FIRE STARTER!!

キルゼムオール・レポート13








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第120話◆顧問誕生!


「清里先生ー! ちょっとよろしいですかー?」


 今日も今日とて部室で雑談に花を咲かせるキル部の皆さん。
 部として承認されてからそれなりに月日が経ち、何気ない雑談は生徒会副会長でもある黒澤さんが業務連絡も込みでもってきた部の代表者による予算会議についてのものへと変わります。
 なるほど、予算というものもあるのか。しかし、キルゼムオールのアイテムは基本的に廃品回収で賄ってきたから予算は丸々人件費に回すことが出来る――となれば、部員全員を悪の穴に叩き込む強化合宿の予算にすることも出来る。
 自らが死ぬ目にあった特訓を強要しようとするスパルタ部長のそんな言葉に、悪の穴がどのような過酷な特訓施設なのかをその目で見たキョーコは当然ながら抗議するのですが、曲がりなりにも正義の側にいる黒澤さんを連れて悪の強化施設に行ったりしたら完膚なきまでに破壊されかねません。
 部活が原因で悪全体の不利益になるような事態は避けたほうが賢明です。
 しかし、予算いらずであっても予算を組み込めば私利私欲に使うのが悪の倣い。
 TVとゲームを導入しようではないか!いや、忍者のための吊り天井がよか!
 待てやこの野郎。吊り天井は忍者ではなく謀反を企てた大名が将軍暗殺のために仕掛けるものだッ!!(力説) 謝れ!宇都宮市民に謝れッ!(いい迷惑)
 あと、創造主がTRPGに興味を示していることもあるんだし、TVゲームではなくTRPGのシステムとリプレイでも導入したらよかろうと思います。
 FEAR系のシステムの常として、サプリメントを全部揃えようとすると極悪なまでに金が飛んでいきますが、来たる7月20日(2011年7月14日現在)に版上げされる“2E”が発売されるアリアンロッドなんかおすすめですよ?実際に『釣り』天井に関するエピソードが登場する、東洋風ファンタジー世界を舞台としたリプレイ・ブレイドなんてものもありますし?(勧誘)
 TRPG好きの勧誘はさて置きますが、やはり金子は食となり物となりゆとりとなり、人を使う組織の人間には欠かせないものであることに代わりなく、組織の長として生きることを余儀なくされているジローにとって、金銭的なやりくりを行う上でも将来の組織運営の予行演習にもなる予算会議に参加することは大きな意義があると言うものです。
 しかし、野望に燃えるジローの前に根本的な問題が立ちはだかりました。
「顧問の先生、いませんよね、ココ。 顧問いないと同好会扱いで部費は出ませんよ?」「な…にィ…?」
 そう、最低限の部員を確保することで部室の使用許可は得ていたものの、顧問なしでここまで来ていたこともあって、部ではなく同好会として認知されていたのです。
 部費獲得のためならば――欲望込みのモチベーションもあり、動きは迅速でした。
 早速昼休みに顧問を担当してくれる教員を探しに藤田先生の下に相談に行くジロー達でしたが、「あー、顧問かー。残念だが、たいてい埋まってるぞ。 ウチは部活多いからなー」生憎ここはリベラルな校風が売りの三葉ヶ岡高校。同好会扱いだった渡キョーコファンクラブやみのり隊の例を挙げるまでもなく、生徒が好き勝手に様々なクラブが乱立させているために、数に限りのある教師が足りていないのです。
 刷り込みホルムを使って校長を再び洗脳すれば問題ないでしょうが、そのような物騒な事態に陥ることはありませんでした。
 藤田先生にしてみたらやや不安がある人材ではありますが、一人空きのある新人教師がいたのです。
 藤田先生の応えに応じて立ち上がり、そして一歩目で椅子に躓いて転んだのは後ろで束ねた淡い髪色と、幼さの残るそばかす顔、そして、その童顔とは裏腹な立派なおっぱいの持ち主の女性教師。
 ちょっとというか、かなりというかのドジっぷりを見せ付けて、誰も知識を持たない悪の組織の顧問を任せることに対して藤田先生が抱く不安を証明する彼女の名前は新人の英語教師・清里ユカリ先生!
 転んだ拍子にストッキングを伝線させるという荒業も披露した彼女ですが、赴任してきて一ヶ月でありながら、部の顧問になって欲しい、と自らを頼る生徒の存在に力強く燃えて「わっかりました!先生にまかせなさい! ばっちり顧問しますからー!」返します。
 ――いや、ちょっと待て。
 先々週時点で夏服だったのに、赴任して一ヶ月しか経っていないとはどういうことなのでしょうか?
 何だか変な組織の潜入任務で急に赴任してきた感が出てきてしまいます。
 学園は戦場だ?

 地獄に落ちても忘れたくない戦場の死神についてはいいとしますが、そんな天然ボケやらやる気に満ちた態度やら、全身で伝説の殺し屋とは真逆の雰囲気を醸し出す清里先生の真っ直ぐさに黒澤さんはジロー達の厄介さを訴え、思い留まるなら今のうちだ、と釘を刺すのですが、その忠告にも清里先生はひるみません。
私のセンパイが言ってました。 「先生は大人代表!いつもかっこよく!」頼ってきた生徒の力になれなくてどーしますかー!!頼ってきた可愛い生徒達を見過ごすことは出来ない、と力強い言葉とともに立派な胸を――もとい、立派な態度で胸を叩く清里先生の姿に、年少組のみならずとも信頼感を強めるのですが、そこは生憎ボケの人。力強く叩きすぎたことでセルフハートブレイクショットを自らぶち込むという偉業を成し遂げることで、清里先生は自らのリミッターのなさを披露するのです。
 ですが、リミッターがないということはいい言い方をすれば何事にも真摯に全力で取り組む、ということ。
 当初は悪の組織についても理解していなかった清里先生も、その真剣さで悪の組織についての知識を身に付け、数日の時を経てジローをも凌ぐまでに至ります。
 ……って、情報漏洩にもほどがあります。
 なんかこの世界の悪の組織……本気で心配!!
 とはいえ、サブローやルナに懐かれ、予算会議でも黒澤さんという大きな壁を突破して当初予定されていたものに比べて5割増しの予算を勝ち取った清里先生の熱心さは部員、そして遊びに来ていたいつもの仲間にも伝わるもの。
 その熱心さに応えないわけには行かない、とばかりに、ささやかながら清里先生の歓迎会を行うことにしたキョーコは、いつもの仲間を誘うことで、アキの実家であるなかつがわを会場として抑えることに成功するのです。
 
 開かれた歓迎の宴に感極まって「田舎のおっかぁ!オラ教師さなっでよがっだ――――!!」溢れる涙。しかし、キョーコにたしなめられて思い直します。
 そーね。泣くにはまだ早い!泣くのは部が全国大会に行くまで我慢よね。
 大丈夫!既に全国有数の強豪です。
 そして、なかつがわといえばもう一人重要な人物が。
「お疲れ様です先生!こいつらがお世話になって!」
 そういって、店主であるアキ親父からのおごりの生中を先生の前に差し出したのはルナ曰く『変態の親玉』こと赤城。
 ラテン系マッチョの親父にいとも容易く認められた辺りは流石というより他ありません――が、セルゲイが里帰りから帰らないままというのは気になります。
 きっと、入国管理局で足止め喰らったか、ビザ切れてそのままなのでしょう。
 何はともあれ、エロ親父からの挨拶代わりのビールも入ったことで、先生の脳が適当になる、と踏んだ黄村が音頭を取って、自己紹介を始める一同。
「どうもユカリ先生!黄村YOSHIHITO生徒会長です! オレのフェロモンに酔いなー!!」欲望垂れ流しでブーイングを喰らう黄村。
「あ、三年の緑谷です。美大を狙って――」「えろい絵ばかり描いてます」「うおおおおいっ!?」黄村の横槍を喰らった上、「東雲ですー!演劇部やってます! この前緑谷くんにえろい絵をかかれましたー!」ユキに念入りに止めを刺される緑谷。
「えーと中津川です、はずいな これ。 一応東京の方の体育大に行こーかと…」目標がより具体的になったことでユキとキョーコに弄られることになったアキ。
 そして、アキとは対照的に「えーと渡です。今だにやりたいこと決まってませんー。 そろそろ決めたいんですけど――」将来の目標を未だ決め切れていないキョーコ。そんな彼女を巡って正義と悪が睨み合うその横で、「大丈夫。必ず見つかるよ」清里先生は少し先行く人生の先輩としてアドヴァイスを送ります。
「私も大学行ってから教師の道見つけたから。 だからあせらなくても大丈夫!」
 若者のもつ最大の武器は可能性という無限の力!その力を歪めることなく道を指し示すことこそが大人の役割――持論に基づいての清里先生の言葉にキョーコ、そしてジローは感じ入るのです。
 しかし、残念ながらこの世界にまともな大人はいるはずなどありませんでした。
「それに 渡さんすごくかわいいし」
 スルー力に長けた藤田先生やおとーさん、積極的にイトコ婚を進めるどころか、種付けをけしかける大幹部様や大姉上、そして働くことなど学生時代に卒業してしまったニートと同類の残念な大人であることを証明するかのように清里先生はキョーコににじり寄ると、頬に手を寄せ――私のセンパイが言ってたわー。 「据え膳食わぬはなんとやら」って」藤木作品初の唇を奪うキスを貪るのです。
 そのエロティックなキスに至らせたのはアキ親父が奨めた生中に続いてのロング缶4本分のビール。20代前半でその程度とは、正直弱いと言うより他ありません。
 仮面を脱いで百合色のキス魔の素顔を晒け出したらもう止まりません。
 次は衣服も脱ぎ捨てて、その立派なおっぱいとともに酒乱の脱ぎ魔としての貌も見せ付けた清里先生の暴走を止める為に、女性陣は一気に大忙し。
 ブラに隠されたはちきれんばかりの胸元に鼻血を流すか真剣な眼差しを向ける漢どもを追い出し、酔拳の如き柔軟な動きで逃げ、絡みつく清里先生をどうにか組み伏せ、服を着せようとする作業は体術に優れた黒澤さんにとっても厄介極まりなく、戦果と引き換えに受けたキスマークと言う名の傷跡に計り知れない精神的なダメージを顕わにします。
 ジロー達の厄介さを忠告したと思ったら、肝心の相手も厄介でした――その笑うに笑えない結果に涙しつつ、家路に就く黒澤さん達。
 すっかり汚されたキョーコを慰めるユキ、そして、酔っ払いを放っておく訳にもいかないと清里先生を背負ったジローにルナを加えた一行は、潮風交じりの夜風に打たれますが、夏の熱気を多分に含んだ夜風は酔いを覚ますにはあまりに力不足で、未だ酩酊の中にある清里先生の心に住まう“先輩の教え”を復唱することを止めることもままなりません。
「センパイが言ってたのらー!「飲むなら飲みつくせー」!」
 こんな弱い人にそんな教えをするな――そんな読者と同様の悪態を今日の事件の引き金となった“センパイ”に対して行うジロー。
 しかし、清里先生は酔っていてもセンパイに対する悪口は聞き逃しません。絶対の金言となったセンパイの言葉に疑いの眼差しを向けるジローを許すまいとして、背負われたままジローをポカポカ殴る清里先生を止めることが出来る人は最早ない。
 そう思われた矢先、ジロー達の前に現れたのは――元祖呑んだくれキャラでした。
 暑さを凌ぐためにガリガリくんを買いに行くついでに散歩に出たエーコに遭遇した偶然を好機と睨み、「酔いの覚まし方知らない?先生がべろべろで」せめて酔いを覚ます手段を聞こうとするキョーコ。
 別段酔いを覚ますこともせず、適当にダラダラしていたら二日酔いも覚めているニートにそんなことを聞いても埒は開きません。
 しかし、問われて何もしないと言うわけにもいかない、と、取り敢えずジローに背負われた先生の顔をふと覗き込んだニートの反応は、「清里?なんでこんなとこいんのー?」やや驚きに満ちたものとなりました。
 と、いう訳で――余計なことを吹き込んだ先輩と意外にあっさり再開を果たした清里先生は大いに喜び――ジローの背の上で小麦粉やらビールやらソースやらで構成された“もんじゃのタネのようなもの”をぶちまけるのです。
 これも先祖返りと言えるものなのだろうか――熱を帯びた半液体を首筋に受けたジローに、似たような経験をされたことがある読者は同情を禁じえないのでした。

