キルゼムオール・レポート5








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第38話◆乙型ちゃん効果


「……あれ? 乙型ちゃん?」


 深夜ラジオに夢中になって寝過ごした朝。

 朝食の当番だというのに寝過ごした、と慌てて起き出すキョーコでしたが、既に卓上には湯気を立てる味噌汁、サラダ、ソーセージに目玉焼き。


 言わずと知れた乙型の仕事でした。


 あまつさえ、三人に弁当まで用意しているというあまりに有能な乙型に依存していることが寝坊に繋がったのだろうと言うおとーさんの言葉に返す言葉もないキョーコ。

 味覚が存在しないため味はまだまだ、としたり顔で言うエーコにちょっとツッコミ入れたくなるところではありますが、そんなエーコの指摘にも頭を下げるほどに出来た子である乙型がいる、ということはこれまでずっとキョーコに掛け続けてきた負担が一気に軽くなるということでもあり、これでキョーコに学生らしい自由な時間が与えられる、と喜ぶおとーさんではありますが、当のキョーコは困惑気味。

 とはいえ、朝の慌しさは困惑など押し流します。キョーコも困惑はさて置いて、ジローや通勤するおとーさんと同じく、慌しく学校へと向かうのですが、その慌しさはひとつの忘れ物を誘発してしまいます。

 ジローが弁当を忘れていたのです。

 届けなければ、と意気込む乙型ですが、ここでひとつの問題が発生します。

「……はて。 でもどこに?」

 そう。乙型はジロー達が毎朝どこに行っているのかを知らないのです。

 二度寝しようとするところを、「働け、ニート」と的確に指摘され、逆切れするニートに尋ねる乙型。

 ラッシュの合間に「学校に行って社会勉強をしている」と問いに応じるエーコですが、上の空で繰り出す一撃を捌かれ、間合いを侵略された上で伸び上がるように放たれたポチの通天砲を喰らうエーコを乙型は既に見ていませんでした。


 乙型の目に映るものは、学校という名の戦場で雄々しく立つジローの姿のみ。

 というか、妄想まで出来るとはキルゼムオールの技術力はやはり凄まじいものがあります。ただ、ちょっと方向性が明後日の方向すらも過ぎ去って、異次元に向かっている、という難点はありますが。

 ともあれ、主が崇高な目的を胸に研鑚している、と知っては乙型も黙っているわけにはいきません。


 今も自らを高め続けているジローに全力で奉仕するために、乙型もまた全力で学校へと向かうのです。


 あまりにも全力なので、エーコの続く一言を聞くだけの余裕すらも持つこともありませんでした。

 一方、学校での話題はお手伝いロボ・乙型へと及びます。

 ロールアウトから少なくとも一週間はあったのに、何故話題にしなかったのか、というツッコミどころはありますが、キョーコに似たお手伝いロボを見てみたい、というアキとユキの言葉にジローは勿論キョーコも得意げです。

 そんなキョーコに対しておとーさんやエーコと同じく『時間が出来たなら、部活でも』と勧める緑谷と、その言葉に併せて「剣道着とか凛々しくていいですよ?」「科学部で白衣というのもそそります!」「ネコミミ部で!」どこからともなく湧いて出るファンクラブの皆さん。

 ちょっとした生命の危険を招きつつ逆さ吊りになって現れる赤城会長や、藤木作品初の乳首解禁をやってのけた黄村に比べて、単なる剣道着な青木の影の薄さはどうしようもありませんが、どこからともなく現れるファンクラブの面々に対して、アキは呆れ顔で応じますが、キョーコという運動性能の塊をこのまま放って置くわけにはいかない、と自らの所属する陸上部に勧誘することは忘れません。

 一方、ユキも前々から眼をつけていたキョーコに触手を伸ばします。演劇部でもコスプレし放題!男装もそのままいけるし、女装も詰め物さえすれば大丈夫だよ!

 ちょっと待て、それは悪口ギリギリだ。

 そんなやり取りが水面下で行われている会話ですが、部活、という響きにキョーコは少し困惑顔。その困惑を見逃さないアキとユキは、キョーコとともに屋上へと向かい、事情を聞くのです。

 曰く、何をしていいのか判らない。

 今までは家事に追われてそんなことを考える暇はなかったけれど、乙型がやってきてからは家事の負担が減ったことで夜更かしすることもダラダラすることも出来るようになった。

 でも、それ以外にやりたいことがなく、逆に乙型に家事という仕事を取られてしまったような気分になってしまうのが申し訳ない。

 乙型ちゃんも一生懸命やってくれてるのに―― キョーコが自己嫌悪で暗黒モードに入ってしまったその頃、ロングスカートのエプロンドレスをたなびかせ、風を巻いて三ツ葉が岡高校の校門前へと到着した一人のメイドさんの姿がありました。

 決意を秘めた眼差しで校舎を見上げ、閉ざされた校門に手を掛けるメイドさんを見咎めた教師が「ダメダメ、勝手に入っちゃいかん。最近は不審者が出るらしいから――」と注意しますが、生憎とそのメイドさんは悪の組織のロボ・キョーコ乙型であり、どっちかと言うと不審者の側です。

「ごめんなさいっ!!!」

 首筋に一撃叩き込み、止めに入った教師を沈黙させて校内へと侵入を果たす乙型ですが、その無法な侵入は校門に設えられたセンサーによってジローの知るところとなりました。

 赤城会長を救助している最中にキョーコ達がいなくなったことに気付いたジローでしたが、関係者として登録されていない侵入者を感知した以上、迎撃に出るより他にありません。


 教室を飛び出して校内に仕掛けた捕縛ユニットによって侵入者を捕らえようとするジローは、校舎に至る手前で自動触手によって乙型を捕縛します

 つくづく触手好きだなみんなッ!!

 ついついGM発言してしまいましたが、触手プレイは長く続きません。

 新聞部の田辺さんにも不評だった触手をメジャーアクションとマイナーアクションを消費して引き千切り、捕縛状態から回復すると、続いて口を開いた落とし穴を右手を射出して回避!

 なんだかはじあくなのかダブルクロスのリプレイなのか判らなくなってきた文面ですが、乙型と同等の性能を持つ思わぬ敵の登場にジローはいつしか笑みを漏らし、乙型もまたジローを思わせる技術力が導入された学校という要塞を突破することにその全精力を傾けるのです。

 大鉄球・水責め・落とし穴・大量の蛇……そして踊る校長の銅像!!

 あとは自動砲台や動く床あたりが欲しいところではありますが、校内に侵入したメイドさんに驚く生徒達を巻き込んで、校内は混乱の渦によって攪拌されていきます。

 しかし、乙型はへこたれませんし、ジローも数々のトラップを突破された以上、ボスとして登場しないわけにはいきません。

 交差する決意と決意が、『敵』を認め、噛み合おうとするその時―― 屋上だけは平和でした。

「ないならないで探せばいいだけじゃねーの?」

 落ち込んでいたキョーコの眼差しを引き上げることに成功したアキは、だらー、とするのも何をするのも自由なんだから、その自由な時間の中でやりたいこと探せばいい、と続けます。

 その言葉に頷いて、自分たちやジローを含めたみんなと一緒にゆっくり探せばいい、と受け継ぐユキに、少し照れながらキョーコは応じるのですが―― その平和な時間の裏で、戦いは佳境を迎えていました。

 真下に感知する敵の反応に、敵ながら天晴れ、と褒め称えつつオートマントをドリル状に展開するジロー。

 アホ毛アンテナで捕捉した邪悪な生体反応に照準を合わせ、004よろしくその右膝から大火力砲を引き出す乙型。

「ジローワイルドドリルキ―――――ックッ!!」

「乙型ブラスタ――です―――――!!」

 互いの最大火力がぶつかり合い……校舎が破壊されました。

 てか、第1話に登場した不審者、よくあの破壊力に巻き込まれて死ななかったな。

 破壊される校舎とその中心にある主従を、反対の屋上から見て取ったキョーコの顔には笑顔。

 しかし、般若の顔って……あれで笑顔なんですよね。

 という訳で、笑顔で圧縮した怒りを説教モードで爆発させるキョーコには、自由時間というものは到底縁遠いものであることを理解したユキは、結局やることが増えたことにキョーコは喜んでいるようだった、と語るのです。

 そして一方、乙型がやってきたことで最大の受益者となったのは、家事すらも受け持たずに済んだことを喜んでダラダラする自宅警備員なのでした。




第39話◆渡家に利益を!


「な…なんだこのアメリカくらい買えそうな額は…!!」


 ある月末の朝、やや困った声を上げるキョーコの手にあるのは電気会社からの請求書。

 覗き込んだジローと乙型の目に飛び込んできたのは、それに記された50,012円という法外な額。

 いけない、これはアメリカくらいは軽く買える。


 廃品回収で材料を揃えてきたキルゼムオールの科学者としては、そう怯えるのも当然ですし、キルゼムオールのロボとしてもジローと同じ価値観をもっているのは至極当然。


 蒼白になり、ガクガク震える二人に冷静にツッコミを入れるキョーコですが、乙型が家族の一員となったことでこれほどの出費が嵩んでくるとは思っても見なかった、と増えた4万円近い出費に、渡家の財布を預かるキョーコもまた頭を悩ませるのです。

 まぁ、エーコが働いて生活費を入れていれば大した痛手にはならないのでしょうが……ニートをハナからあてにしない、というのは正しい選択です。

 そして所は変わって学校。教室に入った二人が見たのは、アキとユキになにやら頼み事をしているらしい渡クラブの皆さん。何事か、と尋ねるキョーコにユキが答えて曰く「アキちゃんは胸もいいけど足もいいよねってお話をー」全力で否定し、ミスコンに出ろ、と誘われていたという顛末を明かすアキなのですが……ユキの話については全面的に肯定したいところです。

 文化祭が近づいていることもあり、その司会を務めるミス三ツ葉高を決めるためのコンテストを行うから、それに登録して欲しい、とスカウトに来たのだ、と改めて説明する赤城会長。


 10年続く伝統あるミスコンを勝ち抜いたミス三ツ葉にはファンクラブも出来、町内でも名が残るほどだからこそ、それなりの人材が必要であること、そして、アキとユキなら十分に上位に食い込むクオリティを持っているからこそスカウトに来たのだ、と下心無しに正直に明かす赤木会長にユキは素直に評価だけを受けとりますが、ただでさえご立派な肉体を誇るからこそ、これ以上変な方向で目立ちたくないアキは「だったらキョーコを推せよー。 あんたらキョーコのファンなんだしさ」と人身御供を差し出すのです。


 しかし、こっそり自分たちだけで愛でるからこそいいのであり、一般にさらすことなど考えたこともない赤城会長はその推薦を何を言っているんだか判らない、とばかりに拒否します。


 とはいえ、キョーコはそのようなイベントになど出るはずもありません。なにより、乙型の必要経費として計上される電気代のことが気懸かりな現状では、そのようなイベントに出るヒマは「一応 賞金も出るんだがな。5万円相当の商品券とかおコメ券とか」「渡キョーコエントリーだ」……キョーコの意見に構わず、登録されました。


 そしてミスコン当日。エントリー表に名を連ねる『1−4 渡恭子』の文字に赤面するキョーコと並ぶのは、セーラーに身を包んだ乙型。キョーコが赤面しているのは、必ずしもエントリーされているから、という訳ではないのです。


 そう!結局出渋るキョーコに変わって乙型がミスコンに出場することで、電気代分の出費を充当するということになったのです。


「やっぱキョーコより胸があるな!」「ほぼ別人だよあれは!」「だがキョーコくんもメイド姿!」「これは甲乙つけがたいっ…!!」「とりあえずどっちか1人下さい!」


 写真撮影にかまけて台詞がない青木がやっぱり影を薄くする中、飛び交う賞賛と欲望と毒の混じった言葉を背に受けたキョーコは「うっさい!」ただただ赤面し、乙型は「よし、行くぞ乙型!必ず優勝だ!!」「ハイ!他の方々を無力化します!」ジローとともに戦意を高めます。


 しかし、その高まる戦意に水を差す存在が現れます。


 学園で自分以上のアイドルの存在を許さない、と、『じーくみのりん』の声と親衛隊の馬に乗ってやってきたのは、久々登場の現役アイドル山下みのり!


