回攻撃に耐えられそうにないだけだから。





真琴:今、天の声すごいこと言ったッ?!





 ―― という訳で……姐さん、お願いします。で、はずさんは姐さんと晃太に《アクセル》使ってください。





椎奈:……じゃ、まずは真琴くん―― 《竜鱗》!!


真琴:え……あ、はいっ!?





 真琴がその指示に応じたのは、最早反射的といっても差し支えないだろう。


 だが、反射的に息を止めることで、即座に真琴の総身に供給される酸素の密度が増し、一見すると華奢な真琴の身体が僅かに膨れ上がる。


 金属同士がぶつかり合う音が響いた後には、襤褸のように引き裂かれたジャケットを上半身に纏った真琴と、変異した右手を薙ぎ払うとともに、左手に握った刀で斬り上げた椎奈の姿が立ち尽くすのみ。





椎奈:じゃ、次は晃太くん―― ちょっと本気出すから、今のうちに受ける準備しといた方がいいよっ?!


晃太:本気じゃないんスかッ、今のでッ!?





 言いながらも、晃太はその右腕―― 白銀に染まる金属製の義手を自らの顔の前に差し上げるとともに、瞬きよりはごく僅かに長い時間目を閉じる。


 乾いた、高い音が響き、義手の拳に当たる部分が唸りを上げた。


 括目したそこにあるのは、大上段に振り上げられた刀と貫手の形に腰に溜められた右手。


 全身の力を溜めに溜めて放つ、まさに全力の一撃(《フルパワーアタック》)!


 だが、彼女がそれを解き放つためには、僅かではあるものの未だ刻を必要としていること、そして、その僅かな刻に、彼もまた動くことが出来ることが―― 理解できた。


 間合いを侵略したのは、晃太。


 差し上げた右腕を椎奈の目前で薙ぐように跳ね上げ、その遠心力を利するかのように左半身を前にスイッチ―― するとともにその体を沈み込ませ、折り畳んだ左肘を椎奈の右腋下に打ち込む。


 その衝撃と、晃太の背後から飛び出してきた白刃の閃きが椎奈を襲ったのは同時。


 『磁力』という名のもう一本の腕を操ることで晃太の背後という完全なる死角から襲い掛かった斬撃は、的確に椎奈の右肩を捉え―― しかし、椎奈の肩口で硬く、冷たい音を立てて弾き飛ばされていた。





椎奈:うんうん……いいねっ!いっつも負けてばかりだったから、てっきり勝ち方を忘れてるかと思ってたけど―― ちゃんと工夫してるようだね……安心したよっ!


晃太:教え子のその工夫に免じて『底辺×高さ÷2=破壊力』は無しの方向でまかりませんかッ?!


椎奈:駄・目(はぁと)!





 笑顔に伴って繰り出されたのは、稲妻を思わせる鋭く、迅い斬撃と、斬撃の輝線を断つかのように襲い掛かる貫手。


 だが、斜めに奔る剣撃を、横合いから楔のように打ち込まれた白銀の右腕が逸らした。受け止めるのではなく、別方向に力の方向を変え、さらに力を加えて受け流されたことで僅かに椎奈の体が泳ぐ。


 しかし、晃太に一撃を流されたことで体を泳がされてもなお、椎奈の右手は止まらない。


 全体重を一点に乗せた、槍にも伍するその貫手をまともに受ければ、たとえオーヴァードであってもひとたまりもないことは明白である。


 だが、あくまでそれは『まともに受ければ』の話。備えることさえ出来れば―― 例えば、今の晃太のように、『もう一枚の盾』を持つ“備え”があれば、致命の一撃を避け得ることもまた、確かな事実!


 不意に発生した球電が貫手に撃ち貫かれ、消滅する。


 しかし、決して脆くはない球電の盾を貫いたことで貫手の勢いもまた僅かにではあるが減殺されている。


 晃太が右腕を構え直し、貫手に対応するには、その僅かな時があれば充分だった。


 流れた血は―― ごく少なかった。





 * * *





生きてたけど、義手ぶち抜かれた晃太:こっ、こっこっこっこここ殺す気っスかッ?!(防御力で44点・装甲値で11点軽減)


実はノーダメージだった真琴:た、確かに……リアクション無視攻撃だったら問答無用で死んでたよね、晃太(汗)。


晃太への攻撃で61ダメージ叩き出した椎奈:大丈夫っ、生きてる生きてるっ!!