第121話◆清里先生の企画


「しかし あの暗かった清里が先生とはね。 先輩として鼻が高いわ!」


 前夜の苦酸っぱい騒動から一夜明け、疲れが抜けきれないまま眠りについたジローがまず感じたのは乙型の声でした。
 黄村だったら間違いなく間違いを起こす、ロボメイドに起こされると言うシチュエーションですが、日頃から乙型に起こされ慣れているのであろうジローは当然間違いを起こすことなどありません。
 ですが、続いての光景は見慣れたものとは一線を画していました。
「先生は?」「キョーコ様の部屋でお休みになられてます」問いに応じる乙型の言葉に、目線を上げた先には半ば開いたキョーコの部屋の扉。


 「キョーコ?起きてるのか? 昨日はお互い大変だったな …ってエーコの知り合いだけあって、一筋縄ではいかなかった清里先生に対する僅かな愚痴をこぼしつつ、ごく普通に扉を開けたジローの目に飛び込んで来たのは、キョーコのベッドで眠る清里先生。


 素肌にシャツを羽織り、下もパンツ一枚と言う、日頃見慣れたニートの全裸より露出度は遥かに少ない姿なのに、キョーコのパジャマに手を差し入れるその百合百合しさと相俟って、実にえろてぃっくな光景を生み出します。


 赤面し、硬直するジローに対する更なる追い討ちとなったのが、違和感に目を覚ましたキョーコの声で寝ぼけ眼を開いた清里先生のその姿。


 ボタンも留めず、ブラもつけず、辛うじて双峰の頂点に引っ掛かる形で隠された胸元の顕わになった谷間をさして気にすることもないどころか、他人にもその習慣を強要する節があるのか、寝ぼけながらキョーコのブラも外した模様です。


 実に器用かつ迷惑極まりない習性です。是非アキさんとも添い寝してくださいお願いしますッ!!(土下座)

 しかし、ジローを瞬時に鼻血の朱に染めたその習性はあくまでも小さくてかわいい存在にのみ抱く衝動。ちっこくてお持ち帰りしたいキョーコならばまだしも、ニートよりも豊かなおっぱいの持ち主にはそのような衝動は抱かない辺り、実にもったいないとしか言いようがありません。
 そして、清里先生のちっちゃいもの大好きという感性もまた、先輩であるニート譲りのものらしく、ニートは先生に抱き心地のよさを確認することで相変わらずのキョーコ好きっぷりをアピールするのです。
 ジローの嫁というのは建前で、徹底的に自分達が愛でるために嫁に取ろうとしているのが丸わかりです。
 ここまでメロメロになる辺り、キョーコの燐粉の強力さが恐ろしく思えてなりません。
 しかし、キョーコの百合成分多分な燐粉であっても清里先生のエーコへの忠誠心は揺らぎません。
 東京の大学時代、暗かったかつての自分を変えてくれた先輩――今ではすっかりニートをこじらせた無職の中の無職をそう呼ぶ清里先生に、微かに引っ掛かりを覚えるキョーコ。
 ですが、その引っ掛かりはあまりに些細で、あっという間に日々の生活の流れに押し流されてしまいます。
 ましてやエーコ直伝の強引さで何事もポジティブに引っ張る清里先生が加わったことで日常の勢いはさらに増しており、「ザ・フリーダム」ことニートと強い絆で結ばれている、と判明した前夜の一件を受けて出来るだけブレーキをかけようとする黒澤さんもまた、アキユキ黄村という状況を楽しもうとする外野達の言葉に押し流されるのです。
 自分自身もある種厄介だ、と感じていたにもかかわらず、黒澤さんをたじろがせるという一点で以って清里先生というイレギュラーの存在を歓迎し、大いに利用しようとたくらむジロー。
 しかし、その鼻に詰められたティッシュは自らもまたダメージを受けたことを明確に示しており、一同はそのダメージやらエロイベントに遭遇した幸運やらをネタにジローを責め立てます。
 仲間達のそんな大騒ぎから一歩離れ、用足しに立ったキョーコが女子トイレ前で遭遇したのは、ドジっぷりと一生懸命さで仲間達の大騒ぎの原因となっている最中の清里先生。
 そのドジっぷりを遺憾なく発揮して何もないところで見事にすっ転び、手にしていた冊子数部をバラバラと振り撒いた清里先生を手伝いに、苦笑しつつ歩み寄るキョーコが見たのは冊子の表紙。
 『合宿のしおり』――予算が多く取れたから合宿を企画してみたという、清里先生の真っ直ぐなベクトルにただただ感心し、「先生って素敵ですね…… 憧れます」キョーコは素直な気持ちを口に出します。
 何もやりたいことが見つからず、未来が今も靄がかっているキョーコにとって、進むべき道を真っ直ぐに進む清里先生、そして、進むべき道が最初から決まっているジローはあまりに眩しく、憧れる存在。見えない未来に焦りと恐れを抱き、ぽつり、ぽつりと述べるキョーコに、
……そっかー。 渡さんは阿久野くんのことが大好きなのね」

 清里先生は、かつての自分を思い浮かべて言うのです。
 自分も同じようなものだった。
 高校で友達が出来ず、大学でも人を遠ざけていた――そんな暗く閉ざされた学生時代を強引に打ち破り、光に満ちた道へと導いてくれたのは他でもないエーコだった、と語り、そのエーコから貰ったものを伝えて行きたい、と思ったからこそ教師と言う道を見つけ、選んだのだと続ける清里先生に、抗弁は最早何の意味もありません。
 好きな人と出会えて変わることが出来た――ジローに出会って変わることが出来た自分と同じ存在であることを悟ったキョーコの口から、
「……… わ… わたしも見つけられますか…? その…ジローと一緒にいたら…?」驚くほど素直に溢れ出てくるこの言葉に、「もっちろん!」力強い言葉と笑顔で清里先生は返すのでした。
 そして計画をさらに煮詰めた翌日、いよいよ合宿の計画が明かされます。
「名づけて「悪の湯けむり大合宿! ポロリもあるよ!?」これでみなさんの悪のパワーを上げてもらいます!」アドバイザーにエーコを据えてのこの合宿にテンションを上げるジロー達悪の人間と正義の人間としてテンションをダダ下がりに下げまくる黒澤さん。
 善悪両陣営について言えば今はまだ中立の位置に立っていると思い込んでいるものの、清里先生とのやり取りで自分がジローを好きである、と言うことをこれまでになく自覚させられたキョーコはというと、清里先生の奇の衒いも何もないアドバイス、そして邪魔する相手もルナ以外にはいないとあって、ジローへの告白をついに視野に入れ――いつものチキンっぷりを発揮して思い直し、自己欺瞞でごまかします。
 しかし、当日になってその思いはあっさり裏切られるのです。
 集合場所に集まったのはキル部の皆さんの他にもアキユキ黄村に緑谷、それにシズカといった、横槍やら覗きやら茶々を入れるいつものメンバー達。
 というか、ニートプロデュースの合宿という時点でジローとキョーコをくっつけようと言う意図が入らないわけがありません!!
 いい加減キョーコも学習能力を身に付けた方がいいと思われます。
 ギャラリーがいたら勇気も萎える、と上がりかけたテンションを下げつつも、目標を探しているだけ、と自分をだまくらかしてマイクロバスに乗り込むキョーコでしたが、裏切りはさらに続きました。
 マイクロバスに揺られて三時間。合宿の会場として清里先生が準備したのはズタボロに荒れ果てた廃墟。
 荒れ放題に荒れ果てた庭先に、罅割れ、雑草が顔を出す石畳。
 彼らを歓迎するかのように枯れた声を張り上げるカラスの群れに、屋根に生えたペンペン草。
 玄関先の窓ガラスも南向きの障子窓も破れに破れ、見るからに何か出てきてもおかしくない、という廃寺に「あ…あの… 先生?ここ… 廃墟みたいですけど…」思わず尋ねるキョーコに返ってきたのは「うん、その通りー!」さも当然、と言った感じの清里先生の声。
「ここで2泊3日過ごしてもらいます!自給自足で。おもしろそーでしょ!?」
「おー まかせろー!」「キャンプみたいなものだね!?いいねー!」サバイバーや楽天家のハイテンションとは対照的に、部員三人はローテンション。
 怖いの苦手なキョーコと黒澤さんに、吸血鬼なのにお化けが怖いルナという、悪の組織としてはどうよ、としか言いようがない言動には耳を貸さずに、清里先生の廃墟好きの趣味丸出しで選んだ物件にジローはただただ賞賛するばかり。
 まぁ、正義が一名混じってますがちっちゃい事です。
 そして、先生の趣味によってキョーコやルナといったジロー狙いの面々がポンコツになり、乙型も不在のこの状況に、シズカは一人静かにガッツポーズをカマし――無風のまま告白大会になるものだ、と思われた合宿はのっけから波乱の中でスタートするのでした。


第122話◆キョーコの気持ち




「それだけ元気なら大丈夫そうね! 悪の特訓!