「健全な肉体には健全な精神!!ナイスなバディにはナイスなスピリッツ!」


 周囲が既に冬服なのに、未だに袖のない夏服を纏っている辺りからも、風邪とは無縁の存在であることは一目瞭然!少々頭弱い発言も至極説得力があります。


 だからこそ、乙型と入れ替わっているキョーコとの最大の違いに気付くのにも遅れます。


 しかし、アイテムの有効活用で自らの地歩を固めようと企んでいたみのりだからこそ、その胸もアイテムでどうにかしたのだろう、と断じ、「ヒキョウなコムスメには負けないわよ!」と宣言するのですが、敵対勢力にも礼節をもってあたる乙型はその宣戦布告に対しても「ジロー様のお知り合いの方ですか。 本日はよろしくお願いします」と礼儀正しく頭を下げ、企図せずにみのりの株を下げるとともに自らの株を高めることで民衆の心を瞬時に掴みます。


 そして始まった予選会。河童や豪鬼や、タリズマン装着前の第3研の実験体のような候補もいますが、それよりはむしろ不敵な顔して腕組んでる勝気そうな方が、訓練された藤木ファンとしては気になるところではあります。


 ともあれ、予選一発目の一発芸では壁を破壊し、あわや追放の危機に瀕しますが、ジローの『擬態ライト』で壁風の映像を投射したことでマジック扱いとなって何とかセーフ。


 水着審査ではキョーコの水着を着用したことが効を奏し、審査員の下心やら何やらをガッツリ掴むことに成功するとともに、みのり以上に、身体的特徴がどこかの控え目胸に酷似している2−1から出場している桜坂萌さんの怒りを誘うことに成功した乙型は難なく1位で予選を突破!


 個人的には、1−1の大塚志郎子さんがおっぱいソムリエールらしく読者サービスっぽい露出を見せたか否かが気になるところではありますが、特に言及されていないあたりから鑑みるに、グッピーさんのお勤めと思しき行為には至らぬまま終わったようです。


 しかし、意気込む一同の期待を受けて本線に堂々と出場しようとした乙型に突然のアクシデントが襲います。


 閉め切られた体育館にこもるのは九割九分の野郎どもの発する異様な熱気!


 なお、残り一分はらんらんと目を輝かせる女子生徒の熱気です。やはり百合か!?百合を狙ってるのか?!


 ともあれ、通常では考えられない熱を感じた乙型は、熱気に当てられてオーバーヒートを起こしてしまうのです。


 アピールタイムは刻一刻と近づいており、復旧させるだけの時間は残ってはいません。こうなっては仕方ない!と最終手段に着手するジローは、オートマントを脱ぎ捨て、髪をボサボサに掻き乱すとともに何時の間にか着替えていたセーラー服に身を包むと、眼鏡をかけて言うのです。「ええい こうなれば!    オレが!!


 あまりの無謀な挑戦にただただショックを受けるアキですが、当事者性が強いキョーコはショックを受けてばかりもいられません。


 ショックを振り払い、一撃くれて無理矢理沈黙させようと試みるのですが、渡家に損失を与えていることを悔いるジローの意志は硬く、前進する足は止まりません。


 ならば、とロングスカートで繰り出すことを躊躇っていた足刀を後頭部に叩き込んでジローの歩みを止めることに成功したキョーコは「あたしが出るわよ!」頬を染めつつ宣言するのです。


 自信なんてないけど、乙型が頑張った以上、棄権するわけにはいかない―― そう述べるキョーコに対してジローが示したのは自信に満ち溢れるという効果を持つドリンク剤『自信RZ』!!


 これを飲めば自身に満ち溢れ、あがったりすることはない!と、よくよく聞いてみると危険な成分が含まれているのではなかろーか、と疑いを持ちたくなる台詞を吐いて力づけるジローに、やはり尻込みするキョーコですが、そんなキョーコにジローはあくまでも素で言うのです。


「何を言っている、お前はオレが見込んだ女だぞ! 校内どころか世界一だ!自信を持て!」


 何処の愛の告白だ、これは。


 アキとユキのニヤニヤつきの視線を感じつつ、意を決するキョーコ!


 しかし、勇気の源は躊躇している間に取り上げられてしまいます。


 誰あろう、奪い取ったのはみのり。


 アイテムによるドーピングがあるだろう、とキョーコを張っていた、と豪語する彼女ですが、明らかに自信RZを出した時に偶然通りかかったとしか見えないのにそう主張するあたり……図太くないとアイドルなどやってられない、アイドルの道は正気にては成らず、ということを身を以って示しています。


 しかし、こうしてアイテムドーピングでの強化を自分も為した以上は勝負は互角!むしろ、場慣れしている自分の方が有利!と高笑うみのりですが、そんな自信に満ちたみのりに対する変化は唐突に起きました。


じ…しんま…んまん…じしんまんま―――ん!!!」


 その言葉とともにステージに飛び出すと、「私は脱いでもすごいぜよー!!」唐突に脱ぎだすまつりとそれを何とか止めようと静止するみのり隊と運営スタッフ達。


 そんな彼らを舞台袖から見てジローは一言呟きます。「ムウ…自信がある奴が飲むと自信過剰になるのか」テストもせずに実戦投入する癖は、やっぱり相変わらずなのでした。


 ともあれ、伝説となった第10代ミス三ツ葉コンテストは終了し、ミス三ツ葉の座は脱ぎ芸でアピールしたことによって卑怯な受けを得ることになったみのりが座ることになるのですが、キョーコも健闘して結局3位に輝くとともに、このミスコンの結果もあってか、乙型もなかつがわという安定的な収入の場を得ることが出来、収まるべきは収まるべきところに丸く収まるのです。


 そして何より、ミスコンで見せたみのりの姿は、主に男子生徒達の心と網膜に強く焼きつき、収まるというよりはむしろ刻み込まれるのでありました。



第40話◆修練つったら山


「さて…ここか。三葉ヶ岡高校。 ここに悪の組織の人間がいるんだな」


 どこの町にもある路地裏の薄暗がりで、無理矢理連れ込んだと思しき女性に狼藉を働こうとする不届き者が三人。


 嫌がる女性に構うことなく下卑た笑いを浮かべる三人ですが、悪いことは出来ないもので、「どこにもクズはいるものだな」それを止めようと学ラン姿の男が現れます。


 数と見た目で「ジャマすんじゃねーよボウズ!あ?あ!?」「正義の味方きどってんじゃねェ!」侮り、胸を突くチンピラ達に、学ラン姿の男は「きどりと言うとそうなるな。 残念だがまだ見習いだ」意に介さぬように僅かに一歩踏み出したかと思うと、すれ違いざまに胸を突いた体格のいい男が脱臼した右の中指の痛みを感じるより先に三人の背後をとり、掌底二発と裏拳一発。


 矢継ぎ早の瞬撃で沈黙させた三人に「悪は許さん!しばらく反省していろ」と恐らくは聞こえていない説教をカマシたその漢に、「もしやあなたは番長?!だったら出るまんがが違うわッ!!」と助けてもらった女性が言ったかどうかは判りませんが、彼は番長ではありません。


 彼こそ、悪の組織の人間を追い求め、三葉ヶ岡高校にやってきた正義の味方見習い―― 草壁ゲン


 ごく当然のように1−4の窓際の席につく彼に驚きと好奇の視線を送るクラスメイト。しかし、うまく入り込めた、と自らの潜入工作に疑いを持つことはありません。


 正義の人らしく、偽装工作はしていないようですが、ちょっとは自分を省みて怪しまれてる事ぐらい疑え。何時の間にかジローにトラップ仕掛けられてる三葉ヶ岡高校じゃなかったら、間違いなく不審者扱いされてるぞ。


 しかし、残念ながら正義の人が一方通行的な精神を持つのは、どこぞのテコンドー使いの頃からの伝統です。鳳凰脚で折檻くらいまくってるチームメイトが可哀想だから、少しは話を聞いてやれ。


 ともあれ、この学校に入り込んだ悪を倒すとともに、彼を見習いとして認めてくれた先輩―― どっからどう見てもギガレッドにしか見えない、テンガロンハットを被った正義の漢――に言われた『足りない何か』を求め、真の正義の味方にならねば……そう決意を固めるゲンですが、ぼさっと考え事をしている彼は、最早このクラスの風物詩と化しつつあるライナー性の弾道で飛来するジローを躱すことは出来ませんでした。


 ファンクラブの愉快な仲間達の要望を請け、今度はウサ耳眼鏡を作ったジローに、韓国代表正義の味方・ランブマンを彷彿とさせる蹴りで天誅を見舞ったまでは良かったものの、ジロー、そしてマントに驚き、回避行動をとることが出来ずに巻き込まれた転入生に謝罪するキョーコに、ゲンは鍛えているから大丈夫、とひん曲がった頚椎もそのままに受け流します。


 言葉とは裏腹に、明らかに大丈夫ではない状態でありながら受け流そうとするゲンに対して、追及すべきは追及しないと反省しないのだからきっちり言うべきは言わないと泣き寝入りするだけだ、とアドバイスを送りつつ、自分を低軌道弾道弾に変えたキョーコを責めるジローですが、キョーコはジローの罪に罰を与えただけ、とその言い分を却下します。


 何が罪だ!愉快な仲間達の要望に応えただけではないか!やかましい!バニー衣装が似合わない体型にはひたすら虚しさしか残らんわッ!!


 いつしか自らを差し置いてそんな痴話喧嘩を繰り広げる二人を妙な連中だな、と眺めつつ、曲がった首の位置を手で戻して治すゲンですが、そんなぞんざいな治療法で治る大雑把な身体の持ち主であるゲンに、興味を持ったのでしょうか、「しかしキサマ見ない顔だな。 オレのクラスか?」ジローはゲンに質問を飛ばします。


「本日転入してきた草壁ゲンだ。山ごもりから久々おりてきた。よろしくたのむ」


 正直に応えるゲンですが、『山ごもり』と言う部分は拙すぎました。


 正義の味方としての訓練を受けている、ということは秘密!それに繋がる情報まで明かしてしまっては、『誰も知らない。知られちゃいけない』という正義の鉄則を破ってしまう。


 そう思い直したゲンは、山ごもり、という部分に更なる興味を示したジローに対して「……格闘家になりたくてな」と、緊急の方便で返すのです。


 しかし、口走ってみたはいいけれど、マス大山の死から既にかなりの年月を経ている今時、山ごもりなどやって熊に跨りお馬の稽古をやっている奴などそうそういないということを思い出し、ゲンは自らの極端な返答に戸惑ってしまいます。


 しかし、相手はジローをあっさり受け入れる奴らとジローでした。


 目を輝かせて詳しい話を聞きたがるジローとアキユキに一安心するゲンは受け入れられた事に満足し、これで本来の任務である『悪の捜索』にゆっくり入ることが出来る、と微笑みを浮かべるのですが―― 「どうだ?強ければいずれウチの戦闘員に」悪は目の前にいました。


 しかも、目の前にいる悪はゲンをスカウトしています。


 気にしないでね、とジローの言動が元 悪の科学者であることから来るものであり、ちょっとかわいそうな頭の持ち主だから来るものではない、とフォローになっていないフォローをするキョーコですが、その発言は疑問を確信に変えるに足るものでした。