葵:でも……これでセカンドアクションについては理解出来たんでしょうか?ただ単に、すがたけさんが好き勝手にサイコロを振って大喜びしていただけのような気がするんですけど。


晃太:あー、それはあるっスね…間違いなく。


椎奈:でも、『セカンドアクション・セグメント』と特別に区切ってあるとは言っても、難しく考える必要はないというか……はずさんがやってくれたように、《アクセル》を使ってセカンドアクションで行動出来るようにならないと、マイナーアクションを行えないってこと以外は、殆んどイニシアティブ・セグメントで行動するのと変わらない、と言えるかなっ!


真琴:えっと……それは、何でですか?


葵:《アクセル》以外はどのエフェクトも、何らかの形で限定されたメジャーアクションを行わなければならない、と言う制限があるからなんですよぅ。


 でも、《アクセル》にはその制限がないから、セカンドアクションで行うメジャーアクションの前にマイナーアクションも行うことが出来る、ということなんですよぅ。


真琴:なるほど……判りました。


椎奈:じゃあ今回の講義の本題に入るけど……真琴くん、ピュアブリードの最大のメリットって、何だと思うっ?


真琴:えっと……エフェクトLVをクロスブリード(雑種)に比べて高く出来る、ですか?


椎奈:うん、そうだねっ!だからこそ、最初からクリティカル値を7として行動したり、今真琴くんが《竜鱗》を使って私の攻撃を止めたり、《完全獣化》のような単独で使用したエフェクトのLVがものを言う場合には、特に強みを発揮することが出来るのが、ピュアブリードを扱う上でのメリットの一つと言えるかなっ!


 私も今晃太くんの攻撃に併せて《竜鱗》を使いはしたけど……真琴くんと違って、完全には止められなかったしねっ!


 ……そー言えば……さっきの肘は、痛かったよ―― んっふっふっふっふっ?


晃太:((((( ;゚Д゚))) ぜ、全力でやんなきゃ怒るじゃないっスか、教官は!?


葵:その他にも、ピュアブリード専用のエフェクトやDロイスがあるのも、強みと言えば強みですよねぇ。


椎奈:うん、確かにそれもあるかなっ!


 でも、それは裏返して言えば、そういった強みを追加しなければとてもじゃないけど使い辛さがあった、と言うことの裏返しでもあることなんだよねっ!


真琴:使い辛さ、ですか?


晃太:まーな。


 さっき教官の攻撃止めるために、俺はかなり小細工してたけど、そいつを一つ一つ解説していくと―― まず攻撃力を引き上げるためにマイナーで《インフィニティ・ウェポン》を使って、その上で、次の行動に備えるために《物質合成(同じ種類のアイテムを合成し、全く別のアイテムとして使用するモルフェウスのエフェクト)《ポルターガイスト(電磁力を駆使して複数の白兵武器を同時に操るブラックドッグのエフェクト)……それと《MAXボルテージ》を使って、義手と電磁シールドを合成させた上で、作ったばっかりの剣を操ることにしたってわけだ。


 ま、《ポルターガイスト》については、ただ単に《物質合成の》クリティカル値を下げるために使っただけで大した意味はねぇ……で、セカンドアクションの教官の攻撃を受ける時には、まずマイナーアクションで義手と合成した電磁シールドを起動させて武器の防御力をガツンと跳ね上げた上で、《球電の盾》《フォームチェンジ》《MAXボルテージ》を組み合わせたって寸法だな。


真琴:……宍戸教官に攻撃したことについてはあえて触れようとしてないなぁ、晃太(ぼそ)。


晃太:真琴……そーやって親友を陥れようとするのは、どうかと思うぞ?


 でも、こんな風に幾つかのエフェクトを組み合わせて、より一層強力な効果を生み出すことが出来る、というのがDXの醍醐味ではあるんだけど、ピュアブリードの場合はそれに必要なエフェクトのバリエーションが少ない、というデメリットがどうしても出てくるな。


椎奈:そうだねっ!概ねは晃太くんが言ってることで間違いはないかなっ!