 荒れ寺に、夜明けとともに響くフライパンとおたまの高らかな打撃音!
「フライパンで正と起こすの夢だったのー。ああ…先生って素敵!」「どんな夢ですか」
 何事も形から入る清里先生の仕切りで行われることになった悪の特訓は、そのような様式美の世界から始まりました。
 お約束の目覚めを支えるのは、意外にしっかりとした造りの――シズカ曰く「草薙家より住み易い」という――荒れ寺。
 いやそれ比較対象間違ってるからッ!?
 新しくても紙細工と荒れ放題でも木造建築とでは、居住性に大きな違いが出て当然です。
 ともあれ、荒れ寺という夜露を凌げる拠点があり、生存に欠かせない水場となる清流もほど近いこの合宿場は、当初の不安とはうって変わってなかなかいい場所。
 女子連中が起き出す前に既に動いていたジロー達男性陣が、朝食用として釣り上げてきた釣果のニジマスとともに帰還したことで食料も担保されているとあって、さらにテンションも上がります。
 七匹を釣り上げた黄村の活躍があっさりスルーされ、ポイントを見出したジローばかりがもてはやされると言うお約束はあったものの、持ち前のハイテンションをすっかり取り戻した彼らには最早死角なし!地元が賞賛されてのこのテンションとあって、遠慮なしに特訓を課すことができると清里先生も大張り切りです。
 そんな清里先生に手を貸す地元の旧友として登場したのがデコに十字傷を刻み込んだ巨大猪。
 きっと、名前は番司とかパンツマンとかです、十字傷的に。
 名前的に言って収束爆砕(仮)とどっこいの突進力を持つであろうことが見込まれる番司(猪)を駆って、ランニングで体をほぐした後は、滝上から落とした流木を躱すという瞬発力と直感を鍛える特訓。
 殺意の高さでは黒澤さんの特訓を上回り、殺意様の域に達しているかもしれない、エーコのノリだけで適当に作ったメニューをそのまま持ち込んだハードさと、そのうち『まず神官から殺せ』とでもいう心得までも伝授しそうな勢いに、気安く着いて来た一同は後悔しますが時既に遅し。
 清里先生が満足しきったその頃には死屍累々の地獄絵図。
 沈む夕日の赤を血の色と重ねあわせ、アキや黄村は、清里先生は実は潜在的なドSなのではなかろうかと気付いてしまうのですが、そのような気付きは目の前に迫り来る空腹の前には些細なこと。
 周囲を食料には事欠かない豊富な自然に囲まれているとはいえ、あくまでもそれは周囲が見えていてのこと。電灯などない山中で周囲を闇に閉ざされてしまっては、食料を確保することなどままなるはずもないのです。
 疲れた体に鞭打って、男衆が食糧確保に動き出す中、キョーコはつい先ほどのジローや黒澤さんとのやり取りを思い浮かべます。
 それぞれの組織にキョーコを迎え入れようとする今の状況は、それほど悪いとも思えない。
 しかし、そこに自分の意志はない。
 自分の人生をどう歩むのか、という部分で悩んでいるキョーコにとって、自分不在と言うこの状況になんとなしの腑に落ちなさを感じたのでしょう――キョーコは、もやもやした気持ちを抱え込んだまま、夕陽の中にたたずむのです。
 滝を使っての迷惑な特訓に魚も引っ込んだのでしょう、朝とうって変わってのボウズに終わった釣果によって、山菜だけで空腹を満たすに留まった夕食の後、女子連中はお約束の入浴タイム。
 覗き防止のために男子連中には監視しやすい窯で薪番をさせてガードも完璧となれば、次にやることは当然乳比べ。
 常識としてはどうかと思いたくはなりますが、生まれながらの支配者であるユキさんが中心となってのことですから当然に決まっています。ルールはユキさんが作るものなのです。
 しかし、それまでの絶対王者であるアキさんの王座が陥落したその時もキョーコはやはり上の空。
 当初からランキング下位が確定していることで喧騒とは無縁ということもあったのでしょうが、自分の気持ちを出すことなく、この絶好の機会を逃すことに対する後悔と、気持ちを出すことによって、ジローとの関係が変わるのではないのか、と言う未来に対する不安と恐怖――二つの感情が綯い交ぜとなり、漠とした安穏に自らを沈み込ませるキョーコ。
 ですが、そのような逃げを清里先生は許しません。
 広い湯船の隣に座り、「渡さん。 阿久野くんに言ってみた? 自分の気持ち」単刀直入に尋ねると、まだ、という返答に対して真っ直ぐぶつかるように諭します。
 当初はその辺りもまたニートの指示で動くのだろう、と思っていましたが、この恋愛相談という辺りについては素で動いているようです。
 素直に、そして真剣に応援している清里先生と、半ば遊び半分で応援しているエーコ達――どちらもジローとキョーコをくっつけようと後押ししていることは確かですが、このように両者に温度差がある辺り、意見に相違が出た場合どうなるのか――ある意味楽しみです。
 何はともあれ、清里先生に後押しされてジローを探しに出たキョーコ。
 翌朝の朝食用にとペットボトルを使っての魚用の罠を仕掛けるジローに風呂の順番が回ってきた、と教えるという名分もあり、あくまで自然に二人きりになることが出来たキョーコに必要なのはあと一歩踏み込む勇気だけ。
「いやーしかし驚いたぞ! キョーコがああも動けるとは!いや知ってはいたが! これなら幹部の座も考えねばな!」ジローの方から話題として振ってきたこともあり、お膳立ては完璧。
 むしろ、このシチュエーションで聞くことが出来なければ方向音痴もいいところです。
 ですが、そこはチキン夫婦の妻の方。素直に聞くことに対してはやはり躊躇があったのか、「あ…のさ ジロー… あんたは…私を手下にするって言ってるけど… その… 私があんたの組織に入るの絶対やだって言ったら… どうすんの?」婉曲的に、そしてネガティブな視点から問い質します。
 その正義へと寝返りを宣言するかのような言葉にうろたえるジローでしたが、あくまでそれは例え話、と釘を刺し――「私だって他にやりたいこと……あるかも…でしょ!?」続けるキョーコにジローは困惑の表情を真剣なものに変えて、溜め息一つ。
 思案の時間は数秒にも満たないものでしょうが、雄弁さを詰め込んだ沈黙を伴った数秒には数分にも数時間にも伍する重さがあり――その重さを以って、ジローは言うのです。

「……だったら仕方あるまい。 そりゃああきらめる」


 素直になれないが故に口に出してしまった、本音の裏返しの言葉が招いた真剣な、そして残酷な言葉。
 ただ一言「連れて行って欲しい」と改めて言いさえすれば覆ったはずの、聞きたくなかった言葉。
 しかし、流れる涙が本当に言わなければならない言葉を堰き止めて――
 自分がなんと言おうと構わずに連れて行ってくれる。
 自分を変えてくれる。
 そう思っていたのに、当のジローはその優しさ故に諦めを口にして――
 そのすれ違いとも言えない言葉の綾に押し潰されるかのように、キョーコは思わずその場から逃げ出してしまうのです。
 いつぞやと同じく、キョーコの涙を前にジローは追いかけることも出来ずに固まるばかり。
 ですが、前と違っていたのはその様子を見ていたのが別の二人であった、ということでした。
 前の年の阿久野家で覗いていたのはキョーコとジローを積極的にくっつけようとするユキとアキにニート。
 しかし、 今回覗いていたのはルナとシズカという、ジローを狙うライバル二人。
 涙とともに走り去るキョーコの姿に、えらいものを見てしまった、とうろたえるルナですが、シズカにとっては、入り込む隙間がないほどに固く結ばれていたジローとキョーコの絆に綻びが生じた、またとない好機でしかありません。
 ましてや日頃張り合う邪魔な乙型もいないこの好機を逃すなど愚の骨頂。
「今のうちにジローさんにせまったらええんでないの!? 弱肉強食!!
 狩人の魂を胸に、悪の陣営にあるはずのルナすらも至らなかった発想にあっさりたどり着いたシズカの瞳は邪悪に光り、立ち尽くすジローをロックオン。
 うん、取り敢えずジローにも選ぶ権利を与えてやれ?

 ですが、読者のツッコミも虚しく何も知らない仲間達がまったり過ごすその横で、夜闇に紛れた修羅の宴が――始まろうとするのでした。


第123話◆夏合宿の思い出




「にしても――― 他のみんな遅いね。何やってるんだろ?」


 何も知らない仲間達がごく平和に大富豪に興じていたその頃、森の中は修羅の巷となっていました。
 「だったらあきらめる」の言葉に思わず逃げ出してしまったキョーコ。
 キョーコの唐突な逃避に訳が判らないまま固まるジロー。
 そんなジローを狙って邪悪に微笑むシズカに、暴走気味のシズカにやや置いていかれつつあるルナ。
 ついでに言えば夜の個人授業を目論んで清里先生の部屋に忍び寄る黄村なんてのもいますが、まぁこちらは蚊帳の外。
 しかし、ジローの諦める発言を盛大に拡大解釈してしまい、自らがフラレナオンとなってしまったと思い込んだことで逃げ出してしまったキョーコが自己嫌悪に陥る暇はありませんでした。
 頭から血を流しながら、ジローが猛然と追い掛けてきたのです。
 キョーコの不可解な行動に対してこのままフリーズするのは今までと何ら変わりない、と自ら立木に頭をぶつけて喝を入れ、夜闇に沈む森の中もものともせずに逃げたキョーコを追い掛けるジロー。月明かりも半ば以上を遮られているはずの鬱蒼とした闇の中でも足を取られることない集中力の前に、早速攻勢に出たシズカの言葉は当然ながら聞こえることもなく、ただ一心不乱にキョーコを求めて追い縋る。
 その迫力に、フラレナオンはギャワー!と叫び出しかねない勢いで逃げるのですが、逃げたら追いかけるのは野生の倣い。
 そしてそんなジローを狩るためにシズカ達もまた追い掛ける――どいつもこいつも話を聞けお前ら!?
 しかし、黄村といいシズカといい、聞く耳の代わりに断られることを考えてもいない超弩級のポジティブシンキングを搭載していることもあって止まることなどありえません。
 足を止めて話さえすれば必ずこちらになびいてくれる――そう信じてシズカは「しかたありません…! 対ロボさん用の新技―― シズカブーメランで足を止めます!」両の手刀に集めたエネルギーを一体化して形作ったブーメランを投げつけるのですが――残念、そこは番司(猪の方)だ
 通りすがりの猪を怒らせてリタイアした邪魔者二人に気付くことなく、逃げるキョーコに追い付いたジローはその肩を掴み――キョーコの足元にあった木の根に加え、走り通しだった疲労もあって必然的にバランスを崩した二人は並んでシロツメクサの広がる草叢に倒れこみます。
「だがもう観念しろ。さっきのは…何だ?なぜ泣く?」きゃっきゃうふふの末に捕まってしまった以上、キョーコにその問いを無視することは出来ません。
 もし自分に他にやりたいことが出来たなら――もしそれが悪の組織と違ったならば、ジローはどうするのかという自らの抱えた疑問を口にするキョーコ――――って、よく見てみたら逃げた理由にはなっていません
 会話しろお前ら。
 しかしそこはツーカーのチキン夫婦。「ん?応援するぞ? お前がやりたいことならな」妻の言葉が未だ足りなくとも、夫は先に結論を出してしまいます。
 いや、だからそこは逃げた理由までちゃんと聞こうよ?ツーカーの先読みに頼りまくってると、思い込みで勝手に空中分解することにもなるんだよ?!微妙な噛み合わせのズレで取り返しがつかなくなることは本当によくある話なんだよ?
 話が逸れましたが、「あ、あんたいいの!? そしたら私、あんたの手下にならないかも――問い返すキョーコにジローは力強く応じます。
「アホかお前は」

 たとえ進路が違っても、味方であることには変わりはない。だったら応援するのも当然だ――キョーコが勝手に抱き、そして自ら振り回された的外れな心配を笑って切り捨てるジロー。
 その力強さに背中を押されたのか、はたまた銀色に輝く月の魔力に衝き動かされたのか――キョーコはジローに寄り添うと、「ありがとう。ジロー」頬に唇を添わせるのです。
 しかし、衝動にまかせての行動は頭に血が昇るとともに瞬く間に冷めてきて、キョーコは慌てて自らの行動と恋愛感情との関連性を否定します。
 どこをどう誤魔化せば否定できると思っているんだッ!?
 往生際の悪さもここまで来ると流石にイラッとします。
 しかし、それでも誤魔化されるのが恋愛感情というものに無縁で無自覚なジローでした。アメリカ式の挨拶、というキョーコの言葉を真に受けてコロっとやられる辺り、将来壺とか印鑑とか買わされそうでなりません。
 何かキルゼムオールの将来がすごく心配です。
 浪費家でギャンブル好きな現大首領にすぐ騙される次期大首領、ついでに言えば幹部はニート――はい、財政破綻はすぐそこですね。
 ですが、大切なのは現在の居心地のいいモラトリアム。将来のことは気にしていても仕方ない。
 いいように解釈すれば、現在を頑張れば未来はどうとでもなる――そうとも取れる結論に達した二人を出迎えるのは味噌の香り。
 偉大なる先輩に頑張らざる者食うべからず、という教えを受けた清里先生が、頑張った皆に振舞うために作った豚汁と、キョーコのために作った機会によって、キョーコは空腹も悩みも吹き飛ばすのです。
 そして仲間たちもまた抱え込んでいた空腹を充実と共に満たすのですが、もちろんこんな中でも割りを食うのが黒澤さんの悲しい運命。
 大富豪で全敗した上、酔っ払った清里先生の熱いベーゼを受けて心身ともにへし折られ、さながら世界の不幸を一身に受けたかのような沈んだ気持ちで朝を迎える黒澤さん。
 しかし、黒澤さんはまだ本編に絡むだけあってまだマシでした。
 猪に絡まれて木の上に避難したシズカとルナ、そして、夜の個人レッスンを目論んで一人で夜を越えた黄村という完全に蚊帳の外に追いやられた三人は、癒えない心の傷とともにその影を薄めていくのでした。