 ポキリ


 背後に回り、反射的に首をへし折るゲンに「何をするか―― !!」と折れた首を揺らしながら抗議するジロー。


 間違いじゃすまないからな、という先輩の言葉を忘れ、悪と聞いた事で反射的に動いてしまったことを謝罪するゲンですが、ジローの発言がバカなだけだから気にしちゃいけない、とフォローするキョーコとにらみ合うジローに、真の悪であるか否かを見極めようとする思いを強めます。


 折りしも、文化祭の準備の真っ最中。オバケ屋敷の準備に勤しみ、キョーコをドクロでビビらせるアキやら絵師としての職能を活かす緑谷達に混じってごく普通に過ごしているジロー、そして、気にせず過ごすクラスメイト達を眺め、今は悪ではないのだろう、と、安心して結論付けようとするゲンでしたが、正義の側である、ということが悲劇を生みました。


 一般人には作動しないトラップが作動したのです。


「そこ気をつけろ」と手遅れ気味の忠告も間に合うはずもなく、鉄球に潰されたゲンがやはりジローは悪である、と認識しつつ、鉄球トラップから逃れようとした矢先―― 壁が倒れ、鉄球ごと犠牲者を排出しつつ、止めを刺すトラップが作動しました。


 なんかいいな。これダンジョンで使おう。


 ちょっとGM発言してしまいましたが、壁が倒れた先に隠し通路を準備するというプレイヤーにとっても悪辣非道なトラップを喰らってしまっては黙っているわけにはいきません。


 怒声とともに窓から舞い戻って来たゲンに、流石格闘家、と驚きの多分に混じった賞賛をするジロー達ですが、トラップを漢探知させられたゲンは堪ったものではない、と怒りの最終奥義を繰り出そうとします。


 ですが、そんなゲンをキョーコは「悪いヤツじゃないんだって!バカなだけで!」必死に押し止めます。


 悪なのに、悪くない―― 字で書いても訳判らないその言葉の真意がどこにあるのかが判らないゲンは、ジローをごく普通に受け入れている現状……特にジローに世話を焼いているキョーコに探りを入れることにしました。


 屋上に呼び出され、弱みを握られているのではないのか、と尋ねるゲンに対してキョーコはこれまでの顛末を語ります。


 改造させろ、と言われていること。


 言動がアホ過ぎることもあって迷惑はしていること。


 腹が立つから蹴り入れてストレス解消していること。


 ―― でも、寝ている間に無理矢理改造、というなどはしないポリシーは持っていることを明かし、バカなだけで、性根は腐っていない事を説明するのですが――


 せェい!!


 首筋に一撃喰らい、気絶させられました。


 どうやら、大牟田でエミさんが既成事実を作ろうとした時に、既成事実の変わりに落ち癖が出来てしまったようです。


 しかし、手刀の一撃で落ちたキョーコはゲン基準では洗脳された犠牲者!改造とか言われているのにかばっているのがその証拠!なんとかして洗脳を解かないと、と思いを巡らせるゲンですが、一人別世界に入っているうちに状況は悪化します。


 キョーコを探しにアキユキが、そして、キョーコのウサ耳を見にファンクラブの皆さんが立て続けにやってきたのです。


 そこにあるのは暴漢に気絶させられた一枚のまな板。大騒ぎしない訳はありません。


 そんな彼らを「彼女も洗脳されていたのかも」と無理矢理納得し、ことごとく黙らせるゲン―― 正義とはなんだ!?そう問い掛けたくなる展開の結果、そこに残されたのは死屍累々と横たわる生徒達。


 しかし、ジローと緑谷が立て看板を乾かすために屋上にやってきた時、ゲンとキョーコの姿はありません。


 キョーコがさらわれた、と知り、驚愕するジロー。


 そして、誘拐犯となってしまったゲンは洗脳を解く必要があるからやったことだ、と自らを説得し、キョーコを連れて正義の施設へと向かうことを決断するのでありました。





第41話◆草壁ファミリー


「ホントにすいませんでしたー!!」「洗脳なんてされてないみたいです」「このバカアニキー」




 謎の転校生によって、キョーコがさらわれた!


 その目的はちょっと少年誌ではもちろん、シャイボーイな藤木先生なら同人でも明かせないようなことである、と睨むユキの言葉に驚きを隠せないジロー達。


 一方、アキユキや緑谷以外の渡クラブの皆さん、そして屋上にやってきていた生徒達を気絶させ、キョーコとともに姿を消したゲンは、暴れるキョーコを担いだまま山奥にある『正義の施設』へと向かいます。


 『洗脳はされていない!むしろ私がジローを調教してる側』と主張するキョーコの言葉を無視して、帰宅を告げるゲンを出迎えるのは、手刀で薪を割る上下ジャージの娘さんと、軍手にTシャツでその手伝いをする二人の男の子。


 呆気に取られるキョーコが正気を取り戻したのは、得体の知れない機械で検査をされ、その結果、洗脳の可能性0%と弾き出されたのとほぼ同時。平謝りに謝る草壁兄弟に、判ればいいんだけど、とあっさり流すうす胸番長キョーコの器のデカさは計り知れませんが、そんな器のデカいキョーコも何故さらわれなければならなかったのか、何故ジローを視察に来たのかは知りたいところ。


 馬鹿な兄が迷惑をかけた、という後ろめたさもあるのでしょう、釣り目がちの目と刈り揃えたロングヘアーが特徴的なジャージ姿の娘さん・シズカは草壁家が代々正義の味方をやっていたこと、地元の悪の組織が壊滅したため、先代で正義の活動を中止せざるを得なくなったこと、そのせいで草壁家の家計は火の車に陥っていることをキョーコに明かします。


 ケンタマコトという二人の育ち盛りを抱えている上、正義の味方という生業を喪ったことで経済的に厳しさを増した中、『三葉ヶ岡に悪の人がいる』という噂が舞い込んだことはまさに渡りに船!ここで実績を作れば、正義の味方として返り咲くことも夢ではない!ごはん、そして世界平和と一品のおかずのために、19歳と年齢的にはちょっと無理目な四兄弟の長兄であるゲンを送り込んだのだ、と説明するシズカ。


 年齢的にはシズカ辺りが一番釣り合いが取れそうなのにゲンが来たのは謎ではありますが、きっと、潜入に必要な学ランを持ってるのはゲンだけだったに違いありません。


 自分の親族と似たような状態にある草壁家の境遇を聞き、同情するキョーコではありますが、ジローも悪の組織の幹部ではあれ、あくまでキルゼムオールは既に壊滅済みであり、『元』悪の組織の天才科学者であることは変わりありません。


 『元』や『前』、『現』の差はなかなかに大きいことは、選挙でも実証されています。


 ……まぁ、『前主人公』がいつまでものさばって『新主人公』が空気化することも、ままあることではありますが、生憎とはじあくはGガン好きな藤木先生の作品なので、師匠キャラが素晴らしくなることはあっても、どこぞの種死のような事態は起きません。



 閑話休題。




 兎に角、見るからに苦労していそうな草壁兄弟の境遇には同情はすれど、だからと言って今はすっかり周囲に溶け込んでいるジローを悪だと処断させるわけにもいかない、と彼らに述べるのですが、そんなキョーコの声を遮るようにジローの声が響きます。


 眼鏡に仕込んでいた発信機と通信機によってようやく居場所を特定出来た、と語るジローが心配して通信を送ってきたのだろうことは判るけど、とりあえず後でしばき倒すことを宣告するキョーコ。


 しかし、キョーコの死刑宣告に続く、被害は受けなかったという旨の言葉をジローは聞いていませんでした。


 風切り音―― そして着弾。轟音が響き、木造平屋建ての草壁家に多大な恐怖を与えます。


 キルゼムオールの未来の備品・キョーコをさらうという不届き者に思い知らせるべく、乙型の両腕に仕込まれたキャノン砲『乙型キャノン』からキョーコの周囲から半径5m圏内を目掛けて開始されるピンポイント砲撃!


 踏まれたがりの黄村がその砲火にさらされたがる辺り、その威力は少しばかりの疑問符がつきそうですが、客観的に見れば立派な地対地ミサイル。常識人の緑谷はその砲撃の先に存在するキョーコの心配をします。


 キョーコなら大丈夫だ!何しろヤツは頑丈だ。


 それに見てみろ、巻末では番長達が砲弾をものともせずに突き進んでいるだろう。奴も番長の端くれだから心配はいらない!


 ……藤木先生、今度は金剛番長と被ってしまいました!


 一年足らずの連載で絶チル、月光条例、そして金剛番長と三度もネタが被る辺り、藤木先生は何かを持っているかもしれませんが、そんな偶然なんか知ったことか、とばかりにキョーコ達は逃げ惑うばかり。


 ですが、この警告もなしに爆撃を行うという卑劣な行為に正義は黙っていません。


 跳躍するとともに、数十mほどの距離を詰め―― 「正義チョーップ!!!」繰り出された正義の一撃は、砲台と化した乙型を一撃で沈黙させました。


 その跳躍力と攻撃力という二つの要素は、ジローに一つの推論を導き出させます。


「この身体能力…! 一般人ではないなキサマ!」


 ジローの問いに応えて曰く、「草壁ゲン!通り名はまだないが―― 正義の者だ!!」雄々しく返すゲン。


 悪があるならば正義もあって然るべき。そこに気付かなかったアキユキが驚くのをよそに、ゲンは拳を握り締め、突然爆撃を放ってきた悪に「ファイアー正義パンチ!!」正義とド根性の炎を纏った一撃を見舞います。


 しかし、見習いなのでナレーションは入りません。仕方ないから自ら「説明しよう!高速で放つド根性のパンチは炎で敵を」と、昔懐かしの解説を交えるのですが、変身もしなければ解説もない見習いの攻撃などジローには大したダメージにはなりません。


 自らを包む炎をオートマントで汲んできたバケツの水を頭からかぶることで鎮火すると、正義の風上にも置けない行為に及んだゲンを非難します。


 誤解を解こうと抗弁するゲンですが、ジローとともに『さらわれて、えっちぃことをされそうになったキョーコ』を救いにやってきたアキユキ&渡クラブの皆さんにはその言い分は通じません。


 ただでさえ洗脳されている、と思い込んで攻撃してしまった相手という後ろめたさを抱えるゲンの反論に力はなく、多勢に無勢を通り越して最早数の暴力と化した感のある非難の嵐にゲンは一方的に打ち据えられるばかり。


 最早立っているのもやっとというゲンに対してジローは攻撃の手を緩めません。


理由はどうあれ世間はこう思ったわけだ。 お前は女を人質にする卑怯者とな… そしてこうも思う―― よりにもよってあの暴力的で貧相な胸のキョーコを選ぶとは!ド変態に違いないと!!


 そのジローの言葉責めに致命的なダメージを受けるゲン……そして、ユキに惚れちゃったせいで既にファンクラブから片足抜け出してる観のある緑谷以外の渡クラブの皆さん!