  特にそれが顕著になってくるのが、侵蝕率が100%を超えて、エフェクトLVが上昇する時なんだけど―― 例えば、『エフェクトLV×2個のダイスボーナス』という効果を持つ何らかのエフェクトを、ピュアブリードのキャラクターが3LV、そして、クロスブリードのキャラクターが、それぞれ2LVと1LV、と言った形で持っているとすると、もし侵蝕率100%未満だったら、両者ともに6個のダイスボーナスを得ることが出来るけど、これが侵蝕率が100%を超えた場合には、ピュアブリードの方はエフェクトのLVは4で、ダイスボーナスは8個。それに対して、クロスブリードの方はLVはそれぞれ3と2になるから、ダイスボーナスは合計したら10、といった具合に差が出てくると考えてくれたら判りやすいと思うよっ!


 さっき晃太くんが使った《球電の盾》《フォームチェンジ》なんかのように、エフェクト固有の係数が大きい場合には、なおさらだねっ!


葵:でも、組み合わせるエフェクトが多いと、侵蝕率の上昇も大きくなってきますよねぇ。


椎奈:うん。そういった部分は間違いなくあるねっ!でも、エフェクトを多く組み合わせることでより大きな効果を得るか、エフェクトを絞り込んで侵蝕率の上昇を抑えるか、というのは、メリットでもあり、デメリットでもあるから一概には言い切れないかも知れないねっ!


 それと、あと一つ、さっき晃太くんが言った『バリエーション』に関連した部分で、ピュアブリードには大きな弱点があると言ってもいいんだけど……それがどういった弱点なのか判るかなっ?!


真琴:……晃太、判る(ぼそぼそ)?


晃太:オレに聞くなッ(ぼそぼそ)!!


葵:……どういった弱点なんでしょうか?


椎奈:うーん、判らなかったか……まぁ、なかなか修得する人がいないから、仕方ないと言えば仕方ないかなっ!


 結論から言うと、エンジェルハィロゥの《プリズム》や、ブラックドッグの《絶縁体》なんかのような、そのシンドロームの判定に対して有利に働く、『対抗エフェクト』ってカテゴライズすることが出来るエフェクトだねっ!


 万一こういったエフェクトを使われた場合、攻撃の成功率や与えることが出来るダメージが大幅に下がってしまうからねっ!クロスブリードならまだ何とか対抗は出来るけど、ピュアブリードだったら、本当に為すすべがなくなるといってもいいかもしれないねっ!


真琴:ほ……本当に難しいんですね、ピュアブリードって。


葵:そうですねぇ。オフィシャルでのNPCを見回しても、ピュアブリードのキャラクターはUGNの中でも、霧谷さん(ソラリス)や薬王寺さん(薬王寺結希(やこうじ・ゆうき)・ノイマン。無印リプレイのヒロインだが、別名は『死神支部長』『こいのぼり』と、結構散々)、椿さん(玉野椿(たまの・つばき)・エグザイル。リプレイ・オリジンの主人公の一人)ぐらいと、数えるぐらいしかいませんからねぇ……難しいところはありますよぅ。


晃太:そっスね。GMの知り合いには、管理するデータが少なくて済むからって理由でNPCをピュアブリードのみで構成してた人がいたって話っスけど……ダメージソースも攻撃の幅も少ないもんだから「あまりに敵が弱くて、クライマックスで緊迫感が出ない」ってこぼしてたっスからねぇ。


 つか、愚痴こぼすぐらいなら、『ピュアブリードは初心者には逆に難しい』ってGMが教えてやれよって話っスけどね。


椎奈:まぁ、正しくは『初心者GMには』かなっ!


 PCだったらそれなりにメリットはあるから、真琴くんがそうであるように、たとえプレイヤーが初心者であっても、そのメリットを活かせば楽しむことが出来るんだけど、NPCの場合は最初から侵蝕率が100%を超えている場合が殆んどだから、むしろデメリットばかりが目立ってしまって、よほどGMが熟達してない限りは、ピュアブリードのボスはろくに見せ場を作ることが出来ないままになる危険性が強い、というのは覚えておいた方がいいねっ!


真琴:確かにそうですね……今まで僕たちが戦ってきた敵でピュアブリードだったのって、黒崎さん以外いませんでしたしね。


晃太:しかも、そのセッションは大失敗だったしな。





 ―― やかましいわッ(泣)!!








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