             


第124話◆お見舞いドキ




――と、」「いうわけで!」「いざゆかん 赤城さんのお見舞いに!」


 渡家に掛かってきたアキからの電話。
「あ、乙型ちゃん?明日バイト休みだったよね?悪いけど入ってもらえないかな?」
 セルゲイは結局入国パスが切れていたのでしょう――赤城が風邪を引いてバイトに入れないから、と掛けたヘルプの電話に反応したのは、他人のことならド直球に踏み込んでいけるチキン夫婦の妻。
 ジローをお供に引き連れて、そろそろ夏のイベントに向けて衣装製作に入っていなければならない時期のゴシップクリエイター兼コスプレイヤーとともにアキを連れて赤城の見舞いに向かうのです。
 お供と言いましたが、4ページ目まで存在しているものの台詞がない辺り、本格的にオプションとかフィンファンネル扱いです。
 それも当然、このお見舞いの主役はあくまでも気合入れた格好で赤城の見舞いに行くアキ。いつもの漢らしい……もとい、活動的なものではなく、キャミソールと丈の短いスカートと言う夏らしい取り合わせ。
 ご両親と会うかもしれないからそりゃ気合が違う、と、遣り手ババァの眼差しでアキを煽るキョーコでしたが、「……いねーよ」アキは一言でその可能性を否定します。
 驚くキョーコでしたが、それもそのはず。電車に揺られて移動している距離が決して近くはないものであることは、切符の額を見れば一目瞭然――と言うよりは、流石に見てわかれ、と言うレベルのボケっぷりです。
 ですが、それはキョーコとユキにとっては些細なこと。
「あいつバイト代貯まったから大学に近いとこで一人暮らしはじめてんだ。 だから今電車で移動してるだろ」アキの言葉で示されたように、一人暮らしの男の部屋に見舞いに行くということに違いはありません。
「これはえっちな展開になるしか!!」
 ええい待て。その文脈ならば自分達も絡んでしまうだろッ!?
 スタートから5P……いや、3+2Pにというハードな展開なんて、創造主が許しませんし、全年齢対象の拙サイトもネタにするわけにはいきません。

 よい子のみなさん、ところどころにある訳の判らない単語の意味は、まずお父さんとかお兄さんに尋ねましょう。安易に検索しても、ろくな結果は出て来ませんよ(微笑)?

 アナウンスやらハード展開はさて置きますが、長い間休まれると人手が足りずに困るから、という言い訳をしつつ、見舞いに行く切っ掛けを与えることになった二人への感謝の心は忘れないアキ。しかし、この夏の走りに風邪を引くという事態に少しばかり引っ掛かりを覚えます。
 ――でもこの時季に風邪かぁ… あいつどういう生活をしてんだ…?
 その引っ掛かり――そして不安を高めるかのようにどんよりとそびえるのは年季の入った木造二階建てのアパート・無節荘。
 それに加え、赤城の先輩達と思しき、キョーコファンクラブの皆さんと同じノリを持つ怪しい下宿民達の醸し出す空気に気圧される三人でしたが、その餓えたケダモノ達の威圧感にも怯むことなく「ちわっス!!赤城の後輩の阿久野です! 本日はお世話になります先輩方!!」懐に飛び込んだジローに悪い気はしなかったのでしょう、やや鼻白みつつも受け入れる野郎四人。
 こうも容易く受け入れられると、ジローがますます便利なアイテムに思えてしまいます。
 もしかすると、既にサポートスタッフのような、判定に有利な修正を受けている演出効果なのかもしれません。
 TRPG中毒の末期患者としての見解はさて置きますが、交渉判定が功を奏したのか、あっさり受け入れられたジロー達を出迎えたのはシャワーを浴びたばかりの見知らぬ美形。
 腰にタオルを巻いただけの姿では驚かない辺り、ジローの全裸に慣れているキョーコは当然ですが、アキユキの訓練されっぷりは相当なものです。
 いや、少しは照れたり狼狽したりしようよ――とツッコミを入れようとしましたが、周囲には黄村を筆頭に脱ぎキャラが揃っているだけに、半裸位はそれこそ慣れていて当然なのでしょう。
 そりゃ日常茶飯事的に脱いでいたら麻痺もする、というものです。
 ともあれ、メガネを外したら美形、と言う古典的パターンを踏襲して登場した赤城に招き入れられた彼らではありましたが、招き入れられた部屋は貧乏学生の下宿の名に恥ずることなき狭苦しい六畳間。
 女っ気を求めてさも当然のように押しかけた先輩連中四人を追い出してもなお狭いその理由は乱雑に散らかったその部屋の汚さにありました。
 こうも不潔にしていたら風邪も引いて当然、と呆れるアキでしたが、裏返せばこの状況は乙女力をアピールするにはもってこいの大チャンス!
 風邪で弱っているところを甲斐甲斐しく世話すれば落ちない者はない――かつて自分も通られた道であることを棚に上げ、アキにそのミッションを託すキョーコ達でしたが、誤算がありました。
 以前のキョーコの風邪の際には失敗を重ねていたジローが、かつての失敗を取り返すかのように手際よく片付けをこなしていたのです。
 対してアキは完全にテンパり、混乱と破壊を繰り返すばかり。
 空気を読まない伏兵とポンコツな主役によって悪くなる一方の状況を覆すべく、ユキとキョーコは強硬手段に出ます。
「あ―― しまったァ!! 今のでゴミ袋なくなっちゃった!コマッタナー!!(棒)」「そういやお見舞いなのに手ぶらだよ!イッケナーイ!!(棒)」
 こうなったら獣と同じく強引につがわせるより他にない!愛は慣れアイ!!――古くから伝わる至言もたくましく、空気を読まないジローも強引に連れ出してアキと赤城を部屋に残して当てもない買出しの旅に出る二人と装備アイテム。
 つか、弄る時のノリという部分では、正直アキよりキョーコの方がノリノリな気がして仕方ありません。
 人にやられて嫌な事はしないという教えは受けてこなかったのでしょう(断定)。
 間髪入れることなくアキの携帯に入ってきたユキからのメールには『ファイト』の件名と “2時間あれば……いける!がんばってね(はぁと)”のメッセージ。
 こんなくそ狭い上に防音もあってなきが如き部屋でおっぱじめたら丸聞こえだというのに。
 どうやらユキとキョーコはこのまんがを発禁にしたい気持ちで一杯のようです。
 煩悩高校生GSと違って発禁にするだけの度胸も覚悟も備わっていないアキは赤面するばかりでしたが、そんなアキの覚悟を無視して赤城はアキへと倒れ込みます。
 思わぬ事態に暴れて抵抗するアキ――でしたが、アキの抵抗はすぐに収まります。
 赤城は発禁や隣の聞き耳がどうこうと言う意思どころか、意識そのものを喪っていたのです。
 そして二時間の時が過ぎました。
 目覚めた赤城が見たのは狭い台所に立つアキの背中。
 後輩の前だから、と見栄で気を張っていたのが仇になり、気を喪うほどだった赤城の無駄な意地――自らを省みずに軽く限界の一線を飛び越える性分を責めるとともに塩と葱を利かせたお粥を渡し、アキは気になっていた一言を口にするのです。
「あのさ… 何だったらこの近くでバイトしたほうがよくねーか? ウチよか近い方が楽だろー?」


 折角大学の近くで一人暮らしをしていると言うのに、決して近くないバイト先へと苦労して通う――間尺に合わないその生活サイクルもまた、体を壊す遠因になったのかもしれない――そう思う気持ち、そして何より、自分なしでも楽しそうにやっている、と言ううら寂しさが含まれるその問いに、「ああ、確かにそう言われればそうだな。 でも――」しかし赤城は答えて言うのです。




「お前ん家じゃないとあいつらに会えないし。 何よりお前と入ると楽しいからな!だから却下だ!」


 天然ジゴロ二号の破壊力は健在でした。
 一撃でダメージを被ったアキに「なんせお前のまかないメシうまいしなー。 うし、ごっそさん!」さらに追い討ちをブチカマすと、赤城は赤面するアキに畳み掛けるように更なる一撃を加えます。
「そういやお前進学希望だったな?志望校はもう決めたのか?」
 無自覚故に絶大な威力と強引さを併せ持つその一言とともに、キャンパスを案内しようとする赤城に対して、風邪を理由にせめてもの抵抗をするアキではありますが、生憎風邪はアキの作ったお粥によって吹き飛んで、断る理由にはなり得ません。
 帰ってこないジロー達を探すついで、とパーカーを羽織り、早々とドアを開ける赤城の強引さに苦笑し、しかし頼もしく思いつつ、ユキはその後を追いかけるのでした。
 日差しの色はすっかり夏の色。
 日増しに進む時の流れの中、はじあくを発禁にしようと目論んでいたユキとキョーコのたくらみとは別の方向で赤城とアキはそれぞれの距離を縮める一歩を刻み、本当に迷子になったユキとキョーコ、そしてジローの三人はこの時ばかりは無駄足を踏むのでした。

第125話◆先輩・後輩(エーコ・きよさと)の関係




「ほう…清里のくせにナマイキな…!」


 今日も今日とてニートと清里先生はアルコールを注入中。
 電柱やケロヨンがカオスを醸し出す渡家の一室も和やかムード――つーか、これだけ電柱が乱立しているのに無事な辺り、まず間違いなくジローが補強工事に駆り出されたに違いありません。
 未成年のキョーコやジローには酒の味はまだ判りませんが、人類の歴史とともに育まれたアルコールの力は談笑を引き出すには持ってこい。度を超えた時に出てくる清里先生の脱ぎ癖も、エーコの部屋で呑んでいることもあって心配なし――

 だったらよかったのにな!(過去形)