 味方すらも犠牲にする悪らしい攻撃ですが、ド変態、と決め付けられて動けないゲンに止めを刺すことはできませんでした。


 ジローの前に立ち塞がったのは、煤だらけになったキョーコ。


 砲撃、そして恥辱によって殺意の水位を溢れさせる顔は感情を顕わすこともなく、ただただ報復の対象を求めます。


 いた。


 蒼ざめつつ、キョーコの無事を喜ぶジローでしたが、フォローは最早無意味でした。


 赤城会長達が『変態ではなく、紳士の集まりなのに』とむくれる横で、マウントを取り、鉄拳を雨あられと降らせるキョーコによってジローの生命は無慈悲に掻き消されようとするのでした。


 そして戦いは終わり、唯一の勝者であるキョーコが立ち会う中で行われる手打ち式。青木と黄村がシズカをナンパするのをよそに、ジローはゲンがまだ見習いでしかないことを、ゲンはジローが元悪であることをようやく知ります。


 ただ戦うだけで良かったのだろう、と思っていた正義にも働く現場がないという世知辛い現実を知り、世間の冷たさを知るアキユキですが、そんな彼女らの声をつまらなさそうに受け流したジローは、その去り際に草壁兄弟に対して一言をぶつけます。


「ああ、ひとつ言い忘れたが。 いずれオレは組織を復活させるつもりだぞ。 まァいつになるかはわからんが… その時にお前らの相手をしてやろう」


 正義あっての悪、悪あっての正義―― “敵”に塩を送る一言で草壁兄弟を奮い立たせるジローの心配りに、キョーコは苦笑するのです。


 そして翌日、爽やかな朝がやってきました。


 思わず「あ、J2の人だ」等と口走ってしまうのは某大手掲示板の芸スポ……というか、セレッソ関連のスレに毒された人ぐらいのものですが、こんな爽やかな朝にも関わらず、ジローはげんなりとするばかり。


 新聞を取りに来たところ、無駄に爽やかな新聞配達のゲン達兄弟がいたからです。


「君が悪事を始めたらすぐ対応できるようこの辺で暮らすことにした! 悪は見逃さん!覚悟してくれ!」


 爽やかに宣告すると、新聞配達に戻る草壁兄弟。


 そんな彼らを見て、寝惚け眼のキョーコは対ジロー要員のパシリとして彼らを便利に使うことを計画するのでした。



第42話◆三葉祭


「いやそれがもうダンボールがないのだ」




 本番を明日に控え、着々と進む文化祭の準備!


 オートマントを駆使して作業に勤しむジローも、日頃のアイテム開発やらトラップ制作とは一味違った、クラスメイトとともに日頃使っている教室を非日常の空間であるおばけ屋敷に作り変えたことに感慨もひとしお。ただでさえ文化祭初体験な上、放課後かなりの時間になっているということもあり、いつもとは違った雰囲気をもった学校にテンションもいや増すものです。


 しかし、高くなるテンションを打ち消す存在が柱の影からじっとジローを監視していました。


 どーにかならんのか、と言うアキの応えに応じ、その限りなく毒電波に近い視線を発する正義見習いに猛獣使いはひとまず注意をするのですが、肝心のゲンは隠密裏に行動していたというのに気付かれた事にショックを受けるばかりで、注意の言葉は素通りします。


 ジローにさえ気付かれなければ大丈夫!三日に一度の白いご飯のために、いつの日か悪として返り咲くジローへの監視を緩めるわけにはいかない!―― 腹の虫とともに、水たまりに釣り糸を垂れる馬鹿の大関をじっと眺めている馬鹿の横綱のようにゲンはそう宣言します。


 いや、バイトしとけ?


 しかし、馬鹿の大関の方も文化祭の邪魔をするというのならば黙ってはいられません。果敢に馬鹿の横綱に挑み、排除を宣言するのですが、勃発しようとした正義と悪の戦いは凶悪なまでの抑止力が押さえ込みました。


 ―― 生徒会室にダンボールとガムテをもらって来て!ダッシュで!二人で!!


 猛獣使いの命令に、馬鹿二人は一旦は抗弁しようとします。しかし――


「返事は?」


 ひと睨みとともに発されたプレッシャーは、馬鹿を善悪の区別なく縮み上がらせました。


 怯え、震えつつ、生徒会室へと向かうジローとゲン。しかし、珍しく真面目に働いているところを見せている赤城会長の一言は、少しばかりの困惑を交えていました。


 関係ありませんが、副会長と思しき内ハネ眼鏡の女性がなかなかに魅力的です。もっと出番を!


 ……でも、我聞でも『もっと出番を!』と思っていた放送部の美人さんの出番は結局あのひとコマだけだったからなぁ。もったいないです。資源の有効活用をッ!!


 創造主への嘆願はいいとして、割り当て以上に用意していたというのに、色々な所が「足りない」と持っていくので、何時の間にかダンボールがなくなってしまっているのだ、とジローらに言う赤城会長。


 降り注ぐであろうキョーコの蹴りを恐れるジローですが、それにしても異常な減りを見せるダンボールの消費量に、生徒会の書記である青木も怪訝そうな呟きを漏らします。


 不正に持っていったクラスがあるかもしれない―― その可能性を示唆する赤城会長の言葉に応じ、ジローは義憤の叫びを挙げようとしますが、そのような悪には正義の方が黙ってはいませんでした。


 ようはただの盗み!正義として黙っているわけにはいかん!

 そう叫んで調査に乗り出すゲンを、縄張りを荒らすな、と追いかけるジローでしたが、聞き込み調査の結果、どのクラスからも、どの部活からも、どのみのり隊からも足りないという結論しか出ませんでした。


 その調査結果に落胆し、ぬりかべBの制作は諦めなければならない、と言う結論を出す美術担当とぬりかべ。


 ぬりかべ二体を駆使して順路を変えたり挟み込んだりした上で、包丁と血塗れの鶏を持った闇の世界の殺し屋を投入するというアイディア(途中から嘘)が変わらざるを得ないことに残念そうな声を上げるアキと闇の世界の殺し屋ですが、材料であるダンボールは生徒会からの割り当ては既に尽き、近所のスーパーからもあらかた持ってきているので打つ手は既に尽きています。


 流石に帰宅しなくてはいけない時間ということもあり、無念とともに切り上げることを宣言する美術主任とぬりかべですが、ジローはその中で、ゲンの傍らに影のように現れたシズカに気付きます。


 自分がいながら不正を許した痛恨に心を痛めるゲンがシズカの発した何事か驚きを見せ、その場を離れたことに併せてその後をつけるジローでしたが、その動きはあまりにも静かであり、キョーコ達には気付かれる事はありませんでした。


 キョーコがジロー達がいないことに気付いたその時、シズカに促されて赴いた屋上でゲンは信じられないものを見つけます。


 屋上に出来た立派なダンボールハウス。ドアや窓、ご丁寧に『草壁』の表札までついたその住居は、ケンタとマコトが各教室から隙みて持ち出したダンボールを使用してこの一日で作り上げたものでした。


 正義恐るべしです。


 しかし、山奥から住居も確保せぬまま出てきた彼ら兄弟としては雨風を凌ぐ場所がほしかったことも確かですし、年少組が家族を思ってやったことであることも確か。


 咎めだてたいところではあっても、強く出るに出れないゲンがジレンマに陥ったその時です。


「正義の風上にもおけんな!」


 どこからともなく当たるスポットライトに照らされて、給水タンクの上にたたずむ悪!


 文化祭の邪魔をしていたのが、他ならぬ正義の一家だったことを知り、正義の弱点である『世間体の悪さ』を言葉責めで刺激するチャンスと見る馬鹿の大関は、この機会に横綱を倒して自らが横綱の地位に就くことを狙います。


 しかし、家族を犠牲にするわけにはいけない。それもこれも自らの甲斐性のなさが原因なのだ、と、読者を騙って『いでじゅう』の投降ページにイラストを送りつけた藤木先生のようにヤケになったゲンは通報するなら自分だけ!と自らを差し出します。


 しかし、所詮は子供のやったこと。いちいち通報するはずもありません。


 休業中ということもあり、目を瞑ってやる。ちょっと待て悪。その物言いはほぼ正義だ―― そうツッコミ入れたいところではありますが、ジローはやはり悪ではあり……悪らしく「ただし、それ相応の罰は受けてもらう」見返りを要求するのです。


 そして翌朝、1−4の教室には、眠りこけるジローと草壁兄弟……そして、朝日を受けて燦然と輝くぬりかべBが鎮座しておりました。


 シズカの説明を受け、事情を知ったキョーコ達は子供に弱いというジローの一面を知ったのですが、呆れるより早く今年のミス三葉であるみのりの放送が彼らを急かします。


『いよいよ今日は文化祭本番よ!準備はOK!?』


 その声と、ジローの頑張りに背中を押され、応えない彼らではありません


 意気顕揚に燃え上がり、一致団結した彼らは拳を突き上げ、ガンダムファイターのように叫ぶのです。


それでは第26回三葉祭!レディ…ゴ――ォッ!!


 ですが、闇の中から意識を拾い上げる声にジローが目を覚ましたのは、日が落ちてから。


 徹夜突貫工事の末にぬりかべを作り上げたことが響き、文化祭本番をすっかり寝過ごしてしまったのです。


 またやりやがったな、藤木先生ッ!?


 創造主の肝心のイベントごとをスルーする能力に呑み込まれ、時間を消し飛ばされたジローは涙にくれますが、起こしても起きなかったジローが悪い、と呆れ顔で突っぱねるキョーコ。


 しかし、まだ文化祭は後夜祭のキャンプファイアが残っています。最後に残った楽しみを分かち合うべく、ジローを連れ出すキョーコ。


 キャンプファイアの近くには気心知れた仲間達。


 まぁ、イモ焼いてる正義の兄弟も傍らにはいますが、ジローの到着を待ち侘びた仲間達の笑顔に、ジローの機嫌も直るのでありました。






































 でも、おばけ屋敷ならオートマントで触手攻撃をやって欲しかったな(最低)。






第43話◆監視代行




「そんなわけで悪事期待してます!」




 文化祭の準備もあり、日課である早朝のポチの散歩に出れなかったジローですが、文化祭が終わった今は遠慮なく散歩に行けます!


 至福の表情で散歩するポチの後につき、不義理を詫びるジローですが、そんなジローをポチは「フ、気にするな。 お前が楽しめたならそれでいいさ」温かい言葉で労います。


 しかし、師弟の絆を深める散歩の平穏を不意に打ち破るものが彼らを強襲します。


 棒状に丸めた新聞による一撃でジローを痛打し、回避されたものの、ポチも狙うその襲撃者は、正義見習いの家族、草壁家の年少組であるケンタとアキラ!


 初撃を決めたことに心を弾ませ、更なる攻撃を繰り出すケンタと、初撃を外されたことで、緊張を崩さないまま第二波を確実に当てることを狙うアキラの二人に、子供の相手は苦手だ、とポチは早々に戦線を離脱することを宣言し、ジローはいきなり窮地に立たされます。


 しかし、悪の窮地を救ったのは二人と同じくジャージを纏った彼らの姉でした。


 ジロー目掛けて突進する二人の脳天にチョップを叩き込み、迷惑をかけたことを詫びるシズカですが、弱いから今のうちにやっておけ、と主張する弟二人に対して、どんな些細なことでもいいから悪事を働いたそのときにやらないと、タダ働きになってしまう。兄であるゲンがバイトの面接に行ってはいるけど、やはり正義を生業にしないと生活は苦しくなる以上、明日のご飯のためにもジローが悪事を働くまでは手を出してはいけない―― 何かやってからなら問題ないから、それまで監視を緩めちゃ駄目、と釘を刺すシズカの黒さには、さしものジローも恐れおののくばかりですが、その言葉を忠実に守って本当に密着マークを続けるケンタとアキラによってジローの学生生活は完全にペースを狂わされてしまいます。


 お陰で、ユキの言う『キョーコにだけ常に』繰り出されるジローの迷惑行為までもが発生しないという悪循環に陥り、この監視が逆に彼らの生活をより一層困窮させるのだ、ということに気付いてはいない模様ですが、あまりに困窮しすぎて、もやし炒め以外のおかずでご飯を食べたことがない彼らにはジローという命綱以外は目に入りません。


 しかし、そんな彼らの耳に飛び込んでくる怒号がありました。


 そして、ポリバケツを蹴り飛ばす音と、それを為した者に驚きと恐れを隠さない学生達のざわめきががそれに続きます。


 『マユゲ野郎』を求めてやってきたのは、太目の体躯に金髪に染めた髭面を乗せたチンピラを中心とした、六人の無頼の徒達。


 大塚、という、どこぞのおっぱいソムリエールと同じ名を持つ金髪の男の右中指には包帯による治療跡があり、その痕跡が彼らをいつぞやのゲンに撃退されたチンピラ達三人とその仲間だと言うことを証明します。


 丁度下校時でもあり、いつもは閉じられていた校門もこのときばかりは開いており、キョーコに折檻されたことでトラップの数々も解除していることもあいまって、この無法の輩達の侵入を許してしまったのですが、黒い衝動に捉われたシズカは彼らの悪事を呼び水にしてジローの悪事を引き出すことが出来れば、と思索をめぐらせ、ケンタとアキラに策を伝授しようと振り返りました。


 しかし、振り返った先に彼ら二人はいませんでした。


 些細でも小者でも悪は悪。黙っていられる二人ではありません。一般生徒を脅してゲンを探そうとする大塚の背後から、ケンタは新聞紙ブレードによる正義の一撃を叩き込みます!