 酒が進むに連れて、花咲かせていた思い出話も徐々に棘が目立ち始め、
「「架空友達日記」なんて書いてたくせに!」「センパイだって!みんなに「超残念な美人」とか言われて彼氏もいなくて」「あんただって「おっとり妄想王」とか言われて彼氏いなかったじゃん!」「センパイほどじゃないです――――!告白されたことありますし!!」
 いつしか談笑は互いの傷を抉る中傷合戦へと変わっていきます。
 そのただならぬ騒ぎを聞きつけて部屋に飛び込んだジローとキョーコでしたが、その行為は藪蛇以外の何者でもありませんでした。
「な、なんですか!センパイなんか…センパイなんか… ダメダメの無職じゃないですか―――!!」
 ジロー達が部屋に飛び込むと同時にタイミング悪く飛び出した最悪の売り言葉はニートのトラウマを抉りぬき、その反骨精神を刺激し、
「だったらば!!1週間以内で就職してやらァ!!! 出来たら土下座な!!?」就職出来ないんじゃないてしてないだけなんだから、ちょっとやる気を出したら就職くらい簡単だ!とばかりにニートは売り言葉を高く買い取るのです。
 そんな簡単に就職出来ると思っていたら大間違いだ!?
 ニートの無謀な買い言葉を受け、清里先生もビールを流し込む勢いそのままに「上等です!!できなかったら私の方が先輩ってことでいいですね!?」と返し――呆然とするチキン夫妻は両雄の激突にただ巻き込まれてしまうのです。
 そして翌朝、チキン夫妻、そして大きな度量を誇るポチすらも驚かせる姿が渡家のダイニングに現れました。
 二年ぶりに袖を通した白地のリクルートスーツと球に髑髏をあしらった黒地のネクタイを身に着けて、怯えるポチの吠え声をBGMに颯爽と登場したニート改めエーコは、「清里にあそこまで言われて引き下がれないわ! エーコさんの実力、見せてやろうじゃない!近所迷惑を省みずに言い放ちます。
 取り敢えず、ポチは黙らせてください。
 しかし、ポチに吠えられても意に介することなく、助手としてスケジュールを管理するキョーコを従えたエーコはネットゲームで知り合った大手企業の人事担当者というコネを活かして取り付けた面接へと向かいます。
 ですが、流石に二年間と言う自堕落な日々はスーツはもちろん、ジローよりはましだったはずの常識と言う部分でも大きな欠損をもたらしていました。
 背中に大きな虫食いの穴を開けたスーツと、それを瑣末とみなす強靭と言うか図太く台無しな精神力を武器にして、世間の荒波に漕ぎ出そうとするエーコに振り回される格好で後に続くキョーコ。
 その様に不安を感じつつも、やる気を出すことはいい事だ、とポジティブに考えることにしたジローではありますが、ジローはジローで難題が突きつけられます。
 その大問題とは、裸にYシャツと言う出で立ちを意に介さずに酔いが醒めるとともにダウナー気味に落ち込む清里先生。
 頻繁に全裸になるニートも大概ですが、酔うたびに脱いだり半裸で目覚めたりと清里先生も結構露出趣味がある様子です。もしかすると、この二人は大学で裸学でも専攻でもしていたのではなかろうか、と言わんばかりです。
 何だそのパラダイスは入学させてくださいお願いしますッ!?(土下座)
 公序良俗に引っ掛かりそうな学部はさて置きますが、半裸でジローに抱きついて、えろいのはいかんと思っている乙型の嫉妬キャノンを炸裂させた清里先生はその後も自棄酒煽ってさらにジローに絡むというダメ人間っぷりを発揮するのですが、その苦しみはニートがエーコから脱却……もとい、エーコがニートから脱却するための産みの苦しみと思えば何とか耐えられるもの――そう思ったジローの希望をすっかり打ちひしがれたキョーコの姿はいとも容易く打ち砕きます。
 折角取り付けた面接先三社で、ことごとくキレて暴れるという快挙と言うか暴挙を成し遂げた挙句、助手として引っ張って行ったキョーコから2000円を奪って自棄酒呑みに行った、という散々な結果を聞かされ、「ますます就職能力なくなってないか 姉上?」いよいよジローもエーコのニートのこじらせ方が末期に達していると理解します。
 すっかりジローの方が常識人です。
 いい加減ジローはキョーコの身体を好きにしていいだろうと思われます。
 ですが、今の二人の目的はいちゃいちゃしながらキョーコの身体を好きにすることではなく、エーコを就職させ、真人間に戻すこと。
 俺達の戦いはまだ始まったばかりだ――そう言い聞かせる二人でしたが、残念ながらチキン夫妻の戦いは始まったその時から蹴躓きを約束されていました。
 この二年の間に人間としての常識の代わりにムダに高いニートのプライドを手に入れたがために、面接官の一言にキレて暴れるエーコと、久しぶりに会った信仰の対象との関係に皹が入ったことに傷つき、その代償を血縁者であるジローに求めて自らを慰めようとする狂信者・清里先生を相手に一週間を乗り切ることなど至難というより他ありません。
 シャイな創造主がこっそり通うメイド喫茶で、年齢で引っ掛かったために暴れたエーコの弁償代わりにタダ働きを強いられたキョーコは精神的苦痛に苛まれ、ことあるごとに抱きついて自棄酒に付き合わせようとする清里先生のせいで、ジローは男子生徒からの妬み嫉みとシズカやルナからの焼餅を一身に受けて心身ともにボロボロになり、ついにサポーター二人にもう就職しなくてもいいという結論に至らせた七日目――エーコはついに最後の手段に出ることになるのです。
「「ヤクザの鉄砲玉」!これなら就職出来るはず……!!」
 いや、待て!よく考えてみろ!確かに事務所は構えているけど、アレは履歴書出してなるようなものじゃないッ!!
 どうせ送るなら、MI6の方がまだ可能性があります。実際にニュースにもなったくらいだし。
 しかし、『@英国籍であること(両親の片方が英国人であること要す)A21才以上であることB過去10年間に5年以上英国在住であること』という応募要件に抵触するので、そっちでも結局不採用になるのは確定です。
 それはそれで、00ナンバーのスパイが暴れだしたニートと大活劇を繰り広げそうですっげぇ魅力的ではありますが、残念ながらニートは将来の映画スターへの道には目もくれず、制止するジロー夫妻の言葉も聞かず、目先の就職先を選びます。
 そんなすっかり道を誤ったニートをポチとともに渡家の庭先から眺める清里先生は、自らが焚きつけたことがすっかり大事になってしまったことを後悔するばかり。
 しかし、あくまでも悪いのは古傷を抉ってきたエーコの方である、と言い聞かせ、ここで前言を撤回するわけにもいかないと思い直す清里先生の耳に飛び込んで来たのは――あの時聞いた代わらない言葉でした。

「「やるからには全力で!」それがこのエーコさんのポリシーですよ!?」


 人と接することを苦手にして、距離をとっていたかつての自分に対して遠慮なく、容赦なく、そして有無を言わせぬ強引さで踏み込んできたかと思うと、屈託のない笑顔で言い放たれたその言葉によって変わる事が出来た自分と、その時と変わらない力強さでその言葉を言い放ったエーコに、清里先生は改めて自らの心に問うのです。
 清里先生が自らの心に問いかけたその時、もう一つの課題の答えも出ていました。
 逃げて!ヤクザの人逃げてー!
 という訳で、門前払いされた腹いせに総勢四人のヤクザの事務所を壊滅させたことで、改めてニートの座を不動のものとしたエーコはとぼとぼ家路を歩みます。
 気苦労ですっかり疲弊したジローとキョーコをお供に従えて、夕焼け空に歩む力も力ない彼女を待ち受けていたのはもちろん清里先生。
 自棄になって土下座しようとするエーコの先を制し、「やっぱり先輩はかっこいいです!」自分の理想の姿と変わりない生き様を見せ付けたエーコに負けを認める清里先生――たとえ無職でも、先輩はいつまでも尊敬する先輩です!と力強く言い切るその姿に、ニートはすっかり荒れた気分を立て直し、改めて取り戻した友情を確かめるべく、振り回されたジローとキョーコを置いて呑みに行くのです。
 えっと……それでもやっぱり、成長しないというのは問題だから、少しは変わるくらいがいいと思うよ?
 成長しないとこんな風になっちゃうよ?

 ……|||crz|||

 ですが、酒で崩れた友情は何度取り戻したところでやはり酒で崩壊するのもお約束。
 今度は彼氏の有無でもつれたらしく、「おおう だったら3日で彼氏作ってきたるわ――!!」ふくれっ面の清里先生に向けて電柱まみれの部屋の中で高らかに啖呵を切るニートを、ジロー達二人は涙目で食い止めようとするのでした。

 えー、まー、なんというか……取り敢えずお前ら呑むな。

 この似た者コンビ、何時の日かはた迷惑な飲み方でアヤさんにこっぴどく叱られる方がいいと思われるのでした。


第126話◆Jフレンド結成!




「……もうすぐ夏休みですね」


 時は7月13日。
 一週間後に夏休みを控えているだけあって、キル部の皆さんや緑谷兄貴や黄村、アキユキを加えた仲間達もいつも以上にハイテンションで来たるべき夏休みをどう過ごすかという計画を練り続けます。
「去年悪の組織に行ったし、正義の組織に行くとか?」という意見を、ヘタレな次期悪の首領は「いや、こわいからやめとこう」と実にヘタレた理由で却下しますが、取り敢えず未だ確定していない予定はさて置いて、アキが具体的な計画を一つ提示します。
「あ、そーだ!来週水着買いに行こーぜー!新しいの!去年の大分へたれちまってさ」
 成長したのを誤魔化してるだけですよねわかります
 ユキからの誰に見せたいのか、というツッコミはありましたが、相談するだけで楽しい数々の計画と違い、アキのその提案は明確な理由や目標となるとともに、キョーコに課題をひとつ突きつけます。

 『 食べずとも 動かねばつく はらのにく 』


 思わず某知り合いの方の一句を引用してしまいましたが、ただでさえインドアなのに、いくら食っても太らないジローやニートに釣られて食事の量が増したことで加速度的にいらない場所の肉の量が増えたキョーコは、脇腹を軽くつまみ、戦慄するのでした。
 一方その頃、イタリアンワイン&カフェレストラン『マイゼリア』では、キル部の集まりにただ一人顔を出していなかったルナ、そして、彼女を呼び出したシズカとルナと同じくシズカに呼び出された乙型が同じ卓についていました。
「学校で言えない話とは何だ?」尋ねるルナにシズカは深刻な面持ちで切り出します。

 夏休みと言えば男女が仲を深める格好の時期!しかし、ジローといい仲になりたい、と願っている――少なくとも、シズカにとってはそうである三人にとって共通の、そして最大の障害として立ちはだかるのが他ならぬキョーコという薄くてもなお硬い壁。
「ですが この前の合宿で感じました。 もしかしたら私達…渡さんに1歩遅れているのかもしれないと…!」

 あ、今頃気づいた。
 というか、周囲公認で子作りを期待されているレベルと、周囲に子作りのための当て馬とか噛ませとして認識されているレベルでは一歩どころではありません。
 ですが、シズカのプライドはキョーコとの差は挽回出来るものでないといけないのでしょう。客観的に見たらポチより遠いジローとの心の距離もシズカが纏めた相関図ではジローからキョーコまでが目盛りにして2であれば、一歩遅れての目盛り3の位置にシズカ、乙型は6、ルナは8、ポチは4――直接側室の座を争っている乙型に対しては倍のアドバンテージを持っているとしている辺り、シズカのプライドは相当のものです。
 最も遠い扱いにブーイングを発するルナですが、生憎シズカとルナが挑もうとしているのは一位のみが報われる正妻争い!トップを走るキョーコとの差を逆転しない限りは僅差も大差も同じ負け!
 所謂一つのオール・オア・ナッシング!一位になって合体しなければ意味がない!二位じゃダメなんです!!
 そのため、首位を勝ち取るためにシズカが目論んだのは二位以下の女子陣で同盟を組む、という策でした。
 三人で知恵を出し合ってキョーコに勝ち、なおかつキョーコの足を引っ張って評価を下げるという、正義なのに悪まっしぐらな発想のシズカに対して、ルナは悪の組織の首領なのに悪として負けている、と実感するのです。
 ですが、悪以上の極上の悪に成長したシズカにとってはあまりに意外な返答が乙型から返ってきました。
「キョーコ様に危害を加えるつもりでしたら許しませんよ?」
 そもそも乙型はキョーコのサポートを目的として創られたメイドロボ。ジローと同じく仕えるべき存在であるキョーコと争う、という意識などプログラムもされていなければ、増設も学習もしているはずもなく、ジローとキョーコの仲を邪魔するという発想もありません――それ故の砲口越しの返答に、シズカは失態を悟るのですが、そこは悪以上の悪。咄嗟の嘘で言い逃れて難を逃れると、高らかにジローにもっと近づくためのチーム「J(ジロー)フレンド」の結成を宣言するのです――が、欲望ダダ漏れのシズカとその欲望を邪悪と判断する乙型が同一チームにいる時点で前途多難なのは、ルナの予測でも既に明らかなのでした。
 ですが、前途多難なJフレンドに早速機会が訪れます。
 必要な部分には全くつかないくせに、不要な部分からつき始めてなかなか取れない因果な脂肪を一週間でどうにか撃退して、新しい水着でジローを喜ばせようとするキョーコの健気な飴と鞭を逆手に取ってダイエットを失敗させ、キョーコの無残な醜い姿をジローの前に晒せば、キョーコの積み上げてきたポイントは大幅にダウンする――そう確信し、邪悪に含み笑いを浮かべたシズカは、「このダイエット、邪魔させてもらいます!! 失敗してジローさんに醜い体を晒すがいいです――!!高らかに宣言します。
 善良な悪の首領は恐れ戦き、震えるばかりなのですが、キョーコへの危険を漂わせる発言は早速の仲間割れを呼び起こします。
 しかし、そこは流石の極上の悪。「ロボさんにはわからないでしょうが、急激なダイエットで体を壊してしまうこともあるんですよ? 渡さんは我々のライバルにして目標―― その方が過ちを犯すのは忍びない!! ここはきちんと止めてあげねば!違いますか!?」容易く涙交じりの詭弁で乙型を説得すると、きちんと食事を取らせるべくキョーコとともに渡家の食卓を司る乙型を自らの策に乗せて走らせます。
 いい加減、ここまで来ると正義とは何かをきっちり問い質したくなります。
 ともあれ、頑迷なところがある乙型を操ることで食事を減らして痩せる、という道を閉ざしたシズカは、運動による減少分はカロリーの摂取量そのものを増やせばいい、と更なる策を実行に移します。
 運動後に甘いものを食べたくなるのは乙女の倣い。ましてやただでさえスィーツを好むのが女子と言うものである以上、甘いものの誘惑には絶対に勝つことは出来ない――本能に根差したその策を乗せた差し入れを手に、「渡さーん!間違ったダイエットしてませんかー?」シズカは何食わぬ笑顔でキョーコの下へと向かうのです。
 キョーコをすっかり説き伏せて、策は完璧。死角のなさに自ら酔いしれるシズカと、シズカの策士振りに感心するルナでしたが――策を客観視出来ない策略家に勝利の女神は微笑むことなどないのが戦いと言うものであり、世の倣い。
 一週間後、水着売り場には「よし!着れたっ!!」新しいセパレート型の水着を纏ったキョーコの姿。
 腹と一緒に胸も尻もすっかり薄くなり、装甲板の健在振りをアピールするキョーコを感心や納得の眼差しで賞賛するアキユキと黒澤さん。ですが、彼女達とともに新しい水着を買いに来ていたシズカとルナはその輪から少し離れて納得いかない顔を突き合せます。
 つーか……シズカ、新しい水着買えたんだ。
 どれくらいの犠牲が草壁家のエンゲル係数に強いられたのかが気になります。
 ですが、その疑問に満ちた空気を屈託なく吹き払ったのはキョーコの笑顔でした。
「おかげで助かったよー!特に草壁さんのくれたアレ!」無理なダイエットに向かうことなく健康的に痩せる事ができたのは「あの「ムカデの甘露煮」!」シズカをはじめとした善意による協力の賜である、と信じ込んだキョーコに「え?ムカデ、食べないの?」未だ策の失敗を飲み込めないシズカは呆然と立ち尽くし、草壁家よりも文明的な食生活を送っているのであろうルナは自信満々で策に溺れた策士を責めるのです。
 強敵に塩を送った上に自分達は部分痩せも最も足りない部分だけが痩せ――ジリ貧状態の二人が辿るのは当然仲間割れへの道。
 しかし、醜い争いもジローにとっては単なるじゃれ合いにしか映りませんでした。
 そして、乙型からシズカ達もキョーコの減量を手伝った、と言う報告を受けていたジローにとって、じゃれ合う二人に感謝こそすれ、幻滅も落胆もする道理などありません。
オレからも礼を言わせてくれ!ありがとう、2人とも! その水着も似合ってるぞ!なかなかかわいいではないか!」
 まぁ、そうは言ってもジローはキョーコで鉄板であり、キョーコのサポートをしてくれたことに対する労いがメインなのですが、ジローの言動全てを肯定的に受け取る二人にとっては、自らが褒められたことはそれはすなわちキョーコ越えを果たしたことと同義とばかりに大喜び。
 客観視出来ない自意識の強さも問題ですが、自覚のない天然ジゴロもまた大問題です。
 しかし、このハイテンションも長くは続きませんでした。
 ジローは高校三年生。となればやってくるのは補習授業。
 進学希望者以外にも容赦なく課せられる授業は希望に満ちた夏休みの大半を奪い去り、Jフレンドの活動の幅を狭めてしまうもの。
 ジローと同じように補習授業を受ける、という部分に噛み付くルナに、クラスが違う以上アドバンテージにはならないことを主張するシズカ。
 早速の仲間割れも、乙型は暢気に二人の仲の良さの現われと見るこのバラバラなチームワークを誇るJフレンドに、キョーコを排してジローを我が物にすると言う結末が訪れるとは、到底思えないのでした。






 というか、今気付いたけど、ユニット名が“フレンド”と単数形になっている時点でチームとして機能するつもりが毛頭ないように思えてなりません。
 でも、チームがバラバラじゃねえか!――とツッコミ入れたところで、「勝つのは一人だけです!」と開き直りそうだなぁ。


第127話◆大神再臨




「な――――ッ!?」


 夏休みの出鼻をくじくかと思われた、二週間の夏補習――しかし、勘所を踏まえた清里先生の指導もあってテストの結果が目に見えて上昇したとあっては、受験生達の低くなったテンションも一気に上がります。
 そのテンションのままに、藤沢の予備校で行われる模試で腕試し、と洒落込もうとするところで「でも油断しちゃダメよ!全国には凄い猛者がいっぱいいるの!! ここでいい点取ったからって浮かれてたら、足元すくわれちゃうから!」テンション下げたよこの教師!?
 教師としては優秀な部類かも知れませんが、モチベーターとして考えれば本当にどうかと思います。
 ですが、あくまでポジティブなのがジローと仲間達のいいところ。いい点を取っておけば精神的な余裕も遊ぶ余裕も出来るというもの。
 いや、それ油断だから!?本番に向けて全力で油断してるからッ!!
 とはいえ、卒業後の進路は次代のキルゼムオールの大幹部兼ジローの嫁で確定しているので、ジロー同様受験の柵とは無縁のはずですが、ジロー達夫妻以外の受験生には安心を得ることもまた大事なこと。気ばかり焦っても仕方ありません。
 受験の合間にいつもの6人パーティでダンジョンに潜ったり、益体もない小説もどき書いたりするのも平常心を養うためには必要だったのです。
 受験休みのお陰で善悪両方のパーティーのレベルが3桁になったのはいい思い出です。
 読者の自己弁護はいいとしますが――どうせ勉強会をやるならより効率良く、とばかりに学年トップの成績を誇る黒澤さんをキョーコをにして引き込むと、黒澤さんオススメの参考書を手に入れるべく近所の書店へと向かい――そこで意外な顔に出くわすのです。
 参考書を選び出す黒澤さんの指先と触れ合った、横から差し出された指先に反射的に謝りつつ、相手の方を向く黒澤さんの目がまず捉えたのは袖口に三葉ヶ岡高校の校章を縫い止めたセーラー服。
 続けて目に入るのは、やや淡い髪色のショートボブに暗く、鋭い眼差し。
 誰あろう、ほんの四ヶ月前に一同と事を構えた真世界の尖兵の中でも抜けて高い実力を持っていた大神ちゃん――重力を操る格闘中毒者・大神姫乃だったのです。
 ありさが出てこない辺り、貧乳揃いの女子陣へのテコ入れとかおっぱい分補充なんだろうな、とか思ってしまいます。実際、実質的な主人公がキョーコだということもあって、キャラの数や話への絡み具合は貧乳勢が圧倒しているし。
 それはさておいて、再び事を構えに来たのか、と警戒する黒澤さんに……? 模試対策」さも当然のように応じると、大神ちゃんは一学期分の勉強を取り戻すために、と参考書の山を抱えてすげなく立ち去るのです。
 あまりの事態に、黒澤さんも一冊しかなかったオススメ参考書を確保された、という些末時に意識を奪われるばかりと混乱しますが、渡家のリビングで疑問はあっさり氷解します。
「うん、おととい本部も潰れたって「真世界」。 メンバーも散り散りになったってよー」
 そんな情報をもたらしたのは煎餅齧りながらリビングでゲームに勤しむニート。
 どうでもいいけど勉強している横でプレステやらないで頂きたいところです。ジローはまだしも黄村や緑谷がいるのにノーブラ横乳をさらけ出しているというのに、まず第一に常識やら就職する気を完全に無くしてしまったんだなぁ、といった残念さが先に立ってしまいます。
 清里先生も気安くお墨付き出さないでください。
 しかし、組織が潰れて彼女も今やひとりぼっち。行く宛もなく三葉ヶ岡に戻ってきたというジローによく似た境遇は、キョーコたちの中にかつては敵だったという事実以上に、同情の念を湧き上がらせるに足るものでした。
 黒澤さんはあくまで真世界という組織に属していたことが招いた結末であり、自業自得以外の何物でもないとするとともに、キョーコ達の抱いた感情を愚かで危険なものでしかないと切り捨てますが、正義の正論など善悪両陣営をまとめて呑み込むキョーコ達には通じません。
 黒澤さんは、自分もまたすっかり取り込まれていることを自覚するがいいのです。
 とはいえ、当然ながら大神ちゃんは緑谷が思いついた「この勉強会に誘ってみたらどーかな」という申し出を受け入れる理由など持ち合わせていませんでした。
「……断る」一言の下に切り捨て、食い下がるキョーコやアキユキを一瞥で黙らせると、男の魅力でメロメロにしようと脱いだ黄村をご褒美にならないように一撃で屠り去り、普通に説得に出た緑谷をさながら空気のように無視し、強硬手段に出たジローのオートマントを重力の足場を利用してひょいひょい躱し、大神ちゃんはこともなげに図書館から立ち去ります。
 そのような態度をとられることは判っていたこと、とばかりに黒澤さんは諦めて放っておくことを勧めるのですが、「だが――やはりなんだかほっとけん」それでもなおジローは諦めることはありません。
「確かに奴は敵だったが―― 組織を潰されたのはオレも同じだからな…」
 組織が潰れた以上、大神ちゃんはジローにとっては敵でもなければ味方でもない単なる民間人――ならば手を差しのべることに躊躇する必要など何一つないのです。

 そして翌日、信号待ち中の大神ちゃんの足元に雨宿りにやって来たのは一匹の白猫。
 さもまとわりつかれて迷惑そうにこぼしますが――周囲を見渡し誰もいないことを確認すると、大神ちゃんは猫を苦笑混じりに抱き上げます。