 背後から無警告に攻撃するというジュネーブ条約に違反している攻撃をカマす辺り、何が正義なのかが少々曖昧ですが、彼ら家族はそもそも正義見習なので、多少の不備は問題ありません。


 しかし、その非人道的でありながら、殺傷能力で劣るこの攻撃は、いたずらに大塚の怒りを刺激し、大塚の同類のサディスティックな意識に火をつけます。


 正義の名のもとに更なる一撃を加えようとするケンタの首根っ子を背後から摘み上げ、縛める巨漢に怒りの声を上げるケンタ……そして、そのケンタへの縛めを単なる遊びだと思い、変わって欲しい、と訴えるアキラ!


 その口をついて出た正義、という言葉にゲンとの関係を疑うチンピラ連中にあっさり応じ、逆に人質としての価値を上乗せしてしまうケンタですが、正義の絆は伊達ではありません。不用意に飛び出し、窮地に陥った弟達を助ける術を持たないシズカが二人を案じつつも隠密裏にジローを監視するという任務との板挟みにあって混乱するその時も、正義のテレパシーを送り、ゲンを呼び出そうとします。


 しかし、残念ながら受信側はポンコツでした。


 一応受信はしたものの、その内容が理解出来ないまま立ち上がってしまい、面接先であるコンビニのスタッフルームで遭遇した悪の幹部にも気付くことなく、『面接の達人』である悪の幹部に勝ち誇られてしまいます。


 つーか、「フフフ…シロートだね。面接なんて簡単ですよ」何て言ってるんだったら、既に就職できてると思います。


 丁度就職氷河期のド真ん中世代だから、面接何十社受けても採用されなかったよなぁ……しかもベビーブームの最終盤で、大学も人口減少を見込んで整理統合されていた頃だから、大学受験も倍率が異様に高かったし。


 と、ニートの発言に、ちょっとトラウマを刺激された藤木先生と同世代のおっちゃんが思わず愚痴ってしまいましたが、三十路男がテンションを下げていようとも、シズカがタッパーに入れたもやし炒めを手に混乱を続けていようとも、おかまいなしに時は進みます。


 家路に就こうとしていたジロー達が、ケンタとアキラ、そしてチンピラ達と遭遇したのも、そんな時の流れの中からでした。


 どうせなら悪事を働きまくっている頃に出てきて欲しかった、と、ジローにターゲットをロックしすぎたために、目の前で行われていた悪事をスルーしてしまうほどに混乱しているシズカをよそに、ジローはケンタが吊り下げられて遊んでいるものだ、と理解するのですが、流石にそんなはずはない、というのは常識人であるアキとユキには充分すぎるほどに理解出来るものです。


 子供二人を力で押さえ込もうとするチンピラ達を非難するアキユキの言葉でようやく事態を呑み込んだジローは、悪の矜持にかけて大人気ない真似をする連中を制止しようとしますが、ジローをただのコスプレ野郎と見た彼らはジローを侮り、ケンタはケンタでジローを『弱いヤツ』と思い込んでその助けを拒否します。


 そのケンタの言葉に応じ、背を向けるジロー。


 それをただの弱腰だと見て取ったチンピラ達は、ジローをコケにするのですが―― 突然襲い掛かった衝撃によって、纏めて吹き飛ばされるのでした。


 その衝撃の正体―― 巨大な拳状に展開したオートマントの一撃を、悪としての格の違いを弁えずに吠え立てる三下どもに見舞い、業界内でも十指に入る潜在能力を誇る悪の幹部としての貫禄を見せつけつつ、ケンタとアキラにも傷一つつけることなく救出してのけたジローは、キョーコに「素直に助けてやればいいのに」とからかわれます。


 助けたわけではなく、あくまでもあの三下どもがうるさいから悪の美学を教育してやっただけだ、とのたまうジローの言い訳じみた言葉をキョーコはやはり受け流しますが、まさか助けられるとは思っていなかったシズカは、それまでの非礼を詫びつつ、持ち前のケンカっ早さで今回の騒動の原因を作り出したケンタの頭を押さえつけて下げさせるのですが、正義の宿敵である悪に助けられたという事実はケンタにとっては屈辱に他なりません。


「次はこーはいかねーぞ!首洗って待ってろー!!」


 そう叫ぶケンタをたしなめるシズカですが、正義に喧嘩を売られて買わないほどジローは大人ではありません。


「百年早いわ小僧――!おととい来い!」見るからに小学生のケンタと同レベルになって挑発し返します。


 そうなるとあとはもう売り言葉に買い言葉。


 正義と悪の戦いはいつしか夕焼けとともに訪れるスーパーのタイムサービス並の値崩れを引き起こし、年少組二人とジローとの間で勃発するのですが――


 ―― 全然悪い人じゃないんだ ジローさんって。 悪の人にこんな人がいるんだ。


 思わぬところで感じる衝撃に胸の奥を僅かに高鳴らせたシズカは、ジローとケンタ達の戦いを止めることは出来ないのでした。


 そして、日も落ちた学校の体育館脇では、文化祭の片付けの最中にちょろまか……げふんごふん……調達したダンボールで作った新居に落ち着いた草壁家の緊急会議が開かれていました。


 面接という正義と悪の対決で、本人も自覚しないうちに勝利していたゲンですが、コンビニが求めているのは昼シフトの人材です。


 というか、コンビニの方も、明らかに『仕方なく面接には来たけど本音ではやっぱりはたらきたくないでござる』と言うオーラを出している人を雇うよりは、ちょっと服装に難は大有りだけど真面目に働いてくれそうな人材を求めるかと思います。


 何であたしが落ちるんじゃー?という、ゲンの耳に今も残るニートの叫びはさて置いて、当座の生活費のためにも労働は欠かせないものの、バイトが昼シフトとあっては本業である正義の味方業へと繋がる、倒すべき悪の組織を将来率いることを明言しているジローへの監視は出来なくなってしまう、と困り顔を見せつつ言うゲンは、ジローがキルゼムオールを再興すると同時にキルゼムオールと敵対する正義の座を逸早く確保するための重要な監視任務をシズカに任せるのです。


「そっかー、ジローさんと同じ学校かー。これって運命…かな?」


 大任を任されたシズカの手には、三葉ヶ岡高校のセーラー服。


 しかし、シズカの顔には大任を任されたという緊張はありません。


 ただ、その貌には喜びにも似た感情が微かに覗くのでした。




第44話◆妄想ムスメ


『にしても… 女性の方多いなァ……』




 秋も過ぎ去り、町はすっかりクリスマスムード一色。


 キョーコの部屋にたむろするアキユキニートに乙型の話題もまた、クリスマスの話題に移るのですが、恋愛沙汰に特に敏感なエーコがいる以上、『クリスマスを一緒に過ごすカレはいるのか』という話題に移行するのがガールズトークの自然な流れ。


 約一機だけは“カレー”と聞き間違えると言う製作者譲りのポンコツっぷりを発揮するのですが、相手がいない、と言う現実を突きつけられたことにはキョーコもアキもユキもそれなりに衝撃を受けるのです。


「お姉ちゃんだっていないでしょ!!」そうエーコに反撃するキョーコですが、ポチ並の逃げ足と逃げ場所を確保できていない以上、その反撃はあまりにも無謀でした。


 とっ捕まり、羽交い絞めにされた上、バリバリと頭から美味しく頂かれるキョーコ。


 しかし、そんなキョーコへの助け舟が、ユキの挙手とともに差し向けられます。


「ハイ先生!!


 そこの人はジロー君と言うステディーがいます!!ずるいです!!


 失敬……助け舟ではなく、吊し上げという名の追い討ちでした。


「いけないと思います!」「そーでーす!」―― なにやら帰りの会の様相を呈してきた吊し上げ大会の中、『いい加減進展はないのか?子は出来たのか?』と過剰な期待を込めた発言やら、「あー、ちいさかねー」と胸を揉んだりと、精神・物理両面でキョーコを弄りまくるコスプレイヤー二名にアキはただ圧倒され、キョーコを助けることなど全く及びもつかない模様。


 ニートに美味しく頂かれていた時には救助しようとしていた乙型も、何をやっているのかを理解出来ていないため、誰も助けてくれないまま一通り攻撃を受け続けたキョーコが打ちひしがれる中、話題の中心に上ったジローがこの場にいないことにユキは気付きます。


 いや、気付くの遅いやろ、それは。


 読者からのツッコミはさて置いて、どこかに出て行った、と言うエーコの答えに『よろしい、ならば本音トークだ』とばかりにアキとユキはキョーコのジローに対する本音を探ります。


 確かに嫌いという訳ではない。しかし、相手はジロー。そんな感情を抱く相手でもない……つーかほっとけ。


 そんな答えを返すキョーコですが、その返答にユキはニヤニヤと笑いながら「いいのかなー?いつまでもそんなこと言ってると――」応じるのです。


 そして、その言葉とともにドアホンが来客を告げるのですが、それに対応しようとした乙型のアホ毛アンテナは通常とは違う来客の反応を見せるのでした。


 一方、玄関の前にはジャージの上から制服を着込んだシズカ。


 明日から監視任務として通学することになったことをジローに告げに来たのです。


 しかし、ジローの実態を知らないシズカの脳内では、キラキラと光り輝くジローがシズカの宣戦布告に対して『そうか…こんなにかわいい監視者か… まいったな…』となにやら悩ましげな流し目とともにポーズを決めています。


 自らの妄想に自ら照れるシズカの妄想は止まる気配を見せません。


 しかし、僅かに開いたドアの隙間から覗く砲口が無理矢理その妄想の暴走を止めるのです。


「乙型キャノンです!!」ドアの開く音に覗き込んだシズカの鼻先に突きつけられた砲口が、火を吹きました。


 突然のことに驚きながら、「シっ… シズカチョーップ」薪を一撃で叩き割る手刀で迎撃したシズカは警告なしの攻撃に抗議し、至近弾を斬り割られたことに驚く乙型は悪のテリトリー内に侵入してきた以上、ジローに危害を加えに来たのだろうと互いに敵対関係を確認し合います。


 ましてや乙型はゲンによって一撃で沈められたと言う恥辱の過去を持っている以上、その過去を拭い去るためにも今度こそ負けるわけにはいきません。リベンジです。


「ち、違います!私はジローさんに危害なんか――」


 十徳ナイフのようなギミックアームを突きつけられながらシズカも反論しますが、『おまえにならケガさせられてもいいぜ… このヤンチャガールめ』途中で再度電波を受信した模様です。


 でも、妄想するのであれば『ああッ!何時の間にか思っていたことが口にっ!?』という横島忠夫ばりの高度な技を使ってくれれば、もっと楽しいことになっていたとは思うのですが―― 創造主もGS読者だっただけに!!