「やれやれ。お前はいいな。気楽で。 私もお前みたいに生きたいものだ」


 険の取れた薄い笑顔とともに胸に去来するのは、かつての来栖からの言葉。
 「猫にだけでなく、人間にも愛想良くすればいいのに」――脳裏に浮かぶその軽口に、「ふ。それができれば「真世界」に入らんさ」自嘲気味な呟きで返す大神ちゃんでしたが、物思いにふけった一瞬の空隙の間に、気まぐれな白猫は大神ちゃんの腕の中から飛び出してしまうのでした。
 危ない、と諌めたその時、車道の半ばを越えた猫の前には一台のトラックが近づき――猫はその危険に対して猫科の動物の習性で一瞬身を竦めてしまいます。
 さも当然とばかりに身を躍らせ、「山野大神流 撃・崩拳!!」大神ちゃんは拳を振るうのですが、迫り来るトラックを宙に舞わせて猫を助けた、と思ったのも束の間、過剰に振るわれた破壊の余波はトラックの車体を破砕し、破片のひと欠片で護ろうとしていた猫は傷を負ってしまうのです。
 持って生まれた力を破壊のみに振るい続けたが故に、命を救い、助けるために使う術を知らない大神ちゃんは狼狽えますが、いくら狼狽えようとも自らの過失によって傷ついた猫の傷が癒える訳でもなく、後悔と混乱の中、大神ちゃんは「あ…だ…誰かっ…」誰とはなしに助けを求める弱々しいつぶやきを漏らすのです。
「ネコを抱いて掴まれ!! 急ぐぞ!!動物病院だ!!」
 その呟きに、差し伸べられた一本の手。
 オートマントを巨大な車輪状に展開して作り出したモノホイールから手を伸ばすジローと、手早く近くの動物病院を携帯電話で検索してジローに伝えるキョーコに、大神ちゃんは戸惑いますが、やっかましい!アホか貴様は!! お前は今、ただの高校生だろう!!助けない理由があるか!!」ジローは戸惑う大神ちゃんを一喝すると強引にその手を掴むのです。
 手早い処置の賜物か、もともと大した傷ではなかったのか、後足に巻いた包帯を大して気にする様子もなく、白猫は大神ちゃんの膝の上でのんびりとくつろぐのですが、やはり大神ちゃんには猫ほどに気楽に生きることなど出来ません。
「……すまんな。私1人ではどうしようもなかった。手間をかけさせて…すまん」
 大神ちゃんはそう重苦しく詫びるのですが、ジローは大神ちゃんの言葉に小さな引っ掛かりを覚えます。
 全てを背負い込もうとする性格か、それとも知らず作り上げようとする人との壁であり、距離か――かつて自分が感じた周囲との違いとの戸惑いを大神ちゃんにも感じたのでしょう、「オレは社会適合においては貴様の先輩だ。 そのオレがお前にいいことを教えてやろう…」ジローはその引っ掛かりを解消するための一言を大神ちゃんに伝授するのです。
「こういうときは謝るんじゃない。 「ありがとう」と言うのだ!」
 そんなジローを茶化すキョーコと、照れもせずに堂々と茶化しを受け入れるジロー。
 そろそろちっぱいやらちっぱいやら薄い尻やらもいっちょちっぱいやらを改造してもいい頃だと思います。
 イチャつく二人を邪魔するかのように「ありがとう。 こ、こうか?大神ちゃんは教わったことを早速実践し――雨上がりの朝、壁をひとつ乗り越えたキョーコ達は大神ちゃんの懐柔を成し遂げるのでした。
 そして、大神ちゃんの懐柔は黒澤さんにも少なからぬ衝撃をもたらします。
 大抵のものは一度見ただけで覚える驚異的な記憶力と、それに裏打ちされた全国一位の模試の結果によって、学年トップの座も、キョーコの中での社会適合ランキングも大神ちゃんに抜き去られた黒澤さん――全国二位でも十分凄いのに、自分の居場所を奪われた、と思った黒澤さんが、一刻も早く来栖が世界一周の旅から戻ってくると共に大神ちゃんと真世界を再建するように願うのは、無理からぬことでした(デマ)。







 つか、大神ちゃんは重力使いという点でバロール・シンドロームというのは確定でしたが、今回《写真記憶》や《コンバットシステム》を習得していることが判明して、格闘系のバロール×ノイマンで決まった辺り、藤木先生は本当にダブルクロスのリプレイ未見なのか疑わしくなってきました。
 早く白状して、キャラ作った方がいいですよ〜?(感想!?)


第128話◆プールde熱愛!?




「おー 広ーい!!」「これがプールランドってやつですかー!!」


 油断、慢心、環境の違い――言葉はお構いなしに、やってきましたプールランド!
 学校のプールとは一味も二味も違う、流れるプールや波のプールといった本格的な“遊ぶため”のプールに、ジローをはじめとした野郎どものテンションも無駄に高まります。
 そして、そんな野郎どものテンションとか血圧とか膨張率とかを高めるものは当然水着の女性陣。
 夏休み前の駆け込みダイエットの成果もあって、新調した水着に対する食いつきも上々――そう思われたのも束の間、黄村や緑谷といった男衆の視線は新鮮な刺激を求めてまな板+α達を通り越して最後方へと向かっていました。
 微かな戸惑いも感じさせない無表情でサブロー、黄村、緑谷の視線を受け止めるのは大神ちゃん。
 アキにはやや負けるものの、アキが運動性を重視して選んだのであろう競泳用水着を上回る露出度のビキニに押し込まれたその豊かな双峰がもたらすアピール度は、清里先生と大神ちゃんの登場までの長きに渡って仲間内で唯一のおっぱい担当の座を守り抜いてきたアキよりも遥かに高く、陽射しと同じく熱い視線は大神ちゃんの持つ引力に引き付けられるのです。
 それが面白くないのは折角の新調した水着をスルーされた女性陣。
 男性陣の視線の孕んだ熱を掻き消すかのような冷たい視線をぶつけ、とどめを刺すかのように投げ掛けられるアキユキからの言葉は的確に緑谷の心臓を抉ります。

 ケダモノ先輩さよーならー!


 と、思わず古いサンデー読者として、思わず心の中の久留間麻里(@帯ギュ)を呼び起こしてしまいましたが、元々創造主も事あるごとに柔道着にブルマネタに反応してくれる帯ギュ読者ですので問題なし――というか、明らかに根底にあるのは帯ギュです。
 『「このケダモノどもめ」』発言の元ネタであるエビちゃんこと海老塚桜子とアキはおっぱい除けば一致する部分が多いし、我聞の頃から河合先生の絵柄の影響も語っていましたし。
 しかし、言葉責めがご褒美にしかならない黄村はまだしも、サブローが無反応というのはどういうことなのでしょうか?
 サブロー、そして幹部に黄村級のMキャラを保有するかもしれないキルゼムオールの将来がちょっぴり心配です。
 そして、別の意味で面白くないのがこの機会にキョーコときゃっきゃうふふしようとしていた黒澤さん。
 折角のプライベートが敵のはずの大神ちゃんがこの場にいては気になるし、気に食わない、と、殺意をむき出しにして大神ちゃんを排除しようとすれば、どこぞの戦闘民族とか修羅とかを髣髴とさせる魂の持ち主である大神ちゃんもそれに応じ、和やかな空気は即座に一触即発の熱を孕んだものへと変化します。
 ですが、ジローはその空気を一喝とチョップで切り替えます。
 公の場で民間人もいる中で争ってどうする!
 どうやらシズカと乙型の衝突の際に見物料取っていた姉については記憶の底に抹消しているようです。
 シズカは見習いで非正規要員、乙型もまた似たようなもの――と抗弁は出来るでしょうが、シズカはまだしも再建していないだけでジローの心情的にはプレオープン状態で活動しているキルゼムオールの汎用メイドロボである乙型はジローと同様正規の構成員とも取れるため、言い逃れするにはちょっと苦しいと思われます。

 ――まぁ、それはさて置き――常識をジローに云々されて凹む黒澤さんと素直に反省する大神ちゃんへの説教もそこそこに、再び楽しい時間を取り戻す一同。
 波のプールに驚くジローとルナという九州勢に人口の波だ、と返す緑谷。
 ジロー達が物心着く頃には破綻していたとはいえ、一昔前には九州のレジャースポットとして話題になっていたシー●イアのことを思うと哀れに思えてなりません。
 やっぱりシーガ●ア……知らないんだろうなぁ。
 楽しむ学生達を清里先生はロング缶を5本開けながら眺め――やたらピッチが早すぎます。弱いんだからセーブしておきなさい、とツッコミ入れたいところです。
 シズカはジローにお約束の水掛けをやろうとするものの、二年前までプール自体知らなかったジローはシズカの奇襲に恐れ戦き、黒澤さんは膝上まで水中にありながらも豪快なスパイクを決めると言う身体能力の高さを見せ付けます。
 そんなこんながありながら、ルナはサブローに間違った忍者像を再現させようと、水の上に立つよう要求するのですが、サブローが忍者なめんな、とばかりに却下したそのリクエストに応えたのは重力場を作り出すことによってどこにでも足場を作ることが出来る大神ちゃん。
 ……つか、分身も出来ねーよ普通ッ!?
 無敵超人の老人やら顔黒中国人も水上走行が出来るんだから、忍者も水上歩行の一つや二つもやっていいと思われます。
 それはいいとしますが、やんやの喝采に気を良くした大神ちゃんは続いて重力で水面を切り開くのですが、何気なく見えても実際は水深1m半ほどの水面を幅5m以上に渡って断ち割るとなると掛かる力は軽く十数トンを超える大質量。それだけの力を維持することはいかに大神ちゃんでも難しいらしく、切り裂かれた水面は数秒の時を置いて元の状態へと戻ります。
 足場が崩れる形になった大神ちゃんは落水し、周囲を包んでいた水そのものが崩れていったジローもまたバランスを崩して倒れこみます。
 結果、大神ちゃんの谷間へと顔面から軟着陸することになったジローが弁明をするより早くプール外へと蹴り飛ばしたキョーコは「ごめんねー大丈夫?あいつホントにむっつりスケベで」大神ちゃんに詫びるのですが、大神ちゃんはむしろ敵だった自分を受け入れたジローの器に感服するばかり。
 ですが、「不思議なやつだ。あんなやつが作る組織なら入ってみたいものだな」この次の就職先を探している大神ちゃんの実は切実な言葉も、キョーコの独占欲というフィルターを通すとジローが大神ちゃんを毒牙にかけたことになってしまいます。
 水中から引っこ抜くかのように蹴り飛ばすだけでは飽き足らず、念入りにとどめを刺して独占せねばならない、と剥き出しの殺意とともに決意するキョーコがジローの姿を追い求めてじわり、と動き出したその時、ジローはほとぼりが醒めるのを待てばいい、とばかりに遊びを優先してウォータースライダーを下っていたのですが、残念ながら状況と言うものはジローの都合や平穏を求める心など無視して動き出すもの。
 というか、いい加減自分が狙われる存在だと言うことを自覚した方がいいと思われます。朴念仁も度を越したら犯罪です。
 という訳で、滑り降りるジローの背後から刺客としてやってきたのはダイエットによって減量した胸をパッドで補強したシズカ。
 パッド頼りとはいえ、密着しさえすれば自分の魅力もあいまってジローを一撃で墜とせる、と偶然を装ってジロー目掛けて飛び掛るのです。
 やはり発想が無能な軍人とか負けモードに入ったギャンブラーに近い発想です。相手を見ずに自分の都合だけで突き進んではコケるばかりだと言うことに気づいた方がいいと思われます。
 そんな自分も見えていないシズカだからでしょう、パッドの分量を見誤ったのか、二枚重ねのパッドに押し切られる形で水着の肩紐がはちきれ、ジローの背中に飛びついた時にはまな板よりまだマシ程度の薄胸を覆い隠すはずの水着は頼りなく垂れ下がるばかり。
 辛うじてある膨らみをジローの背中に押し付けることによって薄胸を衆目に晒すことは免れたものの、このままでは身動き一つ取れない、と言う事態に陥っては悩殺も何もありません。シズカは腰が抜けたことにしてジローにしがみついたままその場を収めようとするのです。
 勿論そのような穏便な方法で事態が収束するはずもありません。
 ジローにしがみついているシズカを見とがめると「何をしてるシズカ!!ずるいぞ抜けがけかっ!!」お子様の本能に任せて飛び掛かるルナを躱そうにもシズカは身動き一つとることは出来ず、かといってジローもまた水中という周辺状況による修正とシズカを背負っていることによる修正という二重のマイナス修正を受けるとあっては、判定してもクリティカルでもしない限りそうそう回避できるはずもありません。
 そして、イスの神様は面白い方向に持っていくのが大層大好きでした。
 そんなダイスの神様に翻弄されたのでしょう、本能に任せて突撃して来たルナもまた頭から突っ込むと言うありえない突撃スタイルで真正面からシズカと衝突し、ジロー達は絡まりあうように倒れこむのです。
 ジローの声を聞きつけて現場に急行したキョーコが見たものは、一見するとハーレムの只中で肌も顕わなシズカとルナを侍らせたジローの姿。
 シズカに弁明を求めようにも「も、もう私おヨメに行けません―――」さながらジローによって脱がされての衆人環視の下で肌を晒されたかのような発言をしてさらにキョーコの逆鱗に触れるという悪循環。