 とはいえ、口にする必要はこのときばかりはありませんでした。乙型のアホ毛アンテナはその不届きな妄想電波に対しては特に敏感なのです。


 アホ毛アンテナで不埒で邪悪な気配を察知し、やはり排除することを決めた乙型は、ギミックアームだった腕もキャノンに換装しなおして掃討モードに突入……火力を集中することでシズカを追い詰めるのですが、玄関先で局地戦をやられては、ご近所に被害が出ることは火を見るより明らか。あんなふうにジローを巡るライバルが多い、というユキの言葉を意図的にスルーして、町内の平和のためにキョーコは調停に出るのです。


 停戦調印の舞台となったキョーコの部屋で、乙型の警戒の眼差しを受けつつ改めてキョーコ達に謝辞とともに編入の挨拶をするシズカ―― 自家製のイナゴの佃煮を持ってきたことでキョーコにちょっと引かれたりはしましたが、キョーコが引いた理由は自家製と言う部分なのか、それとも正義の中でも特に年功序列にうるさいバッタ類を構わず佃煮にしたことなのかは判りません。


 とりあえず、今のところまだ見習いなので正義としては大先輩に敬意を払った方がいいと思われるシズカは、改めて部屋の中を見回します。


 部屋の主であるキョーコ、ジローの姉と言うエーコ、キルゼムオールのお手伝いロボであり、先ほどシズカと交戦した乙型、ジローとキョーコのクラスメートであるアキユキ―― だらけ女性……いやいや、女性だらけです。


 『ジローさん、彼女とかいたらどうしよう…』監視の挨拶と言う不自然極まりない名目でジローに会いに来たはいいけれど、前提条件が崩れていたら―― 不安に駆られたシズカは、それとなく遠まわしに聞くことにするのです。


「ジ…ジローさんって かっ…彼女の方とか――― いらっしゃるんでしょうかそれとなくっ!!」


 いや、ちょっと待った。言葉尻に『それとなく』をつければどストレートが緩和されるわけじゃないから。


 キョーコすらも驚きで固まるその言葉には、本人も言った後に気づいたようで、慌てて監視の一環であり、情報があれば助かる、とフォローしようとするのですが、刻は既に遅すぎました。


 ギクシャクとしながら、「いっ…いや いないと思うけど…」応えるキョーコの言葉によだれを垂らしながら再び妄想に突入するシズカ―― しかし、乙型はやはりその妄想電波を逃しませんでした。


「邪悪です―――!!!」


 調印式の舞台でありながら、右手首から先をガトリングガンに換装して銃撃する乙型に当然の猛抗議を行うシズカですが、乙型にしてみれば和平を謳いながらジローを狙うその行為こそが人倫に反する、善悪の彼岸の遥か彼方に位置する邪悪。だから、対応がちょっとばかり人道から外れていようとも世間は納得してくれるのです。


 勿論そんなはずはありませんが、「変なことを考えているからです」「考えてませんー」と、いつしかロボコンパンチの応酬を交えた押し問答に移行する二人に、ギャラリー達はジローのモテモテ王国っぷりを認識するんだにゃー。ギャワー!?


 ファー様はおいといて、改めてジローを取り巻く環境がキョーコにとって安穏と出来るものではない、と覚醒を促す野次馬三人!


「ど、どうするってあたしは…その… べ、別にジローのことなんざ…!」


 お約束の神って、やっぱり存在するんですね。


 キョーコがそう否定しようとすると、タイミングを見計らったかのようにジローが入室したのです。


 つーか、天井に仕掛けた監視モニター使って見てたんじゃねーの、と言わんばかりのタイミングで登場した話題の主役に騒然とする一同ですが、状況が動き出したとともにその流れを掴むためにアクションを入れるのはアウェイの鉄則!


 アウェイでありながらこのチャンスを逃すわけにはいかないと果敢に動き、「ジローさん この前はお世話になりました!」攻めに転じるシズカ。「えっと… それでその…そのお礼といってはなんですが―― クリスマスにウチでパーティやりますの出来ていただけませんかっ!? 弟達も喜びます!


 弟達をダシにする辺り、正義なのか悪なのか判然としません。


 しかし、乙型もまたそんなことをみすみす許すはずもありません。


「ダメです!ジロー様は我が家でパーティーを!!」


 叫びとともにジローの左手を握る乙型に、「それはジローさんが決めることだと思います!」右手を取ってシズカも応戦します。


 誰か大岡越前連れて来い?!


 しかし、周囲で騒ぐのは野次馬ばかりであり、誰も時を越えて大岡越前守忠相遠山左衛門尉景元といった名奉行を連れてくるはずもありません。


 まぁ、連れてきたところで、野次馬達のボンクラっぷりから鑑みるに、鳥居甲斐守耀蔵のような妖怪はおろか、鍋奉行を連れてくるかどうかも怪しいとは思いますが。


 ともあれ、自分を景品として勃発した修羅場に蒼ざめるジローは背後に蟠る巨大な殺気を感じます。


 無論、野次馬として参加するでもなく、ただひたすら修羅場の中心として翻弄されるジローをただ眺めていたキョーコです。


 必死になって、自分は単なる被害者であることをアピールし、レッドカード代わりの鉄拳を回避しようと試みるのですが、振り向いたジローが感じたのは、痛みではありませんでした。


 きゅっ…


 オートマントを弱々しく握り締める、キョーコのキョーコらしからぬ行為と、それに伴う後ろ髪を引かれるような申し訳なさをも感じさせる小さい抵抗……そして、「だ…ダメっ…」口をついて出たか細い言葉に固まるジロー。


 乙型、そしてシズカの果敢なアプローチに触発されてついにキョーコという名の動かざる山が動いたことに驚きを隠さずに大騒ぎするギャラリー三人に、キョーコは必死に『暴れちゃダメ』の方向で止めようとしただけなんだから、と言い訳するのですが、すっかり興奮状態にある三人……特に、興奮通り越して暴走しているエーコは聞いちゃくれません。


「お姉ちゃんて呼んでよかとよー!!」


 かくして、暴走の極みにあるエーコが引っ掻き回すことによって、グダグダに終わった一連の騒ぎでしたが、ただグダグダのまま終わった訳ではありません。


 ファンクラブ主催のクリスマス会が行われること、そして、その打ち合わせのために出かけていたことを打ち明けたジローは、事態を収拾するためにファンクラブに入り浸っているアキユキとファンクラブのご本尊であるキョーコに加え、乙型とシズカもそのクリスマス会に参加させることにするのです。


 しかし、何とか落ち着いた二人がキョーコに対する尊敬とかすかなライバル心を抱いたその脇で、朴念仁のチキン科学者はただただキョーコが発した謎の気配に今もなお怯えるだけなのでした。





第45話◆ホーリーナイト


「なんというカオス」


 ファンクラブ主催のクリスマス会――その会場は……渡家でした。


 参加費無料・飲み食い放題とあってもやし以外のおかずとはとんと御無沙汰な草壁家の皆さんも、またもやゲンとの争いに負けてバイトの面接に落ちたエーコもハイテンション!


 あまりにハイテンションすぎて、開会の挨拶を始めたばかりの赤城会長を跳ね飛ばしてしまいますが、赤城会長を天井に突き刺してもなおそのテンションは下がりません。


 早速大騒ぎが止まらないパーティに、渡家のおとーさんも満足げ。青木が筋肉仲間としてアピールしていることもあるのかも知れませんが、それでもなおキョーコと二人きりだった例年とは違った趣のクリスマスにはなかなか感慨深いものもあるようです。


 しかし、このような大騒ぎが出来るのに、参加料は本当に出さなくていいのか、とやや不安になるアキですが、心配無用!この時のために文化祭で稼いだからな、と赤城会長は資金調達の最大の協力者であるアキとユキに二葉の写真を提示するのです。


 一枚は、今のセーターと同じくメリハリの効いたボディラインをくっきりと強調する、プール授業の時のアキの姿を写したもの。


 もう一枚は、現在のトナカイコスと同じくコスプレで役に入りきっている、いつぞやのブラックシノノメを写したもの。


 写真慣れしているユキはまだしも、写真慣れしていないアキにとっては羞恥心を刺激されるものであり、殺意を抱くには充分すぎるものでした。


 とりあえず殺すことにはしたものの、その前に飼い主に九条を……いえ、苦情を訴えることにしたアキですが、その飼い主はこのパーティで饗される大量の料理を作るのに大忙しで、苦情に応対する暇などまるでありません。


 どうでもいいけど、アオリには『キャラ総出のパーティ開幕!!』と銘打たれていたのに、輔之進&サザンクロスが出てません。もう一人の複数エピソードに登場したネームドキャラであるみのりは3巻折り返しのおまけ四コマに出ていたようにラジオの仕事があるのかも知れませんが……やはり、渡クラブの皆さんにはキョーコを狙う敵対勢力とみなされているのでしょうか?


 どうでもいい話はさて置いて、一人忙殺されるキョーコは、本来そのキョーコをサポートする役割りにあるはずの乙型を眺めます。


 そこには、コーラで酔っ払う乙型の姿が。


 胸元のリボンを解き、腰に手を当てて仁王立ちする乙型は、コーラビン片手に上機嫌。あまりに気分がいいから、踏んで欲しいと哀願する半裸の変態の言葉を受けてその身体を踏みしめます。


 ……ってちょっと待て精密機械。防水機構はどうにかなったのか?


 そんなツッコミも入れたいところのキョーコは製作者であるジローに乙型のメンテをどうにかすることを求めますが、キョーコの応えに応じて顔を出したジローは、ジローと聞いて反射的に動いたシズカを止めようとする方が先決、と「あ!そこは…」注意を促そうとするのですが、一歩遅かったようです。


 ジローの仕掛けたサンタ捕獲用トラップに引っ掛かり、網に捕われるシズカですが、ジローが残念がるのをよそにシズカは妄想に突入して一人悦に入ります。


 その邪悪な気配を察知して、「降りてきなさい――― 踏んであげまふ!」制裁を決議する乙型とシズカのやり取り。そして、一人モテモテ王国を樹立しているジローに対する制裁を行う赤城会長と青木と、それに乗るトナカイ―――― それらをはじめとしたリビングを渦巻く大騒ぎに、キョーコは悪の組織らしい混沌を感じるのです。


 それは兎に角アキの『たわんたわん』な写真を見せてくださいエーコ様(哀願平伏)。見せてるのがファンクラブの一員で、なおかつユキに惚れてる緑谷だから、正直もったいないとしかいいようがありません。


 しかし、胸に貴賎はありません。なので、性癖には関わりなく眼福を味わった緑谷にその対価を払わせるように、ユキはキョーコの代わりに労働することを求めるのです。


 しかし、いざ一息つこうにも冷蔵庫に飲み物がありません。


 そのため、一旦キョーコは買い出しに出るのですが、賑わいの中にあっても、どことなく孤独を味わうコンビニまでの短い道行きで、彼女はパーティ会場が賑やかだったこと、そして、賑やかな大勢のパーティというものが、これほどに楽しいものだったのだ、と実感するのです。


 ジロー達がやって来る以前であればむしろ苦手でしかなかった大勢での陽気なひと時を楽しめる自分に気付き、川った自分を実感するキョーコがコンビニを後にしたその時、自動ドアの前に手持ち無沙汰に佇むジローの姿を見出します。


「結構荷物になるだろうと思って、手伝いに来たぞ」


 『行って来い』とばかりにエーコに雑用を押し付けられる際に出来た真新しいタンコブもそのままに、「社会勉強をしているのだからこれくらい!」と得意げに言うジローですが、その様がありありと見て取れるキョーコには通じません。


 社会勉強と言えば、クリスマスがこれほどまでに華やかなものだったのか、と、目映くライトアップされた街並みを眺めて言うのですが―― には既にイルミネーションで飾り立てているため、実際のところ、ジローは一ヶ月以上社会勉強をサボっているのではなかろうか、という疑いも出てきてしまいます。


 しかし、そんな疑いは心外だ、とばかりにジローは社会勉強の成果をアピールします。


「いや、師匠にうかがっている。プレゼントを配るサンタとかいうUMAがいると!びっくりだな民間社会!!