 とりあえず、原因を他人に求めるよりは、反省とか失敗の原因を検証するとかした方がいいと思うよ?
 じゃないと同じところでコケることの繰り返しだよ?
 とはいえ、悪の組織は反省とか検証とかしないからなぁ……成功例もあっさり忘れて墓穴掘るばっかりだし。
 シズカは多分一応正義の側だった気もしないでもないですが、悪の首領よりも悪に肩までどっぷり浸かっているので悪でいいとします。
 将来はルナと一緒にドラキュリアを再興するんだろうなぁ……そう思わざるを得ない、いいコンビです(フォロー)。

 悪成分が不足しているルナをフォローするに足る悪女であるシズカの言葉、そして、いい気になってるとしか見えないジローの姿によって怒りと嫉妬を刺激されるだけ刺激されるとキョーコは怒りのままにさっさと帰ろうと独り更衣室へと向かいます。
 追いかけ、弁解をしようとしたジローですが、シズカに阻まれてままならず、一歩遅れてキョーコがいる部屋へとたどり着いた焦りからか、当然のようにドアを開け、日に焼けたまな板を目の当たりにするのです。
 停止した思考と時間を動かしたのは「ち…違うぞ!? お前の貧しい体を見るつもりはなく!! オレはただ誤解を解こうと……ジローの言葉。
 そして、時間が動き出すとともにジローが踏んだ地雷は起爆します。

「貧しい体で悪かったわね!!!」


 回し蹴りで人間を縦に一回転させる辺り、ドーピングでもしているのか、と問い質したい所ですが、残念ながらナチュラルです。
 というか、普通に二年前よりも強化されています。
 男子三日会わざれば活目して見よ、とはよく言ったものです。
 あ、おっぱいはないけど女子だったな……ごめん。

 ともあれ、受験を控えた仲間達が久々に遊びを満喫した中で、受験とは無関係のジローとキョーコがそれぞれ散々な目に会うばかりだったプールの一日は、二人の間に後々響きそうな亀裂を生んで――いるのかなぁ?
 亀裂入っても、その隙間を突くのがボンクラ揃いなので、あっさりと補修されるんだろうなぁ。


第129話◆謎の脅迫




「うん。斜に構えてて超めんどくさいのよこのモード」


 夏の夜を彷徨う影一つ。
 神経質そうに爪を噛みながら歩く謎の影に通行人は怯え、恐れ戦きますが、それらの視線全てが自らを侮蔑するものであるように感じているのでしょう、昔はゴージャスだったと思われるコートを纏った謎の影は苛立ちを呟きと爪を噛む歯先に乗せ「くくく… 愚民どもめ… 今に見ていろ… アレさえあれば…」妄執を口にします。
 妄執はじきに狂笑へと変わり――負け犬の遠吠えはさらに道行く人々を恐れさせるのでした。

 一方、そのような事態とはうって変わって平穏な夏休みを過ごす仲間達の話題は、勉強会ではなく、過ぎ行く夏に別れを告げる最後の宴として行われる江ノ島での夏祭り。
 祭り、という言葉にツバつきというか、創造主にカップリングが固定されている三人を除いた浴衣女子に囲まれてのハーレムやふんどし姿のジローの尻といった邪悪な妄想が弾けては浮かぶ黄村とシズカはさて置きますが、ジローの乗り気を認めると、「……とまァそんなワケなんだが――「どーするキョーコちゃん?」取り敢えず同意を求めてアキユキはキョーコに声を掛けるのですが――勉強会の会場を提供しているキョーコは「あ? 私はいいや。パース。 みんな行ってきて――負のオーラを纏いつつ投げ遣りに返すのです。
「つか、こんなクソ暑い中はしゃいでらんねーってだけ」黒澤さんが初めて目の当たりにし、絶望に涙する暗黒モード――つか、友達友達!対応めんどくさがるなユキ!?
 その引き鉄が何なのか、ジローには皆目見当はつきませんが、先週のプールの時から、というジローの証言や、ジローを睨みつける殺気混じりの視線、そして、ジローが視線に気付くとともにそっぽを向くその態度からもジローが原因だということは一目瞭然。
 取り敢えず!!!跳び横蹴り張り手左ストレートゴム鉄砲でジローにツッコミと制裁をぶち込むと、黒澤さん達は悪い空気を整えるために、夕方の再集合までにジローにフォローを命じるのですが、シズカと黄村はこの状況をむしろジローを確保したり、キョーコの蔑む視線に打ち抜かれたりする好機と捉えている辺り、いいコンビというより他ありません。
 実は欲望の達成という一点において、この二人は手を組めるのではなかろうかとさえ思えてしまいます。

 フォローを言いつかったジローを避けるかのように、ポチの散歩に出かけたキョーコは夕日沈む海辺の道で自己嫌悪。
 本音では行きたくて仕方なかった夏祭りの誘いを拒絶して、仲間達に嫌な態度を取った自分を責める言葉を叫び、地元のサーファーを驚かせたキョーコを諭すかのように声を掛けると、ポチはキョーコになぜジローの謝罪を受け入れようとしないのかの真を問うのです。
 キョーコにもその答えは判らない。
 ただ、ジローが悪くないことは判ってはいても、苛立ちは収まることはなく、他の女の子にデレデレしているのを見ると腹が立ってくる――キョーコのその言葉を受けて、「フフフ。キョーコも色を知る年か」歴戦のプレイボーイでもあるポチ師匠は断言するのです。

「それはやきもちと言うやつだ」


 キョーコは否定し、監督責任云々という逃げ道を必死に探るのですが、ポチ師匠は嘘偽りとは無縁の動物世界ではそのような言い繕いは無意味とばかりにばっさりと切り捨てて、真世界の壊滅に尽力したジローの父がキルゼムオール復興に向けて再び動き出した以上、ジローが帰る日もまた近づいたことを示唆し、素直になるべきだと続けます。
 だから犬に教わるな人間――と、言いたいところでしたが、真世界の壊滅やらキルゼムオールの復興やらを知っていて、その上でキョーコにアドバイスを送ることが出来る時点で並の人間よりも事情通です。ポチ師匠マジパねぇっスッ!!
 半端無いポチ師匠に諭されたキョーコをさらに動揺させるのは、化粧箱を片手に走って追いかけてきたジローの呼び声。
 汗塗れになりながら、息を弾ませてキョーコの居場所を探し当てたジローが詫びのために、と渡したものは、流水に浮かぶ桔梗の花をあしらった一本の髪飾り。
 浴衣に合いそうなものを、と選んだ髪飾りを渡して改めて手を合わせるジロー、そして二人を邪魔しないように、と先に戻るポチ師匠の言葉を思い浮かべ、困惑の末に思い至るキョーコは、謝罪を受け入れるために、と渡された髪飾りを挿すのです。
 搭載された迷子機能に驚きながらも、これもまたジローの味、と受け止めたキョーコは「ったくもう! しょーがないわねあんたは…!」謝罪を受け入れようと軽い癇癪を破裂させるのですが、いや良かった!女が喜ぶ物などわからんからな! シズカとルナに聞いた甲斐があった!!」ジローはその癇癪に向けて盛大に燃料を投下するのでした。
 半端ない地雷踏みスキルと燃料投下スキルを惜しみなく発揮され、誘爆するかのように弾けた思いはジローは自分だけを見ていてくれている、というプライドを自ら傷つけ、他の娘の名を出されることで傷ついたプライドから噴き出す闇色のどす黒い嫉妬は言葉となってジロー、そしてキョーコ自身を抉り、斬り苛みます。
「こんなんで機嫌直ると思ってんの?」
 駄目だと判っていても、止まらない感情の暴走。
「なんでわざわざこんな余計な機能つけるの? 事あるごとにトラブル起こさない時がすまないの?」
 理性が拒絶の叫びを上げてもなお、嫉妬という名の毒薬に酩酊した感情は収まることなく暴れまわり――
「アンタのそういうとこもうウンザリ!!」
 ついに手綱を弾き飛ばした感情は致命的な言葉となって二人に突き刺さるのです。
もーいいからほっといて。 迷惑なのよ」
 ジローに当り散らす自分に幻滅し、自ら打ちひしがれるキョーコの耳に届く、「そうか… 迷惑…か」ジローの沈んだ声。
 築いた関係を壊してしまうことへの恐怖。
 愛する者を傷つけたことへの後悔。
 未だ主導権を渡さない感情を再び押さえつけようとするものの、足は逃れるかのように前へと重い一歩を踏み出し――打ちひしがれるジローから一歩遠のいたキョーコが葛藤と逡巡の末にもう一歩をどちらに向けるか決めあぐねた一瞬に――

襲い掛かる無慈悲な影二つ


 驚きも、助けを求める声も、ましてや最も掛けたかった謝罪の言葉すらも上げる間もなく、恐らくは薬品を染み込ませたハンカチに口を押さえ込まれたキョーコと、変事に気付かないジローを近くのビルの屋上から満足そうに見下ろすのはあの元ゴージャスなコートの男
 下卑た笑みを浮かべる口元は、やはり今もなお伸びきった親指の爪を噛み続けているのでした。

 一瞬の後、地面に落ちた髪飾りの音に振り返ったジローが見たものは髪飾りだけ。
 異変に気付いたジローが戻った家には、そこにいるはずだったキョーコの代わりに様々な字を貼り付けた脅迫状。
 一人で山の上の廃病院に来なければ、キョーコを殺す――その一文にキョーコの「迷惑なのよ!」の言葉を噛み締めるジローの耳に、乙型、そして一足早く様子を見に来た黒澤さんの声は届くことはなく、悔恨の想いは募るばかり。
 僅かな隙に愛する者を奪われた尽きることない後悔と、現在キョーコが感じている恐怖と不安に比べれば、自分が感じる痛みなどどうという事もない。
 そう言うかのように、ジローは自らの不甲斐なさに固めたオートマントの拳を自らに向けて振るうのです。
 突然の行為に乙型とともに驚きつつも乱れ撃たれる拳を黒澤さんが止めてもなお、ジローの中に渦巻く自らと犯人への怒りは収まることなく燃え盛り、折れた歯とともにジローは吐き捨てるかのように言うのです。
「……不甲斐ないな。 キョーコの機嫌、直せなかった」
 情けない自分などどうなっても構わない。
 だが、たとえどれだけ傷つこうとも、絶対にキョーコは救い出す――その覚悟を胸にジローは立ち上がる。
「悪いが先に祭りに行っててくれ。 キョーコは必ず連れて帰る!!」

 たとえそれが別れへと繋がることになろうとも、自分の所為で招いてしまったキョーコの危険は拭い去る!
 自分がいることで愛する者に火の粉が降りかかるというのであれば、自ら離れていくことも厭わない――その断固たる決意は揺ぎ無いのでした。