 どうやら、自分の目で見るのではなく、ポチにレクチャーを受けていたようでした。


 しかし、それだけの資金力を持っているUMAを引き込めば、キルゼムオールを再興することもたやすいこと。ベガスで一山当てるなどという夢を見ている大首領よりはよほどあてになる、とばかりに捕獲計画を立て、トラップも用意するジローに、キョーコは「……まァがんばんなさい」と、物を知らないジローに対して呆れた口調で言うばかり。


 ちゃんと良い子のところに来るものだから、悪の組織には来るはずはない』と教えてあげるべきです。


 しかし、もっと教えるべきことがあったことをキョーコは悟ります。


 道中にある見晴らしのよい道路脇は、さながら梅田やらアメ村、引っ掛け橋辺りを彷彿とさせるアベックだらけ。


 何で『大阪ストラット』なのかは個人的な趣味ですので別に意味はありません。が、周囲には彼ら二人もまたこういった感じで見られているのではないのか、という疑念を抱いたキョーコは、三歩下がって師の影を踏むことがないようにするという気遣いを教えるべきだったと後悔するのですが―― 「ふふふ… オレも成長したものだな! お前が何を考えているかわかるぞ!」遅すぎました。


 鼓動を早める暇があらばこそ。


「こうだな!」


 肩を抱き寄せられ、さらに胸の鼓動は早く、高くなりますが、見た目で判らないというのは残念です。


 キョーコの残念な胸はさて置いて、周囲を観察することで『肩を寄せ合うしきたり』があるのだと理解したジローは、自らの社会への適合振りを強烈にアピールし、約束していた改造までの日は確実に迫っていることを実感するのですが、少しのがっかり感とともにジローの勘違いを跳ね除けたキョーコですが、ジローの眼は既に別のモノを捉えていました。


 視線に気付き、ジローの見る方向を確かめるキョーコ。


 そこにあるのは、口付けを交わす恋人達の姿。


 驚きで固まりつつ、キョーコは昨今の日本人の羞恥心のなさを嘆きます。


 おいちょっと待て16歳?


 しかし、読者のツッコミは「キョーコ!これはドキドキするな!」迫り来るジローの顔にドギマギし倒すキョーコには届きません。


 混乱して「ちょっ…あんたあれマネする気!?わかってんの!?」墓穴を掘る発言もブチカマすキョーコですが、そんなことにお構いなく、ジローはオートマントを駆使してキョーコを持ち上げ―― 意外な行動に出たことに対して驚くキョーコをブン投げました。


 一直線に飛ぶキョーコの先にあるのは、バイトが終わった時点で余りがあったなら、バイト料の一部を現物で支払ってもいい、という条件でサンタルックでケーキの販売員をしていたゲン。


 ゲンが気づいた時には既に手遅れでした。


 かくして、最速のUMAであるサンタクロースを生け捕ることに成功したことに喜ぶジローは、人間弾丸と化したキョーコの働きにもねぎらいの言葉を贈るのですが、そのキョーコはと言えば、「このドキドキを返せこの野郎!!」とばかりに爛々と怒りに目を輝かせるのです。


 かくして、帯ギュの頃からのサンデーの伝統である尾行モードに突入していたエーコとアキユキの三人の目の前で、静かなる聖夜はジローの断末魔が響く惨劇の夜と化すのでした。


 しかし、パーティを抜け出してジロー達を尾行することを選んで会場の漢率を著しく上げることになった三人は、これまで通りだと思わせていた二人の関係からの僅かな違いを目にします。


「おんぶ!」


 投げられて痛いから、という理由でおんぶオバケと化すキョーコを背負い、ジローは一路渡家へ。


 荷物もあるし、小柄とはいえ筋肉が大半なので相当な重さではあるけれど、命令とあらばそんなことは構ってはいられません。


 坂道であろうとも手加減せずにジローに背負われながら説教するキョーコに、JKKの三人は今夜はキョーコに対する包囲網をより一層強めることを誓うのでした。



第46話◆浴衣の女性は3割増し


「オレは悪の組織「フラン」の科学者、倉田シンイチ! Drクラータと呼べ!!」




 闇に紛れて行われる悪巧み。


 しかし、巧く行くとは限らないもの。培養槽の中に生まれた一つの気泡とともに訪れる失敗の瞬間に、闇の中に佇む男達の口から漏れるのは落胆の呟き。


 しかし、その口調の中にも幾ばくかの楽観さをはらんだ、硬質な仮面を被っていると思しき男は、明らかすぎる焦燥を見せる男に対してバックアップはしてやるから心配するな、と成功までの支援を約束するのですが、その声が真に届いているか否かは定かではない風情で―― 「待っていろユリ…!次こそは―――」無精髭を生やした男は薄明かりのともる培養槽に……その中に浮かぶ『それ』に向けた呟きを漏らすのです。


 さて、マジにはじあくか、これ?というシリアスなオープニングですが、そんなシリアスさとは無縁の、ポチを除いた渡家ご一行は、冬の休みを利用してエーコがネットで見つけた長野の温泉宿・湯の華へと辿り着いていました。


 仕事もろくに見つけられないエーコだけに、格安の宿を見つけた、という言葉には一抹どころではない不安を抱いていたジローとキョーコではありましたが、不安と値段とは裏腹に宿は立派なたたずまい。ジローとキョーコはその不安が外れたことに対する安堵の気持ちを隠さず、妥当な評価に怒ったニートの雪球攻撃を受けてしまいます。


 宿の前で騒がれては営業妨害になる―― そうみなしたのでしょうか?大騒ぎするエーコ達にストップをかけるように出迎える女将は、温泉には実に相応しいシーズンであるにも関わらず、他の客も少なくのんびりくつろげる、とアピールするのですが、大騒ぎを小騒ぎに変える程度で宿に入る彼らは、女将さんの浮かべた微妙な表情に気づくことはありませんでした。


 所変わって、露天風呂。


 どうしてこれで客の数が少ないのか、という立派な露天風呂―― ジロー曰く『阿久野家自慢のそれを上回る』もの――に浸かってくつろぐジローとおとーさん。


 しかし、阿久野家が崩壊した跡地に湧いた温泉について知らないのはまだしも、『ボクもいつかジローくんち行かないとね』と言う辺り、昨今の都会住まいの方々の親戚付きあいの薄さはなかなかに心配です。


 しかし、ジローの目の前で起きようとする心配事は田舎の読者が心配するものよりも遥かに切実でした。


 キョーコは今髪洗っていて無防備だ、と壁越しにジローに叫ぶエーコの声に反応し、無精髭を生やしたおっさんが壁を乗り越えようとしていたのです。


 足を掴んでその不埒な行動を阻止するジローですが、科学者としての探究心と胸に燃え滾る漢としての本能に従う自らの行為を否定されてそのおっさんは怒りを顕わにします。


 まぁ待て、それは充分に犯罪の域だ。


 ですが、科学者、という言葉に反応した上、覗きを力づくで制止したことを『女湯に惚れた相手がいるから』と勘ぐられたことで動揺したジローは、おっさんが差し出した『透けメガネ』で完全に制止する意思を削がれ、そして、確信します。


「これは… 本物のアイテム…… お前、悪か正義か!?」


 おっさん―― 倉田シンイチと名乗った長野の悪の組織・フランの科学者は、一般人には内緒、と釘を刺すのですが、おとーさんが既に改造を受けている、と見抜いているのでしょうか?それとも影が薄すぎて見えないのでしょうか……兎に角、渡家のおとーさんに見られていることに関してはドスルーを決め込み、意気投合するのです。


 固めの杯とばかりに風呂上りの牛乳を酌み交わし、盛り上がる二人の下にやってきたのは、熱暴走してすっかりポンコツ状態になった乙型を抱えたキョーコ。


 いつぞやは雨でも生命の危機を迎えようとしていただけに、何時の間に風呂もOKと言う並外れた防水機構を備えてしまったのかは、正直ジローに問い質したい所ですが、ジローが惚れているのはキョーコであると見抜いた倉田は、メンテナンスのために周囲の目やら何やらに構うことなく乙型を脱がそうとするジローと、その行為を久々に重さを重視したハイキックを顔面に叩き込むことで未遂に終わらせるキョーコを見るのです。


 その眼差しは科学者のそれ―― そして、牛乳の対価としてジローに一つの頼み事をする倉田の用事をキョーコに伝えるのですが、その用事とは『モデル』になってくれ、というもの。


 しかし、学内のミスコンも逃げていたキョーコです。モデルというものには当然拒否反応を示します。ましてや、そのモデルを引き受けることが悪に荷担し、正義との戦いを有利に進めさせるというのであれば、一般人のモラルを持つキョーコが拒否するのも当然と言えば当然です。


「仕方ない…実は倉田殿はアニメ好きでな。下町カイザーのカイザー役の声優さんのサインをくれるらしいのだが」


モデルかー!ちょっとやってみようかなー!!


 モラルは即すっ飛びました。


 恐るべきは現役の悪の話術。ジローがいくら説得しようとも首を縦に振ることがないあのキョーコをあっさりと手玉に取るとは―― 感心するばかりのジローは、ヌードだったら即断る、と釘を刺すキョーコの言葉も半ばスルーするばかりで、今が夕食前だという事にも気付きません。


 当然、倉田の待つ部屋へと向かう彼らを見咎めたエーコの視線にも気付きませんが、残念ながらエーコは今現在パクついているタコ焼きとジロー×キョーコのカップリングという要素以外に意識を持っていくことはありません。


 当然、二人が逢引しているものと思い込み、愛用のMy電柱『そば処藤原』をどこからともなく取り出して、合挽きと理解した乙型を巻き込んで尾行態勢に入るのです。


 しかし、尾行態勢に入ったところで耳に入るのは、女将さんと従業員の噂話。


 曰く、女性の連続行方不明事件がこの近隣で発生し続けているとのこと。


 それを知られては、少なくなった客がさらに少なくなってしまう。何とか知られないようにしなければならない―― そのような密談を耳にしては、のんびりと尾行するわけにはいきません。


 本当か否かも定かではない『カイザーの色紙』に釣られ、怪しい誘いにみすみす乗せられた上、ものの見事に分断されたお子様二人……倉田の部屋の前に一人残されたジローをハリセンでひっぱたくエーコですが、危惧していた通りキョーコは既に引き離されている、とあってはのんびりしている暇はありません。


 説明する間も惜しいとばかりにエーコと乙型は部屋に飛び込むのですが、二人もまた驚きの声を上げて後は物音一つ立てることもない。


 流石におかしいと感じたのでしょう。部屋に踏み込んだジローの目の前にあるものは、ただただ空虚な十二畳敷き。


 誰もいない空間、しかし、畳の下に別の空間があることを足に感じる感触で理解したジローは、足元を調べようとして―― 背後に現れた四人の気配に反応しました。


 オートマントを拳状にして放ち、この状況と何らかの関係を持つであろう『敵』を叩きのめそうとするジロー。


 しかし、オートマントは忽然と現れた人影に受け止められました。


 「ここから先には行かせるなと言われています。 おひきとりを」


見るからに雑魚戦闘員だというのに、なにやら迫力充分な一言を他組織の幹部に向け、幹部の攻撃を難なく受け止める辺り、一本でやっている組織と多数の組織が乱立している地域の零細組織との実力差は大きいのでしょうか?


 ジローが一大事を理解したその時、だからこれはじあくか?と問い質したくなるような危機がジロー達に迫っているのでした。




第47話◆倉田の思惑


「悪の組織のやることつったら、 悪いことに決まってんだろ」




 大部屋で待ち受けていたのは戦闘員。


 その「お引き取りください」の言葉にジローはようやく自分達が倉田に騙されていたことを悟ります。


 怒りと憤りにジローが拳を固め、渡家で一人留守番を任されたポチが犬知恵でご飯を一度に食い尽くしてしまったその時、培養槽に閉じ込められたキョーコもまた倉田に騙されたことを知り、暴れまくりますが、いかんせんそこは強化ガラスで覆われた培養槽。


 培養液に浸かっていながら元気よく強化ガラスを叩き、大声上げて抗議するその無駄なあがきは、ただただジローも惚れ込むキョーコの身体データを倉田に見せつけるだけに終わります。


 その元気のよさに嘲りにも似た軽い笑いを見せるのは、落とし穴のトラップに引っ掛かり、外に全裸で放り出されたエーコとも引き離されてしまった乙形を抱えてやってきた、ターバンとマントでその顔を覆った謎の男。


 乙型の『女性を攫って何かを企んでいる』という言葉にドン引きし、「ひょっとしてあんた達…変態!?」実に適切な言葉の暴力をぶつけるキョーコですが、謎の男はその言葉に対してけらけらと道化の如き笑いを見せながら倉田の目的を語ります。


 その目的とは、恋人・ユリを生き返らせること――。


 原理は判らないが、対象の身体に恋人の魂を宿らせることで『蘇生』させるという野望の手伝いをしているだけだ、と語る謎の男。その軽口に、「じゃ、じゃああたしはどーなんの?」キョーコは思わず問い質すのですが、返答はあくまでも軽く「さあ? 上書きされんじゃね?」そして、小馬鹿にしたかのようなものでした。


 一瞬の混乱の後、再び抗議の証とばかりに拳で培養槽を叩くキョーコですが、キョーコの言葉など意に介さず、男は逡巡を覗かせる倉田に対して次のアクションを要求します。


 自分を信じたジローを騙した、という後ろめたさが、行動を妨げますが、黒澤、という男に言われるまでもなく、倉田は覚悟を決めていました。


 が、黒澤、という名前に反応してしまうのは、実によく訓練された藤木作品読者ならば当然―― そう。『進め!ギガグリーン』において、ギガブラックとして容赦ない言葉責めツッコミを担当した黒澤アキラ(女性・胸なし)と同じ名字です。


 よく見てみると、男性とも女性とも取れる口調ですし、胸:測る価値なしという身体的特徴もどちらとも取れます。


 ギガレンジャー、よもやの悪役登場ということもありえるのでしょうか?気になるところです。


 まぁ、読者の疑問はさておき、覚悟の証である指輪を握り締め、「あんた最低!!」キョーコの非難の言葉も無視して、スイッチを押す倉田。


 「戻ってきてくれ… ユリ!」培養槽に満たされた液が泡立ち、培養槽にリング状の光が集中する。


 そして巻き起こる放電。


 圧倒的な力に翻弄されるキョーコの目に映るのは、目の前で成り行きを見守る倉田ではなく、なぜかジローのシルエット。


 しかし、それも一瞬で消え―― 光に飲み込まれたキョーコが培養槽から解き放たれたその時、目の前に立つ倉田に向けてかけた言葉は「………あれェ? 何でシンイチがここにおるん?」上方の響きを伴うものでした。


 キョーコに起きた明確な異常に、黒澤によって戒められ、転がされたまま声を上げる乙型。


 人格の上書きに成功したことを喜び、『ユリ』に駆け寄る倉田でしたが、遮るようにその前に立ち塞がったのは、黒澤でした。


 なにが何やら判らないまま、倉田との再会を喜ぶユリと、実験の成功、そしてついに果たした恋人の蘇生に喜ぶ倉田でしたが、黒澤にとってはその成功の瞬間こそが、自らの目論見が達成した瞬間でもありました。


 軽口に秘められた合図とともに、地下実験場の影から現れたのは、揃いの『J』のマークを帽子とジャンパーに刻み込んだ無数の男達。


 同じく揃いのトンファーで武装し、フランの戦闘員を押さえ込んでいるその様から見るに、恐らくは正義の勢力に与する彼ら―― 『J』は『Justice』の『J』なのでしょう。


 まぁ、よく見たら、右奥の隅っこには珠と斗馬らしき二人も見えますが、そこら辺は多分本編に関係ないので知ったことか。


 自分の目的のためならば他人の人格をも書き換える……そのような悪であれば、心置きなく潰すことが出来る―― その思惑のために倉田を利用し、そして、悪事を行わせた上で大義名分を持って正義を執行するという、自らの計画を明かした黒澤ですが、“「でかいことやらせて潰す口実作っちゃおー」作戦”という作戦名は正直 バカっぽいです。


 そのバカっぽさ、そして、「被害者ってどーゆーこと? あたしは上書きなんかされてないけど?」と、自分を差し置いて、被害者である『ユリ』を証拠品として確保すべく勝手に話を進める黒澤に対して挑発的に笑うキョーコ。


 その笑いの源にあるのは、絶大なる信頼。


 どうせ盗聴器で状況を把握しているであろうこと。


 そして、有利な状況に油断している十把一絡げな雑魚など、敵ではないこと。


 それを証明するかのように、「お前らが何で悪党を潰したいのか知らんが――― キョーコをいじっていいのはオレだけだっ!!!」叫びとともに、擂り鉢上の外周を占拠した『J』の戦闘員達を襲うオートマントの巨大な拳が合わせて10本!


 油断しきっていた上、キョーコが完全に上書きされていないことに驚いてしまった黒澤にその拳を躱すことは出来ませんでした。


 奇襲を受け、吹き飛ばされる黒澤を尻目に、「ったく…もうちょっと早く来なさいよ…ジロー」信頼とツンデレに満ちた声を上げるキョーコとは対照的に、挫折感と敗北感、そして、信用を裏切った後ろめたさも交えた感情によって動きが遅れた倉田には、一直線に飛び降りながら躍り掛かるジローの拳を避けることは出来ませんでした。


 鼻面にいい一撃を喰らい吹き飛ばされた倉田を案じる『ユリ』と、到着が遅れたジローをなじる『キョーコ』を同時に登場させるキョーコの状態を楽しそうに観察するジロー。しかし、倉田にとってはあれだけの敵を一撃で屠った強敵が登場したことに他なりません。


 見くびっていた強敵の登場に立ち上がり、身構えようとする倉田でしたが、「さて、とりあえずぶん殴ったし、騙したことはこれでチャラだ」振り返りもせずにジローは言うのです。


 衝撃を受ける倉田に、人を食った笑みを浮かべて振り返ると、ジローは今だ底の見えない敵に対する警戒を解くことなく―― 「まァ倉田殿も騙されていたようだしな。 研究だけでなく社会勉強もした方がいいぞ」つい先程までの敵に言葉をかけるのです。


 が、その言葉はキョーコにとってはあくまでも「おまえが言うな」でしかないのでした。




第48話◆二心一体エレジー


「ごめんなーシンイチ」




 雪山で餓えた野獣と餓えたニートが出会った―――― となれば、勝負でしょう。


 しかし、そんな殺伐とした野生の掟が熊を襲う頃、悪の組織・フランを潰そうとした組織は既にジローによって撃退されてしまっていました。


 悪を養殖してから潰すと言う、既存の正義とは毛色が違う彼らをとりあえず外に出しておくよう戦闘員に指示する倉田ですが、自分達を利用し、そして事が成ったともに潰そうとした黒澤以下の謎の一団を、ただ外に放り出すだけで済ます辺りは、悪の割には随分と大らかです。


 しかし、ジローの気持ちは大らか、という訳にはいきません。


 キョーコが倉田に引っ付いているからです。


 無論、それがキョーコ自身の意志ではなく、キョーコの精神に上書きされた倉田のかつての恋人・ユリの意志によるもの、ということは理解しているし、キョーコもまた自らの意識に他人の意識を上書きされているこの状態を望んではいないのだ、ということも判ってはいますが、やはり引っ付かれていると心がざわめきます。


 この心のざわめきを取り払うためにも、早くキョーコの意識の混線状態をクリアにしないといけない。じゃないと、乙型はキョーコがいつまでも一人芝居をしているままだ、と思い込んでしまう。


 倉田とともに引き剥がす術を探すジロー。


 しかし、キョーコの身体を得たユリはここぞとばかりに倉田に引っ付き、ジローの集中力を確実に削ぎます。


 また、乙型もすっかりドジっ子メイドロボとして覚醒したようで、勝手に変なスイッチを押して状況を悪化させます。


 ですが、残念ながら現在キョーコに宿っている人格は京都っぽい一般人なので、現在ここにはツッコミ不在です。


 いかにユリが関西人だからと言っても、関西人全てが全てツッコミ体質という訳ではないのです。中にはボケもいるのです。


 そんな緩いボケ体質のユリと、初登場時のセリフがどうあれ、芯では真面目な倉田とが醸し出す世界は、『キョーコ』を止めようとするジローにすらも間に割って入ることを許さないものでした。


 しかし、そのささやかな……しかし、不完全な世界は、倉田がユリのために、と肌身離さず持っていた指輪を嵌めた直後に終わるのです。


 キョーコの体から抜け出るユリは語ります。


 自らが既に死んでいること。


 倉田が成功していた、と思っていた“データ転写による死者の蘇生”が、実は不完全なものでしかないこと。


 しかし、自らのために費やした恋人の5年と言う歳月に報いるとともに、自らもまた待ち望んでいた『その瞬間』までの短い間だけ、キョーコに頼んで身体を貸してもらっていたこと。


 とはいえ、これ以上借りることは出来ない―― 自分はもう、死んでいるのだから。


 残念そうに、しかし、諭すようにそう語るユリ。


 しかし、ようやく取り戻すことが出来た恋人を再びその手から溢す事は出来ない、とばかりに倉田は再びキョーコにユリを転写するべく機材を動かそうとします。


 それに対してユリの浮かべた表情は寂しげな笑顔。


 その笑顔が、ジローに為すべきことを教え、ジローはオートマントの拳でそれを為しました。


 並んだ培養槽が砕け散る音と、飛び散った破片が地面に叩きつけられる音が、そして―――― 「シンイチ… ウチのこと思うてくれてありがとう。 でもな…もう自分のために生きてや でないとウチ… よう寝れへんわ」ユリの最期の声と涙が、倉田の『夢』の終わりを告げるのでした。


「機材を壊してすまなかったな。 殴りたければ殴っていいぞ」寄り添うかのように転がってきた遺された指輪を拾い上げる倉田にジローがかける言葉はあまりにシンプルなもの。


 しかし、嘲笑とともにかけられた言葉は、複雑な謎を残す相手からのものでした。


 煽ってやったのに失敗した上、女にも逃げられるなんてダサい相手は潰す価値など薄い―― そう嘲笑する黒澤に向けて、機材に向けられたものとは比べ物にならない感情が……限りなく殺意に近い怒りを乗せたオートマントの拳を振るったジローは言うのです。「少し、だまれ。」


 その怒りを軽く躱し、退散する黒澤……顔が見てみたい気もしますが、見たときにははじあくが終わりに近づきそうな雰囲気も間違いなくあります。


 我聞の時に真芝の幹部連中が勢揃いしたのは4巻途中と、はじあくの方がやや遅いため、悲願の10巻越えはどうにかなるとは思いますが、出来たら黒澤の顔出しはもっと後になって頂きたいッ!!


 まぁ、読者の願望はとりあえず放っておきますが、一騒動終えた二人は露天風呂の壁越しに会話をします。


 ラブじゃないとかなんだかんだ言いますが、壁越し会話したり、焼餅焼いたり勘ぐったりと、やってることはどこをどう見てもラブコメです。キョーコはもっと自覚した方がいいと思います。


 ともあれ、露天風呂に雪が降り、ラブコメ問題も半ばうやむやに風情云々に摩り替えられた頃、全裸のニートは倒した熊に跨って、戦利品の魚をぶら下げつつ、そこがどこかも理解せぬままお馬の稽古に勤しむのでした。









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